ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
19/02/24(日)23:25:51 No.571963296
コンビニの雑誌コーナーにて。 ゆうぎりはぱらり、と週刊誌をめくりながらため息をついた。 先程から一応立ち読みのふりをしているものの、その目はろくに文字を追っていない。 心ここにあらず。ゆうぎりは今、立ち読みどころではないのだった。 有り体に言って、大ピンチ。 現代に蘇って以来、ここまで困ったことがいったい何度あっただろうか、というほどだ。 ゆうぎりは再びため息をついて―――憂いを帯びたその吐息は 世の男性を一瞬にして腰砕けにしてしまうほど色っぽいものだったが、 勿体無いことにそれを聞いた者はいない―――窓の外を見た。 ……もっとも、状況がまるで変わっていないのは わざわざ目を向けずとも音だけでもわかるというものだが。
1 19/02/24(日)23:26:09 No.571963379
叩きつけるような、大雨。 これで外になんか出たら一瞬にして化粧が流れ落ちて ゆうぎりの正体が実はゾンビィであることが衆目に晒されることだろう。 ……衆目と呼べるほど人がいないのは佐賀の悲しい所であるが、それはそれ。 花魁として、白塗りの化粧に慣れていたからだろうか。 ゆうぎりは仲間内でもいち早く自らの青白い素肌を覆い隠すメイク技術を身につけていた。 そしてそれを日常的に行い、気ままに出歩くのが趣味となっていたのだ。 明治維新の時代に生きたゆうぎりにとって、この現代は150年もの時を経た遥かな未来である。 アイドルとして、イベントやステージに立つのはあくまで非日常。 アスファルトに覆われた道路も、走る自動車も、モルタルで塗り固められたただの一般住宅でさえも。 こうして自らの足で日常を歩けば、奇妙奇天烈に見えたこの時代にも、 確かに人が生活しているという息遣いが見える。 だからこうしてただ散歩をするだけでも、ゆうぎりにとっては楽しいものだった。 もちろん中でも、スーパーやコンビニを冷やかして買い食いをするのは大のお気に入りである。
2 19/02/24(日)23:26:24 No.571963436
時にゆうぎりはリリィやさくらなどのお供もつけずに一人でお菓子を買いに行くようになり――― ……それが、こんなことになろうとは。 ゆうぎりはまたため息をついた。 繰り返す。 明治維新の時代に生きたゆうぎりにとって、この現代は150年もの時を経た遥かな未来である。 その心細さは、いつも悠然と構えているゆうぎりの眉間に知らず皺を作ってしまうほどであった。 この雨はいつまで続くのだろう。 仲間たちは心配していないだろうか。 これが彼の耳に入って、散歩を禁止されるかも知れない。 ゆうぎり自身は自業自得だとして、自分の咎で仲間を巻き込むのは少々耐え難い。 やはり自分は時のまれびと、分をわきまえない振る舞いをするべきではなかったなどと――― ゆうぎりには珍しく、弱気の虫が胸の奥でしくしくと鳴き始める。 目を、閉じる。 店内のBGMも消えて、今はただ、雨の音しか聞こえない……。
3 19/02/24(日)23:26:40 No.571963515
「ここにいたか、バカタレ」 その声に、ゆうぎりはぱっと顔をあげた。 そこに、いつの間にか立っていた。 「天気予報見とらんかったのか?今日は雨になるってわかっとったじゃろがい」 かつての時代では見上げんばかりの大女に分類されていたゆうぎりよりも、 さらに頭半分ほど背の高いその男。 「幸太郎はん……」 「おう、巽幸太郎さんじゃい」 謎のグラサンプロデューサー、幸太郎がゆうぎりを見下ろしていた。 「あ……」 ―――心の弱気が、一瞬にして晴れ渡るのを自覚する。
4 19/02/24(日)23:26:55 No.571963585
その圧倒的な安堵感は、さくらや純子あたりなら思わず涙ぐんでしまうほどであった。 が、そこはゆうぎり。困ったように微笑むだけである。 ……あるいはそこで幼子のように甘えられればとも思わなくもないが、 そこはこれまで培って身に染み付いた性分だ。いかんともしがたい。 「傘を持ってきていたでありんすが、どうも店に盗人がいたようで。 それに、これほどの雨になるとは思っていなかったのでありんす」 「傘くらいコンビニに売ってるだろう」 「それが……手持ちがもう……」 「………………………」 幸太郎はゆうぎりの手に下げられているお菓子の入った袋を見咎めて、ため息をついた。 「買い食いのしすぎじゃい」 「面目次第ももありんせん」
5 19/02/24(日)23:27:10 No.571963667
ぺこり、と頭を下げる。 と、そこで気がついた。 「幸太郎はん」 「あ?」 「いえ、泥が……」 「………ああ」 幸太郎の靴やスラックスの裾が、泥で汚れていた。 幸太郎はフランシュシュの営業を―――というよりアイドル活動以外の運営を一手に担うだけあって、 服装は珍妙ながら身だしなみ自体には常に気を配っている男だ。 幸太郎のここまで汚れた姿を、ゆうぎりは初めて見た。 「気にするな。こっちの勘違いじゃい。……ローソンの方にいなかったから、少し焦っただけだ」 「………………………」
6 19/02/24(日)23:27:26 No.571963763
ゆうぎりたちが住む洋館には、最寄りのコンビニが二軒ある。 比較的広い道なりに進んだ場所にあるローソンと、住宅街を抜けた先にあるセブンイレブンだ。 地図上の直線で測れば距離はだいたい同じようなものなのだが、ゾンビィで、 しかもアイドルでもあるゆうぎりにとってどちらが利用しやすいかと言えば当然前者になる。 幸太郎もそう考え、しかしいなかった為に大いに焦ることとなったのだった。 そもそも幸太郎の常識からすれば、コンビニに行ったのなら たとえ傘を忘れていったとしてもコンビニで買えばいいだけで、そこに留まっている理由など無い。 だが、それにしては帰りが遅すぎる。ならいったいどこへ行ったのか。 もしかしたら何かがあって―――たとえば帰り道で雨に振られて、どこかに隠れているのだろうか。 だとしても騒ぎにはなっていないから、誰かに見つかったわけではないはず。 しかし、しかし―――などとぐるぐる探し回っているうちに、すっかり汚れてしまったのである。
7 19/02/24(日)23:27:45 No.571963846
「……え、あ、その。コンビニが変われば品揃えも変わるものでありんすから………」 さすがにしゅんとなるゆうぎりを前に、 「別に構わん。その気持ちはわかる。あるあるってやつじゃい」 幸太郎がそっぽを向いて頬を掻く。 「……やはり携帯は、持たせたほうがいいのかも知れんな」 「えっスマホ買ってくれるのでありんすか?」 「……いやお前が気をつければいいだけの話か」 「今一瞬でわっちが立ち直ってしかも携帯からスマホへさり気なく盛ったから ちょっとムッとしたのでありんすな?」 「わかっとるのう」 「買いなんし。買いなんし」 「ぺちぺち叩くな。ま、いずれな」
8 19/02/24(日)23:28:05 No.571963920
―――コンビニの外では相変わらず、雨が振り続けていた。 しかし幸太郎は見た所、傘を一本しか持ってきていない。 男女二人に、傘一本。 これは、まさか。 噂の。 「ほれ、お前はカッパじゃい」 「………………………………理由を聞いてもいいでありんすか?」 「わしゃお前のメイクが落ちとることも可能性として考えとったからのう。 身なりを隠すにはこっちのほうがいいと思って」 「………………………………」 「ぺちぺち叩くな」 「幸太郎はんは、わかっとりんせん」 「なんじゃい、カッパ嫌いか」
9 19/02/24(日)23:28:27 [おしまい] No.571964035
ほれ、と傘の片側を空ける。 「―――――――――」 ゆうぎりは瞬間、目を丸くして、 「………………………」 すっ、と幸太郎の隣に身を寄せた。 幸太郎は――― ゆうぎりに傘を譲り渡すと、自分はコンビニの店内まで戻って新しく傘をもう一本買い、 氷のような無表情で立っているゆうぎりの元に帰ってきて、 「じゃあ、帰るか」 ゆうぎりは無言のまま、雨に濡れて水の滴る傘を幸太郎に向けて振り回した。
10 19/02/24(日)23:29:54 No.571964433
よかでありんスゥーーー…
11 19/02/24(日)23:30:54 No.571964721
抱きなんし!!!!
12 19/02/24(日)23:31:07 No.571964772
アーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!
13 19/02/24(日)23:32:34 No.571965149
幸太郎はんはさあ…女心がわからない人でありんす?
14 19/02/24(日)23:32:52 No.571965227
わっち!!抱かれなんし!!(バシィ
15 19/02/24(日)23:33:46 No.571965488
>幸太郎はんはさあ…女心がわからない人でありんす? わかっている上でちゃんと答えてはいけないと思う人です…
16 19/02/24(日)23:33:58 No.571965557
唐変木ー!
17 19/02/24(日)23:37:21 No.571966509
>「買いなんし。買いなんし」 >「ぺちぺち叩くな。ま、いずれな」 はいお前可愛い
18 19/02/24(日)23:37:23 No.571966517
一挙手一投足可愛いな姐さん…
19 19/02/24(日)23:38:47 No.571966936
女子大生わっち!!
20 19/02/24(日)23:39:21 No.571967113
姐さんアスファルトに咲く花にも感心しそうだな…
21 19/02/24(日)23:39:23 No.571967123
養殖フラグクラッシャーの巽幸太郎さんなだけはありんす
22 19/02/24(日)23:40:19 No.571967409
相合傘しなんし!!!
23 19/02/24(日)23:40:44 No.571967530
>養殖フラグクラッシャーの巽幸太郎さんなだけはありんす 養殖物って大概うまいことクラッシュできずに詰むイメージ
24 19/02/24(日)23:40:51 No.571967571
あっ百点でありんす…
25 19/02/24(日)23:43:12 No.571968311
ぺちぺちで済まさず叩きなんし!
26 19/02/24(日)23:43:49 No.571968496
>ぺちぺちで済まさず叩きなんし! 傘で行っとる!!
27 19/02/24(日)23:44:18 No.571968641
仕方なく相合傘するつもりだったが反応がおかしいことに気付いて冷静に軌道修正を試みる謎のアイドルプロデューサー なお怒らせることでも気持ちの入れ込む度合が強くなることは認識外
28 19/02/24(日)23:46:10 No.571969218
でも心をめっちゃ読んでるのはすごいと思いんす
29 19/02/24(日)23:47:12 No.571969545
>……あるいはそこで幼子のように甘えられればとも思わなくもないが、 甘えなんし!
30 19/02/24(日)23:48:12 No.571969863
まるで乙女のようじゃないかゆうぎり… 仮にも伝説の花魁ともあろう女が
31 19/02/24(日)23:53:25 No.571971395
アイドルがプロデューサーと相合傘しようとしちゃダメだよ!
32 19/02/24(日)23:56:05 No.571972189
プロデューサーとアイドルが必要以上に仲良くするソーシャルゲームとかどうかと思うんじゃい
33 19/02/24(日)23:58:29 No.571972848
>氷のような無表情で立っているゆうぎりの元に帰ってきて、 絶対怖いわこれ…
34 19/02/24(日)23:58:56 No.571972978
また好感度調整失敗してる…
35 19/02/25(月)00:01:41 No.571973769
>「今一瞬でわっちが立ち直ってしかも携帯からスマホへさり気なく盛ったから >ちょっとムッとしたのでありんすな?」 >「わかっとるのう」 >「買いなんし。買いなんし」 ここすき
36 19/02/25(月)00:01:57 No.571973838
このわっちは抱きしめたくなるくらい可愛らしいでありんす!!
37 19/02/25(月)00:02:45 No.571974054
ペチペチ叩く姐さんやーらしか…
38 19/02/25(月)00:04:42 No.571974533
寝る前に良い物読ませてもらった
39 19/02/25(月)00:09:03 No.571975706
ぺちぺち! ぺちぺち!
40 19/02/25(月)00:09:52 No.571975914
買いなんし買いなんしはにこにこ笑顔かキラキラ笑顔か
41 19/02/25(月)00:10:29 No.571976064
わっちこれ好き!
42 19/02/25(月)00:11:04 No.571976239
やはり姐さんはかわいいな…
43 19/02/25(月)00:12:25 No.571976634
コンビニ二件もあって驚いたでありんす
44 19/02/25(月)00:12:29 No.571976653
姐さんは反則級だからな
45 19/02/25(月)00:14:01 No.571977092
佐賀ってコンビニ2件もあるんだ…
46 19/02/25(月)00:14:53 No.571977321
>……衆目と呼べるほど人がいないのは佐賀の悲しい所であるが、それはそれ。 ひどいと言いたいが合ってるのがひどい
47 19/02/25(月)00:14:57 No.571977339
ついにスマホを支給され姦しゾンビィ達がいつまでも眠らずキャッキャドヤンスヴァーイヴァーイしてるとこが見えるでありんす…
48 19/02/25(月)00:16:47 No.571977817
佐賀は圧倒的にセブンイレブンが多い
49 19/02/25(月)00:16:47 No.571977821
スマホ手に入れてもSNSは御法度じゃい!!!!