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19/10/22(火)23:58:32 誰も居... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1571756312991.jpg 19/10/22(火)23:58:32 No.632822149

誰も居ない慣れ親しんだ大部屋。その中で一人、立ち尽くす。 何も考えず、考えられず。ただ立ち尽くしていると、二人しか居ない住人の片割れが扉を開け入って来た。 『………幸太郎さん』 『…今日が最後だ。さくら』 幸太郎さんが何を言うかなんて、わかっていたのに。隠れれば、その時が遠ざかるわけじゃないのに。 私達は佐賀を救った。アイドルとして、見事に救ってみせた。 今やアイドルと言えば佐賀!海外からの観光も佐賀!日本に来て佐賀を訪れないなんてもったいない! そんなびっくり仰天ミラクルが現実に! これが私達がした事なんだ!?すごかね!頑張ったもん!当然だよ! 達成できた時、みんなで泣き笑いしながら一日中騒いでたのは決して忘れない。 関わった人みんなが笑顔になって、私達もみーんな笑顔! ………時間が来るまで、みんな笑顔だった。 ある日、私達には制限時間があったのだと、幸太郎さんから聞かされた。 ショックだった。まだまだこれからだと思ってたし、みんなとずっとこのままだと思ってたから。 …だけど。頭を下げる幸太郎さんを見て。流れ落ちる雫を見て。誰も責めたりなんて出来なかった。

1 19/10/22(火)23:58:42 No.632822183

『そもそもアンタが起こしてくれなかったら、私達何もできないまま死んでたんだから!』 『…そう、ですよ!巽さんに悪い事なんてありません!』 『まっ!全国制覇できたのは間違いなくオメーの力もあったからだよな!ありがとな!』 『リリィだってリリィだって!可愛いままでここまで駆け抜けられたんだよ!?ありがとねタツミ!』 『今生は遥か遠くの時代。数多の物が変わった中で、変わらぬ物がありんした』 『人情。人情は変わらぬと知れた事。それがわっちには本当に嬉しい。幸太郎はん、ありがとうござりんした』 『アヴヴィー………ヴァ…イ…ガァ…ドォー…』 『…幸太郎さん』 頭を下げ続ける幸太郎さんに、近寄る。 『これまでずっと見守ってくれて、ありがとうございました!』 みんなで幸太郎さんに抱きついた。 震える幸太郎さんを宥めるように。自分達の震えを抑えるように。

2 19/10/22(火)23:58:54 No.632822238

その後は、何もかもが早かった。時間も、行動も。 ファイナルライブに、私達が歌ってきた曲の使用権をフリー化。 全部の準備は幸太郎さんがやってくれた。手伝おうとも申し出たけど、笑って受け流されちゃった。 …そして恙無く、面白い程に何もハプニングは無く、全部が終わった。 アイドルを辞め、ただのゾンビになった私達は、屋敷に篭って自分の終わりを迎えるのを待つ。 あれだけ怖かったはずなのに。この時は不思議と怖くなかった。 ライブを終わらせて、一区切りつけたからかな?って愛ちゃんは言ってたっけ。 皆とゆっくり喋ったり過ごして。レッスンに追われる事無く穏やかな日々を過ごした。 …幸太郎さんはずっと部屋に篭っていたけど。 それでも、本当に穏やかで、温かい日々。 たえちゃんに振り回されたり、純子ちゃんやサキちゃんと一緒に隠れて外に出たり。 ゆうぎりさんに何故かビンタされたり、リリィちゃんと遊んだり。 愛ちゃんと一緒にお忍びでカラオケ行ったりもしたなぁ。 …愛ちゃんが歌う時の声援に熱を入れすぎちゃって良く覚えとらんけど…

3 19/10/22(火)23:59:06 No.632822282

………或る日。幸太郎さんが大部屋に来た。 蓄えられた無精髭にボサボサの髪をしていて、リリィちゃんがウェッ…なんて零してたのを覚えてる。 告げられたのは、短い言葉。 これから数日…長ければ十数日毎に、私達の内の誰かを呼ぶ。そんな事だった。 ハッキリと言葉にはされなかったけど。その言葉の意味は皆がわかってた。 そんな事があっても、私達は変わらずに過ごした。 きっと怖かったんだと思う。笑って日々を過ごせば、知らぬ間に無かった事になってないかなって。 けど、そんな事なら絶対ふざけて言うであろう幸太郎さんの姿が、そうじゃないんだって思い知らせてくれた。 ………そして、初めに幸太郎さんに呼ばれたのは、サキちゃんだった。 『しゃあ!んじゃちょっくら行ってくるわ!』 いつもの元気な笑顔を浮かべて、幸太郎さんと扉の外に消えたサキちゃんは、もう戻って来る事はなかった。 わかっていたはずなのに、リリィちゃんは泣いた。 宥めようとしてリリィちゃんに話しかけて、私も泣いちゃった。 そんな私に愛ちゃんが。純子ちゃんが。ゆうぎりさんにたえちゃんも。 サキちゃんだけが居ない大部屋で、皆泣いてた。

4 19/10/22(火)23:59:39 No.632822418

それからすぐ。 サキちゃんを追いかけるようにリリィちゃんが呼ばれて、放っておけないかのようにゆうぎりさんが数日で。 『サキちゃん一人で寂しそうだもん!リリィが明るくしてあげないとね!』 『さくらはん。思うように生きなんし。前のわっちには出来なかった生き方故…だからこそ、さくらはんには』 二人共行っちゃった後の部屋は、すごい静かだった。 まるでお通夜みたいって言ったら純子ちゃんは反応してくれたかな? たえちゃんが私の頭を撫でてくれてたのが…それを見て皆で笑いあったのが救い…になったと思う。 …そんなたえちゃんも、次に呼ばれちゃった。 最後の最後まで頭に齧り付いて来て、痛くて痛くて涙が止まらなかった。 たえちゃんはムフフーなんて言ってたけど、目尻に涙が浮かんでた。 おかしいよね?噛んでるのたえちゃんだし、痛くない筈なのに。 『アーウ………サ…ク…ラ………ヴァイ…ヴァイ』 部屋からたえちゃんが出て行った後。あんまりにも噛まれた痕が痛くて、声を出して泣いた。 噛まれて無い筈の愛ちゃんも、純子ちゃんも。 皆で泣いた。

5 19/10/22(火)23:59:51 No.632822459

純子ちゃんは静かだった。 驚きも悲しみも見せずに、ただ、幸太郎さんの声に頷いて。 『さくらさん。愛さん。ありがとうございました。すっごい楽しかったです!…死んでも忘れませんから!』 涙を流す事無く笑っていた。純子ちゃんは、やっぱり強いなぁ。 『さくらさん。私は伝えられる事は伝えられる内に…だと思います。私も、そうします』 すれ違う時。純子ちゃんにそう言われた。何の事?だなんて、純子ちゃんの笑顔を見たら言えなかった。 『巽さん』 『…なんだ』 『お疲れ様でした』 『ッ!………あぁ…純子もこれまで、良く、頑張ったな』 『…フフッ。ダメですよ?部屋を出るまで、貴方のアイドルを見届けるまで、耐えてくださいね』 『………わかっとるわい。ボケェ』 そうして、二人が部屋の外へ。 …純子ちゃんは…幸太郎さんに伝えたのかな?今となってはわからないけれど。 幸太郎さんに笑いかける純子ちゃんは…その時の私には、とても輝いて見えた。

6 19/10/23(水)00:00:04 No.632822510

『…わかってるわよ』 二人だけ残った大部屋で、現れた幸太郎さんに愛ちゃんが言った。 『さくら』 あの日。テレビで見た時と同じ、眩しい笑顔。 『絶対言いなさい。言わなきゃファン破門しちゃうから!』 『…愛ちゃん』 私にウインクを飛ばして、振り返って。 かっこ良かった。 愛ちゃんはいつもかっこ良かったけど、こんな状況なのに見惚れちゃってた。 『ねぇ!』 『………俺か』 『アンタ以外誰居るのよ』 愛ちゃんが幸太郎さんにツカツカと詰め寄って見上げるのは、いつも見る光景だった。今日もまた。

7 19/10/23(水)00:00:16 No.632822562

『さくらの事、お願いね』 『……………』 愛ちゃんの言葉に顔を逸らす幸太郎さん。仕方が無い事だと思う。どうしようもないなら、仕方が無い。 誰にだって終わりは来る。私達は特別だっただけだから。 …けれど、それに異議があるように部屋に響いた高い音と吹き飛んで行くサングラス。 振りぬいた右手を再度呆然としている幸太郎さんに向けて、胸倉を掴んで。 『アンタだけは!最後までさくらを見捨てないでよ!』 ………愛ちゃんも皆も、アルピノ前のあの夜の事は知らない。 だけど愛ちゃんが叫んだその言葉は、あの夜に幸太郎さんが叫んだ事と似ていた。 呼応するように、自分の胸倉を掴む愛ちゃんの腕に手をやる幸太郎さん。 『…あぁ…!最後まで…最後の最後まで…見捨ててやるものか…!』 目に輝きが、顔に覇気が宿った。 『…なんだ、わかってんじゃない…バカ』 そんな幸太郎さんに見つめられ、見つめていた愛ちゃん。 愛ちゃんの顔は、赤かったと思う。見間違えかもしれないけれど。

8 19/10/23(水)00:00:36 No.632822648

そして、一人。私だけが、大部屋に残った。 思えば、恐ろしい程に時間を無駄にしていたと思う。 だけど、何もする気力が起きず…ううん、違う。何をすれば良いかがわからなかったんだ。 『さくら』 話しかけられるまで、ボーっとしていた。話しかけられて、気だるげに向いた。 『…幸太郎さん?』 『………何かしたい事は、無いか?』 …考えて、考えて。したい事なんていっぱいあった筈なのに、今こうして聞かれると上手く形にならない。 『何でも良いぞぉ?この巽幸太郎さんがとぉっくべぇっつにぃ!叶えてあげまぁす!』 幸太郎さんの明るい声が静かな部屋に響き渡る。 天井を見上げて、目を閉じて、ゆっくりと考えて。 『思うように生きなんし』 『伝えられる事は伝えられる内に』 『絶対言いなさい』 ………三人の言葉が無かったら、きっと何も答えられなかった。

9 19/10/23(水)00:00:47 No.632822700

天井から幸太郎さんの方へ向き直って、真っ直ぐ見つめる。 『幸太郎さん』 『一緒に居たいです』 『ずっと、一緒に居たい』 『ずっと…ずぅっと…一緒に居たいです…』 ポロポロと、涙が零れながら、伝える。 そんな私を優しく抱きしめてくれた幸太郎さんの事が、やっぱり大好きだった。 『やだ…居たいよ…幸太郎さんの側に居たいよぉ…!』 『…あぁ』 『眠りたくない…怖い…幸太郎さん…見捨てないでぇ…』 『あぁ…!絶対に見捨てない!側に居る!』 『幸太郎さん…好き…!大好き!』 『…俺も………俺も!さくらが好きだ!』 こうして。残り少ない時間だったけれど、私と幸太郎さんは晴れて恋人同士になれたのでした。

10 19/10/23(水)00:00:57 No.632822742

余命を告げられて以来、ずっと入ってなかった幸太郎さんの部屋に手を繋ぎながら入った。 整理整頓されていた筈の部屋は、色んな本が散らばって酷い有様。 日本語の本や、英語の本。何処かの言葉の本から、絵にしか見えない文の本。文字が無い絵だけの本も。 『探し回っていたんだ。お前達を行かせないように、どうにかできないかと』 『…その結果…誰も繋ぎ止められなかったんだがな』 幸太郎さんが寂しげに笑う。そんな姿、見たくなかった。 『…幸太郎さん!私も手伝いますから!二人ならきっと!』 私なんかじゃ力になれるかわからないけれど、手を強く握って幸太郎さんを励ます。 折角結ばれたのに、このまま終わりなんて絶対イヤ! 『…ありがとな、さくら』 『気にしなくてよかですよ、幸太郎さん』 二人で笑った後に見つめ合って、少しずつ顔が近づいて。 雑に積んであった本が落ちて、びっくりして離れた。 持っとらん。

11 19/10/23(水)00:01:10 No.632822790

それからは、幸太郎さんが見つけた方法を試す毎日。 日常の動作をちょっとズラしたような物から、魔法陣を書く本格的なのまで。 目に付く物を全部試した。 そんな日々の合間に幸太郎さんと恋人らしい事が出来たのは、私にしては持っていたと思う。 幸太郎さんと並んでご飯を食べたり、あーんってしたら食べさせて貰ったり。 幸太郎さんとお風呂に入ったり…勿論タオル巻いた状態で…ね? 後は幸太郎さんと一緒に寝たり。幸太郎さんに抱きしめられて、ドキドキして眠れなかった。 どうにか完全に生き返るために手探りで模索する日々の中で、色んな事があった。 『…?幸太郎さん。難しい顔しとりますけど、どやんしたと?この本に何かあるんです?』 『あっちょっと待』 『えーっと?…男性の…精を…子を宿す場所へ…それを儀式と成し…生命力を…魂に………これって…』 『えっあっあっ…ち、違うんじゃい…これは、その』 『……………幸太郎さんのなら欲しかです』 『………』 …そんな事も、シた。

12 19/10/23(水)00:01:23 No.632822852

それでも方法は見つからず、時間は過ぎていって。 ある日。いつも通り所持者が既に抜け出したベッドから起きて、下着を身に着けていた時。 嫌な感じがした。気持ちの悪い、ずっと頭に残る感覚。 多分、皆この感覚を味わったんだ。だから、自分の番だってわかったんだ。 いつもなら服を着た後に幸太郎さんを探しに行くのに、その日は行かなかった。 ぼんやりと靄が覆う頭のまま歩いて、辿り着いたのは大部屋。 皆との思い出が鮮明に残る大部屋で、呆然と立ち尽くした。 なんでここに行ったんだろう?落ち着くからかな? 泣いてる顔を見られたくなかっただけかもしれない。逃げたかったのかも。 幸太郎さんすっごい優しいから、きっと申し訳なさそうにしちゃう。私のせいでそんな顔にさせたくない。 …だけど、見つかっちゃった。 『………幸太郎さん』 『…今日で最後だ。さくら』 …何処に行っても見つけてくれる気がして、ちょっと嬉しかった私は、面倒くさい女だなぁと自分でも思う。

13 19/10/23(水)00:01:42 No.632822927

『幸太郎さん』 仏頂面の幸太郎さん。大部屋でそんな顔されると、皆が居た頃を思い出して悲しくなっちゃう。 『………私、死にたくなか』 言葉が零れて、思いが溢れて。 『死にたく、なか!…やだやだ!怖いよぉ!』 幸太郎さんの胸に縋りついて、泣き叫んだ。 みっともないなぁ…情けないなぁ… ………こわかった…なぁ… 私の肩を力強く掴んだ幸太郎さんは私を見下ろして。 『…手段を見つけた』 『………え?』 幸太郎さんの言葉はハッキリと聞こえていたのに、聞きなおした。 『今から執り行う。来い』

14 19/10/23(水)00:02:02 No.632823002

ただ黙って、手を引かれ廊下を歩く。 私のペースなんて考えずに、幸太郎さんの歩幅で、幸太郎さんの速度で。 何度も転びそうになったけれど、幸太郎さんが歩くスピードを緩めてくれる事は無かった。 『こ、幸太郎さん!?待って!…痛い!』 『時間が無い』 幸太郎さんは振り返ったりなんてせず、不安と痛みだけが募っていく。 暫く歩いて、辿り着いたのはミーティング部屋。 幸太郎さんが扉を開けると、真っ暗な部屋。 その中に放り投げられた。 『きゃっ!?へぶっ!』 間近に迫る床。勢い良く顔をぶつけて、少しの間悶えた。

15 19/10/23(水)00:02:16 No.632823059

流石の私も、ここまでの扱いにプッツンと来た。来ちゃった。 痛みと理不尽から来る怒りのままに、こんな扱いをしてくれた幸太郎さんを睨みつける。 『いったたた…何しよるとですか!幸太郎…さん…?』 私の怒りは、掻き消えた。 幸太郎さんの涙で、消えた。 『今の人間の状態で蘇生させるのは、難しかった』 『だから、一つ上に連れて行く』 『その位階ならば、自己保存も容易い。今の縛りに囚われる事も無くなるだろう』 『…幸太郎さん?何を言って…』 『さくら』 私の名前を呼んだ幸太郎さん。涙を流しながら浮かべる笑顔は、綺麗で、かっこ良くて。 『また、逢える』 …とても、悲しかった。 そして扉が閉じられて。暗闇に包まれた。

16 19/10/23(水)00:02:35 No.632823142

何も見えない暗闇の中で呆然と座り込む。 …我に返って、扉があった場所へ走る。 だけど、走っても走っても、扉どころか壁にぶつかる事は無かった。 走り疲れて立ち止まる。息を整えながら、辺りを見回す。 さっきまでは気付かなかった。何時の間にか周りに浮かんでいたのは、シャボン玉。 近づいてみれば、そのシャボン玉らしき物は綺麗な情景を映し出していた。 興味本位で、触れてみる。 『さくらぁ!?おまっ周り見ろって言っとるじゃろがい!また轢かれたいんかボケェ!』 『ご、ごごごご、ごめんなさーい!!!』 誰かの姿が視界に映った。見慣れた人と、見慣れない人の姿。 …まるで幸太郎さんと、私のような。 二人にしか見えなかったけど、間違いなく違った。 確かに私達二人がしそうなやり取りだったけど、間違いなく、私にはそんな記憶が無かった。

17 19/10/23(水)00:02:56 No.632823227

困惑から生まれた恐怖が、シャボン玉から手を離させる。 周りを見ると、シャボン玉。数え切れない程に多くのシャボン玉。 その一つ一つに、何かが視える。 私のような人と、幸太郎さん。二人の姿が、全てに浮かんで視えた。 何個も何個も映し視て、幸太郎さんが言っていた言葉で、なんとなくだけど理解した事。 きっとこれは隣。違う私と幸太郎さん。 数多に輝くシャボン玉を握り締めれば、中に入れた。 目の前でドタバタといつもの日々を送る私達。 たえちゃんも愛ちゃんも純子ちゃんもリリィちゃんもサキちゃんもゆうぎりさんも、皆居る。 …私には、懐かしい日々。 そうやって郷愁に駆られながら、幾つものシャボン玉を経て理解した事。 どうやら皆には私が見えないらしい。目の前で手を振っても反応が無いどころか私をすり抜けて歩いて行く。 後は、物には触れられるだけで動かせない。だけど、念じてみると動く。念じてみれば、何かしらを起こせた。 それと、シャボン玉のどれを視ても、過去と現在までしか視えない。 私が幸太郎さんに部屋に入れられた日より先を映し出すシャボン玉は無かった。

18 19/10/23(水)00:03:08 No.632823292

そして、私は気付いた。 過去と現在を映しているのなら、私が居た場所もあるんじゃないか。 ………結果から言えば、私の居た場所を映すシャボン玉は無かった。 どれも隣。どれも違う。 あの広い屋敷に一人で、私を待っている筈の幸太郎さんは何処にも居ない。 何日も何ヶ月も何年も…多分、何十年も越えて。ここにカレンダーは無いけれど、ずぅっと探し続けて。 そして、心が折れた。 持っとらん私には見つけられない。あの場所へは、帰れない。 辺りに浮かぶシャボン玉が鬱陶しくて仕方無くて、振り払っても割れないそれに、更に苛立った。 もう何も視たくなくて、体育座りで膝に顔を埋めて、ただジッとする。 もう戻れないんだ…幸太郎さんには、会えないんだ… 涙が頬を伝って、スカートに落ちる。私から出た物は私だけには触れられる…誰も見えず、触れないのに。

19 19/10/23(水)00:03:27 No.632823378

そうして探した時間と同じくらい何もせずに過ごして居た時。 何の気も無く。ふと、顔を上げた。 目の前をふよふよと浮かぶ、シャボン玉。 もう何も視たくなかった。割れないのにまた振り払おうとして、視えた。 『…幸太郎さん。あのね』 『………そーんな事で悩んどったんかいボケェ!あー痛い!右脇腹いった!はー片腹大激痛なんですけどぉー!?』 『な、幸太郎さん!私本気で』 『何のために仲間が居る。お前の悩みを背負い切れないアイツ等ではないなんて、今更俺に言わせるな』 『…でも』 『いいかぁ!?そんでなぁ!?アイツ等と協力しても解決しなかったらなぁ!』 『…その時こそ、俺がお前の側でパパッと解決してやる』 ………あの日。私が幸太郎さんにお悩み相談しに行った時。 悩みを聞いてもらって、笑い飛ばされて、道を示してもらって。 日時、場所、全て同じ。 私の居た現在は無くても。過去の世界はあるのだと、そこで知った。

20 19/10/23(水)00:03:37 No.632823437

私が大好きな幸太郎さんの過去。居ても立っても居られなくて、シャボン玉の中へ。 すぐ側で見つめて、だけどやっぱり幸太郎さんは私を見つけてくれなくて。 でも、それでも良かった。短かったけれど、確かに恋人だった幸太郎さん。恋人になるはずの幸太郎さん。 そんな人を…想い人を見れて、心が安らいだ。 けれどやっぱり。目の前に居るのなら会いたい。話したい。触りたい。キスしたい。 ………そして、藁に縋ってみたくなった。 普通に会ったら、幸太郎さんは困惑する。だけど幸太郎さんの事は良く知ってる。変な流れには乗ってくる。 念じて、衣服を変えて。宙に浮いて、眠る幸太郎さんの側へ。 聞こえない筈なのは見えない筈なのはわかってる。ダメなら諦めて、幸太郎さんを…愛しい人を見届けよう。 幸太郎さんへの想いをギュッと込めて、口を開く。 「幸太郎さん…じゃなかったえっと…起きなさい…」 「起きなさい…起きなさい…起きてー…大変な事になっちゃいますよー…」 「起きてくださいよー…不貞腐れちゃいますよー…」 「…いい加減起きんと火かき棒がどこでどうなるかわからんとよ?」 ………不貞腐れた私の声で、奇跡が起きた。

21 19/10/23(水)00:05:13 [sage] No.632823841

どやんすの神様zeroです 妙に暗い感じになったから書かずに胸に秘めておこうと思いました 次最終回です

22 19/10/23(水)00:10:27 No.632825125

また久々の大作だな

23 19/10/23(水)00:11:34 No.632825408

よかったい!

24 19/10/23(水)00:11:46 No.632825454

せつなかー!

25 19/10/23(水)00:17:21 No.632826855

どやんすしたくなってきた

26 19/10/23(水)00:17:58 No.632827023

大作でありんす…!

27 19/10/23(水)00:19:25 No.632827422

もうこの手の話に弱い

28 19/10/23(水)00:19:37 No.632827481

純子ちゃん…

29 19/10/23(水)00:26:18 No.632829264

よか…

30 19/10/23(水)00:27:21 No.632829512

スケベの神様かと思ってたら…

31 19/10/23(水)00:32:08 No.632830676

世界線を超えたか…

32 19/10/23(水)00:34:03 No.632831159

ゾンビィとしての活動期間ってある日突然何も異常もなく来るのかなと思うとゾンビィって儚い存在だよね

33 19/10/23(水)00:34:50 No.632831372

抱いてるでありんす! でもなんだか切ないでありんす…

34 19/10/23(水)00:41:15 No.632833098

>………不貞腐れた私の声で、奇跡が起きた。 流石持っとる男

35 19/10/23(水)00:41:53 No.632833238

別れがおつらい…

36 19/10/23(水)00:46:17 No.632834368

>『また、逢える』 幸太郎はん…!!!

37 19/10/23(水)00:47:53 No.632834797

切なか…

38 19/10/23(水)00:50:28 No.632835561

ああああーっす!!!

39 19/10/23(水)00:50:39 No.632835617

どやんす神…!(ダキィ

40 19/10/23(水)00:51:56 No.632836021

まさに“ヨミガエレ”でありんすな…

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