ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
19/07/20(土)23:56:09 No.608214825
民宿の軒に笹を括り付け、皆が、思い思いに短冊を括り付ける。あっという間に彩られる笹。私たちは、大遅刻の七夕を催していた。私も今夜やると聞いたときはなぜ今更なのだろう、とも思ったが、彼女が関わっていると聞いたら、納得してしまった。 「いや~、カルデアでは七夕とかやらんし、だったらやるのも悪くないじゃろ。というかわし抜きで夏を楽しんでおったとかちょっと許せんし」 そう、ノブナガ。彼女が発案者だと聞いたら納得するしかなかった。同時に、断れないことも察してしまった。彼女も同じ民宿に泊まっているのだから、何があっても巻き込まれるだろうと。 そういうわけで今頃七夕祭りをすることになった。ただ、祭りと言っても大掛かりなものではない。短冊を吊るして、料理を食べて、余興をやって。一種のホームパーティーのような規模でやるらしい。
1 19/07/20(土)23:56:52 No.608215108
参加者は民宿にいる人たち全員。昼間から、あるいは前日から私たちはその準備に駆り出された。リツカやモリ君たちは山から笹を切り出しに。私はメイドのアルトリアさんやリリィと一緒に料理を作る。ベにエンマ先生から学んだことを早速生かす機会だった。ほかの人たちは、余興の出し物に集中している。……ノブナガも余興をやるらしい。「ものすごいど派手なことをするから、楽しみにしておくのじゃぞ!」と言われては、期待よりも不安のほうが大きい私とリツカだった。 でも、意外なことに、と言っては失礼かもしれないけど、準備は思ったよりも順調に進んだ。彼女が関わったら、何か面倒ごとが起きてぐだぐだになる印象があったから。でも、そんなことはなかったみたい。まあ、毎度毎度そんな騒ぎを起こされてはたまらないのだけど。
2 19/07/20(土)23:57:18 No.608215283
そうして夜を迎え、お祭りが始まった。まずは、ということで短冊を吊るすことから始める。皆、それぞれ願い事を書いてきたようだ。どんなことを書いてきたのか気になるけど、勝手に読んでしまっては失礼だろう。私も笹に短冊を括り付ける。隣では、リツカも結び付けようとしていた。高いところに結ぼうとして、なかなかうまくできないようだった。 「もう、そんな上に結ぼうとしなくても。違いはないでしょう?」 「う~ん、だけど上の方が願いが叶いそうな気がするんだよね。よくわからないけどさ」 「くすくす。もう、なにそれ」 そんなに叶えたい願いがあるのかしら。私はリツカが何を書いたか、気になってしまった。 「ねえ、リツカは短冊に何を書いたの?」 「ええ?なんか自分のだけ知られるのは恥ずかしいな。じゃあそういうアナスタシアは?」 「ナイショよ。私だって口に出してしまうのは少し恥ずかしいもの」 「それならさ、二人で同時に見せ合わない?」 「ええ、それならいいわ」 この短冊を見たら、彼は一体なんて言うんだろう。驚いてくれるだろうか。それとも、喜んでくれるだろうか。
3 19/07/20(土)23:58:07 No.608215531
「じゃあ、いっせーのーで!」 その彼の掛け声と同時に私は短冊を見せて、そしてリツカの書いた短冊を見る。……そして、二人一緒に笑い出した。 私たちが書いた短冊には―――― 『リツカの願い事が叶いますように』 『アナスタシアの願いが叶いますように』 ――――同じことが書いてあったから。 「いや、まさか。おんなじことを書いてるなんてね」 「ふふっ、そうね。それにこれじゃ、叶ってもあまり意味ないもの」 「それもそうだ。じゃあさ、もう一つ何か書こうか」 「あら。二つ以上お願い事をするなんて、欲張りさんね」 「少しぐらいは欲張ってもいいんじゃないかな」 「それもそうね」 そう言って私たちは短冊に新たな願い事を書きに縁側に戻ろうとしたが――
4 19/07/20(土)23:58:11 No.608215549
見境い無いなあ
5 19/07/20(土)23:58:30 No.608215644
「おう、マスターにロシアの皇女ではないか!なあなあ、そなたら一体何を書いたんじゃ?」 ――――まおう が あらわれた。 「おん?まだ吊るしておらんのか。仕方ないのう。わしが代わりに吊るしといてやろう」 そう言って私たちの手からするりと短冊を抜き取る。なんという手業だろう。私もイタズラの時は今の技術を真似したい。……いえ、今はそうではなく。 「さてさて~。マスターは一体何を書いたんかのう。おっ、皇女の願いが叶うように、じゃて?しかもよく見たら皇女の短冊にはマスターの願いが叶うようにと書いておるではないか!うっはっはっは、お熱いのう!」 声に出して読み上げられると流石に恥ずかしい。勘弁してほしかった。 「しかしまあ、お互いがお互いのことを書いとるとか。カップルかってーの」 「いや、まあ。うん、アナスタシアは俺の大切な恋人だよ」 「リツカ……。私も、貴方のことを愛しているわ……♡」 「そっかそっかー。恋人で愛し合っとったかー。…………マジで?」
6 19/07/20(土)23:58:54 No.608215757
リツカが私を恋人と言ってくれて嬉しかった。彼からの愛はいつも感じているけど、ほかの人に向けて私を恋人だと言ってくれることはあまりなかった。だけど、こうして改めて言われると、私は確かにリツカの恋人だと、その愛とともに実感できるから。 「アナスタシア……」 「リツカ……♡」 「なあおい、なんでこいつら急に二人の世界に入っとるんじゃ。ねえ、皆もなにその視線。余計なことしやがってって言わんばかりの。え、なに?もしかしてマスターと皇女が付き合っとるの知らんかったの、わしだけ?…………で、あるか」
7 19/07/20(土)23:59:22 No.608215911
あっという間に時間は過ぎて、七夕祭りはお開きとなった。余興ではモリ君が見事な書をしたため、メルトリリスが月の下で惚れ惚れするほど美しいワルツを舞った。ノブナガはアツモリ、という良く分からない踊りを踊っていた。直前がメルトリリスの美しい踊りだったため、まあ、その、……コメントは控える。しかし、踊りの途中で突然、闖入者が現れた。…………本物のノブナガだった。なぜかノブナガとノブナガのダンスバトルが始まっていた。そのまま終わりを迎えるまで微妙な空気が続いた。なぜかモリ君は大笑いしていたけど。 そんなことがあっても、無事に七夕は終わった。……よく知らないけど、あれは七夕祭りと言っていいのかしら。 そして時刻はすでに真夜中。遅くまでお祭り騒ぎをしていたからか、民宿の皆はすでに寝静まったようだ。 「アナスタシア、そろそろ行こうか」 「ええ、もう大丈夫でしょう」
8 19/07/20(土)23:59:49 No.608216028
けれど私たちは起きていて、今から外出しようとしている。他の人たちに気づかれないように、夜遅くまで待ってから。七夕祭りの最中にリツカが声をかけてくれた。あとで二人っきりで星を見に行こうって。だから、邪魔されないように民宿が静かになるまで待った。 私たちは静かに民宿を抜け出すと、少し離れた場所にある、小高い丘を目指した。荷物なんてほとんどない。寝転がるためのシートや枕。その程度だった。私もリツカも、天体観測が趣味というわけではないから、望遠鏡なんて持ってもいないし。 丘を登り、誰もいない緑の上で、私たちは並んで横になる。目に飛び込んでくるのは、満天の星々。夜を彩る鮮やかな光たちだった。まるで星が振り出しそうなその屋空があまりにも綺麗で、私たちは言葉を失ってしまう。自然の圧倒的な美しさに飲まれてしまっていた。 しばらくぼうっと星を眺めていると、不意にリツカが星を指さしていった。 「あれがデネブ。アルタイル。ベガ」 「あら?意外と詳しいのね」 「夏の大三角だけだよ。それに、ベガは織姫で、アルタイルは彦星だから」
9 19/07/21(日)00:00:16 No.608216194
「そうだったのね。じゃあ、私の彦星様はここかしら」 そういって私はリツカの腕に抱きつく。リツカはそれに合わせて、私を抱き寄せてくる。貴方の隣。それが私の定位置だった。 「じゃあ、アナスタシアが俺の織姫さま?」 「ふふっ。冗談よ。私は織姫様じゃないし、貴方も彦星様ではないもの」 「そうなの?」 「ええ。織姫と彦星は恋人同士だけど、天の川に間を引き裂かれてしまったのでしょう?私はそうはならないわ。たとえ何があっても私は貴方の隣にいる。ここが私の定位置だから」 強く彼にしがみ付く。会えるのが年に一日だけなんて耐えられない。繋いだ手を離したくはない。彼も抱き寄せる力を強める。二人とも、何があろうとも繋がっていようとした。 そうしてどれくらい時間がたっただろうか。正確な時間はわからないけど、もうそろそろ民宿に戻ったほうがいいだろう。 「ねえリツカ、そろそろ戻りましょう。……リツカ?」 しかし、彼からの返事はない。そちら側を向いてみると、いつの間にか眠ってしまっていたのか、穏やかな寝顔をしている。 「ふふ……。もう、しょうがないんだから……」
10 19/07/21(日)00:00:33 No.608216291
私は彼の隣から抜け出すと、膝枕をしてあげる。髪をなでると、くすぐったそうに身じろぎをした。ふふ、可愛い。 リツカも疲れているんだろう。私とデートをしたり、モリ君やジークさんと遊びに出かけたり、この特異点の謎を暴くためにあちこちを巡ったり。だからこの時ぐらいはゆっくり休ませてあげないと。 「~~♪~~~♪」 私は子守唄代わりに鼻歌を口ずさむ。曲は『きらきらぼし』。満天の星空の下にふさわしい曲だと思った。 きらきらひかる、おそらのほしよ。まばたきしては、わたくしたちをみてる。今だけは、私たちを見ている。
11 19/07/21(日)00:00:44 No.608216344
俺とアナスタシアだけの、二人だけの思い出。それはきっと煌めく星よりも輝かしいもの。 備考: 次の日、ノッブが庭先を掃除させられていた。なんでも、敦盛の演出で爆発を起こしたのが民宿を営むオルタ二人の怒りに触れたらしい。自業自得だろう。
12 19/07/21(日)00:01:09 No.608216491
よし、今日は短いな!(感覚麻痺)
13 19/07/21(日)00:02:55 No.608217060
もうED後のFD過ぎる……
14 19/07/21(日)00:07:24 No.608218597
何かスルーされてるけどノッブえらい事になってません…?
15 19/07/21(日)00:27:05 No.608225471
一昨日、昨日と安易な微エロやコメディに逃げてしまったから反省 もっときれいなプラトニック純愛が書けるようになりたい