19/01/17(木)23:46:52 幸太郎... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1547736412476.png 19/01/17(木)23:46:52 No.562774886
幸太郎が死んだ。佐賀を救ったすぐ後のことであった。 フランシュシュの活躍によって佐賀県には活気が戻り、全国住みたい都道府県ランキング堂々一位を獲得できたし人口も少な目から年を追うごとに増加していった。海外でも日本や東京がどこにあるかを知らぬ人は居れども、佐賀は…九州!であることを知らない人間は生まれたばかりの赤子を除けばもはやこの地球上には存在しないほど。当然フランシュシュが活動した場所やタイアップしたお店は聖地となって日本どころか世界中からも観光客が訪れるようになるようになった。 そして数日前に行われたフランシュシュ単独野外ライブでは世界中から集まったファンはついには50万人に届いた。フランシュシュはまさに佐賀の星であり、伝説となった。 最初のあの拙いゲリラライブからここまで僅か数年。フランシュシュはみな、魂を燃やすかの如く駆け上がってきた。 彼女たちを陰から支え続けた謎のプロデューサーである幸太郎も含めて。
1 19/01/17(木)23:47:12 No.562775018
フランシュシュがここまで成長してもなお後方業務は彼一人であった。作詞作曲振り付け考案、衣装製作を始め、営業や宣伝告知やグッズデザインにスケジュール調整、法律顧問に資産管理などなどなど。フランシュシュの秘密が少しでも外部に漏れ出る可能性を減らすためにありとあらゆる業務を彼は一人でこなしていた。 仕事を手伝おうととしても彼は頑なに拒み、そんな暇があるならファンに応えるために練習でもせんかと突き返すのみだった。しかし彼はゾンビではない、人間だ。並の人間どころか優れた人間ですら数人居なければ捌ききれぬほどの途轍もない激務は、明確に幸太郎の肉体を蝕んでいった。最後のライブの一か月前から彼の咳は止まらず顔が土色になったのを見て、ついに耐えかねたフランシュシュは幸太郎に休まなければライブをボイコットすると抗議した。これだけ大きくなった彼女たちがすでに決定していたライブを取りやめる。ファンたちと向き合い続けてきたからこそそれがどれほど重い物なのか身に染みてたし、それが同時に彼女たちの決意の重さをも物語っていた。
2 19/01/17(木)23:47:40 No.562775165
さすがの幸太郎もこれには折れ、せめてライブまで待ってほしい、ライブが終わった後に一度プロデューサー業務から身を引くと約束した。それを聞いたフランシュシュは全力でレッスンに励んだ。ファンたちのために、そして今まで支えてくれた幸太郎に最高のライブを見せてやりたいと。そしてこれが終われば彼も休んでくれる。少し長い休暇を取ってみんなでどこかに出かけようと輝かしい未来に思いを馳せながら。 そして迎えたライブ当日。当初は暴風雨が予告されていたにもかかわらずその日はまるで嘘のように空が晴れ渡り、フランシュシュはこれまでの中でも過去最高のパフォーマンスを叩き出す。世界各地から詰め寄せたファンたちの歓声は隣町にまで聞こえるほどであり、ライブは無事に大成功、彼女たちは笑顔でステージの上から去ることができた。 はたして、フランシュシュと幸太郎と交わされた約束は果たされることとなった。幸太郎の死によって。
3 19/01/17(木)23:48:02 No.562775268
幸太郎の容態が悪化する前からフランシュシュの面々は彼を助けるために幾度も話し合いをしていた。しかしどれも成果を上げることができなかった。目に見えるほどにやせ細っていく幸太郎の姿を見て彼女たちはみなが心を痛めた。リリィは大好きな重機カタログを熟読しようにも数秒も集中できず、逆に愛はお肉のやけ食いがどんどん増えていき、あのたえでさえうろたえるばかりであった。みなことあるごとに手を止めては幸太郎の部屋の方向をつい視線を向けてしまい、またすぐにそれを誤魔化そうとあからさまにキョロキョロしだす。そんな彼女たちの中にとある昏い考えが浮かんでくるのも無理からぬという話である。 ライブを終えた数日後のその日、さくらの目にちょうど階段を降りようとしていた幸太郎が目に映った。その動きは以前の幸太郎に比べれば呆れるほどに遅く、まるで何年も病院で寝たきりの老人のようであった。 ──いっそここで背中を押してしちゃろか… そんな考えがさくらの脳裏をよぎった。
4 19/01/17(木)23:48:22 No.562775358
幸太郎のゾンビ化はフランシュシュ内でも何度か話し合われたことだ。身体が蝕まれ続けるならばゾンビにしてしまった方がマシであると。方法がわからないと言うこともあるが、彼は未だに生者で、ゾンビィたちは皆自分が死んだときの瞬間、その恐怖を覚えている。そしてゾンビとなるということは同時にほかの誰かと結婚して子孫を作るという生物として当然の幸せをも奪うということになる。さくらもできることなら彼には普通の人間としての幸せを享受してほしかった。 だけど今目の前の苦しそうな幸太郎の姿を見るとその考えが揺らぐ。 虚ろな足取りでさくらが幸太郎に近づいていき、もう少しで手が届きそうなところまで来た。その時、幸太郎が突然振り返った。何年も目にしていたなかった憑き物が落ちたような笑顔。さくらは思わず虚ろな世界から引き戻される。そして、 さくら、俺は──── 幸太郎は糸が切れたように階段から崩れ落ちる。最期に何を言おうとしたのか、さくらは終ぞ聞くことができなかった。
5 19/01/17(木)23:48:46 No.562775471
みんなが駆け寄ってきた時には幸太郎はすでに息絶えていた。事が事であるために今は彼の亡骸が傷まぬよう地下室に寝かせた。ただフランシュシュの面々はショックは受けては居ても、これが幸太郎とは永遠の別れとは思っていない。元々幸太郎が不慮の事故や病気で死んだ場合は無条件でゾンビ化させるとこはずっと以前から彼女たちの間で取り決めていたことだ。ただやはりさくらは沈んでいた。 (私のせいやんけん…私幸太郎さんになにをしようとしたと…) さくらは幸太郎には手を下していない。しかしその直前に思わず殺意を抱いてしまった。ならば幸太郎が死んだのもきっと自分のせいだ。彼が倒れる直前、さくらに何か言おうとしていた。遺言になるそれを聞くことすらできなかった。さくらは自分を責める。 ゾンビ化として蘇らせることはできるかもしれない。だがたえのように意識が覚醒しなかったりさくらのように記憶を失ったままの可能性もある。 そんな時、サキがふとあることを思い出した。 「そういやぁよ、グラサンのやつ、この前のライブの直前にあたしらに渡したい手紙があるって言ってなかとか?」 その言葉にさくらの目に光が戻る。
6 19/01/17(木)23:48:59 No.562775535
「言ってたでありんしたな…ライブが終わって少ししたら読めとも。確か場所は…」「たつみの部屋の机の中だって言ってたよー」 そうだ、手紙だ。たとえもう肉声を聞くことができなくなるかもしれなくてもなにを思ったのかを手紙に遺してくれているかもしれない。 気づけば愛から手が差し出されていた。 「私たちはアイツが最期に私たちになにを伝えたかったのか知る義務があると思うの、さくらはどうする?」 その手を取るのにさくらは迷わなかった。
7 19/01/17(木)23:49:18 No.562775605
手紙とやらは意外とすぐに見つかった。それは手紙というよりは分厚いノートだった。一体どれだけ言いたいことがあったんだあの謎のプロデューサーはと一同は思いつつも読み進める。しかし一通り最後まで目を通し終えたとき、サキは怒りのあまりにそれを床にたたきつけた。 「ふ、ふざけんじゃねぇ!なんだよこれ!?」 サキだけではない。さくらもリリィも、あの純子でさえもだ。そこに書かれていたのはフランシュシュの引継ぎに関するマニュアルであった。ゾンビのことを知っていてかつプロデューサー業務を兼任しうる人物のリスト、営業先の信頼性の順列や自身が過去に作ってきたコネの一覧、現地スタッフとの最適な調整の仕方、作詞作曲や振り付けのやり方に関するアドバイスなどなどなど。それらが事細かにびっしりと書き込まれていた。特に作詞作曲の部分などは一人ひとりについてしっかり考えられており、間違いなく血がにじむほどの努力の末に編み上げた巽幸太郎というプロデューサーとしての経験そのもの。だが、 「グラサンのやつ、初めから死ぬつもりだったわけかよ!」 それが彼女らを逆撫でするものであった。
8 19/01/17(木)23:49:33 No.562775663
思えば彼は業務から身を引くとは言ったが休養を取るとは一言も言っていなかった。あれだけライブが終わるまで待ってくれと言っていたのも大方これを完成させるまでの猶予というわけだろう。特に過労死したリリィの前で過労死するなど火に油を注ぐも同然。 「いいじゃない…そっちがそのつもりならこっちにだって考えがあるんだから…」 「あ、愛ちゃん…?」 水野愛は激怒した。 「アイツが死んだということはむしろこっちの手間が省けたと考えるべきよ」「ということはまさか…」「ええ、予定通りアイツをゾンビとして蘇らせるのよ!」 必ずや、かの邪智暴虐のグラサンを再び連れ戻して引っ叩いてやらねばならぬと決意した。 愛には幸太郎のことがわからぬ。愛は、アイドルである。肉を食らい、どやんすしながら生きてきた。けれどもアイドルを置き去りにして死ぬような邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。 自分たちをゾンビとして蘇らせ、佐賀を救うために共に歩んできたのに、自分一人だけ死に逃げなど許してやる通りなどない。
9 19/01/17(木)23:49:52 No.562775738
「でも愛ちゃん…私らゾンビ化の方法とかわからんと…」 「そうね…確かに私たちは人間をゾンビにする方法は知らない。だけどアイツはそれに辿り着いて見せたのよ。だから私たちだって諦め──「愛はん!」えっ…!?」 言葉を言い切る前に愛はゆうぎりにビンタされる。 「弱気なこと言いなすんな愛はん!確かにわっちらはゾンビにする方法は知らなんし!されど幸太郎はんはそこに辿り着いてみせたでありんす!だからわっちらだって絶対に諦めてはいけないんでありんす!」 「え…?うん、それ今私が…」 涙目になって愛を叱咤するゆうぎりに愛は抗議しようとするも、 「いいや、ゆうぎり姐さんの言う通りだ」 「え…?」 「リリィもゆぎりんの言葉で目が覚めた気がする!」 「私も弱気になっていました!」 困惑する愛を尻目にサキもリリィも純子もゆうぎりの言葉に次々と賛同する。 「なんなの…」 呆然とする愛はそう呟くことしかできなかった。さくらは愛の肩にそっと手をのせた。
10 19/01/17(木)23:50:06 No.562775795
幸太郎がフランシュシュにとってどんな存在なのかはうまく説明できそうにないとさくらは思った。初めはただの変人であった。妙に態度がデカくて、変に自信満々で、何言ってるのかわからなくて。それでも彼のおかげでステージの上に立つことができ、死んでも夢を叶えてくれた恩人なのは間違いない。だけど今となって、さくらの彼に対する感情はそれだけじゃないように自分で思えた。恋愛感情なのかどうかはわからない。それでも彼とはずっとそばにいてほしいと、そう思える相手であるとだけははっきりと言える。そう思っているのはたぶん自分だけではないだろう。そうでもなけりゃみんなしてこうも必死に幸太郎を蘇らせようとはしない。 (愛ちゃんなんかはきっと顔を真っ赤にして否定しそうけんね…) つまるところフランシュシュはみんな幸太郎のことが好きだったのだ。 ゆうぎりとたえがゾンビ化の秘訣を知るとあるバーのマスターをとっちめたのは幸太郎が死んでから数日後の話。
11 19/01/17(木)23:50:20 No.562775864
屋敷の地下室で幸太郎の身体をフランシュシュは取り囲んでいた。すでにゾンビ化させる方法をバーのマスター徐福から聞き出した彼女たちはその下準備を終え、残すは幸太郎の魂を呼び戻すのみというところまでやってきた。 「グラサンのやつ、生き返ったらぜってーびっくりするとやろ」「もう私たち死んでますけどね」 サキの言葉に純子がゾンビジョークを返す。 「幸太郎さんが目を覚ましたらみんなでせーのであいさつしない?」「それはいいアイデアでありんすな」「ヴァ」 「でもたつみー目が覚めても昔のリリィたちみたいに意識がないただのゾンビみたいになるかもー?」「まあその時は思いっきり刺激を与えてやればいいわ。幸い私たちには時間だけはあるんだし」 そう言いながら愛はフランスパンを鞘み納める。ここまでほぼ不眠不休でみんな疲れ切っていたが、あと少しで幸太郎にまた逢えると思えばその程度の疲労などどうということはなかった。 「準備はいいんだな?」 徐福が再確認する。返答は頷きのみ。 「じゃあ始めるぞ」 幸太郎の肉体は光に包まれた。
12 19/01/17(木)23:50:38 No.562775950
フランシュシュ一同幸太郎の手を握りしめる。それと同時に彼との過去を思い出す。初めて地下室ミーティングに佐賀城でのラップバトル、駅前での拙いゲリラライブでフランシュシュとして初めて一歩踏み出しての久中製薬での失敗、フランシュシュの大躍進の第一歩となったドラ鳥とのコラボCMにガタリンピック。チームの空中分解の危機になりかけて、でもどうにか大成功させて過去のトラウマと別れを付けることができた佐賀ロック。遺してきた家族や親友に告げることができた自分の想い。そしてさくらにとって、フランシュシュにとって本当の始まりとなったアルピノでのライブ。絶対に忘れられない大切な想い出が駆け巡って行き、手をより強く握りしめる。 「幸太郎さん。。。」「幸太郎はん…」「幸太郎…」「グラサン…」「ヴァ…」「たつみ…」「幸太郎さん…!」 7人の想いを受けて──── ────しかし幸太郎の魂は帰ってくることはなかった。
13 19/01/17(木)23:51:01 No.562776068
「どう、して…?」 光が消えても幸太郎の肉体は動くことはなかった。 「こいつはもう二度と戻ってはこれないな…」 それを見て徐福は目をひそめた。 「普通の人間であれば誰しもが多少の未練を持っている。その現世との未練の糸を辿って魂を肉体にとどめるわけだが、こいつの場合は完全にきれいさっぱり燃え尽きちまってやがる。燃え尽きた魂は呼び戻すことはできん。だがらもう二度と目覚めることがねぇんだ…」 そう言い切るや否や、幸太郎の肉体は急速に風化していく。フランシュシュたちがさっきまで握っていた幸太郎の手も徐々に砂となっていった。まるで幸太郎の存在した証すら消えてしまうかのように。 「い、いやだよたつみ…!お願いだから目を覚まして…!」「幸太郎さんどうしてい…!?」「グラサンてめぇ…ッ!」 サキとリリィと純子は嗚咽を漏らす。ゆうぎりは目を伏せ袖で顔を隠し、たえもまた泣き出し始めた。 「な、なんで…」 愛は崩れ落ちるように座り込み、泣くことすらできずに放心状態となった。 そしてさくらはもう消えかかった幸太郎の手の感触に 「ぁぁっ…ぅぁ…ぁぁぁああ──」 絶叫した。 「────────────ッ!!!」
14 19/01/17(木)23:53:37 [s] No.562776720
こちらがインフルにうなされながらも突然佐賀の方から電波を受信した幸太郎ハッピーエンド物でございます 佐賀を救ってライブを成功させてしかも引き継ぎまで準備を終えて、邪悪なるゾンビの手から逃れ切ったんだから間違いなくハッピーエンドだよね…? ちなみに後編はエピローグがまだ終わってないのでもうちょっと待ってくだち…
15 19/01/17(木)23:54:19 No.562776903
帰ってこんかい!
16 19/01/17(木)23:54:57 No.562777082
後編あるんか
17 19/01/17(木)23:55:06 No.562777127
みんな待っとらすよ!!!!!!
18 19/01/17(木)23:55:09 No.562777137
幸太郎!幸せなのお前だけじゃねーか!
19 19/01/17(木)23:55:28 [s] No.562777258
>後編あるんか 後編は幸太郎バッドエンド物だから…
20 19/01/17(木)23:55:35 No.562777288
ハッピーとはいったい…うごごご
21 19/01/17(木)23:56:02 No.562777402
> リリィは大好きな重機カタログを熟読しようにも数秒も集中できず、逆に愛はお肉のやけ食いがどんどん増えていき、あのたえでさえうろたえるばかりであった。 愛ちゃんはさぁ・・・
22 19/01/17(木)23:56:05 No.562777413
流れるようにして愛ちゃんが激怒しててダメだった
23 19/01/17(木)23:57:24 No.562777766
>そう言いながら愛はフランスパンを鞘み納める。 フランスパンの鞘ってなに…?
24 19/01/17(木)23:59:38 No.562778339
>呆然とする愛はそう呟くことしかできなかった。さくらは愛の肩にそっと手をのせた。 経験者・・・
25 19/01/17(木)23:59:48 No.562778382
>>そう言いながら愛はフランスパンを鞘み納める。 >フランスパンの鞘ってなに…? 紙袋だろう
26 19/01/18(金)00:00:07 No.562778451
>後編は幸太郎バッドエンド物だから… まっとらすよ!!
27 19/01/18(金)00:01:35 No.562778867
>>後編は幸太郎バッドエンド物だから… >まっとらすよ!! 幸太郎がバッドエンドになってもいいって言うのか!?
28 19/01/18(金)00:01:39 No.562778893
1人だけ消えるなんて許せませんよね!
29 19/01/18(金)00:02:00 No.562778962
ゾンビ化させようとしても幸太郎はゾンビ化出来ないという流れは切ないけどいいものだと思います
30 19/01/18(金)00:02:08 No.562778998
>後編は幸太郎バッドエンド物だから… 「」さお!お前が書かんと気になって眠れんやろが!!
31 19/01/18(金)00:02:22 No.562779069
「」さお!はよ続き書かんね!皆待っとらすよ!
32 19/01/18(金)00:02:50 No.562779166
フランシュシュにとってはハッピーと受け取ってもよかですか
33 19/01/18(金)00:03:46 No.562779386
間違いなく最高の(幸太郎視点で)ハッピーエンドだなぁ 残すものが見えてるけど見えてないってところも含めてエミュ力が高い
34 19/01/18(金)00:06:20 No.562780009
誰かの幸福は誰かの不幸か…
35 19/01/18(金)00:06:42 [s] No.562780113
とりあえずまず後編投げます エピローグがまだもうちょいかかる…
36 19/01/18(金)00:07:04 No.562780206
「────────────────ッ!!!!111!!!???」 自分の口から漏れ出たような悲鳴にさくらは布団から跳ね起きた。 「はぁはぁはぁはぁ…かほっけほっけほっ…」 息が荒いせいか少し咳き込んでしまった。背中に手をやれば寝汗でびっしょりになっていた。最悪な寝覚めである。現実味のない夢。思えば佐賀がたった数年で救われるだとか地球上から佐賀を知らぬ人間が居なくなったなど現実的に考えればまったくあり得ないというところで気づくべきだったのに…。しかし幸太郎が過労死して、あまつさえゾンビとしても蘇れなかったというのは妙に真実味を帯びていた。 こんな夢を見てしまった原因には見当がついている。数日前に見てしまった幸太郎の健康診断の結果のせいだろう。先日に大成功に終わったアルピノでのライブで、ネットでの評価を見ようとして幸太郎の部屋に忍び込んだとき、ゴミ箱にくしゃくしゃにして捨てられていたのを優れた動体視力を持った愛が見逃したのをリリィが見つけたのだ。どうやら幸太郎はこの歳ですでに慢性的な胃痛や寝不足に襲われていたようだった。
37 19/01/18(金)00:07:18 No.562780259
と、そこでさくらは気づく。 「あれ…?みんなはどこへ行ったと…?」 時刻は深夜2時。普段ならばまだ全然お休みの時間なのに誰もいない。しかもみんなしで掛布団を吹き飛ばしたような痕跡があった。 「…?」 らちが明かないのでさくらはとりあえず部屋を出ることにした。あんな夢を見た後である。今はとりあえず一刻も早く幸太郎の顔が見たかった。 「愛ちゃん…?」「う、うわぁああ!?」 幸太郎の部屋へ向かう途中にさくらは愛を見つけた。壁に隠れて幸太郎の部屋をちらちら見ていた。 「どどどどどどうしたのかしら、さくら…?」「愛ちゃんがなんかおかしかと…」「な、なんでもないわよ」「…」 しかし愛の様子はどうもおかしく、挙動不審になっていた。よく見れば愛のパジャマの背中の部分にはぐっしょり濡れた痕があった。 「それよりもさくら、なにか用でもあるの?」「ちょっと幸太郎さんの様子を見に行くだけと…」「奇遇じゃないの…」 どうやら愛の目的地も一緒だったようだった。
38 19/01/18(金)00:07:35 No.562780354
夢オチかよ!
39 19/01/18(金)00:07:59 No.562780456
「ねぇ愛ちゃん…」「どうしたの?」 とりあえず二人は話しながら移動することにした。 「さっきやな夢見ちゃったと…」「それってどんな夢?」「幸太郎さんが居なくなっちゃう夢…」「──ッ!」 思わず愛の足が止まる。 「私も似た感じな夢を見た…。中々休まないアイツを殺そうとして、でもその前にアイツが勝手に…」 愛は震えながら両手を抱きかかえる。 「バカみたいよね…全然非現実的なのに…妙なところで未来予知っぽくて…笑いたくなっちゃう」「私は笑わんとよ…」 震える愛の両手をさくらは自分の手で包む。 「幸太郎さんどうやら休んでくれるとか…」「それは私だって知りたいわよ…」
40 19/01/18(金)00:08:17 No.562780527
こうなったらいっそ幸太郎をこの手で…。そんな昏い考えが頭をよぎり、 『さくら、俺は────』 『い、いやだよたつみ…!お願いだから目を覚まして…!』『幸太郎さんどうして…!?』『グラサンてめぇ…ッ!』 「──ッ」 幸太郎の最期とリリィ達の嗚咽の幻聴が耳をちらつく。 「ま、まあとにかくまずはアイツのとこに行きましょ」 愛のその言葉にさくらは従うしかできなかった。
41 19/01/18(金)00:08:39 No.562780644
「お、おぅ…奇遇だな…」「あなたたちまで…」「ヴァ…」 気づけば幸太郎の部屋の入り口に全員で大集合していた。どうやら全員嫌な夢を見てしまって不安になったらしい。サキたちはどうやら別ルートだったようだ。 「とにかくアイツの顔をちゃっちゃと拝んで、解散しようや」 サキの言葉に全員が同意する。 「じゃあ、行きますね…?」 純子はドアを開けた。 「なんじゃいお前ら…まーだ寝てなかったんかい」 開口一番にそんな言葉が飛んで来た。時刻は深夜2時半。まだ寝てなかったようだ。 しかし幸太郎の言葉に誰一人返事することができない。
42 19/01/18(金)00:08:57 No.562780714
(ぁぁっ…幸太郎さんがまだ生きとる…) 脳裏にリフレインする土色の顔になっていくやせ細った姿でも風化した姿でもない。正真正銘生きている健康な姿の幸太郎。 「ん?どうしたんじゃ?」 もう二度と聞けないかもしれないと思ったその声。ゾンビたちは不確かな足取りで幸太郎の傍まで来て彼に触れる。 「う…ぁっ…」 最期に握りしめた彼の手の感覚と砂になっていった時の感触とは違う、生者のぬくもり─── 「「「「「「「うわぁあああああああああんんんん!!!」」」」」」」 「な、なんじゃい!?」 ゾンビたちは幸太郎に泣きついた。
43 19/01/18(金)00:09:55 [s] No.562780950
エピローグはまだもうちょいかかるかも… >夢オチかよ! フランシュシュ全員が偶然同じ夢見ちゃうことってあるもんなんだなぁ…
44 19/01/18(金)00:10:19 No.562781053
不穏シュシュ
45 19/01/18(金)00:10:39 No.562781153
>「「「「「「「うわぁあああああああああんんんん!!!」」」」」」」 >「な、なんじゃい!?」 >ゾンビたちは幸太郎に泣きついた。 あっここ100点です
46 19/01/18(金)00:12:01 No.562781468
>「「「「「「「うわぁあああああああああんんんん!!!」」」」」」」 >「な、なんじゃい!?」 >ゾンビたちは幸太郎に泣きついた。 幸太郎愛されてるなぁ 姐さんも泣すがってると思うと可愛いな
47 19/01/18(金)00:14:27 No.562782044
>「「「「「「「うわぁあああああああああんんんん!!!」」」」」」」 >「な、なんじゃい!?」 >ゾンビたちは幸太郎に泣きついた。 よか…
48 19/01/18(金)00:15:39 No.562782359
死にきれなかったのか…?
49 19/01/18(金)00:17:19 No.562782742
>死にきれなかったのか…? 全員佐賀神からの怪電波受けてただけだよ…
50 19/01/18(金)00:17:34 No.562782796
よかったい…
51 19/01/18(金)00:17:45 No.562782841
よかった夢オチだった でもこの幸太郎さんはまだ死ぬ可能性があるっちゃね?
52 19/01/18(金)00:18:07 No.562782921
ほんとかー?ほんとにただの夢かー?
53 19/01/18(金)00:23:01 No.562784208
佐賀を救う前に死ねば未練が生まれゾンビの条件が整うのでは? フランシュシュは行動に移した
54 19/01/18(金)00:24:31 No.562784578
>ゴミ箱にくしゃくしゃにして捨てられていたのを優れた動体視力を持った愛が見逃したのをリリィが見つけたのだ。 ゴミ箱は動体じゃないし・・・
55 19/01/18(金)00:24:44 No.562784634
7人の未練を合わせれば…?
56 19/01/18(金)00:25:13 No.562784766
書き込みをした人によって削除されました
57 19/01/18(金)00:27:30 No.562785276
>最悪な寝覚めである。現実味のない夢。思えば佐賀がたった数年で救われるだとか地球上から佐賀を知らぬ人間が居なくなったなど現実的に考えればまったくあり得ないというところで気づくべきだったのに…。 言われてみればそうである
58 19/01/18(金)00:33:41 No.562786788
>ゴミ箱にくしゃくしゃにして捨てられていたのを優れた動体視力を持った愛が見逃したのをリリィが見つけたのだ。 愛ちゃん…
59 19/01/18(金)00:33:54 No.562786837
>全員佐賀神からの怪電波受けてただけだよ… 夢の中のライブも後でより曇らせる為に持ち上げたりしてて神はさあ…
60 19/01/18(金)00:35:17 No.562787180
「──ってことがあったんですよ」「オメーゆうぎりには手出すんじゃねぇぞ?」「だから出しませんって…」 泣き虫ゾンビィどもに襲われてから数日、幸太郎はBAR New Jofukuでいつものように愚痴っていた。幸太郎は夢を見るのは好きではなかった。フランシュシュ全員に一人ひとりなぜゾンビとして蘇らせたのかと罵られる夢や、ステージの上でとてつもなく大きなトラブルが起きてフランシュシュが傷つくような夢ばかり見ていた。もう精神が擦り切れるほど見てきたし、さくらが記憶を失ったときの夢見は史上最悪であったと言っていい。しかしそんな彼だが、久々に最高に幸せな夢を見ることができたのだ。佐賀を救うことができ、フランシュシュ史上の中でも最高のライブに携わることができ、引き継ぎ作業も完成させて、しかもさくらに看取ってもらえたのだ。最期にさくらのおかげで自分はここまでこれたと感謝を伝えようと思ったがそれはさすがに望みすぎだろう。控えめに言っても最高の夢であったと言っていい。普段は神に感謝しない幸太郎でもこの時ばかりはお賽銭を入れてやってもいいというぐらいには礼を言いたかった。
61 19/01/18(金)00:35:35 No.562787249
だというのにである。いい夢見で醒めたしとりあえず仕事をしようと思って起き上がったところでゾンビィどもが揃いも揃って辛気臭い顔で襲来してきたのだ。幸太郎自身はフランシュシュたちにどう思われようが構わないと思っている。いや、むしろ死者を蘇らせるという冒涜を犯したのだ。そんな人間は彼女たちに好かれる権利などないという考えすらあるし、そのために彼女らとは距離を取っていた。しかしながらそんな幸太郎でもさすがに彼女たちの泣き顔を見ると心が痛むのだ。幸太郎が好きなのはステージの上で最高の輝いている彼女たちの笑顔なのであって、泣き顔を見てしまうとこちらまで胸が苦しくなって何もできなくなる。 しかしゾンビィどもがなぜ泣いたのかをいくら考えても思い出せず、こうしてお酒に浸っているのである。もしかしたら自分の仕事が至らないせいなのだろうか…。 少なくとも好感度調整がほぼカンペキにうまくいっていることは間違いないであろうから自分を心配したという線はまずありえないだろうとだけは言えるが…。
62 19/01/18(金)00:35:45 No.562787288
そうでもなければことあるごとにサキにぶっ倒れろと言われながら殴られないし、愛も抜身のフランスパンで切りかかってこようとしないだろう。あれは完全にアゴ狙いでこちらを気絶させに来るつもりである。また純子が睡眠薬を購入してそれをコーヒーに混ぜて持ってこようと画策していることもすでに察知済みである。これは間違いなく好感度調整がカンペキである証拠だろう。 しかしだ、夢の中であった引継ぎマニュアル制作はいいアイデアなのかもしれないと幸太郎は思った。自分がいつどんなことになるか分かったものではない。いざというときのために作った方がいいだろう。 「我ながらいいアイデアじゃい」 そう自画自賛しながらおちょこに口を付けようとして… 『『『『『『『うわぁあああああああああんんんん!!!』』』』』』』 思わず取りこぼしそうになった。これである。あの夢を見た夜からそうなのだが、事あることにゾンビィどもの泣き顔が脳裏にこべりつくのである。それも幸太郎が乗りに乗ってるときに限って。
63 19/01/18(金)00:35:57 No.562787334
夜もうちょっと起きて仕事を片付けようとするたびにあの声が再生されるし、牧のうどんでごぼう天肉うどんを頼もうとするたびにあの光景が脳内再生されるのである。おかげさまで仕事は思うように進まず、気晴らしに食べたいものも好きに食べれないという有り様。まさに地獄のような生活である。 だからこうしてそのような幻聴とおさらばしようとしてお酒に逃げるしかなかった。すでに1合飲み干しており、2合目に手を付けようとしたところで… 『『『『『『『うわぁあああああああああんんんん!!!』』』』』』』 再び脳裏をちらついた泣き顔に震える。 「な、なんでじゃい…おれが何したってんじゃい…」 幸太郎は一升瓶抱えながらめそめそ泣いた。 「はぁ…こりゃ先が長そうだ…」 そう呟くマスターの目には愉悦の色が浮かんでいた。
64 19/01/18(金)00:36:44 [s] No.562787552
これにて本当におしまし! 幸太郎は今後しばらく事あるごとにゾンビィの顔がちらつくようになりましたとさ めでたしめでたし
65 19/01/18(金)00:37:16 No.562787662
呪われているのでは…
66 19/01/18(金)00:38:53 No.562788063
これは最高のバッドエンド
67 19/01/18(金)00:38:57 No.562788075
>呪われているのでは… 健康的に生きていけるし…
68 19/01/18(金)00:38:59 No.562788080
お父さんかよ
69 19/01/18(金)00:40:21 [s] No.562788388
ちなみに過去作はこちらです su2834418.txt su2834425.txt
70 19/01/18(金)00:40:22 No.562788392
なるほど巽にとってのバッドエンド… スレ落ちるかと思ってヒヤヒヤしたよ!
71 19/01/18(金)00:41:26 No.562788603
まだまだ墓場には入れそうにないな!
72 19/01/18(金)00:41:37 No.562788643
こりゃあいい気味なバッドエンドだ
73 19/01/18(金)00:42:15 No.562788783
一体どんな罪犯したらこんなバツを受けなきゃならないの…
74 19/01/18(金)00:43:02 No.562788942
予知夢で未来が変わったかな…
75 19/01/18(金)00:43:06 No.562788957
働きすぎダメゼッタイ
76 19/01/18(金)00:43:36 No.562789082
>予知夢で未来が変わったかな… 佐賀の未来もか…
77 19/01/18(金)00:44:27 No.562789235
>一体どんな罪犯したらこんなバツを受けなきゃならないの… 雑な好感度チェッカーに頼ってみんなの気持ちにちゃんと向き合わないからですかね
78 19/01/18(金)00:44:44 No.562789284
完全にお父さんだな
79 19/01/18(金)00:45:18 No.562789428
つまり佐賀が繁栄しては困るものの犯行か
80 19/01/18(金)00:45:40 No.562789520
>>一体どんな罪犯したらこんなバツを受けなきゃならないの… >雑な好感度チェッカーに頼ってみんなの気持ちにちゃんと向き合わないからですかね そ、そんな…好感度チェッカーは完ぺきだって…