虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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19/11/13(水)00:01:28 「たえ... のスレッド詳細

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19/11/13(水)00:01:28 No.638225937

「たえちゃーん!どこー?」 さくらは声を張り上げながら、屋敷の廊下を歩く。 探すのはたえの姿。いつもは何を言うでもなく齧り付いてくるが、今は何処かに隠れているだろう。 何故さくらはたえを探すのか。今日はたまの休日で、更に他の面々は皆何処かへ遊びに行っていた。 一人乗り遅れたさくらが、はてどうしようか…と考えていたところ。答えるように頭部を走る慣れた痛み。 『ヴァウヴァウヴフフ…』 『たえちゃん!ねねっ、一緒に遊ばん?』 『ヴァー!』 両腕を上げ、満面の笑顔を浮かべたたえ。 そんなたえを見て、さくらもゾンビィながら心が温かくなったのを感じた。 『それじゃ、何して遊ぼっか?』 『ヴァーウ…ヴァーウ…』 二人で首を傾げ、うんうんと唸る。 そうした後、さくらがポンっと手を合わせ口を開いた。 『かくれんぼ、しよか!』

1 19/11/13(水)00:01:40 No.638225989

広い屋敷を探索する中で、様々な場所を見て回る。 「どこに居るとやろ?…ここー?」 大部屋を見てみるが、居ない。 「ここかなー?」 台所にも居ない。 「実はこんな場所に居たりしてー!?」 ベランダにも居ない。 「犯人確保ー!…なんつってー!」 衣裳部屋にも居ない。 「ふんぎぎぎ…こ、ここは~?」 屋根の上にも居ない。 「ロメロ~?たえちゃん見なかったと~?」 ロメロに聞いても、返って来たのは横に振られた首だけ。 多くの場所を見たが、たえの姿は一向に見つからない。 見ていない場所は最早、片手の指で足りる程となってしまった。

2 19/11/13(水)00:02:05 No.638226086

「…もしかして…ここ?」 幸太郎の部屋の扉を前に、さくらは迷っていた。 外の様子を見た際に車が止まったままである事を確認している。幸太郎は間違いなくここに居るだろう。 いつも通り扉をノックし、返事を聞き遂げてから入る。 …普段通りならば。 さくらはハッキリと覚えていた。今日の朝方にスケジュールを告げた彼は、疲れを見せていたのだ。 『今日はお休みでーす!でも休んじゃダメでーす!ゾンビィお休みしたら永眠しちゃうから~!レッスンし』 サキに物理的手段で黙らされながらも、茶化し続けた幸太郎。 しかし。口調こそ普段通りながら、ボサついた髪と動作のぎこちなさ。その二つが幸太郎の疲労を伝えていた。 間違いなく、幸太郎はここに居る。だが、恐らく今日くらいはゆっくり休んでいるだろう。 休んでいる時に訪れて起こしてしまうのも申し訳が無い。 では諦めようか?それはそれで、たえを見つけられない場合ここに放置されるたえが可哀想だ。 「…どやんしよ」 頭を抱えて、たえと幸太郎をそれぞれ天秤にかける。 悩みに悩み抜いたさくらが取った答えは、ゆっくりとドアノブを捻る事だった。

3 19/11/13(水)00:02:59 No.638226304

音を立てずに扉を開け、部屋の中へ。 何かしらの書類が散らばった書斎。譜面が描かれた物も共に散らばっているため、間違いなく仕事関係だろう。 それを見届けてから、所持者に目を向ける。 ソファに座ったまま眠る姿。頭を自らの肩に預け、呼吸でゆっくりと上下する。 抜き足差し足。そろりそろりと歩いて、部屋を見て回る。 そして3分程経過した頃、この部屋にたえは居ないという答えにさくらは辿り着いた。 ここまでのリスクを背負ったにも関わらず、収穫はゼロ。 ガックシと下がる肩を持ち上げる気にもなれず、大きな溜め息が零れる。 (後見てないところ…何処あったかなぁ…) 本日何度目かの思考。だが今回は思うように次が出ない。 (こういう時…パズルゲームとかなら…) 今度こそ詰みかと思ったさくらを、得意であった趣味がどうするべきかを教えてくれる。 (うん。詰まった時こそ気分転換。閃きに繋がったりするし、ちょっとだけ違う事を考えよ) 行き止まった思考を一旦頭の隅へ。普段は長居できない場所に居るのだから、何か探してみよう。 そう思い至ったさくらの目に付いたのは、幸太郎のサングラスだった。

4 19/11/13(水)00:04:25 No.638226618

未だ首を傾げている幸太郎の顔を覗き込めば、黒いガラスに反射して映る自分の顔。 (そういえば…幸太郎さんの素顔ってしっかり見た事無かね…) 前に見たのは、サキに殴られていた際にちょっとだけ。しかも、俯いた状態。 これまでを振り返ってみても、よく見た事は一度も無かった。 その事実に気付いたさくらの好奇心が刺激されるのは、仕方が無い事だろう。 起こさないように、ゆっくりと手を伸ばし幸太郎の顔へ。 そっとサングラスを掴んで。生唾を一つ飲み込んでから、上に。 見えたのは、茶色の瞳。 顔のパーツとして重要である目が、認識上の幸太郎にも宛がわれた。 元々パーツ自体は良いと、フランシュシュの中でも度々話題にはなっていたのだが。 何せ人の第一印象を決定付ける目がわからなければ評価のしようがない。話題はいつもそこで終わっていた。 しかし。こうしてようやく、目の前の男は整った顔立ちであると、さくらは理解できた。 理解したうえで、見惚れた。 かっこいいとか、少し隈ができているとか。 そういった物を頭の片隅に追いやって、ただ、見惚れていた。

5 19/11/13(水)00:04:40 No.638226681

「………」 暫し、茶色の瞳を見つめる。 さくら自身、何故こうまで惹かれるのかがわからなかった。 何故。幸太郎の瞳を見つめながらそれを突き詰めて、辿り着いたのは展望台。 あの日から、幸太郎に何かしらの感情を抱いていたのは確かで。 ならこれは。知りたかった彼の事が知れたから? 胸は高鳴っているが、これは違う。何かが引っかかっている事。それだけはハッキリとわかった。 考えて、見つめて、見つめ合って。 (………あれ?) サングラスを上に向けてから今に至るまで、おおよそ20秒。 ようやく気付いた。 眠っている筈の人物の瞳なんて、見えるわけが無いという事。 眠っている人物と見つめ合うなんて、出来るわけが無いという事。

6 19/11/13(水)00:05:10 No.638226794

「………あのー?」 「…」 「…もしかしてー…起きてます?」 声を掛けてみても、さくらを見つめる瞳は揺るがない。 「…」 「…」 自らの悪戯をしっかり見られていると気付いてしまったが故に、さくらも迂闊に口を開けない。 幸太郎は何を言う事も無く、たださくらの視線に応え続ける。 そうして更に、1分程。さくらからすれば、2倍も10倍も長く感じる時間が経ち。 「…っち」 幸太郎が漸く口を開いた。 小さな声で聞こえなかったが、何か行動を起こした事がさくらにとっては今の状況から抜け出す光明。 「はい?なんて言いよりました?」 胸を張るほどに鼻から息を吸い込んだ幸太郎。さくらに過ったのは、行動を間違えたという未来予知に近い物。 「きゃー!さくらさんのえっち!スケベ!ヘンタイ!出てけこんボケェ!!!」

7 19/11/13(水)00:05:46 No.638226953

ここまでの静謐を一瞬で掻き消す程に飛んでくる唾と怒号。 「ご、ごめんなさぁああい!!!」 堪らず、走って逃げるように部屋の外へ。 部屋を出て少し離れた場所で一息をついて、驚きにより動き出した心臓を落ち着かせる。 「うぅ…あ、あんなに怒る事なかよねぇ…」 一息の後、溜め息。顔を見られたくなかったのかもしれないが、それにしても怒りすぎではないか? 色々不満を脳内で吐き出してはみるものの。結局は、好奇心で動いた自分が悪いの一言で全てが収まる。 しかしそれでも納得いかない物はいかない。モヤモヤを抱えて膨れっ面になるさくら。 「ヴァウアー!ヴァウアー!」 「あっ…たえちゃん…」 屋敷の外。庭の方から聞こえた声に、本来の目的を思い出す。 たえとのかくれんぼ。これも自分が発端の事で、自分自身に苦笑いを浮かべた。 「いけんいけん!見つけてあげんと!」 今度は寄り道無し。忘れずに真っ直ぐ行って、見つけてあげよう。 止まった心臓をまた動かして、駆け出した。

8 19/11/13(水)00:06:10 No.638227048

何故、さくらと目を合わせ続けたのだろう。 変わらずソファに凭れながら、幸太郎は自分に問う。 いつも隠しているこの目を見られた。これで顔の全てを知られた。 …何を期待したのだろう。 視線を床から窓へ。遠くからさくらの声が耳に届いた。 「あっ!たえちゃんみーっけ!庭の木の上とか思いつかんよ!」 どうやら、たえと遊んでいたらしい。言葉から察するにかくれんぼだろうか。 幸太郎は薄く笑みを浮かべた後、瞼を下ろす。 …時が経てば、多くの物がカタチを変える。 建物、自然、町並み、人。 ………人の顔も、その中に含まれる。 しかしどれほどの歳月を経ようとも、この人物は一貫して“こう”だという特徴が、どのような人間にもある。 「ねねっ?たえちゃん?もっかいしよっか!次こそ自力で見つけるから!」 さくらと目を通わす事に何を期待したのか。考えてみればあまりにも不条理で単純な我儘。 幸太郎は笑みを深くし、もう一度夢に意識を落とした。

9 19/11/13(水)00:06:21 No.638227097

見つけてほしかった。 ただ、それだけ。

10 19/11/13(水)00:09:27 No.638227875

エモかー!!

11 19/11/13(水)00:10:30 No.638228140

よか…

12 19/11/13(水)00:12:20 No.638228646

>(こういう時…パズルゲームとかなら…) >今度こそ詰みかと思ったさくらを、得意であった趣味がどうするべきかを教えてくれる。 さくらの趣味をちゃんと生かしてるのがとても良い

13 19/11/13(水)00:14:59 No.638229368

エモイでありんす…

14 19/11/13(水)00:15:42 No.638229575

あああああああ… 切ない…切ないでありんす…

15 19/11/13(水)00:19:41 No.638230713

見つけてほしくない 見つけてほしい 知られたくない 知ってほしい 人間というのは何故相反する感情を持つんでありんしょうなあ…

16 19/11/13(水)00:20:08 No.638230844

乾くん…

17 19/11/13(水)00:22:53 No.638231574

切なか…

18 19/11/13(水)00:23:39 No.638231782

わっちこれ大好き!(バァァアン

19 19/11/13(水)00:24:40 No.638232037

隠れんぼするさくたえやーらしかね

20 19/11/13(水)00:30:45 No.638233522

いつかさくらが巽に「頑張ったね」って言ってくれる日が来てほしい

21 19/11/13(水)00:34:54 No.638234594

胸が苦しいでありんす…

22 19/11/13(水)00:38:47 No.638235680

葉隠には忍恋こそ至極の恋と書かれとるんじゃい

23 19/11/13(水)00:41:31 No.638236490

よか…

24 19/11/13(水)00:48:07 No.638238365

見つめ合ーうと素直にお喋り出来なーい

25 19/11/13(水)00:52:00 No.638239376

そうか目は歳を取ってもそんなに変わらない箇所か…

26 19/11/13(水)00:53:11 No.638239728

よかね…

27 19/11/13(水)00:54:57 No.638240175

いつか気付く時が来てほしいような来てほしくないようなそんな複雑な関係だよね 改めて思う

28 19/11/13(水)00:55:32 No.638240302

よかったい

29 19/11/13(水)00:56:09 No.638240480

ちょっと泣く

30 19/11/13(水)00:57:30 No.638240800

さくらはん!気づきなんし!

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