20/01/30(木)01:41:51 昔から... のスレッド詳細
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20/01/30(木)01:41:51 No.658901564
昔から、ピッピ人形が嫌いだった。 あんまり可愛げがなくて、うちのゴンベがじゃれるとすぐ破れてしまうし。ポケモンに投げても気を引けないことがしばしばあった。 …ワイルドエリアで体を失ったあの時も、ちっぽけな人形ではどうしようもなくて。 そして何よりも。そんなデコイを過信してしまった、自分自身が嫌いだった。
1 20/01/30(木)01:42:10 No.658901604
青と赤の吠え声に呼び止められた気がして、まどろんでいた意識が覚醒する。 目を開けると、真っ白な灯りとこちらを見守る誰かの顔があった。 あれ…?ここ、どこだろう。私何してたんだろう。なんで片目が見えないんだろう。 ズキズキ痛む頭を押さえようとして腕が動かないのに気が付く。目で追うと、固定具と包帯で両の脚と左腕が固められていた。 「…さん……よか……院……戻って…」 宙ぶらりんになった意識が支えを失い、そのまま沈んでいった。
2 20/01/30(木)01:42:26 No.658901657
検査を終えて告げられた容態は、私が思っていたよりずっと深刻だった。 左腕と左脚は筋組織に裂傷が走り、切除こそせずに済んでいるもののまともに動かすには年単位での治療が必要。 片目は、鋭い嘴で抉られて機能していない。ほか、全身の肉が付いていた部分も千切られていて。 幸いにも右腕だけは辛うじて軽傷だった。トレーナーとしての本能が無意識に守りきったのか。 ママや看護婦さんに色々と尋ねたところ、私が倒れてからこっち…もう何日も経っていたらしい。 委員長やらチャンピオンやらガラルの伝承やら、知らないうちに全てが終わってしまっていて。私だけ過去に取り残され時間が止まってしまったようで。そのうえ体は言うことを聞かなくて。 …まるで立ち枯れする木のようだ。乾いた笑いさえ湧いてくる。 何がいけなかったんだろう。何に縋ればいいんだろう。私は、私は。
3 20/01/30(木)01:43:09 No.658901788
それから、知人をはじめ幾人もが見舞いに来てくれた。 私の様子がどこかで伝わっていたのか、ジムリーダーさんまで何度も訪ねてきてくれている。 「…鉱山の一件もそうだし、今回も…あの時期に監視を緩めていたのは他でもないぼくだ」 「カブさんが謝ることじゃないですから。悪いのは私です」 確かに私の右脚は第二鉱山で失われたけれど、それとこれとは別だ。カブさんに非は全くと言っていいほど無い。 そも片脚をトラバサミで失ったことと、今回キバ湖で襲われたこと自体関係がない。 「そうはいってもね…ぼくもいい大人だ。責任の一端くらいは背負わせてくれ」 「ふふ、そんな深刻な顔しなくても大丈夫ですから。すぐ治ると聞いていますし…安心してください」 嘘だった。お見舞いに来る人に何度も何度も言ってきた薄っぺらい言葉だ。特に救助に来てくれたカブさんにはとうの昔にばれているだろう。 それでもこの人達に心配も、責任も感じてほしくはなかった。全ては私が独断で暴走した結果の話でしかないのだから。 だからこそ顔を取り繕って、帰るまで笑顔でいなければならない。
4 20/01/30(木)01:43:41 No.658901859
私を見ないでほしくて。皆の中の私はもっと元気で、活発で。ろくに這うこともできないような私を…惨めな芋虫を認識してほしくはなかった。 励ましが辛い。同情の眼差しが耐えられない。
5 20/01/30(木)01:44:07 No.658901934
********** それからまた数日が経って。ホップが何度目かの顔出しをした際に、切り出す。 「ホップ…そこの机にモンスターボール置いてるでしょ。それ、持って行ってほしい」 「持って行ってって…ずっと一緒だった、ユウリの手持ちだろ」 「私…ボールに、その子たちに触れなくなっちゃったみたい。手が震えて、もうどうしようもなくて。……その子たちもホップには慣れてるし、そっちが連れてる方が幸せだと思うから」 「………」 俯いて机と向き合うホップの表情は読み取れない。 無責任だと怒っているのか、それとも呆れているのか。わからないけれど、向き合いたくない。 「じゃあ…もし俺に全部譲ったとしてさ、それでこいつらは喜ぶのか」 「………」 「…前にゴリランダーに担いでもらった事、あったよな。しょっちゅう顔合わせるから俺にも懐いてて。でも、それじゃダメなんだ。誰に懐いてるからじゃなくて、お前が主人だからこそ喜んで慕ってたんだ」 「……」 「あ、偉そうに説教してすまなかったぞ…ただ俺は、あいつらを…」
6 20/01/30(木)01:44:42 No.658902038
…もうたくさんだ。取り繕うのもいい加減限界だった。 下手くそな嘘でもなんでもいいから、ぶちまけてしまいたかった。 「……あのさ、ホップ。もうここ、来なくていいから。…私、前からホップのこと嫌いだったよ。大体、多忙なチャンピオンがこんな人間と関わるだけ無駄でしょ。だから…だから!もういいから!出て行って!」 「……お前な、演技なら」 「帰って!!」 言葉を遮り、枕元にあったピッピ人形を思いきりなげつける。 「…悪かった。また、来週来る」 乱暴に閉められた戸は半開きになっていて、走っていく足音が聞こえた。 くそ、くそ。苛立ちと後悔がないまぜになって頬を伝う。 最低だ…私。自棄になって、意味もなくやつあたりして。一番心配させたくない人に当たってどうする。もう合わせる顔もない。
7 20/01/30(木)01:45:35 No.658902184
「ユウリ…」 どれくらい時間がたったのか。顔を上げると、マリィが病室前に立っていた。手元には廊下に落ちていたピッピ人形を下げている。 「…マリィも、帰って」 「嫌。…それより、これ飲みな」 マリィからピッピ人形と紙パックが手渡され、喉にひたすら甘ったるい液体が流し込まれる。 「………………何これ」 「よいこのエネココア。新発売って書いてた。味は?」 「まずいよ…」 人で試さないでほしい。…なんだか気が抜けてしまった。
8 20/01/30(木)01:46:01 No.658902269
「ユウリ…あんたはさ、何に怒ってたの」 私が怒っていたのは…動けない自分、惨めな自分。……いや、違う。 「あたしにはわかんないけど…体が動かないことじゃないと思う。少なくとも、前のユウリならそこには怒ってないけん」 「私は…」 ……そうだ。私が嫌だったのは、動けない自分じゃなくて動かない自分…もっと言えば、ポケモンまで嫌になって全部諦めてしまった自分だ。 前に片脚が動かなくなった時も平気な振りは出来ていたじゃないか、今さら繕えなくなってどうする。 「マリィ、ありがと」 こんなところで立ち止まってたら、いつまでたっても惨めな姿を見せ続けることになる。それだけは嫌だ。 …まだ終わるつもりはない。力を込めて、ピッピ人形を抱きしめた。
9 20/01/30(木)01:49:38 No.658902848
また襲われたのか…
10 <a href="mailto:s">20/01/30(木)01:49:41</a> [s] No.658902864
前日談です 容態の説明無いって言われて気付いたからざっくり書いたよ 医学知識0だからすごいフワフワしてる su3609136.txt
11 20/01/30(木)01:50:24 No.658902970
>また襲われたのか… ああ前日談だったごめんよ
12 20/01/30(木)01:56:18 No.658904035
止まない雨は無いガア…明けない夜は無いガア…だからヒトは射し込む一筋の薄明を求めて全力で足掻くのガア…!
13 20/01/30(木)01:57:11 No.658904188
アーマーガアがまともっぽいこと言ってるの初めて見た
14 20/01/30(木)02:01:36 No.658904876
こいつ堕とすための前フリは丁寧だからな…
15 20/01/30(木)02:12:25 No.658906231
えっと今無事な部位は…?
16 20/01/30(木)02:13:07 No.658906314
逆に言えば取り返しがつかないの右脚だけか
17 20/01/30(木)02:14:08 No.658906424
待ってるテテフ もうすぐそっち行って粉かけてあげるテテフ
18 20/01/30(木)02:17:38 No.658906825
>逆に言えば取り返しがつかないの右脚だけか どうも調べてたら義足やら義手やるレベルの全身の怪我だと普通に数年寝たきりになってアレだから再起の可能性も込めてこっちの方がいいかなって… メンタル鋼はともかくこっちでその怪我は大人に軟禁されちゃうから難しい
19 20/01/30(木)02:30:54 No.658908255
確かにあの大人達が放っておく訳無いもんな…
20 20/01/30(木)02:48:45 No.658909925
片足でよくキバナ倒すまでいけたな…落とし穴とかピンボールとかやばいジムチャレンジあるしフィールドの道路も山道多いし… 確かにそんなガッツある子なら再起出来るよね
21 20/01/30(木)03:18:46 No.658912031
>こいつ堕とすための前フリは丁寧だからな… いつも雑にバッドルートにしてるのしか見た事はなかったな…