虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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20/01/23(木)00:11:35 「ちょ... のスレッド詳細

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20/01/23(木)00:11:35 No.657037967

「ちょっと!自分で立ちなさいよ!」 「うぅ~…幸太郎さん重か~…」 私とさくらで共に肩を貸して、両肩を支えて歩く帰り道。 いつものようにさくらと二人でバカを回収しに行ったのだけど、今日は一段と酷い。 「なんじゃあい!一日頑張った巽幸太郎さんに対してぇ!そんっ態度はぁっ!?」 「アンタどんだけ酔っ払ってんのよ!」 「はい酔ってまちぇーん。愛ちゅわんは子供だからわからにゃいだけどぅえーす」 まず、ウザ絡みが普段の比じゃない。 店を出てまだ十分程しか経っていないのに、この酔った酔ってないの会話を十七回はしてる。 「さくらぁ!?さくらは居らんかぁ~!?ぶへぇ~」 「んもう…幸太郎さーん、お酒くさかよ~?…」 「デリカシー無いんかお前は。素で引いた」 「…えぇー!?」 次に、表情をコロコロ変えながら突拍子も無い事をのたまう癖に、たまに無表情でこんな事を言ってくる。 (…完全に、デキ上がってるわね。これ)

1 20/01/23(木)00:11:50 No.657038029

とてもゆっくりとした足取りで進む家路。その道中には小さな公園があった。 ベンチに潰れた大馬鹿チンを座らせて、二人で溜め息。 その折、さくらが腕を上げて、何処かを指差した。 「あっそうだ!愛ちゃん、ちょっと幸太郎さんに飲み物買って来るね!」 さくらが指を差した方向には、道路を挟んだ向こうに自販機。 「ん、わかった。コイツは見てるから、お願いね」 「おう頼まれたわーい!任しとけぇー!」 「アハハ…行って来まーす」 苦笑を漏らして、さくらはちょっと遠くの自販機へ。 道路の前で左見て、右見て、左見て。ようやく渡って行ったのを見届けた後、視線をベンチへ。 「うっぷ…」 「吐かないでよ?」 「儚くなんか…ないわい…」 「…はぁー」

2 20/01/23(木)00:12:07 No.657038090

もう会話もロクにできないみたい。こんなのを真面目に相手してたら、私の方が疲れちゃう。 ベンチのど真ん中に座り込むバカを無理矢理端に押し込んで、私も座る。 見上げた空はもう真っ暗。その暗闇の中を、幾つかの星が輝いて。 (東京で見た夜空は…こんなに星見えなかったなぁ…) 今。私は遠い場所に居るのだと、改めて認識。 「うぃーっく…ひっく…」 ホームシックになんてなるようなガラじゃないし、センチになる事もない。 「俺たちは…まだなぁ…」 けど。こうして綺麗なモノを見て思いを馳せるくらいは、たまになら。 「そうじゃい…なーんもやっとらんわい…」 …たまに…なら… 「まだまだじゃろがい!終わっとらんじゃろがい!!ウィーアーリターナアアアアアアアアア!!」 「うっさいわね!!」 静謐な空気を一瞬で蹴散らし、両腕を天に上げ叫ぶ酔っ払いに向かって私も叫ぶ。 さっきから妄言が悪化する一方で、そろそろ一発引っ叩いた方が良いんじゃないかと思えてきた。

3 20/01/23(木)00:13:08 No.657038362

「まったく…」 盛大に叫んだら疲れたのか、俯いて静かになる隣のバカ。 「…ない…まだ…」 まぁ、変わらず何かをボソボソ呟いているけど。 さくらの帰りを待ちきれずに、立ち上がって自販機の方を見てみる。 白い軽トラが止まっていた。さくらは…近くの木に体を隠し、軽トラを警戒しているのが見える。 「…トラウマってヤツかしら…」 帰還は遠そうだとわかった事が収穫。諦めて、座り直す。 …なんとなく、隣の酔いどれを見てみる。 俯いたまま。調子を掴めない様しか見せない男だけど、らしくない。 それに。普段から良く叫んでいるけれど、それ以上に目まぐるしく動く顔も、今は仏頂面。 眺めていて、気付いた。今なら、サングラスの下を見えるのでは? ゆっくりと近づく。体とベンチが擦れないように手を置いて、猫のように、ゆっくりと。 四つん這いみたいに体を前のめりにして、そのスキマを覗き込む。 「…お前達は、儚くなんかない」

4 20/01/23(木)00:13:28 No.657038462

「っ!!」 心臓が止まるかと思った。もう止まってるけど。 変わらず動かない男は、そのまま何かを呟く。 先ほどからずっと呟いていた言葉…近くに寄ったから聞こえた。今も聞こえる。 「終わってない…お前達は…まだ、死んでなんかいない…」 誰の事を言ってるかなんて、考えなくてもわかる。 ブツブツ呟く男に、四つん這いのような状態から動けない。 多分、見たかった物は同じ。目標は達せられた。 これが、コイツの“素顔”だ。 普段はあんな調子で、正直悩み事なんて無いと思ってたし、なんなら私が何か解決して欲しいと思ってたけど。 「…ねぇ」 「…何も…まだ成し得ていない…」 「何か思いつめてるなら、私達を頼りなさいよ」 そして。私はコイツを見捨てられない。 …そりゃあ、コイツも仲間だって、思ってるし。コイツが居なきゃ、始まらないし。

5 20/01/23(木)00:13:52 No.657038568

「…俺は…お前達に…」 「…」 「……何かを…」 様子が変わらない。私の声が届いたのかもわからない。 (…なんだろう、この感じ) 何処か胸がざわつく。久しぶりな気がする、感覚。 胸に手を当てて、動いてない心臓を握り締めるつもりで掴んで。 そうして少し考えて、わかった。 ……悔しい。 (そりゃあ、私達はアンタに引っ張られて来たけど) (それでもちょっとくらいは背負える、つもり、なのに) ざわつく胸に嫌悪感。嫌悪感から来る苛立ちに歯噛み。 「…私達は、頼りないって事…」 これをどうにかしたくて、自虐のように吐き出した。どうせ届いていないなら、別に良いでしょと開き直って。 だけどそれでも。消えない。

6 20/01/23(木)00:14:06 No.657038639

「…なんなの」 アイツから前へ体を向け直し、ベンチの上に足を乗せ、膝を抱える。 行儀が悪いと心の何処かで思いながら体育座り。 (自分だけが空回るって、こんな嫌な気分なのかしらね) 居心地が悪い。一刻も早く帰りたい。 少しは信頼できる相手から頼られない。それだけで、胸が痛い。 (確かにアイツの事、何も知らないけど…ちょっとは、頼れるって思ってるし、応えたいって思ってた) 自分の心境を分析してみても、気分が晴れない。 一度横に首を振って、膝に埋めて。 (あぁ嫌。ほんっとにイヤ) 生きてた時に何度も感じたこの感覚。ずっと慣れないこの感覚。 もう一度、歯噛み。 じんわりと何かが目を覆う。目が熱い。 それを覆い隠すように、更に深くまで膝に埋まった。 「…いつだって、頼りにしてる」

7 20/01/23(木)00:14:40 No.657038778

跳ねるように顔を上げて、隣を見た。 「…」 俯いたままのアイツ。だけどさっきの声は間違いなくアイツの。 …良く見ると、サングラスが重力に負けて少しだけ下がっている。 ほんの少し下がった事で、出来た空間。そこから、見えた。 真っ直ぐ私に向かう、アイツの目。 その目に。私を真剣に見つめる目に何の反応を返す事も無く。ただ、見つめ返す事しかできなかった。 「お待たせー!ごめんね!ちょっと色々あって遅れちゃった!」 元気な声に振り返ると笑顔のさくら。 小脇に抱えていたペットボトルを手にとって、アイツの元へ。 「はい幸太郎さん、お水」 「…とらん」 「はい?」 「酔っとらんっつっとるじゃろがい!!こんぺちゃっ鼻がぁああああああああ!?」 「ふぎゅ」

8 20/01/23(木)00:14:55 No.657038848

アイツはペットボトルを引っ手繰って、さくらの顔へ押し込んだ。 それを見て呆気にとられた。口を開けて眺めるだけだった。 さっきの状態から、いつも通りの酔いどれに戻った事に対応が遅れた。 ハッとして、慌てて転倒したさくらに駆け寄る。 「ちょっ何してんのよ!大丈夫?さくら」 「あいたたた…もう!幸太郎さん!?」 さくらと一緒にバカを見ると、キャップを空けて水を呷っている姿。 「ゴクッゴクッ…かぁあああ!鍋島はやっぱり美味いなぁ!」 「水よバカ」 アホな事を口走って赤ら顔で笑うアイツは、公園に着くまでと全く同じ。 (…真面目にショック受けてた私がバカみたいじゃない) 「さくら、立てる?」 「あ、ありがと愛ちゃん!」 手を差し出してあげて、さくらを起き上がらせた。そしてまた二人でアイツに肩を貸す。 ふと、アイツを挟んでさくらと目が合って。二人で困ったように笑ってから、また帰り道を歩き出した。

9 20/01/23(木)00:15:25 No.657038960

「巽ってほんと、私達が居ないとダメなんだから」 帰り道の中で思わずボヤいた一言。そんな私の言葉にキョトンとするさくら。 「何?」 何か変だったかしら?そう思って聞いてみると、今度は満面の笑顔に変わった。 「…んーん!何でもなかよー?」 ……釈然としないわね。

10 20/01/23(木)00:20:39 No.657040362

巽も愛ちゃんも拗らせてるなあ!

11 20/01/23(木)00:25:09 No.657041568

よか…

12 20/01/23(木)00:25:40 No.657041687

はいお前ら可愛い

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