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19/03/18(月)23:53:39 No.577232408
皆は10年前のクラスメイトって覚えとる?私にとってはすぐこの前の事やけん、もちろん覚えてる。 だから記憶を取り戻してまず、私たちのプロデューサー、幸太郎さんが私のクラスメイトじゃないかな?と疑い始めた。 記憶喪失のあの時の会話で私の不幸を知っとる人って感じがしたし、それに記憶の中のクラスメイトに少し面影のある男子がいた。 どやんしたら確かめることができるのか、ゾンビィになった頭を振り絞って考えました。 作戦その1、家探し大作戦。 「さくらも見に来るなんて珍しいわね。今日はアイツ、帰ってくるの遅いから結構ゆっくりできるわよ」 「そ、そうなんやね。いやー、がば楽しみやね!」 愛ちゃんがアイドルDVDを見に行く時に着いて行って、こっそり幸太郎さんの部屋を探る! もし私の予想通りやったら、卒アルとかあの時の写真とか、彼の名前とか、手掛かりになるものがきっとあるはず。
1 19/03/18(月)23:54:04 No.577232526
「さくらー、あった?確か11年ぐらい前の物のはずだけど」 「ちょ、ちょっと待っとってねー」 ごめんね、愛ちゃん。もう目当てのDVDは見つけてあるけん、でも私の探し物が見つかっとらん。 机の付近を見ても、本棚を見ても、あちこち探してみたけれど見つからない。 探し物に没頭しとって、気付いたら愛ちゃんは待つのに飽きたのか、アイアンフリルのDVDを見始めてしまっていた。 「ごめん、ごめんね愛ちゃん!ほら、DVDはここに…」 「アイツ、そういうの持ってないわよ」 「え?」 「卒アルとか、そういうの探してたんじゃないの?私も前にアイツの歳がわかるようなものがないか探してみた事があるのよ。同年代っぽいじゃない?」 もし同い年とか年下だったら思い切りからかうつもりやったらしい。 幸太郎さん、私より先に愛ちゃんにそれが見つからんでよかったね……。
2 19/03/18(月)23:54:22 No.577232611
ともかく、そういった物がこの屋敷にないことはわかった。 よく考えれば私が記憶を失ったのは偶然なわけで、自分がクラスメイトだなんてわかるようなものをうっかり置いといたりはせんよね。 いつもは変なところで抜けとるくせに、変なところできっちりしとるのが物凄く幸太郎さんっぽい。 作戦その2、免許証大作戦。 幸太郎さんは私たちを現場に連れていくため、車を運転している。ということは、幸太郎さんは免許を持っている。 ……ネクロマンサーがそういう法律とか気にするのかな?…うん、ここは持っとるということにしとこう。 そして、免許証は本人確認書類やから本名が書いてあるはず。 でも私が突然免許証見せてって言ったらとっても怪しかね…うーん、どやんす。 他の皆、幸太郎さんの免許証とか見た事ないかな?ちょっと聞いてみよう。
3 19/03/18(月)23:54:57 No.577232770
「たつみの?気にしたことないなー」 「すみません。私も見たことはないです…」 「そもそもそうしたものを幸太郎はんはわっちらに見せる気はないのでありんせんか?」 やっぱり。こうなったら、がばい怖かけど、あの拳銃撃ってきた警察の人に頼んでみるとか…? 「それはアタシも気になる。ちょっとグラサンに聞いてくっか」 「えっサキちゃん!?」 どやんすどやんすしていると、サキちゃんがさっと部屋から出て行ってしまった。 慌てて追いかけて、サキちゃんも幸太郎さんの本名が気になっとるのか聞いてみる。そしたらサキちゃんは私に奇妙なものを見るような目を向けてきた。 「アタシはグラサンが大型二輪持っとるか気になっとるだけやぞ」 「えぇ………」
4 19/03/18(月)23:55:25 No.577232889
それだけなんって思ったけど、そのくらい軽い方があっさり見せてくれるかも…? サキちゃんはノックもせずにドアを開けると、机の上で書き物をしていた幸太郎さんに免許を見せろとだけ言った。 「お前らはいつから佐賀県警に就職したんじゃい。……いや、一日署長も悪くないな。今度打診してみるか…」 「グラサンはいつも仕事の事しか考えとらんな。で、免許に大型二輪はあると?」 「ああ、なるほどな」 怪訝な顔をしとった幸太郎さんやけど、サキちゃんの言葉にそういうことかって納得したみたいやった。 私にはなんでいるんだ、って顔をしてきたけど……。 「持っとらんぞ。特に運転したいと思ったこともないからな」 「はぁー!?グラサンには浪漫ってもんがなかか!?」 「そ、そう!本当はなんだかんだ言って持ってるんじゃなかですか?」
5 19/03/18(月)23:55:48 No.577232990
ここがチャンスと、サキちゃんに合わせて免許を見せろと詰め寄る。 幸太郎さんはなんじゃいその熱意は…と若干ドン引きしながら、免許証を机の上に放り出してきた。 そこに書かれとった名前は…… 『巽 幸太郎』 …。やっぱり、私の気のせいやったんかな。幸太郎さんが、乾くんだなんて。 肩を落とす私の耳に、懐かしい歌声が届いた。 ―愛と勇気で世界を変えるの がんばりましょうね― そうだ。この曲。死ぬ前に、私は乾くんに、このCDを。
6 19/03/18(月)23:56:25 No.577233153
「幸太郎さん、これ愛ちゃんの歌ですよね?」 「ああ。これから愛の新曲を書くからな。アイツの元々の曲調を知っておくのは」 「ジャケット、見せてもらってよかですか。私も愛ちゃんのファンやけん」 「さくら…?」 サキちゃんの言葉に、私は何も答えなかった。答えるだけの余裕がなかった。鼓動はとうに止まったはずなのに、息が苦しい。 じっとこちらを見つめていた幸太郎さんは、何も言わずにCDのジャケットを私に手渡した。 もし、私の思っている通りならこれには、あの時落とした傷が残っているはず。 祈るような気持ちで、ジャケットの角を見つめる。 傷は、あった。
7 19/03/18(月)23:57:21 No.577233391
「乾くん……?」 半ば確信を籠めて、私はジャケットから目の前の男性に視線を動かした。 このCDを持っているのは、彼しか思い当たる節がない。息が苦しい。でも、悪くない。このドキドキならば、いつまででも― 「誰だ、そいつは」 「……………。えっ」 けれど、幸太郎さんは狼狽えるでもなく少し眉を動かして、その返事には何の感情も乗っかっていなかった。 いや、でも。そのCDは私のもので。だから乾くんだって。 「これは中古のCDショップで見つけたものだ。ジャケットに破損があるから相場よりも安く買えてな」 その言葉に、私は打ちのめされてしまった。 乾くんが?それとも返してもらったお父さんお母さんが? どうしようもない。どうしようもないけれど、頭が真っ白になって、ただ泣いてしまいたい気持ちだった。
8 19/03/18(月)23:57:51 No.577233498
「……お前の思い出の品だったか。なら、お前が持っていろ」 そんな私の様子を知ってか知らずか、幸太郎さんはCDを再生機から取り出すとジャケットにしまってこちらに差し出した。 でも私は受け取るどころじゃなくて、思わず手が叩き落としそうになって。その手を幸太郎さんに掴まれた。 「受け取れ」 「でも……」 「…こうしてお前に渡せたのであれば、俺がショップでこのCDを見つけた意味もあるということだろう」 ぼんやりとしたまま、CDを持って突っ立っている。 ええと、ここからどやんしたらいいのかな……。幸太郎さんは乾くんじゃなくて…。 「おい、さくら。お前は俺が乾とかいう奴でないとプロデューサーとして信頼できないのか」 「そ、そんなことはないですけど…」
9 19/03/18(月)23:58:20 No.577233612
「なら別に俺が乾でなかろうがどうでもいいじゃろがい。それともお前、その乾くんとやらのファンだったんかい」 「そ、そういうわけでも……」 「じゃあ問題はどこにもナッシングじゃろがい。うじうじしとらんで、宝物が戻ってきたことを素直に喜ばんかい!!」 …そう幸太郎さんに強く言い切られてしまうと、そう思えてくるのだから私って単純かもしれん。 うん、そうだ。幸太郎さんが乾くんならとは思ったけど、乾くんじゃなかったら幸太郎さんの事を信用できないなんてことはなかもんね。 私は思い出のCDをぎゅっと胸に抱いて、ぺこりと頭を下げて部屋を出た。 あの頃の面影じゃなくて、今あるこの関係こそ大事なのだと確かな気持ちも胸に抱いて。
10 19/03/18(月)23:59:25 No.577233864
「……グラサン、辛くなかか」 さくらが去った後、サキが依然として机に座ったまま仕事をしている幸太郎に心配そうな声を掛けた。 その彼はいらぬ世話と、いつものように邪険に扱うフリをする。 「なんじゃい。気が散る、お前もさくらと一緒に出ていかんかい」 「アタシは覚悟決まってると思っとったけど、辛かったけんな。知っとるヤツに、お前なんか知らんって言うのは」 「……」 「ここまでやるからには、全国制覇せんといかんな」 「そうだな」 迷いのない幸太郎の返事に満足したのか、サキも大きく頷いて部屋を出ていった。 それを見届け、サングラスを外して窓の外を見つめる。そこには、彼が救うべき佐賀の空が広がっていた。
11 19/03/19(火)00:00:06 [sage] No.577234028
おわり サキはんは返事を聞いたら察する勘のよさがあると思いんす
12 19/03/19(火)00:01:14 No.577234355
不器用だなグラサンは…
13 19/03/19(火)00:01:43 No.577234496
巽は戸籍とかイジってそうなところある
14 19/03/19(火)00:02:13 No.577234632
おつらい…
15 19/03/19(火)00:03:22 No.577234911
死んでた人間が生きてた人間に言うのと 生きてた人間が死んでた人間に言うので逆パターンなんだな
16 19/03/19(火)00:03:39 No.577234999
過去に繋がるものは全部消すか変えるかしてて 唯一原点として持っていたのが例のCDとかなんだ…
17 19/03/19(火)00:07:11 No.577235909
なにをするにもまずは佐賀を救ってからだ
18 19/03/19(火)00:07:40 No.577236016
ようやく返せたんだな…
19 19/03/19(火)00:08:10 No.577236125
サキちゃんとは境遇が被るもんなあ…そりゃわかるか…
20 19/03/19(火)00:18:42 No.577238844
乾くん…
21 19/03/19(火)00:27:10 No.577241046
よか… でもおつらい…
22 19/03/19(火)00:30:54 No.577241983
まじで自分の過去につながるもの全部消してそうだよね巽
23 19/03/19(火)00:33:27 No.577242648
バレても一切動じてないのが本気感あって凄いよ巽…つらい…
24 19/03/19(火)00:36:19 No.577243459
巽は本当に執念の男だよな
25 19/03/19(火)00:39:36 No.577244606
お辛い…けどよかった…
26 19/03/19(火)00:41:22 No.577245125
さくらはん! 諦めないで踏み込みなんし!
27 19/03/19(火)00:48:12 No.577246940
乾バレした時巽はどう反応するんだろうか…