虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

1 18/12/12(水)00:17:01 No.553883927

「さて……どうする」 タオルで全身を拭かれ、ミルクを飲む子猫を７人が取り囲む。 「どうって、雨に濡れて弱ってるんだから保護してあげないと！」 「くり返すがアタシは反対だな」 サキが腕組みをして冷たい目で言い放った。 「アタシらゾンビ、生きてるものを飼ってどぎゃんすると？」 「でも……！」 「私も二階堂さんの意見に賛成です。生者と死者が交わることは良くない結果をもたらします。たとえ相手が猫であっても」 「でもサキちゃん、この子ほっといたら死んじゃうね？」 「それが自然の摂理だ……今日は雨が降ってるから屋敷に入れるが、あしたは外に出す。それにロメロもいるしうまくやっていけるか分からない」 「う……」 とりあえずは今日は寝よう、ということになり、小猫は部屋の隅にバスタオルを敷いて寝かせることにした。 「おやすみなさい」「おやすみ」「う゛ぉやす」

2 18/12/12(水)00:17:27 No.553884073

全員が寝静まる頃、サキの布団がもぞもぞする。 「うーん……こら、追い出すぞ！」 首を摘まんで布団の外に放り出す。また布団に入ってくる。 これを２、３度繰り返し、サキは折れた。 「今日だけだぞ？」「にゃぁ」 猫を押しつぶささないように横向きに寝るサキの懐で、子猫はゴロゴロと喉を鳴らす。 「ふん」 猫を撫でながら、サキもやがて眠りに落ちていった。 朝。状況は一変した。 「……アタシからグラサンに交渉してみる、猫１匹増えたところで大して変わらんばい。ロメロは屋敷の外に出ちょるし」 「え……、サキちゃん？」 「み、みんなのためを思ってだぞ、アタシはどうでもいいんだが……」 言葉を濁らせるサキに、みんなが肩をポン、と叩いていく。 「ありがとうサキちゃん！」「がばい嬉しい！」「まぁ、二階堂さんがそこまで言うなら……」「あなたにも可愛らしいところがあるのね……ありがと」「ヴェォアー」

3 18/12/12(水)00:17:49 No.553884164

「猫なんか飼う余裕があると思ってるのかこんボケー！！」 ……というリアクションが帰ってくると思ったサキは、幸太郎のシャウト覚悟で身構えていたが、帰ってきた答えは意外なものだった。 「世話をするのはお前らだ、俺は一切手をださん、いいな？」 「お、おう……ありがとよ！」 「餌代はお前らの小遣いから引いておく、いいな？」 「お、応よ」 「……お前らきっと……、いや、何でも無い」 「？」 歯切れの悪い幸太郎の言葉が頭に引っかかりながら、サキは幸太郎からもらった許可をみんなに伝えるために小躍りで大部屋に向かった。 子猫は７人によく懐いた。 心配していた「たえちゃんが食べる」こともなく、肩の上に登ったり、膝の上で眠ったりする様になった。 「ヴァー、ゴロゴロゴロ」たえが膝の上で丸まる子猫をそっと撫で、喉を鳴らすまねをする。

4 18/12/12(水)00:18:05 No.553884218

「良かったね、がばい慣れとる」 「あー！　リリィも猫ちゃんと遊ぶ―！」 猫じゃらしを手にしたリリィがたえの膝上でふりふりと振ると、子猫はちょいちょいと手を出してじゃれついてきた。 ７人は猫で結ばれ、猫で幸せを分かち合った。

5 18/12/12(水)00:18:58 No.553884456

>「おやすみなさい」「おやすみ」「う゛ぉやす」 たえちゃん喋っとる！

6 18/12/12(水)00:20:25 No.553884791

・・・・・・・・・・・・・・ しかし、幸福な時もながく続かなかった。 「幸太郎さん大変どす、猫ちゃんがぐったりしてるでありんす……」 「なんとかしてくれグラサン！！」 「おう、動物病院に連れてってみるか」 数時間後、幸太郎は沈痛な面持ちで帰ってきた。 「ど、どうだった？」 「症状は軽いんだよね？」 かぶりを振る幸太郎に、ゾンビィたちの顔が一気に青ざめる。 「雨に打たれたせいで体が弱っちょる、今夜が峠だそうだ」 「そんな……！」 栄養のある流動食を食べさせる、ミルクを与える、暖かい毛布で包む。 最善を尽くした、子猫もそれに応えようと顔を上げ、か弱く「にゃぁ」と鳴いて見せた。 だが……子猫は朝には冷たくなっていた。

7 18/12/12(水)00:21:00 No.553884918

「ひどいよ、こんなのってないよ……！」 「ぶっ殺す、猫を殺した病原菌をぶっ殺す」 「まだ名前も決めてなかったのにぃ……うぇぇぇ」 「悲しいです、酷いです、あんまりです」 「ほんの数日だったのに、こんなに悲しいなんて」 「まだ、温かいよね？」 「「！！」」 さくらの言葉に、何かを感じた５人が一斉に向きやる。 「幸太郎さんに頼めば……その……」 「止めとけ」 「え……？」 サキがさくらの目を見据えて言った。 「生き物はみんないつかは死ぬ、その決まりを破ったのは私たちだ。これ以上私たちを増やすわけにはいかない」 「でも……でも……」

8 18/12/12(水)00:22:17 No.553885212

「さくら、ゾンビィになったらもう死ねないかも知れん。いや、まともな死に方は出来んだろう。それを押しつけるのは傲慢以外の何物でも無い」 「……」 「猫の死は悲しいが、私たちの二の舞にならないように、しっかり送ってやろうじゃないか」 「生き死にの摂理を歪めるものを、この館の外の者に押しつけるのは傲慢でありんすねぇ……悲しいでありんすが」 7人のすすり泣きが、冷たくなりゆく猫を囲んでいつまでも続いた。 ・・・・・・・・・・・・・・ 洋館の庭に小さな土まんじゅうが作られた。 「名前が無いままじゃ、可哀想だ」 「サキちゃんとたえちゃん、リリィちゃんの名前の頭文字をつけてあげようよ」 「……ちょっと恥ずかしいな」 『妙崎リリのお墓』 土まんじゅうの上に設えられた小さな墓標には、そう書かれてあった。

9 18/12/12(水)00:22:39 No.553885300

おしまい

10 18/12/12(水)00:23:19 No.553885479

切ない…

11 18/12/12(水)00:24:11 No.553885684

やめて やめろ

12 18/12/12(水)00:24:15 No.553885699

やめてよ1日の終わりにして悲しいのお出しするの！

13 18/12/12(水)00:24:24 No.553885733

よかったいよかったい… それはそれとしてスレ画はなんなの…

14 18/12/12(水)00:25:00 No.553885883

スレ画でめちゃくちゃ嫌な予感したわ！

15 18/12/12(水)00:25:17 No.553885943

これもまたゾンビィたちのひとつの「覚悟」…

16 18/12/12(水)00:25:48 No.553886070

ギャグかと思うじゃん！スレ画でギャグかと思うじゃん！！

17 18/12/12(水)00:26:10 No.553886152

たえちゃんと猫の存在感で笑ってしまった

18 18/12/12(水)00:29:19 No.553886876

ロメロみたいにゾンビ猫として復活！とはいかんだろうなぁ…

19 18/12/12(水)00:30:45 No.553887132

まあ生物の理を曲げるのは本来禁忌だしね…

20 18/12/12(水)00:36:03 No.553888221

ロメロの存在が気になるな…

21 18/12/12(水)00:39:22 No.553888939

つらみ…

22 18/12/12(水)00:40:20 No.553889135

ゾンビ猫は商標登録されてるでありんすからなぁ…

23 18/12/12(水)00:41:55 No.553889426

ギャグだと思ってたのになんで…

24 18/12/12(水)00:43:17 [sage] No.553889702

スレ画までおつらくするのはどうかなと思って…

25 18/12/12(水)00:45:44 No.553890166

ああ…なるほど…

26 18/12/12(水)00:46:57 No.553890384

孤独に死なずに済んだからまだ救われた…と思いたい

27 18/12/12(水)00:49:14 No.553890835

すごく良く出来てて、だからこそ悲しい

28 18/12/12(水)01:00:09 No.553892628

佐賀なんだから化け猫拾っとけよ！

29 18/12/12(水)01:15:19 No.553894838

ペットセメタリーって映画があったな…