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    18/12/09(日)23:34:31 No.553448850

    オジュ夢女子(ナーセットに完全敗北) ↓前提 https://mtg-jp.com/reading/ur/0014484/ ウェイミは大きく伸びをして、全身の力をゆっくりと抜いた。4歳の頃に父から教わった一連の動作は、彼女が父と共に過ごした時間よりもそれ以降の時間が多くなった今でも変わらず続けられていた。 ゆっくりと肉体を解し、長い時間をかけて柔軟をする。その中で浮かんだ雑念を一つ一つ殺し、たった一つだけ残る感情がある。もっと高く。 真理とはウェイミにとって価値のあるものなのか、正直に言うと彼女はまだ理解していなかった。彼女の父は8つの時にコラガンの龍と戦い死んだ。その日まで一日も欠かす事なく父は子にその事を教えた。 「もっと高く」 父は瞑想に入る前に口にした。意味も分からず、ウェイミもそれに従った。高く。それはタルキールの空を飛ぶ龍のように?彼女の想像は平凡なものであったが、同時に、純粋な好奇心に基く喜びに溢れていた。 ウェイミが再び目を開くと、幼き記憶は靄のように消えた。瞼の裏だけに存在する世界、それに何の意味がある? 苦笑し、彼女はかぶりを振った。

    1 18/12/09(日)23:35:03 No.553449016

    父が死んでから12年、呪拳士の肉体は最盛期を迎えようとしていたが、彼女が本当に欲しているものは違った。心の奥に眠るものは父の与えてくれた瞑想の先にあるはずだった。 さて、優れた人間の中には空智の弟子になる者もいると言う。人の一生では決して知り得ない程の神秘を龍より与えられる。それはまさしく光栄なことだろう。 果たして自分にその名誉が与えられるだろうか? ウェイミの心は肉体と比べ酷く不完全なものだった。好奇心が未熟な心を引き振り回し、それは時に彼女の視界を奪う。不完全で、弱く、情けなかった。彼女の理想とはかけ離れている。 彼女の父は彼女に肉体と精神の調和を説いた。自分の欠点を把握していた。しかし、それでも、自身の不安定さを正すことが出来ないでいた。 「どうした、ウェイミ。集中が乱れているぞ」 「すいません、考え事を」 アジ師は岩のような無機質な瞳でウェイミを見つめ、それだけだった。父の亡き後、彼女の師となった叔父は殆ど何の表情も見せない。 「……雑念を払います」 「水鏡を前にすると良い。自分を見ることだ」

    2 18/12/09(日)23:35:21 No.553449109

    噂ではアジは空智に選ばれ別の聖域で修行をする予定だったらしい。それが彼の兄の死と、一人残された私を引き取る為に断ったのだと。 どうしてなのだろう。私はそれ程の価値があるのだろうか。 ウェイミは水面を見た。風にそよぐ湖を見た。そこに映る自分を見た。水面を走る波紋に揺らぎ消える自分を。 それは、その揺らぎを含めて、ウェイミ自身だった。 そっと触れると水面は彼女の顔をかき消した。深く暗い水中の闇が冷たい感覚を指先に残した。これがウェイミだった。 「分かったか、お前自身が」 気付くと、アジ師は背後に居た。 「この池はお前だ。底が見えない程に深く、大きい。この水面はお前だ。不確かで、触れられれば乱れてしまう。ウェイミ、心はお前の内側にある」 アジはそう言うと、ゆっくりと構えた。余りにもゆっくりと、しかし、一部の隙もなく。余りにも優雅で全く見惚れる程に、 「思索はここまでだ。次は武術に入ろう」 精神的修養と肉体的修練を交互に行い、やがてそれは同時に出来るようになる。ウェイミの父も、アジも同じことを言っていた。彼女は未だ、それが理解出来てはいなかった。 「はい」

    3 18/12/09(日)23:35:38 No.553449205

    ウェイミもまた、同様に構えた。父から教わった、アジと同じ型を。 二人の呪拳士は拳を交えた。互いの魔法を唱え、切迫する勝負に神経を張り詰め、全ての感覚で闘いに臨んだ。 アジは優れた拳士で、そして、ウェイミはそれ以上に優れていた。より速く、より鋭い拳がアジを打つ。苦しい顔でアジはそれを捌き、魔法的防御で受け流した。ウェイミの右拳を払った味の左腕は彼がそれまで胴を守っていたもので、即ち彼の防御は今不完全だった。 勝った! ウェイミがそう思った瞬間、その鳩尾に拳を叩き込もうと構えた瞬間、世界はひっくり返った。 師は一分の隙を見逃す事なく弟子の足を払うと、宙を舞う身体に容赦のない蹴りを叩き込んだ。地面を無様に転がり、たったの一撃でウェイミは負けたのだ。 「集中が途切れていた。──まただ」 息一つ乱さずにアジ師は言った。私は返事をする事しか出来なかった。集中。誰もが簡単そうに言うけれど私の意識は常にどこか一つに向かうことは無く、それは大抵悪い方向に働く。 「お前は水に手を伸ばしたな。私は見ろと言ったのに。お前はどうなるのかを知りたくて行動するが、どうなりそうかを考えない。感情が先に走っている」

    4 18/12/09(日)23:36:01 No.553449327

    弟子に語る声でアジは言った。淡々と、だが、容赦なく。 「ウェイミよ、お前は──」 カーン。 アジの言葉は鐘の音に遮られた。続く混乱が騒然を引き連れ、二人は別種の臨戦態勢に入る。 「龍か!?」 剃毛した高弟の一人が駆け込んだ。その手には鮮血の滴る刃が握られている。 「敵襲です!シルムガルの略奪隊です!」 言うが早いか高弟はアジにその獲物を投げ渡した。煌めく鉾の刃が空中に軌跡を描き、アジは叫んだ。 「すぐ向かう!……ウェイミ、お前は残れ!」 「はい!──えっ?」 それは、今まで師に投げかけられた言葉の中で最も屈辱的なものだった。有無を言わさぬ語調が不可抗力的に彼女を傷付けた。 「何故ですか!私は戦えます!」 ウェイミの言葉に、雅刃の師は鉾を以って答えた。残像だけが鮮やかに瞳に焼きつき、刃は彼女の眼前にあった。 「──お前は、未熟だ。ここに残り人々を守れ」 アジの言葉には有無を言わさぬ力があった。或いは、魔力的な命令を込めていたのかもしれない。本当に重要なことはそうではない。

    5 18/12/09(日)23:36:21 No.553449425

    足手纏いなんだ、私は。 帰ることのなかった父の背中を思い出し、ウェイミは泣いた。心理の漣は踊り波紋は泡立ち、しかし、そうしている場合でも無かった。アジはウェイミの青龍偃月刀を置き、行ってしまった。 行かねばならない。守らねばならない。出来ることをやらねばならない。 ウェイミは素早く見張り台から戦場を一望した。シルムガルの龍は存在せず、ゾンビと思われる大軍を数人かの屍術師が率い、それを十程度のオジュタイの戦士達が迎え撃つ。数的には不利だが、アジとその戦士は圧倒的に優勢だった。 妙だ。屍術師達はまるで攻める気がなく、寧ろ時間を稼ぐようにゆったりと攻めては引くのを繰り返している。数にものを言わせて攻め込むことも出来るだろうに機を見ているようだ。 粘つく油の様な疑問がウェイミに浮かぶのと同時に、反射的に彼女は飛び上がって居た。 「何者だ!」 刺客。気配を消すのに慣れていない、恐らく未熟者。

    6 18/12/09(日)23:36:45 No.553449571

    飛び出したナーガの長い尾はウェイミの身体を目掛け伸びる。偃月刀の柄でそれを払うとそのままの回転に任せて刃がナーガの頭に振り下ろされた。腕ごと頭部を切り裂かれ断末魔を上げることも無く崩れた死骸を蹴り飛ばした。もしもあの大軍が陽動なら。 隠れ潜む敵を見つけるのに一番有効な方法は何か。敵を知り、隠れる場所を知ることだ。そして私は生まれ育った街を知らない筈がない。隠れられる全ての場所を知っているつもりだった。 侵入者は一人ではない筈だ。私が守る。師が、父が、守るように。 ナーガの賊が何人か街中で人々を襲っては逆に返り討ちに遭い、聖域は混乱が溢れていた。オジュタイの人々は皆幼き頃より修行者だ。彼らが簡単にやられる筈はない。 だからこそ安心は出来ない。敵もそれを承知でこの作戦を取っているのだ。侵入者は少数精鋭か、或いは先鋒か。どちらにせよ目立つ敵は陽動に思われる。あの大軍が囮なら、この混乱が餌なら、真の狙いはなんだ?シルムガルの強欲な侵略者が狙うものは── 寺院は今誰がいる?私を含めて皆出ている筈だ。寺院に保管された秘儀と教義、貴重な品は無防備だ。

    7 18/12/09(日)23:37:13 No.553449711

    ウェイミは駆けた。自分の弱点を理解すること。自分を知ること。成程、アジの言葉がするりと理解出来た。敵は弱点を突くのだから。 寺院の扉は破られ、案の定侵入を許していた。同じことに気付いたのだろう、弟弟子のテイスが鮮血の小湖の中で倒れ、数人の敵も同様に息絶えていた。まだ体温は残っており、つまり、賊はまだ近くに居る可能性が高い。 「テイス、仇は討つわ」 青龍偃月刀を再び強く握り、彼女は飛び込んだ。それと同時に巻物を漁る賊の姿が覗く。 「ふん、新手か!返り討ちにしてくれる!」 敵は6人。それぞれが刀と弓を持っていた。 飛び込む勢いのままにウェイミの刃はナーガの一人の片腕を切り落とした。 捕まれば勝ち目はなくとも案ずることはない。アジ師は、兄弟子達は皆あの数的不利の中で互角以上に渡り合っている。テイスはたった一人で何人も敵を打ち倒した。私にも同じことが出来る筈だ。 壁を蹴り、エイヴンの如く彼女は跳んだ。休みなく舞い刀を弾き、隙を突く。まるで舞のような攻撃と防御を的確に繰り返した。

    8 18/12/09(日)23:37:30 No.553449795

    ウェイミは忘れていた。ナーガの長い尾はそのものが武器であることを。そしてもっと致命的なこと、常に彼女は上手ではないと言うことを。 飛来する矢を弾いたその瞬間、尾の一撃に足を滑らせウェイミは床に転げた。同時に、偃月刀が手を離れ、代わりに拳を構えた。 「飛んでるだけで勝てると思ったか?」 ナーガの残酷な笑い声はしかし、届かなかった。 私は──その時、ウェイミの脳裏に水面があった。水面は揺れ、騒めき、そして深い底に眠るそれは目覚めた。 心は燃えていた。全身がそうであるように。ウェイミの肉体は研ぎ澄まされ、神経は張り巡らされ、今やこの室内の些細な変化に気付くだろう。敵の動きは緩やかで緩慢として無駄が多く、ウェイミはそれに合わせてただ刃を当てるだけで良かった。悲鳴が響くよりも早く次の刃を、血飛沫が上がるよりも早く次の刃を。 最早彼女に論理は一欠片も残っていなかった。 ああ、アジ師が言っていたのはこのことだったのだろうか? 私は湖。水面は止水と限らない。内に眠る力を解き放つ時、炎は爛々と輝き無慈悲に振るわれる。

    9 18/12/09(日)23:37:52 No.553449904

    突発的に流れた血を書のように滑らせ、気付けば彼女は刺客の全員を殺めていた。死体は無惨に散らされ、血液がべっとりと寺院の床を汚していた。 土が乾くようにウェイミの熱が引いていくのと同時に、彼女の意識も揺らいだ。薄ぼんやりとした記憶の中で、確かに戦いへの熱情があり、まるで望んでいないものだった。

    10 18/12/09(日)23:38:09 No.553449983

    目が覚めるとすっかり夜になっており、彼女は簡素な寝巻きに着替えさせられていた。同時に、酷い痛みが身体のあちらこちらにあり、月明かりに見れば彼女の腕には包帯が巻かれていた。 あの時ウェイミは感情に全てを任せて戦った。攻撃を受けたのだろうか。 苦々しい痛みに毒づき、しかしウェイミには起き上がる力もなかった。辛うじて意識はあるがそれだけだ。 忘れがたいのは痛みだけではない。脳裏に焼き付い全身の血液が沸騰するような戦中の没我もまた、恐ろしく同時に拒めないものだった。殺戮の中で確かに高揚があり、心躍る残酷があった。 「起きましたか、学徒さん」 泰然とした調子の声に振り向くと、窓の月光を象るエイヴンの影。闇に黒く塗られた中で尚その威厳に満ちた光は変わらず、その高貴な精神は数メートルの距離をものともせずにウェイミに触れている。見間違うはずもない。あり得ないようなことが続く日だった。 「貴方は……イーシャイ様……?」 龍語りのイーシャイ。大師オジュタイ様の龍語り。 その人物が、その職務として目の前にいる、それはとても名誉なことに思えた。

    11 18/12/09(日)23:38:37 No.553450130

    自然、溢れる感激を前にウェイミは頭を垂れようとし、悲しいかな全身の激痛に呻いた。 「よく御存じですね。ええ、ですが、無理に起きなくても構いませんよ」 その衣服は有り得ないほど精巧で美しく、その持ち主は有り得ない程に静かに彼女の横に降りた。 「痛むでしょう、呼吸を整えて」 そのエイヴンは手慣れた様子でウェイミを横にし、優しく笑った。 「貴女は特別な存在──貴女の師がそう言った時、私はにわかに信じられませんでした。私たちは。ですが」 師?アジ師がそんなことを? 混乱があり、光栄があった。いつも岩のように不動の彼が私をそんな風に? 「アジ師が……?」 「おや、聞いていませんでしたか。もう何年も前のこと、私はアジを龍眼の聖域に誘い、そして断られたのです。彼は自分以上に貴女が相応しいと、そう言ったのですよ。だから、貴女を育てると」 イーシャイは楽しそうに見えた。まるで素敵な思い出を振り返るように。 「そんなことが……」

    12 18/12/09(日)23:38:57 No.553450232

    「ええ。そして、真実でした。学徒さん、貴女は私たちに価値を示しました。とは言えもう少し制御が必要ですけどね。我らが最も好ましくない欠点とみなす物事はしばしば、我らの最強の利点となるのですよ」 そう言ってイーシャイは翼を、或いは両手を広げた。 「熱心な好奇を、直向な鍛練を、献身的な情熱を、オジュタイ様はご存知です。もちろん、私たちも」 心臓の早鐘が傷口に痛んだ。血液の循環が早まり、傷口に熱い感覚が走る。 月は依然明るいが、目の前の栄光はそれ以上に眩しくすらあった。 「本当ですか!」 「落ち着いて、深呼吸をしてください。龍眼の聖域では、常にオジュタイ様の意志に触れるのですから。」 何でもないことのようにイーシャイは言う。 落ち着く?そんなこと出来るはずもない!ウェイミは燃え上がる心を何とか鎮めようとした。結局、痛みに負けて彼女の意識は再び揺らいだ。 「貴女の傷が癒える頃、また来ます。それまでに自制をもっと身に着けることをお勧めしますよ、学徒さん。学ぶべきことは常にあるのです。それでは」 夢のような時間だった。私は選ばれた。認められた。 父の、師の教えは無駄ではなく、期待は無駄ではなかった。

    13 18/12/09(日)23:39:25 No.553450358

    全てはこの瞬間の為に──いや、違う。これから始まるのだ。 アジ師の顔は誇りに満ちている筈だった。 そうだろう、弟子が認められるということは師が認められるということ。そうであるのに、アジ師はやはり無表情であった。 彼女が歩けるくらいには回復しても、軽い柔軟や瞑想に顔を出せるようになっても、ついに身体の傷が完全に癒えてもそれは変わらなかった。 他の弟子と何ら変わらない扱いだった。 「師、先日のことなのですが……」 ついにウェイミは口に出した。このような行動が卑しいものであるのを承知で、それでもアジには喜んで欲しかったのだ。 彼が自らの栄光を手放してまで育てた私は、今、確かにオジュタイ様に認められたのだと。 「ウェイミ、湖に行け。自分を見つめろ」 一瞥もくれずにアジは言った。真意は分かりかねるが、アジは足早に自室へと消えた。 何故?どうして? 私はオジュタイ様の目に留まった。どうして胸を張ってはくれない。笑ってはくれない。 懸念を振り払えないまま、ウェイミは湖まで来た。 湖面は静かで、風すら吹かない静寂の中で空を完璧に映していた。 ウェイミは大きく伸びをして、ゆっくりと全身の力を抜いた。

    14 18/12/09(日)23:39:46 No.553450446

    思えば、4歳の頃に父から教わったこの柔軟を暫く休んでいた。ほんの少しの間のことだと言うのに、肉体はずっとそれを待ち焦がれていたようだった。 水面は凍り付いたかのように停止していたが、それは彼女の見たいものではなかった。 あの時、内側から溢れた感覚の根源が、血液すら沸騰させる炎がこの湖底にあるとは思えなかった。 師の言葉の本意は何だろうか。 「湖は私。水面は私」 それは脆さの象徴のように投げかけられた言葉だったが、酷く不安定な心はそのままに水面は寒気すら覚える程に不変の止水のままである。 彼女はそっと手を伸ばした。そうすれば波紋が広がるから。その内にいる何かが目覚めるかもしれないから。 「教えて下さい。私は何なのか」 「悟りを求めよ」 声は、超自然的な響きは、水面に映る主のものだった。 上空、その巨影は音もなくそこにいた。翼の羽ばたきはゆったりとしており、それは湖面に一つの漣も立てなかった。

    15 18/12/09(日)23:40:15 No.553450586

    「知恵を追い求めよ」 水鏡より、それが龍王であることは明白であった。如何にしてかその意思の力は彼女の精神に響き、殆ど知る筈の無い龍詞が彼女に向けられた内緒話のようですらあった。 有り得ない。けれど、今、彼はここに居た。私に教えを与えて下さった!彼の言葉を私は聞き取れていて、それが誇らしかった。 「貴方は……」 ウェイミは半ば無意識に首を垂れた。腹部に癒えない傷の痛みが走ったが、それすらどうでもよかった。 オジュタイ。偉大なる龍王。彼が居るのだ。私の前にいるのだ。 それはあの日、イーシャイの訪問を強く思い出させた。そうだ、私は選ばれたのだ。そうであるなら、失望させるわけにはいかなかった。 師が私に課題を課したのであれば、それをこなさなければならない。 師が私を褒めてくれずとも、師は把握をしているのであれば、それ以上の行動は不要なのかもしれない。 アジの顔を浮かべ、しかしウェイミは首を横に振るう。 「さて、道は見えるかね?」 ゆっくり、大使は問うた。舌のちらつき、翼の揺らぎ、咆哮と吐息、その些細な龍の変化が彼女には良く見えた。

    16 18/12/09(日)23:41:29 No.553450951

    しかし。 「道は、道は見えています。ですが、歩み方が分からないのです。私は知りたいのです」 きっとそれは不格好で酷く訛った発音なのだろうが、彼女は自分の感情を龍詞で紡いでいた。 自分でも驚くべきことだった。 「よろしい」 そして、オジュタイは答えた。堂々と胸を張り、長い腕を振り。 「学びたいと願う者に、私は教えるであろう」 龍王の姿は、水面に凍ったようなその姿は、その言葉と共に消えてしまった。 だがウェイミは確かにその存在を感じたのだ。知るべきことは全て龍王が知っている。名誉や栄光の為ではない、私が知る為に。水面は再び風に揺れた。ざわめき、世界が動き出したようだった。 「気付いたか、ウェイミ」 アジ師の声は優しく、それは記憶に薄っすらと残る父のそれと重なった。

    17 18/12/09(日)23:41:48 No.553451045

    「ええ、ようやく」 師の笑顔は初めて見た。けれど、やはり、どことなく父親に似ていた。 「それで良い。水面は心。お前は落ち着きがなく、だが好奇心に満ちていた。それが静まっていたのはお前の心が停滞していたからだ」 「けれど、湖は深い。気を抜けばそれは私をも食らってしまう」 アジの言葉に続けてウェイミは言った。今や、世界の全てが完璧に思えた。まだ悟りへの第一歩に立ったに過ぎないにしても、これまでの世界が一新されるようだった。 これから先、オジュタイの下で学ぶとして、あと何度この感覚を知るのだろう?ウェイミは一瞬それを想像して、その途方もなさに眩暈がした。 決して知り得ない沢山のことを知れる。それは素晴らしいことだった。 「悟りへの道は一つではない。ウェイミ、お前の道が幸多からんことを」 師はそう言って、ゆったりと構えた。 ウェイミも、それに応じた。 「ありがとうございます、師よ」

    18 18/12/09(日)23:42:12 No.553451151

    アジは防御的な構えが得意だった。そしてウェイミは、その逆だった。 そのせっかちな性格が、先天的な柔らかいばねが、優れた反射神経と抜け目ない観察眼の全てが彼女を速さに結び付けた。 フェイントを織り交ぜてウェイミは果敢に師を攻め、師はそれをやはり受け流した。 後ろに下がると同時にアジの拳を完璧に躱し、その時ウェイミは初めて見えた景色があった。 ああ、そうだ。距離を取って闘う、というのはこういうことなのか。 その時ようやく、アジの狙いが読めた。 普段であればウェイミはそれを紙一重に躱して追撃を狙うだろう。それがアジの罠とも知らず。 一歩離れることで、アジの構えが見えた。再び師が構えるまでの刹那ではあるが、学ぶべきことは余りに多かった。 次は、ウェイミが構える番だった。 「師よ、どうして守るばかりなのですか?私の構えに隙を見出せないからですか?」 ウェイミの挑発は稚拙なものだったが、二人の立場を考えれば効果的でもあった。 弟子に侮られない為にも師は攻めねばならない。守勢に回ることで、普段の自分がどのように相手の瞳に映るかを知ることができた。 「良いだろう、ウェイミ。ならば」

    19 18/12/09(日)23:42:28 No.553451242

    土を蹴る音と共に師は素早く跳ね、ウェイミに鋭い蹴りを飛ばした。ウェイミはそれを再び躱し、そして鋭い追撃の一つ一つを丁寧に捌いた。 嘗ては反射の繰り返しであった闘いは今や理論的なものであった。 アジの正拳を弾き、その裾を掴み、対の手の追撃を殴打で返すと袖釣り込み腰の要領で、ウェイミは師を投げた。初めて、アジの背が地に着いた。 「や……った!──わっ!?」 初めて、師に勝利したのだ。その感慨が彼女を油断させ、あっさりと足を取られて投げ返されてしまったが。 「気を抜くな、ウェイミ。……だが、見事だった」 初めて、そして、師は彼女を認めた。認められたのだ!認められることへの執着を捨てた、その瞬間に! 「……ありがとうございます!」 ウェイミはオジュタイにそうしたように、師に首を深く下げた。 今の自分があるのはこの人のお陰だった。私自身が信じることのできなかった自分を信じてくれた師のお陰だった。 「お前の父の言葉を借りるなら『もっと高く』だな。ウェイミ、お前の内に眠るそれはお前を食らってしまう程の力を持つ。だが、欲望は同時に武器でもある。決して飲まれるな」 それから、油断も。

    20 18/12/09(日)23:42:44 No.553451327

    アジは微笑んで、ウェイミを撫でた。無骨で、硬く、厚い掌が、普段容赦なくウェイミを打つ手が、今ばかりは優しかった。 翌日、彼女の下にイーシャイが再び訪れた。 オジュタイの学徒として、龍眼の聖域に選ばれたのだ。 「アジ師、言って参ります」 彼女は師に言った。興奮と緊張の入り混じった声で。この若さでその場所に選ばれるということの特異を彼女は忘れることにした。 そうであるとしても、そこに行けば彼女も一人の修行者なのだ。慢心は捨てねばならない。 「ウェイミ、お前は心の脆さが欠点だ。大師の下でもそれを忘れるな」 別れ際、アジは最後に言った。 最後まで、師匠だな。私は多分笑っていたと思う。そして、頷いて……幸福だった。

    21 18/12/09(日)23:43:03 No.553451427

    龍眼の聖域での日々は素晴らしいものだった。 大師は余りに近く、そして全てを理解していた。ウェイミの悩みも、弱さも、そしてその解決方も全て。 解答は与えられるものではなく、求め、導き出すもの。故にウェイミはその思考をオジュタイに近づけるべく努めた。 彼は私の知らない私すら知っていてくれる。受け止めてくれる。 理解と許容の圧倒的な抱擁にも似た尊さに、ウェイミはこの上ない安心感を覚えた。大きな、余りに大きな背に敬服と一種の慕情を覚えた。 「もっと高く」 父の言葉を反芻する。高みとは、大師。そうであるなら、私が目指すべきは。 「もっと近く」 あの龍に、近く。 ウェイミは献身的に修行をした。彼女の情熱と献身は誰もが認めており、数年の後、彼女は龍眼の聖域でも三指に数えられる実力者となった。 「知恵を求めよ」 朝の教えにて、師はいつも通りの口調でゆっくりと言った。 師は全ての道の求め方を学ばせてくれた。

    22 18/12/09(日)23:43:29 No.553451566

    「知識を求めよ」 悟りに至る道は一つではない。そうだとして、彼女の道は何か。行くべき場所は分かっていても、そこへの到達が真実にできているのかは定かではなかった。 「真理を求めよ」 師は言われた。真理。解き明かすべき謎があるかのように。暴くべき真実があるかのように。 違う。それは、真理とは、心の到達点だ。心の所在だ。歩むことでのみ辿り着ける場所だ。 ウェイミはゆっくりと息を吐き、体を解した。 目の前では兄弟子のテイガム──この龍眼の聖域で一番の達人が居た。今日の訓練試合の相手は彼で、ウェイミは未だ一度も彼に勝ったことがなかった。実力差は圧倒的であった。 「お願いします」 ウェイミは構えた。テイガムもそれに応じた。 この地で修行を初めてから、彼女の防御は格段に堅牢なものとなった。しかし、テイガムの拳はそれを簡単に打ち壊すものだった。 その日もウェイミは一撃すらまともに入れることは出来ず、テイガムに敗れた。例え自分が優れていても、この地で尚非凡な者であっても、まだ高みは遠かった。 龍王より師の称号を与えられるまで、即ち、彼に認められるまで歩むべき道は果てしなかった。

    23 18/12/09(日)23:43:47 No.553451646

    そうして、彼女がテイガムに敵わぬまま、龍眼の聖域に一つの噂が流れた。 3年程前にオジュタイ師の目に留まった少女、ナーセットのことだ。ウェイミにとっては初めての弟弟子になるが、落ち着かないのはそのせいではない。 20代の若さで選ばれたウェイミも異例だが、ナーセットは10代だという。さらには今より3年前にオジュタイ師の眼に留まり、彼の指導を受けるなど、そんな特別な人間が本当に存在するのだろうか。 人生で初めて抱く焦燥感にも似た感情の正体は知りたくもなかった。 ナーセットが来たのはそれから数日後で、彼女はすぐに自身が特別な存在であることを示した。 彼女の精神はオジュタイに近かった。他の誰よりも、空智の龍たちよりも。彼女は優れていた。テイガムすら彼女には遅れをとる程の腕前、誰よりも知識を求め、誰よりも好奇心を持ち、誰よりも龍詞を理解していた。 新星のように現れたその眩しい存在にいつしかウェイミが抱いた感情は嫉妬である。それを理解することは出来なくとも。

    24 18/12/09(日)23:44:08 No.553451768

    最早誰もがナーセットの実力を認めるようになり、それでも尚、ウェイミはどこかで納得できないでいた。 オジュタイの微笑みが彼女に向けられるのも、彼女が師の言葉を最も理解しているのも、耐えがたい苦痛だった。 ナーセットが最年少で師となり、しかしその顔に喜びが浮かんでいないことが憎かった。私がこんなにも焦がれる場所を手に入れてどうしてそんな顔が出来る? 彼女の非凡さが自身の想像を易々と飛び越え、理解不能の価値観に染まっていること堪らなく不愉快だった。 私は優れていた。他の皆より後からここに来て、何とか自分を証明した。 そして彼女は私よりずっと早くそれをして、私を追い抜いた。誰よりも龍王に近かった。 「もっと高く」 心の奥底、一番柔らかい部分で炎が上がるのを感じた。あの日一度だけ彼女の触れた本質だった。 イーシャイは言った。一番の欠点が時に最大の利点となると。そうであるなら、あの激情に再び触れることができるのなら。

    25 18/12/09(日)23:44:30 No.553451888

    ──禁忌だということは百も承知だった。 オジュタイが師として彼女に教えた最も多くのことが制御であった。あの炎から遠ざかることばかりだった。 違う。私はもっと高くまで行けるのだ。もっと強くなれるのだ。もっと、もっとあの龍王の側にいるべきなのだ。 彼から教わりたいことは山程あった。きっとこの一生では足りない程に。 今や彼の最大の関心毎は、彼の最高の弟子はナーセットだ。あいつさえいなければきっと私になっていただろうに。 強く強く想う程にその炎は渦巻き灼熱となりウェイミの強さとなった。 ああ、そうだ。 没我の中で一つ、覚えていたことがある。残虐への高揚。今なら再びそれを楽しめるような気がした。 次の訓練試合?それとも、もっと直接的に?適当な理由を付けて稽古をして、それで……何も殺すわけではない。 オジュタイ師の一番が私であることを、これまでも、これからも証明すれば良い。それだけなのだ。彼から認められれば良いのだ。 ウェイミの炎が狂気として燃え広がり、ナーセットを焼き尽くす。その瞬間を丁寧に幾度も描き、彼女は笑った。

    26 18/12/09(日)23:45:00 No.553452062

    私は底の見えない怪物だ。私の内に眠る神秘が一たび口を開けば、それを誰にも止められない。少なくとも、人間には。 その日、ナーセットは一人で瞑想をしていた。片手で倒立し、両足を器用に組み、微動だにせず、石像のように。 「ナーセット師、精が出ますね」 「お疲れ様です、ウェイミ。どうしました、精神が乱れているように見えますが」 極力何事でもないように話しかけたつもりだったが、どうやら失敗したらしく、平然とナーセットは返した。 「ですが、組手の相手であればお付き合いしましょう」 ぴったりと張り付いたような笑顔でウェイミは返す言葉を探したが、それすらナーセットは用意していた。 まるで彼女には敵わなかった。 ひゅうと風を切り、ナーセットは奇妙な構えを取った。ウェイミはいつも、この構えを崩せないでいた。それも今日までの話だ。 強く土を蹴るのと同時に、ウェイミはその炎を解き放った。 驚くべきことに、オジュタイの下での修行は彼女に自制を与えたように思えた。だが、それが返って彼女の炎を強くした。冷静に獰猛に身を投げることすら出来た。 風切り音と共に飛んだ不可避の拳がナーセットを殴り飛ばした。

    27 18/12/09(日)23:45:21 No.553452174

    普段であれば決して届かないような単調な攻撃も今の彼女にとっては強力な武器である。 相手が苦悶の声を上げるよりも早くウェイミは跳ね、蹲る身体を蹴りの一撃で跳ね飛ばした。 最早魔法による防御は間に合わない。全身に巡る灼熱の血液が僅かな時間、ウェイミに限界を超える力を与えるのだから。 戦士に哀れみは不要。沸騰する程に燃え上がる炎に任せれば良い。 全身全霊の力を込め、ウェイミは落下するナーセットに再び蹴りを放った。 ──そして、それが届くことはなかった。 ナーセットは空中で既に私の攻撃に対応をしていた。 風を切り振った手は力を受け流し、いや、跳ね返し、ウェイミは逆に吹き飛ばされた。 吐血をしながら尚ナーセットは構えた。 私の速度に追いついたのか?たったの二発で?……私の肉体は既に悲鳴を上げているというのに。 二度目の覚醒にして、ウェイミは自分の状況をより正確に把握していた。そのような気はしていたが、初めて彼女がこの炎に身を委ねた際に負った傷は反動だろう。 動ける時間も出来ることも僅かだが、それでも、せめてもう一度。次はもっと早く── 「終わりです、ウェイミ」

    28 18/12/09(日)23:45:49 No.553452296

    ゆっくりと世界は回った。ふんわりと地面がウェイミを受け止め、それから、衝撃が一気に襲った。 「貴女は自分のことをどうだっていいと思ってしまった。そうですよね、ウェイミ」 新米の師はその言葉の一つ一つに哀れみを浮かべて続けた。 「私を越えることばかり考える余り自棄になってしまった」 彼女の言葉と共に、ウェイミは凍り付いた。一瞬、物理的にもそうなった気がした。 巨大な影が落ちた。それは龍王のものだった。その一瞥は時を止めたようにすら感じた。 私の灼熱など彼の前では灯に過ぎないのだ。その巨大な瞳に怒りが揺れるのを見たのは初めてだった。ああ、私の為の感情なのだ。 「ウェイミ」 龍王が私の名を呼んだ。凡そ、最悪の形で。 「何をしているのだ?ナーセット」 「我が大師、申し訳ございません。私は、私は……」

    29 18/12/09(日)23:46:12 No.553452416

    憎しみに駆られました。最も自制すべきものを抑えられませんでした。 ウェイミがそれを言葉にする前に、オジュタイが口を開いた。最早言葉を交わすことすら叶わなかった。 「お前はいつも執着を捨てることが出来ぬ。私の目に留まることばかりを考える。悟りに達することが出来ぬ」 オジュタイは厳しく言った。挽回の余地もなく、項垂れることしか出来なかった。 ああ、大師の言う通りだ。どうして忘れることが出来たのだろう? アジ師が私を認めてくれたのは、私がそれへの執着を捨てた時だったというのに。 師の言葉が、優しさが、今になって彼女を痛い程に貫いた。ずっと前から教わっていたこと。それを疎かにして、どうして先へ進めるのだろう。 彼は私に期待をしてくれた。同様に、聖域の空智たちが、そしてオジュタイが。その全てを裏切った。 高みへ。 父の言葉は、思い出は、鎖となってウェイミに巻き付いていた。それは彼女の翼を束縛し、結局、羽ばたくことは出来なかったのだ。 全てを失ってようやくウェイミは理解した。だが、もう、遅すぎた。 学ぶべきことは常にある。そうとも、こんな手酷い失敗の中でも。

    30 18/12/09(日)23:46:44 No.553452567

    大師はその巨大な瞳でウェイミを見つめた。あんなに近くに聞こえた声が最早何も聞こえなかった。私が抱いたのは知識ではなく地位への野望。許されるはずもない。 「さて、学ぶことを捨てた学徒よ」 オジュタイは言った。 「歩む足を失った学徒よ」 その言葉の一つ一つが彼女を鞭のように打ち、刃のように切り裂いた。 「お前は我らの地を踏む足も失った」 毅然として、彼は言った。その言葉に幾ばくかの失望が含まれているならどんなに幸せか。最早、そこにあるのは罪人に向けられる眼差しだった。背反という重罪への嫌悪だった。 龍王の命令は、どうしようもなく彼女を砕いた。 今になって道の歩み方を思い出したというのに、もう歩むことは出来なかった。謝罪することすら許されない。ただ、罪人として流浪の身になるだけだ。道を外れたら最後戻ることは叶わないのだから。

    31 18/12/09(日)23:47:03 No.553452643

    絶望がゆっくりと幕を下ろし彼女を包もうとするその時、ナーセットが口を開いた。 ──彼女がオジュタイの一番の弟子であるとしても、それは余りに無謀だった。 「どうかお待ち下さい、大師。ウェイミは今、まさに、悟りへの歩みを取り戻しました。道を再び歩むことができます。どうか、彼女に機会を下さい」 ナーセットが頭を下げ、その額が地に触れた。 どうして、そんなことができる? 「ウェイミは再び学ぶことができます。正すことができます」 ナーセットの行動は一歩間違えれば、龍王の機嫌を損ねれば彼女の命すら失われるような行為だった。 どうして。オジュタイは暫し彼女を見つめ、聞き取れないような微かな龍詞を発した。ナーセットは顔を上げた。 きっと、私には入れないような高度な会話なのだろう。そんな事実が未だに胸を酷く締め上げた。 「さて、では、問おう。お前は何を学んだかね?」 オジュタイの再びの言葉は、ウェイミだけのものだった。その問いの回答が、即ち、彼女の未来を決定づけるものだった。 「私は、取捨を学びました」 暗い瞳で、オジュタイは頷いた。

    32 18/12/09(日)23:47:07 No.553452662

    なんなの!?

    33 18/12/09(日)23:47:30 No.553452785

    続けても大丈夫、そう信じてウェイミは続けた。 「手放すことと手にすることはある意味で同一なのだと学びました。執着を捨てた時に欲したものが手に入る。それこそが悟りなのだと学びました」 余りにも不完全で、弱く、情けない。自分という人間の矮小さへの自覚が紡ぐウェイミの回答は 、あの時知ったそのままのものだった。 知っていた。手に入れた。そして自ら手放し忘れてしまった。それからようやく思い出したもの。 「道を外すことで、自らの歩んでいた道を知りました。自分がどれだけ愚かであるのかを知りました」 「宜しい」 龍王オジュタイはその威厳をそのままに、そっと手を挙げた。 長い尾が翻り宙を泳いだ。ナーセットは、ウェイミをずっと見つめていた。 「ならばこれからどうする?お前は何を求める?」 オジュタイの言葉は、師としてのものだった。 誇らしげですらあり、それは間違いなく、ウェイミに向けられた感情だった。

    34 18/12/09(日)23:47:48 No.553452862

    「再び、一から学びたいです。歩みたいです。私の目指す場所は変わりません。その歩み方を」 彼女の心の閊えもまた、取れたようだった。 私は浅過ぎた。この炎の向けるべき先を知らなかった。幼過ぎた。そして今、それを知っている。 彼女はある意味、自由ですらあった。最早束縛するものは何もなく、その心は彼女自身のものであり、その自由意思を持ってオジュタイのものであった。 「歩むがよい。学ぶべきことは常にある。ウェイミよ、貴様の力は制御不能の炎ではない」 ウェイミは深く頭を下げた。 ゆっくりと立ち上がり、するりと一歩後ずさった。 自らの居場所は失われた。これから再び造らなければならない。捨てたものを、壊してしまったものを再構築しなければならない。 「一からやり直します。再び、大師様の目に留まるように」 その言葉は決意ではなく、贖罪ではなく、確定的な宣言だった。 私は再びこの地に来る。この地が最も龍王を学べる場所だから。 龍王は、静かに微笑んだ。

    35 18/12/09(日)23:48:03 No.553452952

    ???

    36 18/12/09(日)23:48:04 No.553452961

    翌日、まだ日の昇らない内にウェイミは龍眼の聖域を発った。 学ぶべきことは常にある。 このタルキールで最も神聖な場所を背に、一歩一歩遠ざかる憧れを背に、頬を流れる感情を隠そうともせず彼女は歩んだ。 湖面の波立ちは凪ぎ、心を焼き包んだ炎は小さな煙を上げて掻き消えた。 その力に執着する限り、欲望は鎌のように首を擡げて抜け目なくウェイミを狙うだろう。 私の奥底の炎、彼女を滾らせる灼熱。その本質を学ぶのに、人生は十分すぎる程の時間があった。 そしてそれを真に解明した時、彼女は再び大師の目に留まるのだろう。焦る必要はない。視野を広く持って、あらゆる角度から道を見つめるべきだ。 嘗てアジとの闘いで身に着けた発見はようやく真にウェイミのものとなっていた。 「ようやく、私は貴方の教えを理解できました。アジ師」 呟く声は朝靄に消えた。 ウェイミは大きく息を吸い、それから瞑想に入った。 「高みへ」 それは精神的修養の到達点であり、遥かな先である。アジ師は元気だろうか。私を見てなんと言うだろうか。この力を制御するのにどれくらいの時間が必要だろうか。

    37 18/12/09(日)23:48:13 No.553453011

    文量が…文量が多い…!

    38 18/12/09(日)23:48:26 [終わり] No.553453088

    再び故郷の土を踏んだ時、鮮やかな記憶と共に、嘗て見落とし続けた沢山の情報が彼女に流れた。 学ぶべきものはある。それは時に、山程。 ウェイミは苦笑し、寺院へ向かい歩んだ。再び学ぶ為に。

    39 18/12/09(日)23:49:01 No.553453293

    オジュタイスレ画でやたら伸びてると思ったらなんだこれ

    40 18/12/09(日)23:49:30 No.553453420

    長い 長いよ!

    41 18/12/09(日)23:49:39 No.553453465

    なんというか…お疲れ様です!

    42 18/12/09(日)23:49:55 No.553453534

    オジュダイ師夫良いよね でも長え!

    43 18/12/09(日)23:50:21 No.553453690

    オジュ夢女子アンチ初めて見た

    44 18/12/09(日)23:50:35 [sage] No.553453738

    オジュタイ師は間違いなく夢女子が多いと思って検索していたのですが一向にオジュタイ夢が無かったので仕方なく書きました ですが途中でオジュタイに恋心を抱くというよりは「オジュタイの一番弟子であることに固執して道を踏み外す」方があり得るような気がして何だかさらっとしてしまったのは反省しています あとジェスカイ時代の沸血の技術はオジュタイ師的にはどうなんでしょうね幽霊火の戦士は皆ころころされましたが…

    45 18/12/09(日)23:50:46 No.553453790

    こ破滅!

    46 18/12/09(日)23:50:55 No.553453831

    そうかな… そうかも…

    47 18/12/09(日)23:50:58 No.553453844

    オジュ「」 オジュ「」じゃないか!

    48 18/12/09(日)23:50:58 No.553453848

    乙 面白かった

    49 18/12/09(日)23:51:22 No.553453976

    まずオジュタイ夢女子ってなんなの…

    50 18/12/09(日)23:51:42 No.553454103

    言いたい事は分かるよ 分かるけど死霊魔術に怯えてクソコテになるドロモカ怪文書とか スーラクが全部殴り飛ばすだけの怪文書の方がウケると思う

    51 18/12/09(日)23:51:46 No.553454114

    オジュダイって今スタンで使えたっけ?

    52 18/12/09(日)23:52:54 [sage] No.553454469

    >オジュ夢女子アンチ初めて見た 本当はオジュ夢女子を普通に書きたかったのですがナーセットを調べれば調べる程段違いの天才過ぎてこの人に勝てる主人公を自分には絶対思いつかないと気付いたのでこうなりました 子供の頃から師夫に認められてこっそり訓練受けて本来中年くらいでようやく行ける可能性のある龍眼の聖域において若干15歳で師の称号を得るってめちゃくちゃ過ぎません?

    53 18/12/09(日)23:52:55 No.553454472

    使えないよ

    54 18/12/09(日)23:53:19 No.553454584

    ウェイあじちゃんちょっと赤マナ強すぎない? ジェスカイ復興しちゃわない?

    55 18/12/09(日)23:53:32 No.553454642

    >使えないよ そうか…無念

    56 18/12/09(日)23:54:46 No.553455011

    ドラゴン真実を知ったナーセットが許されたのは件名なナーセットだからで その辺の夢女子がオジュダイ師父はタルキール最古の龍ではなかった! って言うと間違いなくころころされる感はあるよね

    57 18/12/09(日)23:55:27 [sage] No.553455205

    >こ破滅! 何で分かるの…

    58 18/12/09(日)23:56:20 No.553455420

    良かった まさかこんな作品を読むことができるとは

    59 18/12/09(日)23:57:48 No.553455825

    アリーナやってるけどフレーバーとか世界観全然知らないままだわ俺

    60 18/12/09(日)23:58:02 No.553455893

    実際タルキールは3色に戻せるような伏線張ってるらしいな オジュタイがジェスカイ自体の書物でアタルカが囁くものネットワークでしむしむがスゥルタイ時代のゾンビでドロモカがアナフェンザの族樹で コラガンちゃん…?は昔のマルドゥの誓いをどっかで発見するのかな…サルカンは多分現状維持大歓迎だろうし

    61 18/12/09(日)23:58:11 No.553455924

    ウェイミとアジって公式小説にいたかな…

    62 18/12/09(日)23:59:00 No.553456149

    今更だけどウギンはドミナリア出身だから オジュダイ師父がタルキール最古の龍ってのは嘘じゃないかもしれないのか

    63 18/12/09(日)23:59:33 No.553456281

    良い話なんだけどウェイミとアジって名前がひどい

    64 18/12/09(日)23:59:39 No.553456306

    ん? これ公式からのコピペとかじゃ… ない…? えっこわい

    65 18/12/10(月)00:00:24 No.553456514

    >良い話なんだけどウェイミとアジって名前がひどい 言われて気づいたよクソ!

    66 18/12/10(月)00:01:05 No.553456709

    回帰したら三色に戻るけどドラゴンと人の共存は続く流れかもしれないよね

    67 18/12/10(月)00:02:07 No.553456976

    初回では楔3色ドラゴン出なかったから再訪したら目玉として出してくれると楽しそう

    68 18/12/10(月)00:02:08 No.553456981

    ウェイ み あじ

    69 18/12/10(月)00:04:25 No.553457700

    >何で分かるの… こんなもん書くやつがそんなホイホイいてたまるか

    70 18/12/10(月)00:04:28 No.553457720

    >何で分かるの… 分からない人居ないよ!

    71 18/12/10(月)00:05:27 No.553458075

    ああ弟子のテイスはテイストなんだろうなこれ…

    72 18/12/10(月)00:05:28 No.553458082

    お破滅「」W!お破滅「」Wじゃないか!

    73 18/12/10(月)00:09:13 No.553459288

    ニコちゃんの人かなこれ…

    74 18/12/10(月)00:11:26 No.553459928

    >まずオジュタイ夢女子ってなんなの… オジュタイ師の知的でセクシーなルックスとカリスマカンフーマスターという笑撃にナーセットのストーリーでの良い師匠っぷりを見せたオジュタイ師の夢女子 タルキール雄ドラゴンは他がニコウギが鉄板のウギンとメンヘラクソホモのむむむむだし一番女性人気は高いと思うんだよな… テーロスのクルフィックス好きな人とかまず好きだと思う超越した存在だけど知識を探求する者の理解者枠

    75 18/12/10(月)00:11:54 No.553460063

    文字が…文字が多い…!

    76 18/12/10(月)00:12:47 No.553460292

    あいつ

    77 18/12/10(月)00:13:11 No.553460435

    MTG怪文書を書く「」なんて1~2人くらいだろうしな

    78 18/12/10(月)00:13:14 No.553460455

    ニコウギはショタドラゴン時代ならイケルと思います あとどちらかというとウギニコだと思います

    79 18/12/10(月)00:14:04 No.553460710

    さすがにテキストファイルにまとめろやこの長さは!

    80 18/12/10(月)00:14:13 No.553460778

    まあでもエルダードラゴンで一番威厳あるのオジュタイ師だよね

    81 18/12/10(月)00:14:33 No.553460901

    感想全部よりスクリプトのほうが分量多いじゃねえか!

    82 18/12/10(月)00:14:39 No.553460930

    わからん…

    83 18/12/10(月)00:16:23 No.553461443

    しりたくなかった…こば滅の人がドラシコの人だったなんて…

    84 18/12/10(月)00:16:49 No.553461564

    >さすがにテキストファイルにまとめろやこの長さは! ごめん… su2757480.txt

    85 18/12/10(月)00:18:27 No.553462091

    他のタルキールのエルダードラゴンはクソコテ クソコテ 腹ペコ だんまり ロクなもんじゃねえ!

    86 18/12/10(月)00:20:08 No.553462662

    長すぎる…

    87 18/12/10(月)00:20:22 No.553462753

    タルキールのドラゴン特にアタルカはめちゃシコだし怪文書書いてみたいとは思うけど 時の螺旋ブロックまでしかやったことないしMTGのストーリーよくわからねえ…

    88 18/12/10(月)00:20:36 No.553462847

    >子供の頃から師夫に認められてこっそり訓練受けて本来中年くらいでようやく行ける可能性のある龍眼の聖域において若干15歳で師の称号を得るってめちゃくちゃ過ぎません? それに加えてワイルドな乳首丸出しで自称前世からの友人にして同じプレインズウォーカーとしての力を持つサルカンもいるとかナーセットは乙女ゲーのヒロインなの?

    89 18/12/10(月)00:21:40 No.553463220

    お破滅!

    90 18/12/10(月)00:22:48 No.553463573

    >他のタルキールのエルダードラゴンはクソコテ クソコテ 腹ペコ だんまり >ロクなもんじゃねえ! あいつドロモカ様のこと馬鹿にしやがった! 死霊術嫌いってこと以外は偉大で立派な龍じゃねぇか!

    91 18/12/10(月)00:24:33 [囁く者アレル] No.553464134

    は?どの龍も人間を虐げる邪悪な龍だが…?

    92 18/12/10(月)00:26:53 No.553464758

    なんで今更タルキールでこんな全力投球するの…

    93 18/12/10(月)00:30:00 No.553465595

    タルキールは回帰しても二色なのが残念だ

    94 18/12/10(月)00:30:41 No.553465774

    マロー曰く三色に戻す伏線はあるらしいぞ 氏族と龍が合体するスーパータルキールにならないかな…

    95 18/12/10(月)00:30:57 No.553465836

    タルキールいいよね…

    96 18/12/10(月)00:32:16 No.553466138

    タルキールいい…

    97 18/12/10(月)00:32:35 No.553466216

    >なんで今更タルキールでこんな全力投球するの 龍が人を支配する世界でテンション上がったのはサルカンだけじゃないのだ ここまで熱が続いている人は珍しいけど