虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    20/01/18(土)23:50:43 No.655955576

    『あなた達は先に次のジムに行きなさい』 そう告げた時の二人の顔が脳裏に焼き付いています。 驚き、動揺。それらがないまぜになったような表情は、私の胸に刺すような痛みを与えました。 それに耐えられず、私は逃げるようにその場を去りました。 走って、走って、転んで、走って、躓いて。 気が付いたとき、私はエンジンシティの入口、その階段に座り込んでいました。 いつのまにか日は沈み、月がその顔を出しています。 「……何をしているのでしょうね」 自嘲と共に、私は手持ちのポケモンたちを外に出します。 しばらく、スボミーインに戻る気は起きないでしょう。 ならば、彼らに息抜きをさせておきましょう。すると、バチンキーがわたくしの隣でピアノを弾き始めました。 「あなた随分とそれがお気に入りですのね」 エンジンシティで購入したトイピアノ。わたくしから見ればただのおもちゃなのですが、それを楽しそうに奏でるバチンキーの姿が微笑ましくて、 「わたくしの屋敷にはもっと立派で、大きなピアノがありますの」 ピクリと、バチンキーが反応します。

    1 20/01/18(土)23:50:53 No.655955639

    「……戻り、たいですか?」 バチンキーは考え込むように俯くと、やがて小さく首を横に振ります。 彼はまだ、ここから離れたくないと、そう言っているのでしょう。 なら、わたくしはどうなのでしょうか。 また、カブさんに挑めるのでしょうか。 挑んだとして、勝てるのでしょうか。 ……きっと、無理でしょう。 だって、わたくしはもう…… 「こんなとこにいたのか」 頭上から声をかけられる。 振り返ると、そこにはホップが私を見降ろしていました。 「ホップ……」

    2 20/01/18(土)23:51:23 No.655955822

    「めっちゃ探したぞ。まさかエンジンシティから出てると思わなかった」 ホップは安堵したように溜息を吐きます。 わたくしも同じように溜息を吐きますが、そこに込められた意味はまるで真逆でした。 「なぜ、まだここにいるのですか」 「なぜって……お嬢がここにいるからだ」 「っ……わたくしは、先に行きなさいと言いました」 「そうだな」 彼は悪びれもなく答え、それがわたくしの言葉から余裕を奪っていきます。 「ならっ、なんで」 「先に行けとは言われたけどうんとは言ってないぞ?」 「あなた達はっ、次のジムに挑むのでしょう?」 「ああ。でも、それはお嬢と一緒にだ」 「……ホップ」 真っ直ぐ見つめてくるその瞳に耐えられず、俯きます。そして、 「わたくしは、ここまでです」

    3 20/01/18(土)23:51:34 No.655955883

    わたくしがもう、折れている事を伝えました。 「……」 「わたくしの力では、カブさんを倒すことが出来ません。よしんば倒すことが出来たとしても、この先さらに道は険しくなります。  それに、わたくしが耐えられるとは思えません。……いえ、違いますね」 そんな、困難に打ち負けるかのような、立ち向かえるかのような気概の話ではありません。 もっと根本の問題なのです。 「わたくしは……最初から、ジムチャレンジなんてどうでも良かったのです……」 「……」 「理由なんて何でも良かった、ただ……ハロンタウンから、あの屋敷から外に出る理由が欲しかっただけなのですっ……!」 ええ、ええ。そうなのです。わたくしは、ジムチャレンジなんてどうでもよかった。 ただ、屋敷から出て、自分が箱入り娘ではないと証明したかっただけなのです。 「屋敷の中で朽ちていくのが怖かったっ……!一人になるのが怖かったっ……!だから、あなたの誘いに乗っただけなのですっ……!」 ホップの誘いは渡りに船でした。 その手をとらない理由がわたくしには無かったのですから。

    4 20/01/18(土)23:52:16 No.655956124

    ホップに置いて行かれる事は、わたくしにとって何よりも恐ろしく、避けたい事だったのですから。 だから、 「わたくしはっ……!何も、変わってなかったっ……!」 病に臥せっていた時も、それが治ってからも、わたくしは誰かに頼ってばかりでした。 父や、母や、使用人たちや、ホップに。 一人で立てた事なんて一度だってなかったのです。 「あの時と、あなたと出会った時と同じ。わたくしは、誰かに手を引いてもらわねば、助けてもらわねば何も出来ない……花瓶に活けられた花でしかなかったのですっ……!」 ですがもう、そんな自分が嫌になりました。 そんな自分に彼を付き合わせることが嫌になりました。 「もう、これ以上あなたの足を引っ張りたくないっ……」 旅になんてでなければ良かった。 あのまま屋敷で一人でいれば良かった。 あなたとの出会いに運命なんて感じなければ良かった。

    5 20/01/18(土)23:53:00 No.655956377

    堪え切れなくなった涙がとめどなく流れます。 「それでも、お嬢は旅に出たじゃないか。そいつと一緒に」 いつの間にか隣に座っていたホップが、バチンキーを指さします。 「バチンキーは、お嬢のポケモンたちは。まだ諦めてないぞ」 バチンキーは、それに力強く頷き、わたくしを見つめます。 遊んでいたはずのわたくしのポケモンたちが、いつの間にかこちらを見つめている事に気づきます。 ホップの瞳が力強く、わたくしを貫きます。 「お嬢、諦めるにはまだ早いぞ」 「でもっ……でもっ……わたくしにはもうっ、どうすればいいかっ……」 「なら、オレも一緒に考える。どうやったらカブさんに勝てるのか」 「……言ったではありませんか。わたくしは、あなたの足手まといにはなりたくありません」

    6 20/01/18(土)23:53:15 No.655956468

    その言葉に、彼は笑顔になります。 昔、出会った時と同じ、この月明かりとは正反対の太陽のような笑顔に。 「お嬢を足手まといにするつもりなんてないぞ。オレはただ……お嬢とまだ一緒に旅がしたいんだからな!」 真っ直ぐに、なんの揺るぎも淀みもなく彼の想いが伝わってきました。 それに頬が熱くなるのを止める事が出来ません。 だというのに、ホップはまた、表情を引き締めて私を見つめます。 「それじゃあ、足りないか?」 「……まったく、強引ですね。……昔から」 それでもうわたくしの想いは伝わったのでしょう。 嬉しそうに笑うと、 「それでこそオレのライバルだ!」 「……はぁ」

    7 20/01/18(土)23:53:46 No.655956640

    やっぱり、あなたは昔から変わっていませんね。 そんながっかりした想いを込めてわたくしは再び溜息を吐きます。 「ほーら言った通りだったでしょ?」 すると、頭上から随分と陽気で、それでいてしつこさのある声が降ってきます。 振り返ると、赤髪を風に揺らし、小娘がこちらを見下ろしていました。 「……いたのですか」 「ひっどいなぁ。これでも旅の仲間じゃないか」 「そういえば、そうでしたね?」 ええ、忘れたくても忘れられませんよ。その目立つ髪と忌々しい縁は。 あなたさえいなければきっとわたくしはもっとホップとの旅を穏やかに楽しんでいたのでしょうから。 そこに騒がしさを追加したあなたを忘れられるわけないでしょう。 などと思っていると彼女は唇を尖らせます。 「まったくもう。ホップ君を先に行かせたのは私のアイディアなんだから。もっと感謝してよね」 「……そう、ですか」

    8 20/01/18(土)23:54:20 No.655956834

    それは、なんといいますか、確かに小娘が一緒にいた場合わたくしが素直に話を聞くかと言うと恐らく聞かなかったであろうことを考えると大変冷静で的確な判断だったという事なのですが、 だからといってそれを大人しく受け入れるとそれはそれでわたくしがとても単純なように思えてきてしまい少しばかり感謝を表明することに躊躇いが生まれてしまいますがここは、まぁ。 「……ありがとうございます」 「おっ、意外と素直」 わたくしが頭を下げると小娘は意外そうな顔をします。 「意地を張るべき時とそうじゃない時の区別ぐらいつきますわ」 「そ。それじゃあさっさとカブさんに勝ってよね。じゃないと、私たちの関係がどんどん進んじゃうよ?」 『私たち』というのが誰をさしているのかはこの場では問い詰めませんが、それはわたくしにとってとてもとても不愉快な事でしょうね。 「なら、わたくしが勝てるように手伝ってもらいましょうか。ですよねホップ?」 「おう!なんでも聞いてくれ!アニキの部屋の本は全部読んでるんだからな!!」 「私は炎使いだからね。対カブさんの仮想敵としちゃこれ以上ないでしょ?君が納得するまで付き合ってあげるよ」

    9 20/01/18(土)23:54:41 No.655956944

    二人が決意を込め、わたくしを見つめます。 ええ、ええ。そうですね。わたくしは、わたくしたちは、こんなところで終わるわけにはいかないのです。 わたくしは威勢よく両頬を叩きます。 頬に走る痛みが私の意識をハッキリとさせます。 待っていてくださいカブさん。わたくしは、決してあきらめません。 「さぁ、仕切り直しですわ。わたくしの強さを見せてあげましょう」 月夜に向かって、心のままに吠えました。

    10 20/01/18(土)23:55:09 No.655957083

    前回までの su3580984.txt

    11 20/01/18(土)23:57:32 No.655957869

    いい…炎ウリと草ウリキテル…

    12 20/01/19(日)00:01:55 No.655959461

    敵に塩を送るとは…この炎ウリ…できる…

    13 20/01/19(日)00:06:31 No.655961174

    仲間っていいね…

    14 20/01/19(日)00:10:30 No.655962683

    こういう女の友情好き

    15 20/01/19(日)00:16:28 No.655964723

    お嬢が再起できてよかった…

    16 20/01/19(日)00:23:04 No.655966899

    本音をぶちまけられる仲間っていいね…

    17 20/01/19(日)00:24:37 No.655967384

    >本音をぶちまけられる仲間っていいね… 総帥が総帥になったのも本音誰にも言えなかったからだからな

    18 20/01/19(日)00:39:55 No.655972328

    こうやってみんな成長するんだな…