虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

1 19/08/27(火)23:41:10 No.618232385

力の存在を知ることになったきっかけは、かつてプロデュースを手掛けた一人のアイドル。 背の高さがコンプレックスで、いつも下ばかり向いていた。 俺はそんな彼女に、それは弱点なんかじゃない、君の武器なんだと伝えてあげたかった。 しかし俯く彼女には届かない。こぼれる涙も拭ってやれない。どうにもならなかった。 それでもどうにかしたくて、俺は勇気を振り絞って柄にもない行動に出た。 彼女の顎に手を添え、上を向かせ、目を見つめ、思いの丈をぶつけたのだ。 その時、俺の力は発現した。 つい先程まで後ろ向きに頑なだった彼女の態度は一変、途端にしおらしくなった。 上気した頬も、潤んだ瞳も、普通の状態にないことを一目で教えてくれた。 かと思えば、次の瞬間には彼女の表情に今までになく強い意志が宿っていた。 そして彼女は言った。 わかりました、あなたの言う通りにします――と。 それ以来、彼女は人が変わったように前向きになり、パフォーマンスも見違えて良くなった。 今では日本を代表するトップアイドルグループでリーダーを務めているのだが、それはまた別の話だ。

2 19/08/27(火)23:42:17 No.618232679

こうして自分が「もっとる」男であることを知った俺は、同時にその力の危険性についても考えた。 俺の顎クイは人一人の意思を捻じ曲げる。 誰もが大なり小なりのポリシーに基づいて生きている。 俺の顎クイはそんな尊厳をも踏みにじる。 これは恐ろしいことだ。おぞましいことだ。 結果として事態が好転したからといって、それが俺の身勝手なエゴイズムであることには変わりない。 ただの一度使っただけで、肚の底には後悔に似た感情が澱のように堆積していた。 しかし、どうしても考えてしまう。 この力は俺の計画になくてはならないものだ、と。 結局のところ、俺はその誘惑に抗うことは出来なかった。 必要最低限に留めるという自己満足でしかない制約を設け、俺は絶対遵守の顎クイを行使した。 ある時はうら若き女性に。またある時は年老いた男性に。 みな一様に頬を染め、面白いくらい従順に俺の要求を受け入れた。 そうして得たコネクションは、我がゾンビィアイドル――フランシュシュを大きく躍進させた。

3 19/08/27(火)23:43:14 No.618232956

そんなある日のことである。 「何度言わせんのよ！私がセンターに来た方が絶対に見栄えするんだってば！！」 「お前こそいい加減聞き分けんかい！そこはさくらのパートだと言うとるじゃろがい！！」 朝のミーティングの場で、俺と愛は侃々諤々の言い争いを繰り広げていた。 争点は新曲のパート割り。 俺がさくらをセンターに据えるよう想定していたパートで、愛がそこには自分が立つと主張してきたのだ。 プロ意識の高い愛や純子が、俺の意見に異議を唱えることは珍しいことではない。 ただし今回の新曲は俺としても会心の仕上がりを自負しており、その構成に一部の隙もないと確信している。 誰がなんと言おうと意思を曲げる気はなかったが、それは愛も同じらしい。 愛に利己的な魂胆がないことは、その場にいる全員が理解していた。 愛は、常にフランシュシュがより良くなることだけを考えてくれている。 時にはそこまで言うならばと、ゾンビィ達に主導権を握らせてみることもある。 逆に、俺から演出の意図を懇々と説けば、愛の方が折れてくれることも。 今日という日の俺達は、そのどちらにも当て嵌まらなかった。 口論は、果てのない平行線を辿っていた。

4 19/08/27(火)23:45:02 No.618233427

「悪いけど今回ばかりは譲らないから。この案が通らないなら、私は歌わない」 「っ、この分からず屋が……！」 いよいよ進退窮まる中、俺の脳裏には昏い声が響いていた。 ――するか？顎クイを―― それは「もっとる」俺の人生で、これまで幾度となく聞いてきた悪魔の囁き。 だが俺は、俺のゾンビィにだけは顎クイを使いたくなかった。 唯一の例外は、目覚めたばかりで混乱するさくらを宥めるために使った時だけだ。 神の摂理に背いた愚かなネクロマンサーの操り人形に、これ以上の道化を演じさせたくはないのだ。 ただ、それも結局は俺のエゴに過ぎない。幕が上がったのならば、何があっても演じ切るしかない。 相反する感情は俺の心を真っ二つに引き裂いた。 「ちょっと、今度はだんまり？そんなの時間の無駄なんだからさっさと結論を――」 獲物に忍び寄る蛇のように。 俺の指先は、愛の小さな顔を捉えていた。 顎をクイと上げ、視線を俺から逸らせないようにして、囁く。 「――愛。俺の言うことを聞いてくれ」

5 19/08/27(火)23:46:15 No.618233723

「ひえっ？」 その一声で、俺は早くも愛の精神に影響を及ぼしてしてしまったことを悟る。 気丈な愛が、目下の論敵である俺にそんな間抜けな声を聞かせるはずがない。 愛の頬は上気し、瞳は潤みだす。これまでの犠牲者と寸分違わぬ反応だ。 が、しかし。 「あ、アンタ……な、なな、何、っを……」 驚いたことに、愛は二の句を継いだ。 まだ完全に心を支配されていないのだ。 愛の表情には、怒りと羞恥が綯い交ぜになって見て取れた。 無理もない。今まさに己の心が他人の言葉に侵食されているのだから。 業腹だろう、屈辱だろう。なにより辛くて苦しくて仕方がないはずだ。 それでも愛は挫けない。歯を食いしばり、涙さえ浮かべ、目と鼻の先で嗤う悪魔を睨み返している。 俺は水野愛という少女の高潔さを改めて思い知った。 が、しかし。 「頼むよ愛、俺を信じてくれ。お前なら分かってくれると、俺も信じてるから」

6 19/08/27(火)23:47:50 No.618234102

「～～～～～っ！？」 更に接近し、耳元に触れるか否かという距離から言の葉を紡ぐ。 絶対遵守の重ね掛け。人跡未到の愚行。 顔を離して観察すると、愛はとうとう言葉もなく口をぱくぱくとさせるばかりだ。 耳まで真っ赤なのは、それだけ懸命に抵抗している証拠だろう。 ひっきりなしに咲き乱れては床を埋め尽くす勢いの頭の花も、なんか知らんがそういう影響のアレに違いない。 内心で葛藤を続けているだろう愛の姿から、俺は片時も目を逸らさなかった。 それが俺の果たすべきせめてもの務めだと思ったから。 やがて、愛は俺の手を払い除け、 「…………………………今回だけだからね、卑怯者」 「ああ。本当にありがとう、愛」 これで俺達は前に進める。 今日という日に、何と換えてでも守るべき存在を傷つけた十字架を背負って。 一部始終を静観していたさくら達も、俺と愛へ交互に軽蔑と憐憫の眼差しを向けている。 それでいい。俺を恨みたければ恨め。そして団結し、さらなる高みへ至るのだ、フランシュシュ――！

7 19/08/27(火)23:53:06 No.618235446

イチャイチャを見せつけられるフランシュシュの気持ちにもなれ！

8 19/08/27(火)23:53:24 No.618235541

本当かー？本当に能力かー？

9 19/08/27(火)23:54:29 No.618235877

。

10 19/08/27(火)23:55:07 No.618236046

能力だと思い込む幸太郎はんは可愛らしいでありんすな…

11 19/08/27(火)23:58:09 No.618236869

>わかりました、あなたの言う通りにします――と。 >それ以来、彼女は人が変わったように前向きになり、パフォーマンスも見違えて良くなった。 乾さんはさあ…

12 19/08/27(火)23:58:54 No.618237065

忌まわしき能力を持った左手が疼くんじゃい…

13 19/08/27(火)23:59:04 No.618237110

コイツもしや滅茶苦茶最低なのでは？

14 19/08/27(火)23:59:08 No.618237137

また詩織はんが礎になっておりんすぞー！

15 19/08/27(火)23:59:08 No.618237138

詩織ちゃんも愛ちゃんもやーらしかすぎる…

16 19/08/27(火)23:59:39 No.618237291

タツミかっけー！

17 19/08/28(水)00:02:18 No.618238024

新旧アイアンフリルがダメ男の毒牙にかかっておる…

18 19/08/28(水)00:04:47 No.618238656

あだばな～

19 19/08/28(水)00:05:56 No.618238995

旧アイアンフリルセンター。 新アイアンフリルセンター。