ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
19/08/03(土)23:58:42 No.611814927
「「はい!サボテン!」」 愛の膝上に俺の足を置き、その状態から更に膝を支えてもらう。 後は俺が胸を張って前を向く。 すると夜中、屋敷の庭に完璧なサボテンが出来た。 学校の授業でやる組体操。 俺たちでその代表的な物の一つである、"サボテン"を組んだ。 本当に、長かった。愛のなんか絶妙に当てにならない知識を頼りにしていた練習が本当に長かった。 …そして出来た。ここまで来るのに四時間はかかった。 努力が実ったのだが、当然疑問も浮かぶ。 「なぁ、愛」 「ふんぎぎぎぎ!何!?」 うわっ…アイドルがして良い顔じゃないんだけど… 「なんで俺が上なんじゃい」 どう考えてもおかしいのだ。俺が下じゃないという事が。 「アンタが上じゃないと、意味無いじゃない!!」
1 19/08/03(土)23:58:52 No.611814975
「…?どういう意味だ」 「むぎぎぎぎ!」 歯を剥き出しにして食いしばる愛を見ていられなくて、目を逸らす。 逸らした先に愛の手が見える。 緑色の手。 …緑?青じゃなくて?緑? 「愛。その手なんだ」 「ゴム手袋!」 「なんでそんなもんつけとんじゃい」 「私も感電しちゃうじゃない!!!」 感電? 屋敷の庭。組体操。俺が上じゃないと意味が無い。感電。
2 19/08/03(土)23:59:06 No.611815028
愛の方へ体を捩じり、頭を力の限り引っ叩く。 当然、支えるのに集中していた愛の力も緩み、愛の上に倒れ込んだ。 「ぐえっ!こ、殺す気!?」 「こっちのセリフじゃボケェ!」 睨みつけて来る愛を迎え撃つように、俺も睨みつける。 「お、おまっ!なぁーに人に雷落とそうとしとんじゃボケェ!!」 「はぁ!?良いじゃない!?別に!」 「何が良いと思ったの!?ねぇ!?なにがぁ!?」 「何キレてんのよ!」 「どう考えてもこっちの台詞じゃろがい!!なんで俺にキレとんだお前は!」 とんでもねぇ事考えおってからにコイツ… 「組体操で人を避雷針にするとか愛お前…どう生きてたらそんなん考え付くんじゃい…」 「もう死んでるじゃない」 「お前次そんなしょうもないジョーク言ったらまた引っ叩くからな」
3 19/08/03(土)23:59:18 No.611815083
溜め息を吐いて、大の字に寝転がる。 ここまで必死こいて頑張った結果が、避雷針にされかけたのと愛のとんでもない顔の二つって… 「アホらし…」 「なぁなんでお前が俺より先にそれ言えるの?ねぇ?なんで?俺なんかした?」 俺の顔の隣に体育座りで座り込んだ愛。 さっきまでの調子は何処へやら。心底つまんなそうな顔を浮かべている。 「…明日さ」 「私の…あの日じゃない?」 「…おう」 決して、忘れる事などあるものか。忘れた時などあるものか。 「それでさ、どうにかして乗り越えられないかしらって」
4 19/08/03(土)23:59:31 No.611815144
「乗り越える?」 疑問を声に出すと、返って来る強気な笑顔。 「私はそんなのじゃもう屈したりしないって、どっかのバカに見せつけてやりたかったの」 「…なんで俺を見るんだ」 「べっつにー?」 ニヤニヤとした笑みに変わった愛から逃げるように、視線を逸らす。 「…さっきまであんな顔しとったくせに、よくもまぁそんなコロコロ表情変わるな」 「…」 今度は黙りこくる。何かを言いたげに、赤い瞳が俺を見つめる。 「アンタはさ」 「私の事、わかってるの?」
5 19/08/03(土)23:59:41 No.611815198
「…アイアンフリル不動のセンター。アイドル齧っていれば誰でも知ってる」 やれやれといった首振りと共に溜め息が返って来た。 「違うわよバカ」 「…じゃあなんだ。プロフィールでも語れば良いのか?スリーサイすいませんでしたこの通りです」 拳を振り上げる暴虐の女王に平謝り。 だが、結局何が言いたいのかが全くわからない。 「はぁー…アンタはさ」 「アイドルの水野愛しか知らないじゃない」 「水野愛をわかってるの?」 「………」 …言われてみれば、確かにそうだ。 俺は、アイアンフリルであり伝説の平成のアイドルとしての愛しか知らない。 故に、こうして振り回されるのだ。
6 19/08/03(土)23:59:53 No.611815248
物思いに耽っていると、愛はまた笑顔を浮かべる。 「ちょうど良い機会ね!」 「…?」 何が良い機会なのかが、全然わからない。 「私は私で話すから」 「アンタはアンタで話してよ」 「………それは、どういう意味だ」 「はぁ?わかってる癖に聞かないでよ」 俺の表情を見てダメだなこいつ…という声が聞こえてきそうな程呆れた顔に変わる。 言われた通りだ。わかっている。 …わかっているが、それは。 「俺に、そんなモノは無い」 「これだけしか言ってないのにそう言ってる時点であるじゃない」
7 19/08/04(日)00:00:03 No.611815301
「…なんでいきなり頭が良くなるんだ」 「舐めないでよね!伝説!」 胸を張ってむふーっ!と一息。 伝説ってお前さっきアイドルじゃない水野愛って…まぁ、いいや。 「ダメだ」 「なんでよ!」 「見せたくない」 「私は見せたじゃない!変な顔とか!」 「え?お前あれ素なの?」 ベシベシと腹を叩かれる。痛い。 「………はぁ。わかった」 ベシベシ。 「わかった!」 ベシベシ。 「わかった言っとんじゃろがいボケェ!!!」
8 19/08/04(日)00:00:13 No.611815350
勢い良く起き上がり、愛に背を向ける。 自らの顔へ。かつての自らを覆い隠す仮面へ手を伸ばす。 「…」 …果たして俺は、掴んで良いのだろうか? これを身にする決意をした時、俺は何が何でも彼女を報われさせてみせると誓った。 その決意は何時の間にか変わり、彼女達を報われさせてみせるという誓いに。 このサングラスは、その証明だ。 ならばこれを取るという事は、この誓いに陰りがうま 「チンタラしてないで早くしなさいよ」 「空気!空気読んで!」 あぁもう全部滅茶苦茶じゃないか。 …だがまぁ、そうだな。怯えは無くなったな。 サングラスを取って、仕舞いこんだ。
9 19/08/04(日)00:00:26 No.611815402
「見せなさい!」 「嫌だ」 俺の前に回りこもうとする愛から逃げるように、体をその場で回転させて逃げる。 「くぅっ………絶対諦めないから!動体視力良いから一瞬でも隙見せたら容赦しないわよ!」 「そうか」 座り込む俺の背にくっつくように愛も座る。 二人体育座りの背中合わせ。 これなら、幾ら動体視力が良くても顔を見られる事は無いだろう。 「それで、何を話すんだ」 「………何話しましょうか」 「無計画か」 「私失敗とか後悔だとかを悪い事だと」 「やめろ、俺の憧れを汚すな」
10 19/08/04(日)00:00:46 No.611815505
「…え?ふーん。へぇ~」 「なんだ」 「アンタ、私に憧れとか持ってたんだ~」 見えはしない。だが、ニヤニヤした笑顔を浮かべている愛が脳裏に浮かぶ。 「そりゃあな。あの時の愛は、本当に眩しかった」 「…そ、そう。まぁ、当然よね」 俺の肩越しに花が落ちてくる。というか肩を軽く揺すると凄まじい量の花が落ちてくる。 「あの頃の俺はそれこそ、なんだか毎日つまらなくてな。過ごしている筈のこの世界が色褪せて見えてたよ」 「でも、ある人に出会って全て変わったんだ」 「それでな、その人が好きなアイドルが愛だったんだ」 「へ、へぇ~…うん?」 「ねぇちょっと」 「どうした」 「その人が好きなアイドルが私だったから、私に憧れたんじゃないわよね」
11 19/08/04(日)00:01:03 No.611815605
「…愛」 「なによ」 「違う話、しようか」 「ちょっと!?」 なんなの!?まったく!?どやんす!?と、俺を責める声が背後から聞こえてくる。 「…そうだな」 「愛は本当に綺麗で輝いていた。きっと機会が無くても、俺は憧れを抱いていたと思う」 肩に再度降りかかる花。なんなんだろうな、これ。 「………ねぇ」 「なんだ」 「違う話、しましょっか」 「…わかった」
12 19/08/04(日)00:01:13 No.611815651
「そうね…水野愛の好きな物。知りたくない?」 「肉」 「…なんで…わかったの…?」 「えぇ…」 「じゃ、じゃあ!嫌いな物とか!」 「炭水化物」 「嘘…」 「本気で言ってるのかそれ」 「…私の、趣味…とか」 「アイドル研究」 「…ズルい」 「私の事だけわかってて、ズルい!」 「いやわかり易すぎるだけだろう」
13 19/08/04(日)00:01:34 No.611815768
ズ~ル~い~と駄々を捏ね始める愛に、溜め息。 「なら、俺の事も聞けばいいだろう」 「じゃあ、好きな物は?」 「佐賀」 「変わって無いじゃない!」 ズ~ル~い~。ズ~ル~い~。 あの日の俺の憧れ。ほんとにこんなんだったのかぁ… 「…じゃあさ」 「あぁ」 「…その、別に、私がどうとかいう訳じゃないけど」 「…アンタの好みのタイプ…とか」 「フランシュシュの面々」 「ズ~ル~い~!」
14 19/08/04(日)00:01:50 No.611815862
騒ぎ続ける愛に、俺の言葉はもう届かない。 だから、愛は気付いていないのだろう。 「愛」 「もぉ~~~!ああ言えばこう言うんだから~!」 「愛」 「なによ!」 「日付回ったぞ」 途端に静かになった。俺の背にかけられる重みが強くなる。 「怖がる必要は無い」 「…だ、誰が、怖がってなんか」 愛の気丈な声。だが、体は僅かであるが震えている。 「今の俺は持ってない」 「だが、こんな俺でも愛の側に居る事はできる」
15 19/08/04(日)00:02:05 No.611815938
「…違う」 「違うのよ」 いつもの愛だ。ハッキリとした、迷い無き声。 だがそれとは対照的に、俺は困惑に呑まれる。 「どういう、意味なんだ」 「アンタも持ってる」 「そもそも私とこんな状況で二人っきりよ?あの水野愛と」 「十年前なら一体どれだけの人が悔しがったでしょうね?」 「…それは、俺が」 「俺自身のエゴで、愛達を」 言葉を遮るように、触れ合っていた背中が離れた。 後ろから伸びる腕が、俺の腕に重なるように膝ごと俺を抱える。 「正直ね、私」 「アンタの方が、好きよ」
16 19/08/04(日)00:02:33 No.611816065
心臓が破裂しそうだ。高鳴る胸が止められない。 あの頃の俺そのままなんだ。水野愛からこんな事を言われて、嬉しくない訳なんてなかったんだ。 「…すまない」 「…?」 「一つ、嘘を吐いたんだ」 「水野愛はさ、憧れなんかじゃなかったんだ」 「…な、なんなの…?」 意識せずとも笑いが零れた。 「俺の、初恋だったんだよ」 うなじの辺りにカサカサした感触が溢れる。後ろ見たら花畑出来てそうだなこれ。
17 19/08/04(日)00:02:54 No.611816163
「ねぇ」 「なんだ」 「アンタの事、幸太郎って呼んで良い?」 「好きにすれば良いさ」 「…そっ」 俺を抱きしめる腕が離れる。 ………俺の前に回りこんで来た事で、視界に愛が入る。 「…やっぱり、カッコいい顔してるじゃない。幸太郎」 「…ありがとな」 「幸太郎」 あの日テレビ越しに見た笑顔。いつ見ても、見惚れる笑顔。 「また、絶対会いましょうね」 「………」 「俺も、会いたい」 そんな笑顔に釣られて、俺も笑った。
18 19/08/04(日)00:04:16 [sage] No.611816544
あの日を二人で迎えるところを書きたかったでありんす 書いたでありんす
19 19/08/04(日)00:04:44 No.611816690
やや、明日は愛ちゃんデーだな?
20 19/08/04(日)00:12:49 No.611819118
8/4が嫌な日じゃなくなるんだ・・・二人の記念日になるんだ・・・
21 19/08/04(日)00:14:46 No.611819674
よか…
22 19/08/04(日)00:15:03 No.611819741
愛ちゃんデー!
23 19/08/04(日)00:16:52 No.611820297
四時間もなにしてん…
24 19/08/04(日)00:18:26 No.611820762
抱きなんし!
25 19/08/04(日)00:19:19 No.611821047
同級生の距離感エモかー!
26 19/08/04(日)00:19:22 No.611821062
>そんな笑顔に釣られて、俺も笑った。 序盤にすごい顔してたと思えない綺麗な締めだな…
27 19/08/04(日)00:21:58 No.611821811
大作でありんす!
28 19/08/04(日)00:22:25 No.611821955
一緒にアホやってるところがまたいい…
29 19/08/04(日)00:24:00 No.611822368
途中の寄り道会話が仲良しって感じでいい
30 19/08/04(日)00:24:36 No.611822587
あんな馬鹿なやりとりして綺麗な締めしやがったな!
31 19/08/04(日)00:24:46 No.611822640
巽も愛ちゃんに釣られてかどんどん素で出てくる感じがよか…
32 19/08/04(日)00:25:22 No.611822802
愛ちゃんフェスは始まったばかりでありんす!
33 19/08/04(日)00:27:50 No.611823445
この雰囲気大好き
34 19/08/04(日)00:30:14 No.611824078
いい愛幸描くね 大好物です
35 19/08/04(日)00:30:38 No.611824178
はよ抱きなんし!