18/12/02(日)23:20:21 「さて... のスレッド詳細
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18/12/02(日)23:20:21 No.551850106
「さて、残りは何やったかな…」 ポリポリと頭を掻きながら、サキはさくらから託されたメモに目を通した。 買い物籠に入れたものを示す"マル"がついていないものは、あと3つ。どれもピンとこない文字列だった。 「サキちゃん、あとは?」 「ん。どけーにあるか、わかると?」 籠の向こうからのぞき込んでくるリリィに、サキはメモを渡した。 「たぶん製菓コーナーだね。こっち!」 「おう」 リリィはメモを見るや、迷いなく歩き出した。サキはリリィが先導する方向にカートを転がす。 籠の中ですっかり汗をかいたジンジャーエールの大ボトルが横に倒れ、小麦粉の袋と鶏肉を押しつぶした。
1 18/12/02(日)23:20:57 No.551850290
目的の場所にたどり着くと、リリィは手際よく製菓用品を籠に移していく。 リリィでは手の届かない高さにあったものは、言われるがままサキが手に取った。 「ちんちくじゃないもん」 サキの目線で悟ったのか、言うより先にリリィが返す。サキはからからと笑って、リリィの髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でた。 「さ、帰るか」 会計を済ませ、自動扉から外に出る。そんな感覚はないはずなのに、なぜだか肌寒くてサキは身震いした。 それはリリィも同じようだった。 駐輪場に向かう道すがら、家族連れとすれ違った。 まだ小学生にもならないような小さな子供と、精悍な顔の父親と、優しそうな顔の母親。 三人横並びで手をつないで歩いている、きっとありふれた家庭の姿。
2 18/12/02(日)23:21:30 No.551850459
突然、リリィがサキの手を取った。 驚いてそちらを見れば、リリィはそっぽを向いている。 家族が恋しいのだろうか。 表情を悟られまいとする精一杯の強がりがなんだかくすぐったくて、それでもなぜか茶化す気になれず、サキは黙ってリリィの手を握り返した。 重いものが入ったレジ袋を自転車の前かごに乗せる。 軽いものだけ入ったレジ袋は、サドルに跨ったサキとの間で、座布団を縛り付けた荷台に座るリリィが抱えた。 「安全運転でね。リリィ死にたくないから」 「へっ、言ってら!」 背中から聞こえるくだらないゾンビジョークを笑い飛ばし、サキはペダルを漕いだ。 錆びついたチェーンの悲鳴が夕闇に溶けていく。
3 18/12/02(日)23:22:12 No.551850693
「なんだか学園祭を思い出しますね」 縦に切り分けた折り紙で輪を作りながら、純子は傍らのゆうぎりに語りかける。 そしてすぐに、しまった、と口をつぐんだ。 「はて、ガクエンサイとは…」 ゆうぎりの反応は予想通りで、耳慣れぬ単語に首をかしげている。 そうしている間にも、彼女の横では輪飾りが長く積みあがっていた。 純子も手を止めぬように、記憶の中の学園祭を引き出していく。 「なるほど、いまの寺子屋にはそういうお祭りが」 一通り説明すると得心が行ったようで、ゆうぎりはふぅんと鼻を鳴らして手元に視線を落とした。
4 18/12/02(日)23:22:58 No.551850937
時計の針が一秒を刻む音がいやに耳に残る、居心地の悪い沈黙。それが息苦しくて、純子はゆうぎりに問いかけた。 「ゆうぎりさんは、こういうこと、経験はありますか?」 「いいえぇ。わっちは、寺子屋に行かせていただけるような身ではござりんせんから」 ―――ああ、またやってしまった。 穴があったら入りたい。部屋の隅でキノコになりたい。 花魁とはそういうものであると、今の今まで記憶の彼方にやっていた自分が嫌になる。 彼女だって、友と学び舎で過ごす日々に憧れなかったことはないはずだ。 「だから―――」 そんな純子の自罰的な思考は他所に、ゆうぎりは出来上がった輪飾りを自慢げに持ち上げた。
5 18/12/02(日)23:23:40 No.551851136
「なんだか新鮮で、楽しいでありんす」 輪飾りが擦れ、さらさらと音を立てる。繕っているわけではなく、きっとそれはゆうぎりの本音だ。 「わたしも」 前向きにあるがままを受け入れるゆうぎりの言葉に、純子の喉につかえていた想いが零れる。 「わたしも楽しいです」 学園祭にちゃんと参加できたことなんてほとんどなかったから。 こんな風に、並んで語り合うような同い年の友達もろくにいなかったから。 今のように、誰かと一緒に何かを成し遂げようとすることなんてなかったから。
6 18/12/02(日)23:24:05 No.551851281
だから、楽しい。 ゆうぎりに比べれば幾分か後ろ向きな、それでも今が楽しいという本心。 それを聞いたゆうぎりは優しく微笑んで、ゆっくりと立ち上がった。 ゆうぎりに合わせて、純子も立ち上がる。 二人で顔を見合わせて、どちらともなくうなずいた。 「源さんの料理が終わる前に、飾り付けしちゃいましょう」 「あい。しからば純子はん、そちらを持っておくんなし」 「はい……えっ、これだいぶ大きい……もしかして、虎ですか……?」 「あい。龍もござりんす」 「ええ……」
7 18/12/02(日)23:24:56 No.551851540
「さくら、これは?」 「うん、それはね―――」 いくらか古臭いとは言え、洋館の厨房はそれはそれは立派なものだった。 愛とて全くキッチンに立ったことがないわけではないが、見覚えのない調理器具がかなりの数存在する。 それらをまるで勝手知ったる我が家のように、さくらは丁寧に使い方を教えてくれた。 二人で古い調理器具を洗っている間に、サキとリリィがレジ袋を携えて厨房に入ってくる。 「おかえりサキちゃん、リリィちゃん」 「おう、買ってきたやつここ置いとくぞー」 「うん!ありがとサキちゃん」 「グラサンは?」 「たえちゃんがまだ抑えててくれてるみたい」 「それじゃリリィたち、純子ちゃんたち手伝ってくるね!」
8 18/12/02(日)23:25:25 No.551851694
短い会話を終えて、それぞれがやるべきことに戻っていく。 愛がまだ水で泡だらけの調理器具を濯いでいる傍ら、 水に濡れた器具をすでに拭き終えたさくらがレジ袋をのぞき込んだ。 今日の料理は、さくらと愛がインターネットのレシピサイトで探したもの。 プリンタなんてものはないし、パソコンも忍び込んで使っただけだから、レシピは手書きだ。 調理台に張り付けたその手書きのメモもほとんど読まずに、さくらは使う順番に材料を並べていく。 普段のどんくささはどこへやら。 それこそ見惚れてしまうくらいで、愛はただ感心していた。
9 18/12/02(日)23:26:10 No.551851906
「いつもお世話になってるから」 一週間前にさくらが持ち掛けてきた、巽幸太郎の誕生日パーティー。 愛からすれば得体の知れない男だし、いまの世に人を勝手に引きずり出したことに思うところがないわけではない。 しかし同時に、世話になっていることに―――もう一度舞台を与えられたことに、恩義を感じていないわけでもなかった。 それは他のメンバーも同じ気持ちのようで、企画は流れるように順調に進んでいった。 要するに誕生日というのはただのきっかけで、感謝を伝えることが目的なのだ。 目的、なのだが。 鼻歌を奏でながら、さくらは泡だて器をかしゃかしゃと鳴らす。 その姿は、まるで飼い主が喜ぶさまを想像して尻尾を振る犬。 だが、恋する少女がバレンタインデーに胸を焦がすようなそれに見えないこともないのだ。
10 18/12/02(日)23:26:43 No.551852070
「ねぇさくら」 「なぁに愛ちゃん? ローズマリー、あんまり好きじゃなか?」 「アイツのこと好きなの?」 何の裏もない、ただの興味本位である。年頃の女の子につきものの、いわゆるコイバナ。対するさくらの期待外れの反応も、予想通り。 「大好きとよ!愛ちゃんは?」 笑顔満開の、天真爛漫な返事。家族としてじゃなく、男してはどうなの? なんて野暮な追撃が許されるはずもなく。 「そうね」 愛はトマトに包丁を入れながら、 「変なヤツだけど、嫌いじゃないわ」
11 18/12/02(日)23:27:17 No.551852245
「巽のあんなところ、初めて見たかも」 「ほんとにね。さくらも嬉しかったんじゃない? なでなでしてもらえて」 「あ、愛ちゃん……」 いつもの雑魚寝部屋。天井を向きながら話す、たまの女子会。 本日の話題はもちろん、件の誕生日パーティーだった。 「可愛らしかったですね」 「久方ぶりで、びっくりしたんでありんしょうね」 年長組がくすくすと笑い合う。
12 18/12/02(日)23:28:07 No.551852489
『お誕生日おめでとう!』 たえに噛まれながら食堂に現れた幸太郎は、フランシュシュ一同の歓迎のクラッカーから噴き出す紙吹雪を浴びて、黒板に書かれたカラフルなお祝いのメッセージを呆然と見つめていた。 誰じゃい、これ考えたの。絞り出したような震えた声に、さくらが誇らしく胸を張る。 「みんなでやったとですよ!」とさくらが言い終わる前に、幸太郎はさくらの頭を愛おしそうに撫でていた。 ありがとうな。 サングラスの奥の表情は読めない。わかるのは、優しい声と震えた手だけ。 らしくない振る舞いに一同が唖然としていると、彼はすぐに元の調子に戻ってどかっと椅子に座った。 いただきます、あーうまそうじゃ、いや実際うまい、ゾンビィのお前らにはもったいないわい、などと大声で宣いながら乱暴にお祝いの手料理を口に運んでいく。 幸太郎が食べ始めるまで待っていたたえが皿に顔を突っ込んだことで、すべて呑み込まれることをを危惧したサキとリリィが勢いよく着席し、お前らもはよ食わんとなくなるぞ、というサキの声で弾けるようにパーティーは始まった。
13 18/12/02(日)23:29:04 No.551852756
さくらはあの時撫でられた感触を思い出していた。 懐かしいような、いつも感じていたような、不思議な感覚だった。 上の空のさくらに向けて、サキは身を乗り出して尋ねた。 「なぁさくら、そういやグラサン今年でいくつになると?」 「あ……そういえばいくつやろ……?」 「えー? 誕生日は知ってるのに」 「ヘンなの。そもそもアイツの誕生日を知る機会なんてあったっけ?」 「それはもう、わっちらの目が覚める前の蜜月の時に……」 「えっ、み、源さん、詳しく……!」 「えぇぇぇ!? し、知らんよぉ~!」 あとはいつも通り、寝ているたえを起こさないように静かに姦しく、リリィが、純子が、と順々に寝落ちするまで女子会は続いた。
14 18/12/02(日)23:29:49 No.551852942
なんという大長編
15 18/12/02(日)23:30:02 No.551853028
愛、寝たか? 起きてる。 まどろみの中でサキと愛の声が聞こえる。さくらは先ほどのサキの問いを反芻していた。 (幸太郎さん、今年でいくつなんだろう) その問いに、さくらは答えられなかった。知らなかったのだ。 ただ、誕生日は知っていた。確信もあった。 しかし思い返せば、誕生日すら本人から聞いたわけでもない。 (わたし、なんでしってたんだろう) サキと愛が部屋の外に出ていくのを見ながら、答えの出ないままさくらの意識はすとんと夢の中に落ちた。 おしまい
16 18/12/02(日)23:30:06 No.551853053
これ誕生日知ってるのって…
17 18/12/02(日)23:31:51 No.551853607
え!?急にサキ愛!?
18 18/12/02(日)23:32:41 No.551853871
がばいよか… それぞれのキャラクターの心情描写きっちりやってるのがすごい
19 18/12/02(日)23:32:59 No.551853965
みんなでやったって言う前に撫でてたり表情見えない上手が震えてるしこれは…
20 18/12/02(日)23:33:26 No.551854098
ナイスよかったい
21 18/12/02(日)23:34:10 No.551854356
よか…
22 18/12/02(日)23:34:23 No.551854416
ナイス!ナイスよかったい!
23 18/12/02(日)23:34:38 No.551854493
>みんなでやったって言う前に撫でてたり表情見えない上手が震えてるしこれは… 少し泣く
24 18/12/02(日)23:34:46 No.551854538
よかよか
25 18/12/02(日)23:34:56 No.551854606
よか…
26 18/12/02(日)23:35:10 No.551854683
がばいよか…
27 18/12/02(日)23:36:03 No.551854987
リリィちゃんからかいたがりリーダーなくせにこういうとこで逃さずスイと優しいアクション取れるサキちゃんよか…
28 18/12/02(日)23:36:43 No.551855208
続きがありそうな終わり方だな!
29 18/12/02(日)23:36:44 No.551855215
この絶妙なほのめかし具合よか…
30 18/12/02(日)23:37:21 No.551855397
なんというかこの場合 そりゃさくらちゃんは料理慣れしてたんだろうな…
31 18/12/02(日)23:38:24 No.551855750
一瞬さく幸姉弟設定かと思ったが 震える手…これは…
32 18/12/02(日)23:39:01 No.551855950
さくらの趣味ってお菓子作りだっけ 放送前のプロフィール全部?じゃなかったよね
33 18/12/02(日)23:39:13 No.551856011
若干の不穏要素がいいスパイスになっててよかったい
34 18/12/02(日)23:39:24 No.551856078
みんなの会話がどれもすごい良くて…よか…
35 18/12/02(日)23:40:02 No.551856275
よかったいよかったい…
36 18/12/02(日)23:40:40 No.551856490
どこが良いとかじゃなくて全部良い すごい
37 18/12/02(日)23:40:58 No.551856591
大好きってさらっと言えるさくらはん…尊あじ…
38 18/12/02(日)23:41:28 No.551856749
ループかリセット済か家族か偶然どこかで見たのか…
39 18/12/02(日)23:41:28 No.551856753
よかったいよかったい
40 18/12/02(日)23:41:48 No.551856847
>誰じゃい、これ考えたの。絞り出したような震えた声に、さくらが誇らしく胸を張る。 >サングラスの奥の表情は読めない。わかるのは、優しい声と震えた手だけ。 ここの幸太郎の気持ちを考えると… >少し泣く
41 18/12/02(日)23:43:57 No.551857445
よかったいだけど最後のサキちゃんと愛ちゃんはいったい…
42 18/12/02(日)23:45:01 No.551857756
巽が35歳だったか さくらはん生きてたら27歳だしわりと年齢近いよね
43 18/12/02(日)23:47:24 No.551858474
巽の年齢設定出てたの!?
44 18/12/02(日)23:48:17 No.551858754
(公式設定か妄想かスレで聞いたことか思い出せない)
45 18/12/02(日)23:48:25 No.551858804
それ宮野の年齢じゃねーか!
46 18/12/02(日)23:49:01 No.551858960
>それ宮野の年齢じゃねーか! ダメだった
47 18/12/02(日)23:51:31 No.551859756
ナイスよかったい
48 18/12/02(日)23:51:43 No.551859808
幸太郎はプロフィール出んのかな… さくらはんはグッズバレしてたんだっけ
49 18/12/02(日)23:54:36 No.551860736
純子は宮野(本物)の生まれた年に亡くなってる
50 18/12/03(月)00:00:21 No.551862396
よかったい…ナイスよかったい
51 18/12/03(月)00:03:23 No.551863438
はいよかったいよかったい
52 18/12/03(月)00:11:02 No.551865913
よか…いい夢見れそう…
53 18/12/03(月)00:16:07 No.551867651
各キャラが生き生き動いててがばいよか
54 18/12/03(月)00:16:29 No.551867788
>各キャラが生き生き動いててがばいよか まぁ巽以外死んでるんだけどね
55 18/12/03(月)00:17:38 No.551868246
>>各キャラが生き生き動いててがばいよか >まぁ巽以外死んでるんだけどね 言い方ァ!