虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    19/01/17(木)22:34:43 No.562753838

    吾輩はロメロ。この洋館を守護する番犬である。 だが我輩の精神は単なる犬ではない。御主人である巽幸太郎を守護るべく、屍としての生を得た一人の紳士たる存在である。 御主人と我輩だけの住まいであったこの館にも、随分と人間が増えた。 その人間たちは同じ屍ではありながら、我輩と比べて随分と騒々しい者たちばかりである。住み始めた頃の静けさはもはや存在しない。 だが、それを御主人は喜んでいる様子だ。 ならば受け入れるべきであろう。御主人の喜びは、吾輩にとっても喜びであるからだ。

    1 19/01/17(木)22:35:12 No.562753972

    「いっくよー! マジカルー、シュートッ!」 行動と一致しない掛け声と共に投擲された飛行円盤(注:フライングディスク)は、太陽の光で影を作りながら放物線を描いた。 我輩はその影を追い走る。頭上を確認しながら速度を緩めぬまま跳躍。空中で円盤を噛み締めることに成功する。 着地した我輩は踵を返して元の場所まで戻る。そして頭を上げ、咥えた円盤を投擲した人間に差し出した。 「よーしよし。ナイスキャッチだよロメロ!」 円盤を受け取り、小さな手で我輩を撫でるのは、長い毛をひとくくりにまとめた青毛の雄。名は『星川リリィ』と呼ばれていたはずだ。 七人の屍たちの中でも星川リリィは我輩と一緒に居る時間が多い。聞き及んだ所によるとどうやら一番年若く、いわゆる子供と呼ばれる年齢であるらしい。 そのためか星川リリィは常に動き回っている。他の人間達が動きを止めて休憩している最中でも、このように我輩の所に来て戯れているのだ。 子供には永久機関が搭載されている、と御主人は語っていたがまさにその通りだろう。

    2 19/01/17(木)22:35:43 No.562754090

    「よーし、今度はとれるかなー?」 そう言うと星川リリィはおもむろにその場で回転する。遠心力を用いて遠くまで飛ばすつもりであろうか。 「マーブルー、スクリュー、シューーートッ!」 顔が分裂するほどの高速回転の後に放たれた飛行円盤は、先程より強い勢いで飛翔する。我輩もそれを追おうと走り出す。 が、円盤は大きく左に逸れ、洋館の植木に激突して植え込みの中に潜り込んでいった。 「ありゃー、飛ばしすぎちゃったよ」 そんな星川リリィの声を後ろに聞きながら、我輩は円盤が落ちた植え込みへとたどり着く。頭を動かし、周囲を探ってみるがそれらしきものは見えない。 「ロメロー、あったー?」 遅れて走ってきた星川リリィも円盤を探し始める。視点が高い分、我輩よりも見つけやすかろう。 だが我輩は犬である以上、捜索で負けるわけにはゆかぬ。この感情は本能である。 優れた嗅覚を用いながら植え込みに頭を突き入れる。その先に目的の飛行円盤を見つけることができた。

    3 19/01/17(木)22:36:13 No.562754251

    円盤を咥え星川リリィの下へと向かうが、その様子がおかしい事に気づく。 星川リリィの視線は、洋館を囲む石垣から伸びる鉄柵の向こう側。その先を見据えて止まっていた。 いったい何事であろうか。我輩は咥えていた飛行円盤をひとまず置くと、石垣へと跳躍する。そして前足で掴まりながら、星川リリィと同じように鉄柵の向こう側の光景を除いた。 鉄柵の向こうには、洋館近くの公園がある。そこには三人の人間と、一匹の犬が居た。 星川リリィよりも小さい人間の雄が、飼い犬であろう大型犬と戯れ、その姿をベンチに腰かけた二人が見つめている。おそらくは親子なのであろう。何処にでもあるような休日の光景。 しかし分からぬ。この光景に何を思うことがあるのだろうか。 そのような疑問を抱いた時、突然吾輩の体が持ち上げられた。そのまま体全体が包まれる感覚。視線がすとんと下に落ち、石垣しか見えない状態になる。 何事かと視線を巡らすと、どうやら星川リリィが吾輩を後ろから抱き寄せ、自らはしゃがみこんだようであった。

    4 19/01/17(木)22:36:44 No.562754404

    「・・・大丈夫。平気だよ。リリィは平気。みんながいるもん」 吾輩の背後からぽつぽつとそんな言葉が聞こえてくる。 しかし、吾輩の背中に押し当てられた星川リリィの心臓の鼓動は、文字通り正確な心境を伝えてきた。 大丈夫『寂しい』 平気だよ『会いたい』 リリィは平気『でも大丈夫』 みんながいるもん『みんながいるから』

    5 19/01/17(木)22:37:14 No.562754562

    子は親の愛を受けて育つ。人間も犬もそれは変わらぬ。 星川リリィが一番年若いということは、一番その時間が短かったことに他ならぬのではないか。 吾輩は抱えられた身をよじり始めた。星川リリィも吾輩の意図を察したのか、正面から向き合う形で吾輩を抱え直す。 「なになに、どしたの?」 困惑する星川リリィの顔に、頬に、我輩は舌を這わせる。見えぬ涙を拭い去るように。 「わ!? もーくすぐったいよー! ロメロったらー!」 心配することはない。心細いやも知れぬが、ここには御主人が、仲間が、我輩が居るではないか。 その思考を音に込めて、我輩は鳴き声をあげる。 「遊び足りないの? でもリリィはこれからレッスンだから、またあとでね」 ふむ、やはり言葉が伝わらぬというのはもどかしい。

    6 19/01/17(木)22:37:41 No.562754700

    星川リリィは我輩を左手に抱え、右手で飛行円盤を手にすると踵を返して洋館の方へと歩き出す。 再び我輩は、背中に星川リリィの鼓動を感じる。その音は、心なしか楽しそうに脈打つようであった。 「ねぇ、今日はいっしょに寝よっか、ロメロ?」 その提案に、我輩は肯定の鳴き声で答えるのだった。

    7 19/01/17(木)22:40:24 No.562755518

    ロメロはんは優しいお犬さまでありんすねぇ…

    8 19/01/17(木)22:44:16 No.562756620

    んんんん…切ないけど好き…

    9 19/01/17(木)22:45:20 No.562756927

    ほのぼのの中に寂しさもあり 切ないでありんすな…

    10 19/01/17(木)22:46:07 No.562757154

    ロメロシリーズいいでありんすな…

    11 19/01/17(木)22:47:15 No.562757486

    ロメロはいい奴だな…

    12 19/01/17(木)22:59:13 No.562761134

    リリィはん‼(ガシッ

    13 19/01/17(木)22:59:19 No.562761164

    よかでありんす…

    14 19/01/17(木)23:02:25 No.562762028

    ロメロはん…(ナデェ

    15 19/01/17(木)23:08:57 No.562763881

    リリィはんの子供感が良かったでありんさ

    16 19/01/17(木)23:23:36 No.562768256

    よか…

    17 19/01/17(木)23:26:48 No.562769198

    この雰囲気好き・・・・

    18 19/01/17(木)23:27:44 No.562769466

    紳士を自称するだけあるな…

    19 19/01/17(木)23:28:16 No.562769596

    やさしい せつない あたたかい・・・

    20 19/01/17(木)23:28:19 No.562769610

    ロメロはん来てる! 紳士だぜ…

    21 19/01/17(木)23:28:56 No.562769757

    やはりロメロのメンタルケアは効果抜群だな…

    22 19/01/17(木)23:31:05 No.562770351

    心に沁みるよい怪文書じゃ…