虹裏img歴史資料館

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18/12/03(月)19:52:11 「…ひょ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1543834331209.jpg 18/12/03(月)19:52:11 No.552005997

「…ひょっとして、迷子だったりする?」 うっかり声をかけてしまったあとで、さきるは途端に後悔を覚えた。本当はこんなの、全然柄じゃない。 今にも降り出してきそうな曇天と、やかましい蝉の鳴き声と、肌にまとわりつく湿気がこのうえなく鬱陶しい夏の午後。 公園のベンチで膝を抱えているその子を見つけた。 2つに結った髪と、大きな髪飾りが目を引く小学生くらいの女の子。 別に泣きわめいているわけではなかったけれど、空模様と同じくその表情を曇らせている。 周囲を見回しても親らしき人の姿はない。スルーするのも気が引けて話しかけはしたものの、どうしたものか。 「えっと、お父さんかお母さんは? 一人で来たの? 君かわいいね、どこの子? いくつ? 名前は?」 言っててなんか違う気もするが。 訝しげに視線をそらしながら、それでも少女は口を開いた。 「知らない人に何か聞かれても教えられません。父を通してください」 「利口すぎる」

1 18/12/03(月)19:53:08 No.552006250

不安げに縮こまってるくせに、意外と受け答えはしっかりしている。心配するだけ無駄だったか。 「なんだ、お父さんいるんだ。待ち合わせ? じゃ、気をつけてね」 手をひらひらと振って、その場を後にしようとする。 と。イヤホンを付けなおそうとしていた耳が、少女の沈むような呟きを聞いた。 「パ…お父さんはいないの」 なんなんだ。 深々と嘆息しつつ、さきるはスマホを取り出した。 『迷子発見』…送信しようとして、やめる。具合が悪いとのたまり早退した手前、友達を呼ぶのはバツが悪い。 仕方なく、ずかずかと歩み寄って少女の隣に腰掛ける。ぽかんとする相手を見やり、 「部活サボって暇してるから、話付き合ってよ」 「…暇なら出れば? 部活」 「そーだけどさ。あ、部活ってバレー部ね。ボールのほう。いんだよ別に、夏練っても全国目指して特訓中!てわけじゃないから」 けらけらと笑う。見ず知らずの子供に言っても仕方のない諸々の愚痴はひとまず置いやって。

2 18/12/03(月)19:54:14 No.552006523

「そうだ、これいる? 買ったはいいけど飲んでないから。私動いてないし。汗臭くないっしょ? いや嗅ぐなし」 嗅がれてはいないが。 鞄の中にあったスポーツドリンクを手渡す。未開封の蓋を開けると、少女は遠慮がちに口をつけた。 「…ぬっる」 「っくくく…ごめんごめん」 腹を抱えるさきるを半眼で睨みつけながらも、少女はちびちびとそれを飲み始める。 よかった。この暑さの中、あまり汗をかかず妙に涼しげな様子が気になっていた。脱水症状でないといいが。 「あ、一応言っとくけど、私あやしいもんじゃないからね。ツツジ台高校、知ってるっしょ?」 「知らない。ここ、ツツジ台って言うの?」 「なんだ、ここらの子じゃないんだ。えっと…」 先の発言をおもんばかるに、素性については迂闊に質問しがたい。 さきるが言葉を詰まらせていると、少女の方からためらいがちに話を繋いできた。

3 18/12/03(月)19:55:07 No.552006746

「…お仕事でここに来てるんだと思うけど、みんなとはぐれちゃって。歩き回るとかえって危ないからここにいるの」 「そっか…でもさ、ここにいるよりは交番の方がよくない? 一緒にいく?」 「交番は…やだ」 なんなんだ。つくづく。 ふと、少女の話の中から気になる言葉を見つけて、思わずさきるは尋ねてしまった。 「ん? お仕事って…」 「アイドル。全然有名じゃないけど」 「マジでっ? 全然知らない!」 意外な答えに驚嘆して余計な一言まで口走りつつ、検索しようとスマホを掲げる。 「なんて名前? ソロ? 公式とかないの?」 「グループだけど…秘密。ホームページもやだ」 「えぇーなんでよー」 「死ぬほどダサかったから…」 少女があまりに落胆しているようなのでそこは追求しなかったが。 端正な顔立ちとはきはきした物言いからして、あながち嘘をついているとも断じがたい。

4 18/12/03(月)19:56:00 No.552006979

というより…彼女が本当のことを自分に話してくれているのだと、信じてみたかった。 「いやでもすごいじゃん。うちさぁ今度学祭あるから来てよ。まだ先だけど。ライブやってライブ!」 「んー…でも巽に相談しないと」 「知ってる? 知らないか。うちの高校去年まで学祭中止だったんだって。信じられる? いやこれマジ奇跡の出会いだわ」 まくしたてられて少女は若干引いていたものの。 子供からすれば高校生の催し物だって一歩大人な未知の世界なのだろう。興味ありげに訊いてくる。 「どんなことやるの?」 「んー他所はまだ決まってないみたいだけど。私のクラスは今んとこ…喫茶店」 言いつつうなだれると、少女は首を傾げた。 「なにかだめなの?」 「だって喫茶店よ? ただの! もっとこう記憶に残ることやんなきゃじゃん」 おおげさに手振りを交えて、青春にかける苦悩を力説する。 「つっても私らも先生もノウハウないから、あんまり凝ったこと出来なくて。手軽で斬新なやつなんかないかね?」 「聞かれても」 「だよねぇ。女はメイドで男は執事。うっわクラシカル。話になんない」

5 18/12/03(月)19:56:57 No.552007236

「…じゃあ、入れ替えちゃえば?」 少女が唐突に挙げた提案の意味を理解しかねて、さきるは眉をひそめた。 「ん? 何を?」 「だから女の人が執事になって、男の人がメイドさんになるの。お手軽でしょ」 「斬新かよ…いやでもありなのかそれ」 腕を組んで改案の内容を吟味する。確かに記憶には残るかも知れないけど、一歩間違えれば地獄絵図になりかねない。 女子はともかく男子は猛反対するだろう。だって間違いなく笑える。ていうか指差して笑ってやる。 想像してすでに少し口元を歪ませていると、それには構わず少女はぽつりと言った。 「男らしくとか女らしくとかより、その人に一番似合うならどんな格好したっていいと思うな」 「…そんなもん、なの?」 やはり言葉の意図するところがいまいちわからず、曖昧に相槌を打つ。 本当に、子供の相手なんて全然柄ではない。面倒くさがりつつ人の世話を焼くお節介なら、うちのクラスに既にいるだろうに。 なんとなく会話が途切れ、さきるが空を仰ぐと。 霧のような小雨の粒が額に触れた。

6 18/12/03(月)19:58:19 No.552007565

同じように水滴が頬をつたって、少女が雨に気付くと。 びくりと肩を震わせて立ち上がり、その勢いのまま走り出していた。 「行かなきゃっ」 「は? なに? どしたの!?」 ひたすら困惑しながら、さきるは名前も知らない少女に呼びかける。 が、華奢で小柄な後ろ姿は、濃く降り始めた霧雨にまぎれてすぐに見えなくなってしまった。 残されたのは、足元に転がって溢れたスポーツドリンク。 あっけない別れに途方に暮れつつ、ふと、自分こそ彼女に名乗っていないことを思い出す。 「…帰ろ」 鞄を担ぎ直してベンチから腰を上げる。 あいにく折りたたみ傘は忘れてきていた。仕方なく濡れながら帰路につこうとしたところで。 不意に遠くから響いてきた叫び声が、雨音にまぎれてかすかに耳に届く。 「―――フランシュシュ、よろしくーっ―――」 家に帰って風呂を浴びて、検索で見つけた死ぬほどダサいホームページに笑い転げて。 明日はちゃんと部活に出ようと決めて。それから少女と再会することは、もうなかった。

7 18/12/03(月)20:02:37 No.552008737

星川リリィはうっすらと目を開けた。 いつも皆と布団を敷いて寝ている広間ではない。散らかった部屋のソファに寝かされている。 首を回せる範囲で見渡すと、パソコンデスクの奥に座る男と目が合った。いや、サングラス越しで目は合わない。 「起きたか。このバカたれゾンビィが」 「…巽? あれ? ツツジ台は?」 「どこじゃいそこ。一文字も被っとらんわ。本当に大丈夫なんだろうな?」 頭を抱える幸太郎には構わず、上体を起こそうとする…が出来ない。ぬいぐるみみたいな犬が腹の上で眠っている。 「ロメロと遊ぶのは構わんが、場所を選べと言っただろうが。配線に躓いてぶっ倒れたときは心配したぞ」 パソコンを、と少し遅れて言い足す。リリィもそのときの状況を少しづつ思い出し始めていた。 なんとなく、尋ねる。というより誰にあてるでもない囁きだったが。 「…ゾンビも夢を見るのかな」 「知るか。つかゾンビィはお前だろうが。夢と思いたきゃ思え。でなけりゃ現実か、んなもんお前が決めろ」 パソコンの復旧に四苦八苦しつつも答えてくれた幸太郎に。 「…うん。そうだね。ごめんなさい」 そう言って、リリィはもう一度目を閉じた。

8 18/12/03(月)20:03:50 No.552009051

ああトンカワか…トンカワ!?

9 18/12/03(月)20:04:45 No.552009310

相関図メモってみた su2746876.jpg

10 18/12/03(月)20:06:06 No.552009707

わからん…

11 18/12/03(月)20:16:21 No.552012451

文化祭の逆転喫茶のネタを正雄から聞いたのかとんかわ…

12 18/12/03(月)20:45:00 No.552020548

修正してみた su2746942.jpg

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