虹裏img歴史資料館

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18/12/20(木)23:13:54 「ねえ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1545315234119.png 18/12/20(木)23:13:54 No.555933091

「ねえ、サイゼ」 「巽幸太郎さんじゃい」 アルピノライブ本番が刻一刻と迫る某日、屋敷の廊下で無礼極まる呼び止め方をされた。 先生はトイレではありません。巽幸太郎は憮然としながら振り返り、声の主――源さくらと正対する。 「名前なんて記号だーとか言いよらしたとはどこのどなたでしたっけ」 「……巽幸太郎さんじゃい」 また負けた。瞬殺だ。記憶が戻ってからというもの、小賢しい屁理屈の増えたさくらに幸太郎は手を焼いていた。 しかしこれも源さくらの偽りなき一面だ。心優しい努力家が源さくらなら、聡明な現実主義者も源さくらなのだ。 そしてそんな彼女を決して見捨てないと、幸太郎は誓ったのだ。 「おなか空きました。なんももっとらん穀潰しですがランチを要求します」 「……一言余計なんじゃボケェ」 だから素早く本日のスケジュールを確認すると、溜息ひとつ、これから片道60km一時間半を走る車の鍵を取りに私室へと向かうのだった。

1 18/12/20(木)23:15:36 No.555933572

迫りくる「その日」はアルピノライブだけではない。師走に聳え立つビッグイベント――クリスマス。まさにXデーである。 ここモラージュ佐賀にもクリスマスの波は申し訳程度に押し寄せており、通路スペースにはクリスマス関係の雑貨が並び、少なめの県民が殺到していた。 それは、十年の歳月を飛び越えて現代に蘇ったさくらには未だに見慣れない景色だった。 「ぅわ、わわ」 人混みでまっすぐ前に歩けない。佐賀なのに。ついでに通路を挟んで左右両方に靴屋があるのも意味が分からない。 ここは本当に佐賀なのか。そもそも地元唐津市とは距離があるが、そんな物理的な問題は瑣末なことだった。 生きて、死んで、蘇って。 時間も場所も何もかもが、さくらを置き去りにして行ってしまったようで。 そして残ったのは怪しいサングラスの知らない男。 「……もっとらんなぁ」 呟いた時だった。ふと気が付く。 「あれ?」 幸太郎がいない。

2 18/12/20(木)23:16:14 No.555933726

滑り込みきたな…

3 18/12/20(木)23:17:58 No.555934195

「あっ」 いた。いなくなったわけではなかったが、いつの間にか遠く離れたところを歩いていた。 両者の間には黒山の人だかり。幸太郎の長身が功を奏して、見失う恐れはないのだが。 「ちょ、ちょっと!」 急な不安に駆られ、さくらは足早に幸太郎を追いかける。だが喧騒の中、声は届かなかったようで幸太郎が立ち止まることはない。 「すみません、通してください!……ねえってば!」 呼んでも、呼んでも、声は届かない。雑踏を掻き分け進んでも、彼の元には届かない。 たかが地方のショッピングセンターで連れとはぐれそうになっているだけなのに、さくらにはそれがとても恐ろしいことのように思えた。 今度こそ、歯車のズレた歪な世界で独りぼっちになってしまうように。 あんな男、いない方がきっと清々するのに。誰かに、あんな男に期待したところで、どうせ裏切られるに決まっているのに。 それでもさくらは走らずにいられなかった。その時、そんな彼女の耳に、不自然なほど鮮明な声が響いた。 大丈夫。怖がらんで、手を伸ばして。そしたら、きっと――ね、幸太郎さん? 「お?」 ――無意識に伸ばした手は、幸太郎のジャケットの端に届いていた。

4 18/12/20(木)23:18:55 No.555934449

持っとるやん

5 18/12/20(木)23:19:29 No.555934590

「なんじゃいお前、白昼堂々ハァハァしよって」 ようやく捕まえた幸太郎だが、当然というべきか呑気そのものといった様子だ。青白い顔で呼吸を乱すさくらを見て眉をひそめている。 今さくらの脳内では、いくつもの言葉がぐるぐると巡っていた。 この裏切り者。見捨てるんですか。独りにしないで。あなたしかいないのに。 それら聞くに耐えない泣き言の尽くが自分の心から漏れ出たものだとは到底認め難く、ブンブンと頭を振ってすべて追い出してやった。 どうしてこんな男を信じようと思えるのだろう。 信頼に足る材料など何一つ“もっていない”この男を。 どうしてこんな男に触れているだけで、こんなにも心が安らぐのだろう。 どれだけ考えても答えは出ず、しかし確かな正解を既に“もっている”と、心は告げていた。 ただし、それを素直に認めるのは癪なので。 「……はぁー……あなた、女の子にモテないでしょ」 「なんなんじゃい!?」

6 18/12/20(木)23:22:50 No.555935504

「図星ですか」 「ちちちちがわーい! おまっ、モッテモテやぞ!? わしゃ佐賀でも上から数えた方が早いくらいのプレイボーイやぞボケェー!!」 「どこの田舎に女の子のペースば無視して人混みを突き進むプレイボーイがおるとですか」 「……こちとら九州男児じゃボケェ!」 「時代錯誤も甚だしかですね。頭腐っとるとっちゃなかですか」 「……ぼけぇ……」 幾分気分がすっきりしてきた。イニシアチブさえ取れれば、このサングラス男など恐れるに足りない。 「まあ? あなたのごたっ人に最初からエスコートなんて期待しとらんけん別によかですけどね」 「……」 「後学のために教えてあげますけど、こういう時はせめて歩調ば合わせるくらいのことはしてほしかですね。手でも繋げたら上出来ばってん、まあ誰もあなたにそこまで」 「これでいいか?」 ぎゅっ、と。 幸太郎は優しく、力強く、いともたやすくさくらの小さな手を包み込んだ。 「はひぇ」 さくらの口からは、聞いたこともないような音が漏れた。

7 18/12/20(木)23:24:20 No.555935894

幸太郎はん!!!

8 18/12/20(木)23:29:42 No.555937377

くそっ、合間に読もうと思ったけど読みきれない!

9 18/12/20(木)23:29:58 No.555937470

最終回直前でこの所業はさすがでありんすな!!!!!!!!

10 18/12/20(木)23:32:31 No.555938322

「どうやら不安にさせてしまったようだな。すまん」 「な……な……!?」 口をぱくぱくと動かすが、一向に事態を飲み込めない。飴玉でも舐めたような、甘ったるい錯覚がした。 「これからは絶対にこの手を離さん。だが嫌なら言え。疲れたら休め。俺も付き合ってやる」 「そん、っな」 言葉を上手く紡げない。そんなもの必要ない気さえしてくる。今、胸の内に満ちる何かを、不用意に動きこぼしたくなかったから。 「腹が空いたな。そろそろ行くか」 やがて幸太郎は踵を返して歩き出すが、そのスピードは先程に比べればずっと遅く、握った手で繋がるさくらのことを気遣っているのが明らかだった。 「あの、」 それでもやっとのことで一言。今の気持ちを、なけなしのオブラートに包んで、一言。 「………………今日はサーティーワン、ダブルでよかです」 「……まだ食い過ぎじゃろがい、ぼけー」

11 18/12/20(木)23:34:58 No.555939239

あっおなかいっぱいです

12 18/12/20(木)23:35:44 No.555939485

よかったいよかったい

13 18/12/20(木)23:42:18 No.555942002

水野愛は激怒した。 必ず、かの邪智暴虐のサングラスを除かなければならぬと決意した。 愛には九州がわからぬ。愛は、東京の人である。肉を焼き、羊と遊んで焼いて食った。けれども動体視力に関しては、人一倍に鋭敏であった。 今日の午前中からホワイトボードにランチの文字を残して消えた我らがプロデューサー巽幸太郎。そしてチームメイトである源さくら。 それが日も暮れかかった頃にようやくお帰りあそばされたのだから、水野愛は激怒した。 苦虫を噛み潰したような顔の幸太郎と、その手を握って離さない、なにやら満ち足りた雌の顔をしたさくらの姿を目撃したのだから、フランシュシュ一同は激怒した。 今日の天気予報は曇のち雨。ところにより雷雨。今夜のミーティングは荒れる。 水野愛は野外ライブの落雷で死んだ。

14 18/12/20(木)23:42:54 No.555942233

なんなの!?

15 18/12/20(木)23:45:14 No.555943297

最終回の裏でなんなの!?

16 18/12/20(木)23:46:11 No.555943638

強制オチ

17 18/12/20(木)23:51:41 No.555945829

怒りが雷鳴呼び寄せる

18 18/12/20(木)23:57:01 No.555947673

いい…

19 18/12/21(金)00:01:07 No.555949231

ラスト闇だったか…

20 18/12/21(金)00:02:24 No.555949726

不安になる闇さくらやーらしか

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