19/08/17(土)00:23:54 聖グロ... のスレッド詳細
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19/08/17(土)00:23:54 No.615275053
聖グロリアーナとの練習試合が終わり、大洗女子学園は変化の兆しを見せていた。 戦車の塗装を落とし、旗差しものをやめ、 なにより、「勝ちたい」という気持ちを持って練習に打ち込むようになった。 特にその傾向が強かったのは、試合で誰よりも悔いを残したウサギさんチームの面々である。 カバさんチームのように戦車の知識があるわけでもなく、 アヒルさんチームのように練習慣れしているわけでもなく、 カメさんチームのように強い使命感を持っているわけでもない。 だが、あの日西住みほに誓った言葉は、彼女たちの毎日を強く突き動かしていた。 通信の勉強。操縦の勉強。射撃の勉強。装填トレーニング。 各々が自身の役割を意識し、全体練習のない時間に鍛えてゆく。 そんな戦いの日々の中、車長・澤梓はひとり二年生の教室に来ていた。
1 19/08/17(土)00:24:12 No.615275166
「西住隊長!」 「は、はいっ!」 お昼休み、教室前の廊下にて。 びしりと両つま先を合わせた直立不動の姿勢で、澤梓は西住みほへ叫ぶ。 みほはその様子にかつての黒森峰時代を思い出しながら、怯えつつ返事をした。 「車長の練習方法を、教えてください!」 「しゃ、しゃちょうの……」 隊長と呼ばれるのもどうにも慣れず、みほは梓の言葉を繰り返し意味を反芻しようとする。 だがその前に、みほには梓のすっかり緊張しきった様子が少し気になった。
2 19/08/17(土)00:24:27 No.615275242
「……澤さん、そんなにぴしっとしなくても大丈夫だよ。前みたいに話してほしいな」 「そうですか? えっと、それじゃあ……」 みほに言われ梓はぎこちなく足を肩幅くらいに開く。 まだちょっと堅いけど……と思いつつ、みほは彼女の言葉をもう一度頭の中で繰り返した。 「えっと、車長の練習……だっけ」 「はい! 桂里奈やあゆみ……えっと、操縦手の子と砲手の子なんですけど、 二人は、撃ったり動かしたりするための練習をすればいいですよね。 私もチームのために何かしたいんですけど、 車長って、正直何をすればいいのかよく分からなくって……」 梓の悩んだ様子に、みほはなるほどと頷く。
3 19/08/17(土)00:24:43 No.615275328
「確かに難しいよね。未経験からいきなり車長になったなら、なおさらだよ」 「でも、西住隊長も車長ですよね。普段、どんな練習をしているんですか?」 「あんまり特別なことはしてないけど……」 指先を顎に当てて、少し思案。 車長の役割は、状況判断と指示出し。 どちらも個人練習で身に付けることは難しい資質である。 「それじゃあ、ちょっとだけお話しよっか」 みほの言葉に、梓は憧れと喜びの混じったいい笑顔で答えた。
4 19/08/17(土)00:25:04 No.615275416
◆ 「まず車長が必ず覚えるのは、自分の戦車の情報かな。 装甲の厚さ、砲撃の貫通力は、分からないと指示が出来ないからね。 それから操縦、砲撃、無線、装填についての知識も必要。 ……言っちゃえば、他のみんなの仕事は全部覚えておく、くらいが理想かな」 みほは自家製の戦車ノートを紐解きつつ、梓を椅子に座らせて簡単な講座を行う。 追い出されたとはいえ、戦車道名家の子である。 可愛い下級生に基礎を教えることは、それほど苦でもない。 車長が何を勉強すればいいかと言えば、「全て」である。 この砲で相手の装甲を抜けるか、自分の戦車は沼地や悪路を走破出来るか、 そういった判断の全てを下すがゆえに、車長は誰よりも自身の戦車に詳しくならねばならない。 「だから、ちょっと大変かもしれないけど……」
5 19/08/17(土)00:25:17 No.615275483
「いえ、すごくやり甲斐があります! それに今言ったこと、西住隊長は全部覚えているんですよね」 「うん、まあ。でも私は小さい頃からやってたし……」 「だったら、私も自分の戦車のことくらい覚えないと! それに、多分こういうことは私がやらないと。 ……あやもあゆみも、勉強は苦手だから」 「あはは……」 日々の苦労がしのばれるような言い草に、みほは苦笑いを浮かべる。 梓はさっそくノートを取り出しあれこれとメモを始める。 会話は途切れ、みほは頬杖をつきつつ無意識に梓の指先を目で追っていた。 思えば、みほにとって初めての後輩である。 中学戦車道はもっぱら自宅で門下生を相手に行われるものばかりだったし、 黒森峰女学園では――後輩が出来る前に転校した。
6 19/08/17(土)00:25:29 No.615275533
自分より一回り小さな体で、車長を務めるための努力を懸命に行おうとする梓。 その姿はみほにとって微笑ましく、また好ましいものである。 だがそんな感情を感じるとともに、ちくりとみほの胸に引っかかるものがあった。 「……ねえ、澤さん」 「なんですか?」 シャープペンシルを止めて顔を上げる梓。 みほは言うか、言うまいか、やっぱり言うかを繰り返したのち、 梓の怪訝な目に負けたように、ゆっくりと切りだした。 「私なんかが教えて、大丈夫なのかな」
7 19/08/17(土)00:25:42 No.615275607
思えば、それは初めからずっとみほの心にあった悩みだった。 確かに経験はあるかもしれないが、自分より戦車道の上手い人間なんて世界にはごまんといる。 姉ほどの実力があるわけでもなく、ましてみほは黒森峰の連覇を止めて家を出た身である。 「正しくないこと」をして戦車道から離れた自分が、どうして「正しいこと」を教えられるだろうか。 そんな不安は、隊長を任されてからずっとみほの心に残り続けていた。 「聖グロリアーナとの試合も負けちゃったし、本当に私、みんなのためになってるのかなって……」 一年生の後輩に言うべき事でないというのは分かっている。 みほは曖昧に笑みを浮かべて誤魔化そうとしたが、それよりも先に梓が口を開いた。 「西住先輩。私、西住先輩が隊長でよかったと思ってます」 「え?」
8 19/08/17(土)00:25:54 No.615275675
きょとんとするみほに、梓はペンを止めて言葉を続ける。 「あの紅茶の隊長さんとか、そりゃあ、世の中には先輩より戦車が上手な人だっているかもしれません。 でも私、練習試合を見て、もっと戦車道を知りたい、先輩から教わりたいって思ったんです。だって……」 梓はあの日の試合を思い出すように目を細め、それから試合の興奮を再び思い出すように身を乗り出した。 「あの日の先輩、すっごく、格好良かったから!」 花の咲くような曇りない笑み。 みほの身体の中を、春風のように爽やかな匂いが駆けていく。
9 19/08/17(土)00:26:08 No.615275758
「……そっか」 みほは自分に聞かせるように、静かに呟く。 少しだけ気恥ずかしそうに指先をいじりながら、抑えきれない笑みを隠すように顔をそむけた。 そっか。 こんな私を、格好いいって、言ってくれるんだ。 心に刺さった小さな棘が、ふっと軽くなるのを感じる。 みほは脇のカバンに手をかけ、一冊のノートを取り出た。
10 19/08/17(土)00:26:26 No.615275855
「これ、大洗の戦車データをまとめてみたんだ。 まだ作成中だけど、よかったら参考にしてほしいな」 「わあ……! ありがとうございます、先輩!」 目を輝かせて、梓はノートを手に取りさっそく自分たちの戦車を探し始める。 その様子を眺めながら、みほは心が優しい色の何かで満ちていくのを感じていた。 自分の思う戦車道が正しいかどうかなんて、まだ分からない。 だけどせめて、今の自分を認めてくれる人たちには、自分の出来る限りをしてあげたい。 西住みほ、高校二年生。 先輩として、隊長として、目覚め始めたばかりの春先のことだった。
11 19/08/17(土)00:26:43 No.615275926
終わり 澤みほいいよね…
12 19/08/17(土)00:28:19 No.615276374
いい…
13 19/08/17(土)00:30:38 No.615277027
尊い
14 19/08/17(土)00:31:08 No.615277188
清らかで爽やかだ…
15 19/08/17(土)00:33:13 No.615277742
いいであります…
16 19/08/17(土)00:35:42 No.615278530
ストレートに良い…
17 19/08/17(土)00:42:05 No.615280485
最終章のその先いいですよね
18 19/08/17(土)00:44:24 No.615281142
あの日澤梓が出会った「格好いい人」いい…
19 19/08/17(土)00:48:16 No.615282272
>最終章のその先いいですよね 時系列どこか分かんないけど記念杯の布陣いいよね…
20 19/08/17(土)00:53:06 No.615283641
みほと澤さんの関係は大洗の戦車道を考えるとなくてはならない関係だと思うんです、みほが見つけて歩んでいるのは文字通りの「道」である訳ですが澤さんはそのみほの道を失敗しながらも自分なりに頑張って着いて行こうとする…みほはそんな澤さんを見て彼女が進もうとする道の道標になるという…とてもいい関係だと思うんです、最終章を見てもウサギさんチームは成長甚だしいですよね、まあたまには失敗なのかわざとなのか盛大に道から外れますが(笑) でもそこが彼女達の伸びしろであり可能性だと思います、もしかしたら黒森峰に負けてしまって、そこからみほと澤さんの新しい大洗の戦車道が生まれるかもしれません、最終章ではその辺りも描かれてると嬉しいな…と 桃ちゃんは優勝しなくてもなんとかなりますよ(笑)
21 19/08/17(土)00:54:51 No.615284159
渕神様 ステイ
22 19/08/17(土)00:55:18 No.615284286
渕 ス !!
23 19/08/17(土)00:57:19 No.615284809
渕上さんはさあ…
24 19/08/17(土)00:57:29 No.615284849
でも最終章のぴょこんってキューポラに登る澤さんは確実に影響受けてるよね‥
25 19/08/17(土)00:57:30 No.615284851
それほど長い話ではないけれど情景を思い浮かべながらじっくり読みたいと思える作品だと思ひます
26 19/08/17(土)01:01:26 No.615285745
>「聖グロリアーナとの試合も負けちゃったし、本当に私、みんなのためになってるのかなって……」 って言ってた子が 「ヤークト、西住隊長のとこ絶対向かわせちゃいけない!ここで殺そう!」 になって 「無人ミフネ爆弾作戦、いきます!」になっていく
27 19/08/17(土)01:02:09 No.615285911
それみぽりんのセリフや
28 19/08/17(土)01:03:13 No.615286140
言ってない!!
29 19/08/17(土)01:04:16 No.615286360
やはり澤みほは至高…
30 19/08/17(土)01:06:39 No.615286895
>やはりまほチョビは至高…
31 19/08/17(土)01:06:45 No.615286917
澤ちゃんの西住隊長と西住先輩を使い分けてるのがなんかいいんだ…
32 19/08/17(土)01:10:35 No.615287827
自信を失ってつい思い詰めて >「正しくないこと」をして戦車道から離れた自分が、どうして「正しいこと」を教えられるだろうか となっていたみぽりんが 自分の戦車道に自信を持てなくて慕い、頼ってきた後輩の >「西住先輩。私、西住先輩が隊長でよかったと思ってます」 で救われる…というのがとてもいいべさ お互いが必要としている何かを無意識のうちにお互い補っているという
33 19/08/17(土)01:12:56 No.615288398
>澤ちゃんの西住隊長と西住先輩を使い分けてるのがなんかいいんだ… みぽりんもこの後、澤さんと梓さんを使い分けるようになるんだ…
34 19/08/17(土)01:15:50 No.615289098
実際本編中でも澤ちゃん西住先輩と西住隊長を使い分けてるからね みぽりんも試合中は澤さんで日常は梓ちゃんとかになるとかだといいよね…
35 19/08/17(土)01:17:21 No.615289482
黒森峰の校風とか西住の立場とか考えると こんな風に気軽に戦車のこと教えあったりとかも実はしてなかったのかな…
36 19/08/17(土)01:18:43 No.615289830
>お互いが必要としている何かを無意識のうちにお互い補っているという 長女だから自分を引っ張ったりする姉が欲しい梓ちゃんと 次女でお姉ちゃんへの憧れから妹が欲しいみぽりんって 綺麗に噛み合ってるよね
37 19/08/17(土)01:19:43 No.615290073
>みぽりんも試合中は澤さんで日常は梓ちゃんとかになるとかだといいよね… 読もう!アンソロの「お姉ちゃんって呼んで!梓さん」→「み…みほお姉ちゃん隊長」
38 19/08/17(土)01:20:46 No.615290279
>読もう!アンソロの「お姉ちゃんって呼んで!梓さん」→「み…みほお姉ちゃん隊長」 どのアンソロだい!? 和姦無いからとりあえず戦車道のススメ買うけどそれでいいかな!?
39 19/08/17(土)01:20:57 No.615290320
澤ちゃんとみぽりんのこと語り出すと1時間じゃ足りねぇ