18/10/28(日)01:45:35 ガルパ... のスレッド詳細
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18/10/28(日)01:45:35 No.543472705
ガルパンSS エリ梅 まほ
1 18/10/28(日)01:45:53 No.543472776
「エリカさん、この地図上の1025地点から2095地点の移動にかかる時間ですが」 「ええ」 「狭隘な山岳地帯の坂道を登ることになるので、ティーガーIIやヤークトティーガーでは足回りに不安があります」 「それは整備班の努力と改善で減っているはずよ。5分で行けるわ」 「雨が降った場合は重戦車がスタックして大幅に機動力がダウンします。雨上がりで路肩がぬかるんでいても同様です」 「……そうね、何分なら行ける?」 「ぬかるみを避けながら、重戦車は先に通すとして……10分は必要と」 「長すぎるわ、改善策を出しなさい」 「はい。ちなみに答えは何ですか?」 「6分50秒よ」 逸見エリカと赤星小梅は黒森峰機甲科の隊長室で、机上の地図に鉛筆で様々なメモを書込みながら、ずっとシミュレーションをくり返していた。 柱時計がチン、チンと時報を11回告げると、不意にエリカが顔を上げた。 「疲れたわ、お茶にしましょう」 「は、はい」 マグカップを手にコーヒーを飲むエリカの目は、広く重厚な隊長室の一隅を見つめ続けていた。
2 18/10/28(日)01:46:08 No.543472848
「エリカ……さん?」 優勝旗を支えるスタンドが、主の帰りを待っていた。 壁は旗で影になる部分以外が微かに色あせ、そこに何年も鎮座していた事を覗わせる。 「あそこには、常に優勝旗がかかっていたんだわ」 「はい」 「でも、もう2年も、戻ってきていない――優勝旗を取り戻すのが私の使命、私のただ1つの目標ね」 「エリカさん違います。『私たちの』使命です」 「ふん、隊長は私一人しかいないわ。皆は私の指示で動く……失敗は許されない」 「その指示の訓練に私が呼ばれているのは?」 「――あなたが赤星小梅、だからよ」 空になった小梅のマグカップに、エリカが2杯目のコーヒーを注ぎ込んだ。
3 18/10/28(日)01:46:28 No.543472922
◇◆◇ 話は少し前にさかのぼる。 あの大学選抜戦からほどなくして、エリカはまほがドイツに留学する事を聞かされた。 「頼んだぞ、エリカ」 「はい!隊長!来年の春までには……隊長のすべてを受け継いで、黒森峰隊長として恥ずかしくないよう全身全霊で引き継ぎを頑張り……」 「すまん、ニーダーザクセン大学は秋入学だから、単位はすべて取得して繰り上げ卒業でドイツに向かう」 「……は?」 「急で済まない。これから引き継ぎをしよう。大まかには資料はまとめてある」 まほは、携えていた2冊の大学ノートをエリカに手渡す。 「この資料は……私のために?」 「そうだ、これで行けるか目を通してみてくれ」 しばらくの間、びっしりと書き込まれたノートを読み耽っていたエリカが、顔を上げた。 「はい!問題ありません!」 「出発は来週末だ、もし分からないことがあれば聞いてくれ」
4 18/10/28(日)01:46:43 No.543472982
2年間、いや、中等部から5年間ずっと後を追ってきた西住まほがドイツに旅立つ。 その喪失感は計り知れないものがあったが――エリカにはそれに浸っているいとまはなかった。 その日は宝物を受け取ったかのように足早に寮に帰り、ノートを精読する。 そして……エリカは受け取った時には気づかなかった、ある問題に直面していた。 おもわず、天を仰ぐ。LEDのシーリングライトの照明が、容赦なくエリカの網膜に降り注いだ。 「このノート、どれもこれも答えだけしか書いてない……答えに至る推論や解説が、まるで無いじゃないですかぁ!」
5 18/10/28(日)01:47:02 No.543473051
「事務的な引き継ぎは以上だ。問題ないか」 「はい、問題ありません」 「私が引き継げることはもうない。何か聞いておきたいことはあるか」 「はい! ありません……いや、あのノートですが、その、解釈が……少し難しいかと思いました」 まほが、寂しさを含んだ微笑みをふっ、と浮かべた。 「それはエリカの好きにしろ。あのノートは私の個人的なメモだ。全てが正解とは限らない」 「いいえ! 西住隊長の今までの戦いが全て詰まったノートです! 必ずものにしてみせます!」 「そうか……。すまないな、引っ越しの準備がある。また時間を見つけて話そう」 「承知しました!」 その後、エリカは話す機会がないまま、まほはドイツへと飛び立った。
6 18/10/28(日)01:47:28 No.543473135
「うう、この全ての答えに帰結する過程を見つけなければ――来年の私は隊長にはなれない……!」 寮のエリカの私室。 とうに日付が変わっても、まだ部屋の明かりは点いたまま。 エリカはまほのノートを中心に、大きな紙を広げ、『ありとあらゆる戦況についての問いかけと、答えだけ』かかれた、引き継ぎノートを、図書館や隊長室から借りてきた膨大な資料と首っ引きで解いていた。 「『夜間にIS-2 3両を距離1000から撃破するには、パンターF形 2両の編成で対処できる』――そうなの? これはIS-2の装甲の傾斜角とKwK44の貫徹能力から導き出された結果なの? そもそもどこに当てるっていうのよ! だいいち『夜間』って何っ!?」 解説が飛ばされた戦場での事例と答えの間のミッシングリンクを、のっぴきならない資料の山と格闘しながら見つけていく。 闇夜に地面に落ちた針と糸を這いつくばって探し当て、細かくちぎれた布をかき集めて縫うような作業だった。 「やった!これで間違いないわ!!」 問いと答えの間を、戦史、戦車のスペック、戦車道の試合の経過、隊長の言葉、自分が経験した実戦――などなどを複雑に組み合わせて、答えを見いだす。
7 18/10/28(日)01:47:54 No.543473219
エリカが一見単調で、その実複雑な作業を、いくつか終える頃には――東の空がもう白んでいた。 ◇◆◇ 数日後、食堂にて。 「エリカさん、最近すごく疲れていますけど、大丈夫ですか?」 「小梅に心配してもらう必要は何もないわよ……あと、みんながいるときは『隊長』と呼びなさい」 「はい、隊長」 エリカの目のしたにくまができ、肌はかさかさなのをファンデーションで誤魔化し、足取りこそ元気なものの、表情は口を閉じることが出来ず、明らかに疲労が色濃く出ていた。 「でも隊長。ここ数日変ですよ、すごく疲れている様子で……」 「ちょっとネットで調べ物してるだけよ、心配しないで」 「でも、いま体調を崩しては大変ですから――」 「心配しないでって言ってるでしょう!! ほっといて!!」 エリカの剣幕に小梅がびくんと硬直する。 「れ、練習も予定通りやるわよ。自己管理の問題だから自分でなんとかするわ」 「…………了解しました」
8 18/10/28(日)01:48:12 No.543473298
きびすを返し、機甲科の校舎に戻る小梅を振り返る事なく、エリカは昼食のハンバーガーをがっつく。 「ふん」 そして席を立つと、例のノートとメモ帳を取り出し、廊下を歩きながら新たな設問に取り組み始めた。
9 18/10/28(日)01:48:38 No.543473396
◇◆◇ コンコン。 エリカの部屋のドアから小さなノック音。 今日も深夜2時を回っている。 部屋の床の外周には大量の書籍やバインダーや報告書を綴じた物などが山積みとなり、その内周に散乱する資料の山。 そして山の中心には――エリカがいた。 コンコン。 もういちどノック――エリカは無視した。 「開けて下さい隊長。これいじょう無視するなら寮長さんから合い鍵を借ります」 「……小梅」 ドアを開けたエリカの顔は、俯いていた。 何かを見られたくないかのように、俯いていた。 「こんな時間までなにをやってるんですか?」 「……あんたこそ」
10 18/10/28(日)01:49:04 No.543473487
ドアを閉じ、部屋の中をエリカの肩ごしにのぞき込んだ小梅が、部屋の中の様子をみて醒めた口調で言った」 「本を積み上げて、悪魔でも召喚する気ですか」 「うるさい!」 怒りに燃えるエリカは……瞳を赤くし、涙を滲ませていた。 「あんたに何が分かるのよ! あんたに何が出来るのよ! これは私の問題なの! 首を突っ込まないで頂戴!」 「隊長……いや、エリカさん!!」 「何よ!」 「一人で抱え込まないで下さい! 隊長として、もちろん一人でしかできない事もたくさんあると思います。 でもエリカさんはみんなの隊長なんです! 身体を壊したらどうするんですか! 一人できない無茶を抱え込んでいつまでも続けないで!」 エリカが赤い目で小梅をにらみ付け、とっさに突き飛ばそうと向かってくる。 小梅は――エリカが本に躓きよろめいた身体を、がっしりと受け止めた。 「離せ!」 「離しません。何をしているかは分かっています、でもこれ以上は無理です」 「私はこれをやり遂げなければ隊長には成れないのよぉ!! 離して!!」
11 18/10/28(日)01:49:35 No.543473609
「隊長はエリカさん、私は副隊長です! 隊長が解決できないことは副隊長も加わって解決すべきなんです!」 「でも、西住まほ隊長はこれを1人で……」 「エリカさんは無理です!」 カッとなったエリカが、思わず小梅の頬を叩こうとする。 が、それも小梅が片手でいなして……力の抜けたエリカをぎゅっと抱き締めた。 「エリカさんは西住まほさんとは違います。まほさんと同じである必要はないんです」 「でも、黒森峰を優勝に導くためには、私は……!」 「足りない力は、補いましょう。私がいます。副隊長は私です。私と、苦労を分かち合ってください」 「小梅……」 小梅は、がっくりとうなだれたエリカを優しく抱き止め、髪の毛を優しくなでつける。 「私だってお飾りの副隊長じゃありません。あなたと共に歩む、あなたの小梅です」 「うう、う……」 エリカが肩を震わせる。小梅は肩を、背中を、髪の毛を優しく撫でていく。 「ところでエリカさん、ひとつだけ良いですか?」 「なぁに、小梅」
12 18/10/28(日)01:49:53 No.543473692
「ちょっと匂います、髪の毛が」 「……は?」 「きちんとお風呂入ってないですね? お風呂に入りましょう。今すぐ」 「ちょっと、これを手伝ってくれるんじゃなかったの?」 「私はなんにも聞いてませんよ――何をしてるかはだいたい想像が付きますが今日はやる気はありません」 「な、ちょ、やめて、引っ張らないで!」 「ええと、バスタオルに着替えの下着……っと。さぁ行きましょうか、副隊長」 「やだ、まだあと1つ解くの! 解かないと寝れないの!!」 「寝不足の頭じゃ非効率ですよ、ささ、行きましょう」 「やだー!!!」 ずりずりずり、小梅はいや、いやをするエリカのバスタオルと下着をひっつかみながら、エリカを大浴場まで引っ張っていった。
13 18/10/28(日)01:50:08 No.543473749
◇◆◇ 『やあ小梅、元気だったか』 「はい、おかげさまで」 パソコンのモニターには、ビデオチャットごしに西住まほの顔が映っていた。 『エリカも元気か』 「毎晩チャットされてるからよくご存じだと思いますよ?」 『違いない――思ったより元気そうで良かった』 「隊長も私も毎日遅くまで居残りの日々です。でも意外と楽しいですよ?」 『ほう、そんな遅くまでしなければいけない仕事があるのか』 「『引き継ぎ』です」 小梅がまほに向かってウインクしてみせる。 「一人きりで悩むのも必要ですが、全部悩み続けていたら大変ですから」 『そうか』 「私は隊長のお手伝いをしているに過ぎません、問いかけに答え、正しい道筋を探す手助けをする。最終判断は、エリカさんです」
14 18/10/28(日)01:50:28 No.543473807
『小梅はいい副隊長になったな』 「まだまだですよ、本番は――」 横を向いた小梅の瞳は、隊長室、空席となった優勝旗掛けのスタンドのある窓を見つめていた。 おしまい
15 18/10/28(日)01:51:50 No.543474084
エリ梅はこういう関係がよく似合う…
16 18/10/28(日)01:52:19 No.543474199
テキストはこちら su2680688.txt
17 18/10/28(日)02:04:09 No.543476343
お姉ちゃんはさあ…
18 18/10/28(日)02:06:35 No.543476714
お姉ちゃんはそう言う事する
19 18/10/28(日)02:10:31 No.543477252
赤星の押し掛け女房感いい…
20 18/10/28(日)02:23:52 No.543479073
お姉ちゃんはエリカに苦行を与えるの好きすぎない?
21 18/10/28(日)02:41:34 No.543481182
> ドアを閉じ、部屋の中をエリカの肩ごしにのぞき込んだ小梅が、部屋の中の様子をみて醒めた口調で言った」 最後の"」"は"。"のtypo? > エリカが赤い目で小梅をにらみ付け、とっさに突き飛ばそうと向かってくる。 直前で目が赤いのは描写されてるのでなぜ赤くなったのかを書いてもいいかも
22 18/10/28(日)02:46:04 No.543481718
ほっこりしたよ
23 18/10/28(日)02:46:45 No.543481812
>最後の"」"は"。"のtypo? typoです、修正しておきます… >直前で目が赤いのは描写されてるのでなぜ赤くなったのかを書いてもいいかも ここも修正します、ありがとうございます! ちょっと直してるうちにスレが消えちゃいますが…