20/01/31(金)23:27:41 ・・・... のスレッド詳細
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20/01/31(金)23:27:41 No.659371704
・・・・・ ナックルシティのホテルに滞在してから三日目の朝。 わたくしはいつものようにベッドの上で本を読んでいました。 傍らではバチンキーがトイピアノを奏でています。 そのメロディは時たま音を外しますが、以前と比べるとずっとなめらかで、彼の努力が見えます。 わたくしが指導した甲斐があるというものです。 この音楽に包まれながら、本を読む。 それが、わたくしが今できる唯一の事でした。 『いつまで?』。そんな事を考えなくてすむのですから。 だから、今はただページを次に進める事だけを考えて、文字を追います。 そして、次のページへ行こうと繰った時、バチンキーが奏でるピアノのメロディが突然止まりました。 わたくしは、読んでいた本から目を離しどうしたのですか?と尋ねます。 バチンキーは部屋の扉をじっと見つめ、つられてわたくしもそちらを向きます。 すると、コンコン。とノックが鳴りました。 『お嬢様、私』
1 20/01/31(金)23:27:53 No.659371780
扉の向こうから聞こえてきた声に、わたくしは小さく嘆息し、バチンキーに指示をし、扉の鍵を開けさせます。 そして、部屋に入ってきたのは見慣れた赤髪の小娘と―――もう一人。わたくしが待ち望んでいた人物でした。 「……お嬢」 その姿をわたくしは長い間見ていないような気がしました。 たった三日、会っていなかっただけなのに。 どんな表情をすればいいのか、どんな言葉をかければいいのか。 色々と考えていたはずなのに。 気まずそうに、申し訳なさそうにこちらを見るホップを見て、そんなものは全てどこかに行ってしまいました。 そんなわたくしを見てか、ホップが心配そうに声をかけてきます。 「お嬢……寝てないのか……?」 ……少しぐらい化粧をしておくべきだったでしょうか。 鏡を見ればきっとわたくしの目元には濃い隈でも出来ているのでしょう。 色々と落ち込んでいる彼に、更に気を落とさせるような事するべきではないのに。
2 20/01/31(金)23:28:13 No.659371915
睡眠不足というのはこうも頭の回転を落とすのですね、と。他人事のように考えてしまいます。 「……少し、早起きしただけですわ。大した事ではありません」 わたくしの言葉に、ホップはそれ以上追求しようとはしません。 それ以上にやるべきことがあるのでしょう。 ですから、わたくしは床を指さし彼を促します。 「座りなさい」 その言葉に彼は何も言わずに正座しました。 小娘は退路を塞ぐように扉へと寄りかかりこちらを見つめています。 その瞳は、わたくしとホップとの会話に口を挟むつもりはない。と伝えています。 それに会釈を返し、わたくしは彼と向き合います。 わたくしはベッドに、彼は床に座り、いつものようにわたくしは彼を見下ろします。 「……久しぶりですね」 「……ああ」
3 20/01/31(金)23:28:34 No.659372041
責めるような意図を込めたつもりはありませんが、ホップはそう受け取ったのでしょう。 その声は辛そうに震えています。 ですが、それを訂正せずにわたくしはそのまま続けます。 「この三日間何をしていたのですか」 「……強いポケモンを探して、戦って、捕まえて、それをどう戦わせるか考えて。オレに、何が出来るか考える……そんな感じだった」 「……そうですか」 想像していた通り、彼は必死でもがいていました。 敗北の痛みを乗り越えるために、今の自分に何が出来るのか見つけるために。 その努力を、あがきを。否定するつもりはありません。 ですが、今のわたくしにとってそれは大して重要な話ではありません。 わたくしが今最も聞きたいのは、彼の、ホップの今の想いなのです。 「それで、わたくしに何か言いたいことはありますか」 「……お嬢」 ホップは両手を床について深々と頭を下げました。
4 20/01/31(金)23:28:48 No.659372123
「お嬢たちを置いてどっかいってゴメン!!連絡しなかったのもゴメン!!本当に、悪かったっ!!」 「……」 額を床に擦り付け、必死で謝罪する彼にわたくしはもう一つ尋ねます。 「……他に、何か言う事はありますか?」 「……無いっ」 ホップは一瞬悩んだ末、そう言い切ります。 ……どうやら、わたくしが言いたかったことは既に言われたようですね。 わたくしは後ろにいる小娘を一瞬見て、再び視線を戻します。 ホップはまだ、頭を下げたままこちらを見ていません。 わたくしはため息を吐き、ベッドから降ります。 同じように床に正座し、彼と向かい合います。 「頭を上げなさい」 「……」 ゆっくりとホップが頭を上げます。
5 20/01/31(金)23:29:03 No.659372200
「どうやら、自分のしでかしたことを過不足なく理解しているようですね」 もしも、彼が自分の罪を小さく見積もっていたのなら、わたくしは怒っていたでしょう。 もしも、彼が自分の罪を大きく見積もっていたのなら、わたくしは怒っていたでしょう。 それは、どちらにせよわたくしたちを蔑ろにしている事に他ならないのですから。 ですが、彼はしっかりと自分のした事を理解し、わたくしに謝罪しました。 ならばもう、これ以上言う事はありません。 「……まったく、あなたはいつだってわたくしの思い通りにはなりませんね」 だからもう、これ以上我慢する必要はありません。 「少しぐらい、年長者のいう事を聞きなさい……わたくしばかり、振り回されているじゃありませんか」 真っ直ぐわたくしを見つめる瞳。 わたくしも同じように見つめていたいのに。 視界がどんどんとぼやけていきます。
6 20/01/31(金)23:29:16 No.659372274
「本当に、本当にあなたは……」 泣くつもりなんてなかったのに、どうしても止められません。 わたくしは衝動的にホップを引き寄せ、抱きしめます。 その腕の中で、ホップは苦しそうにもがきます。 ですが、やがて観念したようにされるがままになります。 「心配、させないでくださいっ……わたくしは、そんなに、そんなに強くないのですからっ……!」 「……ゴメン」 彼の声が胸元で響きます。 だから、より強く抱きしめます。 「いいのです。もう、いいのですっ……あなたが帰ってきてくれた。それだけで、十分ですからっ……」 「それでも……ゴメン」 「ならっ……ならっ……!約束、しなさい」
7 20/01/31(金)23:30:15 No.659372625
それはもう、きっと結ばなくてもよい約束です。だって、彼は帰ってきたのですから。 だけど、だけど。わたくしはまだ弱いから。 証が、欲しいのです。 たった一言、約束してほしいのです。 「もうっ……どこにもっ、行かないでくださいっ……」 置いて行かれるのはもう、嫌なのです。 どれだけ大人ぶっても、 どれだけ理解者ぶっても、 どれだけ、我慢できても。 嫌なものは、嫌なのですから。 わたくしはみっともなく泣きじゃくります。 そして、 「……約束する。絶対に、どこにも行かない」 わたくしの胸に埋もれながら、彼は確かにそう言ってくれました。 それだけで、十分なのです。
8 20/01/31(金)23:30:44 No.659372783
前回までの su3613885.txt
9 20/01/31(金)23:31:33 No.659373100
>わたくしの胸に埋もれながら、彼は確かにそう言ってくれました。 むっ!!
10 20/01/31(金)23:34:41 No.659374317
水を差さないとか炎は気配りの達人化よ
11 20/01/31(金)23:36:15 No.659374900
>水を差さないとか炎は気配りの達人化よ 炎は炎でちゃんとサシで話せたからね
12 20/01/31(金)23:39:23 No.659376077
ホップの謝罪の仕方がなんというかこう…浮気した旦那みたいだ
13 20/01/31(金)23:41:26 No.659376789
いい話なんだけどごめん ホップちゃんと呼吸出来てる……?
14 <a href="mailto:s">20/01/31(金)23:46:49</a> [s] No.659378640
su3613938.png 一応参考として
15 20/01/31(金)23:47:33 No.659378884
ホップ物理的に苦しみもがいてない…?