19/02/07(木)06:51:17 ベルモ... のスレッド詳細
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19/02/07(木)06:51:17 No.567620670
ベルモントステークス。私はこの日、一番人気のウマ娘だった。 国内では一度もダートコースを走ったことのない私だったが、これが中々上手くいったからだ。 それを象徴するのが、前走のカーターハンデキャップだ。 カーターHはマイル戦で、ベルモントSとは勝手がまるで違うが、それを踏まえた上で期待されていたのだ。 多くの人が、私の一着を期待していただろう。トレーナーさんだって、きっと。 でも、私は負けた。 「やっと追いつけましたよ、スズカさん。怪鳥は異次元にすら飛び立てるのデース!」 そう、エルちゃんに。勝利を確信したゴール目前で、ものの見事にまくられた。 調子がいい時のフクキタル。いや、それ以上かもしれないと思えるほどの伸び方。 驚異的としか言いようがなかった。 そしてその走りに、私は打ちのめされてしまったのだ。ほんの一瞬、彼女には勝てないと思ってしまった。 その一瞬はやがて一瞬ではなくなり、私の心を殊更に苛むのだ。 それが悔しかった。 せっかく会心の走りをしたのに、それにケチを付けられてしまったようで、嫌だった。
1 19/02/07(木)06:51:35 No.567620680
私の次走は、アーリントンミリオンステークスに決まった。 芝の中距離という走り慣れたコースで調子を取り戻して欲しいと、こちらのトレーナーさんは言った。 そしてエルちゃんが、アーリントンSに出走を表明しているらしいとも。 早くもリベンジの機会を与えられたというわけだ。 ありがたいなと思った。あの秋天では完走すら出来ず、ベルモントでは完敗した。 負け越したままではいられない。そう思って私は練習に励んだ。 励んだが、まるで上手くいかない。それどころか走りにキレがなくなっているとまで言われた。 どうして。 どうして私は、あの一瞬を未だ忘れられずにいるのか。 そう、目の前に誰も走っていないはずの、私だけの世界にハッキリと怪鳥が映り込んでいたからだ。 忌々しかった。 エルちゃんを悪く思っていたわけではない。イタズラ好きのきらいはあるが、いい子だと思う。 だからこそ、余計に憎たらしく思えた。 誰も来ていない場所を、最初に駆けていくあの心地よさを彼女が奪ってしまったから。 そんな風に考える自分が嫌だ。こんな私じゃ、あの人に顔向け出来ないじゃない。
2 19/02/07(木)06:51:47 No.567620688
アーリントンまでもうすぐという時、私はすっかりスランプに陥っていた。 ダメなのだ。ダートに慣れすぎて、芝での走り方を忘れてしまったのかと思えるほどに。 かといってダートで上手く走れるわけでもない。 すっかり期待外れのウマ娘になってしまったと誰かが言った。私は、その言を否定出来なかった。 いくら歯痒さを感じても、それがいい走りに繋がることはない。むしろ悪くなるばかりだ。 それでも私はネガティブな感情を捨てきれない。いや、処理しきれない。 鬱憤をいい意味で爆発させれば、あの復帰レースのような展開だって出来るのだ。 出来さえすれば。でもその時の私には、絶対出来やしなかった。 寂しさに打ち震えてばかりで、人気のない所を探しては、自分を慰めてばかりいた。 そんな私に、あの頃の走りなんて出来るわけがない。私は腐り果てそうになっていたのだ。 「お久しぶりです、スズカさん」 そんなある日、レース前に帰省していたエルちゃんがある人と一緒にやって来たのだ。 「ええ…久しぶりね、グラスちゃん」 グラスちゃんは、私の憔悴した姿を見て不機嫌になっているようだった。しっかり耳を伏せている。
3 19/02/07(木)06:52:24 No.567620712
「スズカさん、そんな調子で大丈夫なんデスカ…?」 「ええ、大丈夫よ。私は大丈夫」 余計なお世話だと思ったが、エルちゃんは心底私を心配しているようだった。 実際は大丈夫なんかじゃないけど、そう答えて茶を濁すしかない。 「何が大丈夫なんですか」 声を荒げたグラスちゃんが、私に食ってかかってきた。 それもそのはず、彼女もまたアーリントンSに出走が決まっているウマ娘なのだ。 「私は全力のあなたに勝ちたくてここに来たんです。なのになんですかそのザマは…見ていて恥ずかしいです」 知ったことじゃないわよ。ええ、もうどうでもいいの。勝ちたければ勝てばいい。それに、今の私なんて相手にもならないでしょう。ルームメイト二人で切磋琢磨しながら、勝利を目指していけばいいわ。 「その様子。スピカのみんなが、スペちゃんが見たらどう思うんでしょうね?」 嫌な女。こんな時にスペちゃんたちを引き合いに出して、私の寂しさを刺激するだなんて。 「…わからないわ」 ここにいない誰かのことなんて、わかるはずがない。 みんなとはたまに連絡を取り合ってるし、当然スペちゃんともそうしている。 でも距離が離れてるから、色々と限りがある。
4 19/02/07(木)06:53:29 No.567620741
「辛いのは、あなただけじゃないんですよ?」 その月並みな文句が一体何になるというの。もう黙っててよ。 「もしあのトレーナーさんが、今のあなたを見ていたら」 気付けば私は、彼女の頬を平手打ちしていた。 グラスちゃんは、どうして私にそこまで酷いことを言うの?そんなにあの時の負けが悔しかったのかしら? ああ嫌だ。私はこんな事を考えていたい訳じゃない。 折角の再会だ。他愛のない話でもして、旧交を温めればいいのに。どうして。 「…すみません」 謝らないでよ。そもそも再会の場で、私が不貞腐れているのが悪いのに。 これじゃあ私、ますます惨めになっちゃうじゃない。 「でも私、そんな今のあなたに勝ちたいんじゃないんです。私のトレーナーさんも、エルちゃんも、そして私もあなたのファンなんです。ファンだから、わざわざここまで勝負にやって来たんです」 ああ、そうか。二人とも私に期待をしてやって来たんだ。 誰もに夢を見せられるような、全力の走りが出来る私。それに勝ちたくてやって来たのね。 でも残念。そんな私はどこかに行ってしまったの。探したんだけど、ちっとも見つからないの。 まるであの頃とおんなじ。
5 19/02/07(木)06:54:29 No.567620770
そう、あの人に出会う前。 あの人に、好きなように走っていいんだぞと、背中を押してもらう前。 「なんだよスズカ。お前、また走るのが怖くなっちまったのか?」
6 19/02/07(木)06:54:54 No.567620794
…えっ? 私の頭に手が置かれた。まさか。そんなはずない。 「あ、やっと来まシタネー」 「いやあ、すまんすまん。いい脚したウマ娘を見かけたから、遅くなっちまって」 そんな、はずは。 「その癖、そろそろ治した方がいいと思いますよ?」 「ごめん。こればっかりは治せそうにないわ」 「治す気もないの間違いでは?私、いつか蹴り殺されないか心配になります」 でも、私の頭を撫でる掌の感触は、紛れも無いあの人のもの。間違えっこない。 「それじゃあスズカさん、また後で」 「ワタシたちはお邪魔ですカラネー。じゃ!」 言い残して、二人はその場を去る。 「…とりあえず、久しぶり」 そして私とトレーナーさんは、二人きりになった。
7 19/02/07(木)06:55:08 No.567620803
「寂しかったんです」 私は率直に、彼へと気持ちを伝える。誰よりも私を寂しがらせた、彼に。 「そっか、悪かったな」 そんな、あなたは悪くないのに。夢を求めた私が、勝手に離れていっただけなのに。 私、嫌な女ね。 「でもなスズカ、俺はお前にだけ構ってやるわけにはいかねえんだ」 「…はい」 私だけ構ってくれればいいのにって思うのは、ワガママ? 「それに、下手なアドバイスも出来ない。今のお前のトレーナーは、俺じゃないからな」 「…はい」 リギルにいた頃の私にアドバイスを送ったのは、どこの誰だったかしら? 「でもなスズカ。俺は今も、これからもずっとお前のファンだ。お前という夢をずっと見続けるよ」 本当に、いけずな人なんだから。
8 19/02/07(木)06:55:20 No.567620820
「とりあえず、勝ち負けとかは一旦忘れろ」 私は、あなたの夢。 「好きなように走ってくれれば、それでいい」 この先もずっと、あなたを夢中にさせてみせますから。 「そうすればきっとお前は勝てる。俺は、そう信じてるぞ」 だから、これからもずっとファンでいてくださいね。 私の、一番大好きなトレーナーさん。
9 19/02/07(木)06:58:01 No.567620920
朝からなんてものお出ししやがる!
10 19/02/07(木)07:27:09 No.567622280
トレスズ怪文書だと…
11 19/02/07(木)07:29:26 No.567622398
うーん二番煎じ
12 19/02/07(木)07:38:58 No.567622922
聞いたことの無いレース名がどんどん出てくる
13 19/02/07(木)07:42:06 No.567623101
いい…
14 19/02/07(木)09:20:09 No.567631033
スズカさんは卑しい牝バですね!
15 19/02/07(木)09:31:13 No.567632131
怪文書読んで色々考えて涙が流れてきた