虹裏img歴史資料館

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20/03/02(月)22:01:42 ボナン... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1583154102610.jpg 20/03/02(月)22:01:42 No.667872281

ボナン共和国から飛び立った飛行機に私は乗っていた。 受肉したあと、身分を隠す必要の無かった私はマスター達より一足早く出発した。 ビジネスジェットでこの国からイギリスに渡り、戸籍を受け取る手はずになっている。 『事故機回避のため、急な動きがある可能性があります。シートベルトを着用してください』 シートベルトを締めながら、ふと、マスター達のことを思い返す。 あの男は東洋の軍神を自称する暴走女を受肉させるために聖杯を使ったらしい。 あの女のトンデモに振り回されるだろうマスターも大変だろうな。 そう思いながら、窓の外を見る。遠目にそれらしき明かりを見た。 あの女がマスターを抱えてスカイサーフィンしている姿が見えた気がする。 いや、あり得ないな。夜闇の中、この距離で見えるはずがない。 慣れない受肉で疲れてるのだろう。少し睡眠を取ることにしよう。

1 20/03/02(月)22:01:55 No.667872345

「この聖杯は貴様が貰ったものだろう?ならば貴様の望みをかなえるべきだ」 マシュが用事があるから来てみれば、聖杯を私に譲渡すると言ってきた。 世界の危機が無くなった。役目を終えたマシュとマスターには褒美として小聖杯を渡された。 「確かに私にも願いはあります」 「だったらその願いを叶えればいいのではないか?」 そう問いかけると彼女は首を横に振る。 「私の願いはカルデアをずっと守っていくこと、それを聖杯任せにすることはできません。人の力で成し得てこその願いなのです」 私の手に聖杯を押し付けながら彼女は続ける。 「だから私はアルトリアさんに使ってほしい。あなたが私たちを鍛えてくれなければおそらく人理は正せなかった」 彼女の言い分は理に適っている。人が集まり作られた組織、それを異能の力で維持し続けたとしても本質が捻じ曲げられてしまう。 かつてのキャメロットもそうだったように。 「そこまで言うのであれば受け取るが、後悔しても知らんぞ」 「大丈夫です。これは私の決意表明ですから」 私は聖杯を受け取り、部屋を立ち去った。

2 20/03/02(月)22:03:30 No.667872904

「私に受肉を?」 もう一人の私は面食らった顔をしている。 「これで貴様が会いたがっている彼に会いに行けばいい」 そう言い放つと、彼女は何故か困った顔をする。 「言い分はわかりますが、何故私なのです?貴女だって私であるなら」 「私はオルタだ。貴様とは違う。それに彼の記憶の中の私の姿は貴様のはずだ」 そう、彼の中の私はこんな姿をしていないはずだ。 「そうは言っても、この世界は私の知っている歴史ではありません。アーチャーが私達の彼で無いように、この世界の彼は私のシロウではないのです」 「それでも私とシロウだ、相容れないはずがない」 もう一人の私は据えた目で見つめ返しながら返す。 「何故、貴女はこの世界の彼と私を合わせようとするのです?」 「……この世界の彼が救われていないからだ」

3 20/03/02(月)22:03:45 No.667873001

彼女の問いかけに私は返す。 「どこぞの新聞に彼の噂が書かれていた。冬木の聖杯戦争から十数年がたった今でも彼は正義の味方になろうとしている」 「何故、そこまで貴女はこの世界の彼を気にかけるのですか?」 「私がシロウを気にかけて何が悪い?」 私の言葉にもう一人の私は据わった目で見つめる。 「ならば何故、私を『貴女のシロウ』と合わせようとするのです?」

4 20/03/02(月)22:03:59 No.667873065

「何を根拠にそんな事!」 「特異点化した冬木にいた私は何でオルタ化していたのか」 「それはソロモンの聖杯の影響で」 「それはおかしいです。なぜ他の特異点の聖杯を所持していた者はオルタ化してないのですか?」 言い返せない私になお、もう一人の私は告げる。 「これだけ私がいるのになぜこの世界の私が呼ばれていないのか?」 「それ以上言うな!」 彼女はなおも止まらず結論を言う。 「それは冬木の聖杯戦争でこの世界の私が汚染されていたからだ。貴女がこの世界の私なのでしょう?」 核心を突かれ、私は何も言い返せなかった。 「この世界の私にしかこの世界のシロウは救えません」 「だが、彼にこの私の姿を見せるわけにはいかない!会ってしまえば彼の傷口が開いてしまうだろう」 この私が会うことだけは絶対に駄目だ。この姿だけは見せられない。 「一体、彼と貴女の間で何が起こったのです?」 彼女の問いかけに私は冬木での出来事を話した。

5 20/03/02(月)22:04:12 No.667873159

日本に降り立ち、鉄道に数時間揺られ、私は冬木の地に足を踏み入れる。 十数年ぶりに見る冬木の地は変わりつつ、あの時の面影もいくつか見られた。 シロウと最後に食べたハンバーガー屋は残っていた。 まだ黒化する前、戦闘を予感した私は手早く補給せざるを得なかった。 あの時は好きではなかった乱雑な味は今では思い出の道標となっていた。 食事を済ませ、旧市街に入ると、あの時の風景が形を変えず、残っている。 その中でもひと際目立つ門が目に入ってくる。 衛宮邸、かつて過ごした建物を目前に、私は歩みを止める。 その門には見覚えのない『売り物件』という文字が書かれていた。

6 20/03/02(月)22:04:26 No.667873238

「お願いです!シロウ!」 彼女は漆黒の奔流を纏った剣を振りかぶったまま叫ぶ。 聖杯に汚染され、暴走した彼女は、冬木の街を吹き飛ばさんとする。 かろうじて残っている理性と令呪によって思い止まっている今しか、彼女を止めるすべは無い。 この機会を逃せば、彼女は虐殺者になってしまう。 俺にそれを防ぐ手段は一つしか残されていなかった。 手に握る剣先を彼女の胸元に向け、走る。 最愛の人、その胸を剣が切り裂き、貫く。 「セイバー……ごめん」 その瞬間は、永遠とも思えるほど時間が遅く感じた。 「シロウ、泣かないで下さい。貴方は多くの人を救ったのです。むしろ誇ってください」 彼女は光になりながら、俺に微笑みかける。 「セイバー、ありがとう」 彼女が消え去った後も俺の涙は止まらなかった。

7 20/03/02(月)22:04:40 No.667873307

俺は選んでしまった。 彼女を殺してでも多くの人を救うと言う選択肢を、あんなに愛した彼女を自らの手をもって選んだ。 だから俺はそれを続けなければいけない。 そうでなければ彼女を切り捨てた意味が無くなってしまう。 正義の味方、そのために多くを切り捨てた。 友も故郷も、情ができてしまえば判断が鈍ってしまう。だから捨て去った。 食事も戦闘糧食で済ます毎日だ。 今でも彼女と過ごした日々は色褪せていない。 グラストンベリー修道院、アーサー王の墓と呼ばれるこの場所に足を運ぶのは久しぶりだ。 最近、毎日のようにこの場所の夢を見る。 舞い散る花弁と共にあのときの彼女の微笑みを見る夢だ。 あり得ない話だ。この手で手にかけた彼女が帰ってくるなんて虫がよすぎる。 現に彼女の姿はここにはない。 落胆はない。無駄足なのはわかっていたのだから。 そう思い、踵を返した。

8 20/03/02(月)22:05:43 No.667873690

シロウ、貴方はどこにいるのです? 冬木には彼の手がかりが無かった。 数ヶ月探したが今の彼を知るものはいなかった。 時計塔でリンに話を聞いたが、彼女もシロウの行方を掴めなくなっていた。 彼女の提案で息抜きとして自分の史跡を訪れている。 アーサー王の墓と呼ばれるこの場所は草木のせせらぎで満たされていた。 自分で墓参りをするのは妙な気分だ。 そう思いながらパンフレットから視線を上げると、一人の男が立っていた。

9 20/03/02(月)22:05:56 No.667873761

シロウだ。 十数年の時が過ぎ、僅な面影を残すのみだが そう確信した。 立ち去ろうと踵を返したシロウと目が合う。 「参ったな、夢を見てたようだ」 あの時よりかれた声をしていた。 「ええ、まるで夢のようです」 シロウに微笑みかける。こんなに自然に笑えたのはあの時以来だ。 「帰りましょう。私たちのあの家に」 「ああ、帰ろうセイバー」 微笑み返してくるシロウの手を取り、共に歩き出した。

10 20/03/02(月)22:06:35 No.667873959

その後、正義の味方の目撃情報は無くなったという。 そういえば彼、アルトリアに料理をまずいと言われるまで夢だと気付かなかったようだね。 こうして暴君となった少女と贖罪者となった少年が救われた。 王の話はこれで終わりだ。 悲劇を乗り越えた奇跡、それが一番美しいとボクは思うよ。

11 20/03/02(月)22:07:20 No.667874192

Fin

12 20/03/02(月)22:16:56 No.667877565

締め言葉忘れてた HF見てたらなんか思いついたネタでした

13 20/03/02(月)22:55:21 No.667890280

いい…

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