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18/06/16(土)00:38:36 SS「水... のスレッド詳細

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18/06/16(土)00:38:36 No.512014667

SS「水底(ミナソコ)の呼び声3~甦~」 いままでのあらすじ 愛里寿の依頼でみほを探すことになった大河は華の元を訪れるも、そこで怪しいDVDを愛里寿と共に見た直後に華が死んでしまう。それはその場に駆けつけた梓と紗季によるとエリカの霊の仕業でありみほと優花里が関わっているのだと言う。それを聞き次に沙織の元を四人で尋ねるも、沙織はすでに事切れた後だった。その後、麻子の元に行き、最後に優花里と会った場所を聞き、その場所へと急ぐのであった。 いままでの 1 su2444802.txt 2 su2444804.txt 今回の su2444807.txt

1 18/06/16(土)00:39:59 No.512015041

「……ここですね」  日も落ちてきた頃。愛里寿と警察署で合流した一行は、麻子から教えてもらった目的の場所、第六十二回高校戦車道大会が行われた会場へと着いた。 「しかし、これは……」  大河はその会場の入り口を見て憂鬱そうな声を出す。  会場の入り口は、鬱蒼とした草木が生い茂っており、なかなか容易には入れそうもなかった。 「どう見てもここ数年放置されてますね……」 「ですね……ちょっと調べたんですけど、どうもこの会場は長い間使われていないらしいんです」  梓が付け足すように言う。その言葉を裏付けるかのように、周囲をよく見るとボロボロになった看板や、回収されていない戦車の履帯などが転がっていた。  もちろん、ここ最近人が通ったような形跡もない。 「本当にこんなところに……そもそも、入って大丈夫なんでしょうか」 「でも、手がかりがある可能性があるなら行く」  大河の自信なさげな声に対し、愛里寿は芯の通った声で言うと、一人車を降り、草木をかき分け会場へと入っていった。 「あ、待ってください愛里寿さん!」

2 18/06/16(土)00:40:15 No.512015110

 大河達もそれに続く。一行は、愛里寿を先頭にしわずかに道の体をなしている林の中を進んでいった。 「どう紗季、何か感じる?」 「…………」  進みながら梓が紗季に聞く。それに対し、紗季の反応は、静かに首を縦にふる、肯定だった。 「こっちであってるみたいです」 「そうですか……しかし、愛里寿さんよく迷いなく進みますね」 「戦車道の会場なら、戦車道においてどういう戦いをこの会場で求められているかを考えれば自ずとどういう地形をしているかは分かる。それを考えながら、何かありそうな場所へと進んでいけばいい」 「ほうほう、なるほどなるほど。今度ゆっくり腰を据えて聞いてみたい話ですね」 「今度ね。それより、多分そろそろ林を抜ける」 「えっ? あっ、本当だ……」  愛里寿の言った通り、一行は林を抜け、開けた場所に出た。そこは、あたりを一望できる高所だった。  その高所からは、大河と愛里寿にとって見覚えのある場所も見ることができた。 「あ、あれって……!」 「うん。あの崖道」

3 18/06/16(土)00:40:36 No.512015208

 それは、DVDに映し出されていた崖道だった。DVDでは暗い雨模様であり、画質も悪かったためはっきりと見ることはできなかったが、それが同一のものであることは分かった。  夕日に照らされる崖道は、大河の心に冷たい風を吹き込ませるような感覚に陥らせる。 「恐らく、あの崖道なんですよね。エリカさんが落ちた場所って」 「多分、そう」 「やっぱり、この場所に縛られているんでしょうか。だから映像にも……」 「半分はそうなんじゃないかと思います。DVDを媒体にして人に呪いをかけているということは、ある程度の制約があるということに思えますし」  梓が分析するように言う。一同は、しばらくその崖道を眺めていた。まるで、彼女ら自身もその崖道に縛られているかのように。  そんなときだった。 「…………」  紗季が、ふとまったく違う方向を指指した。 「紗季? どうしたの? ……あっ」  梓がその方向を見て、思わず声を上げた。そこには、大分ボロボロになった小屋が一軒建っていたのだ。 「……あの小屋に、何かあるの?」 「…………」  紗季は梓の言葉を無言で肯定する。

4 18/06/16(土)00:40:52 No.512015272

「なるほど……ここからまっすぐ歩いていけそうですね」 「よし、行こう」  こうして一行は、その小屋へと向かっていった。  遠くからは分からなかったが、小屋の途中の道には崩れたり焦げたりしている建物の残骸があり、そこで行われた戦車戦の名残を感じることができた。  小屋へと着くと、まず正面の扉を開けられるか大河が確かめた。 「それでは……よっ!」  大河は小屋の扉に力を入れる。すると、大河の想像とは違い、小屋の扉はすんなりと開いた。 「……てっきり鍵が掛かっているものと思いましたが、そうでもありませんでしたね」 「……これ、見て」  と、そこで愛里寿が床を指し示す。そこには、壊れた鍵のちょうつがいが落ちていた。 「ふむ、誰かが鍵を壊して中に入った、ということですね……これは、いよいよ何かありそうですね……」  大河は期待と恐怖をないまぜにしながら、そう言った。  一同はゆっくりと小屋の中に入っていく。  小屋は当然ながら電気はついておらず、夕方の時間帯ではいささか暗いため、梓が持ってきた電灯をつける必要があった。 「うっ……すごい埃……」

5 18/06/16(土)00:41:15 No.512015367

「気をつけてくださいね。何があるか分かりませんから。紗季、何か感じる?」 「……すごい力……そのせいで、よく分からない……」 「そう……でも、何かがあるのは確かなんだね」  心もとない明かりで探索を勧める四人。  埃をかぶった床や調度品、壊れた道具などが散乱している。  床はギイギイと音を立て、今にも床板として使われている木材が割れてしまいそうだった。 「みんな! ちょっとこっち来て!」  四人で手分けして小屋を探索していると、愛里寿が何かを見つけ三人を呼んだ。  三人は急いで愛里寿の元へと駆け寄る。そこで発見したのは、驚くべきものだった。 「こ、これは……」 「……人の骨、ですよね……」  それは、白骨死体だった。あたりには生前の持ち物らしきものが散乱している。  大河は、その中から落ちていたカバンを手に取り、中を調べてみた。すると―― 「あっ、これ……! 皆さん、見てみてください……!」  それは財布だった。中にはまだ紙幣や硬貨が残っている。だが、大事なのはお金ではなかった。そこには、運転免許証が入っていた。そして、その免許証に記されている名は、こう書かれていた。

6 18/06/16(土)00:41:30 No.512015428

「秋山、優花里……」  それは、優花里の運転免許証だったのだ。写真も、優花里のものだった。 「つまり、この死体って……」 「……優花里さんの、骨」  一同は息を呑む。みほに繋がり、事件の真相に繋がる手がかりとなる人物が、白骨死体として見つかったのだ。  言葉を失うのも当然だった。 「……他に、他に何か……」  大河は何か手がかりはないかとカバンを漁る。すると、一冊の手帳が出てきた。 「手帳……何か、大切なことが書いてあるかもしれません……!」  大河はカバンを床に置き、その手帳を読み始める。 「こ、これは……!」  そして、その内容を読み、思わず驚嘆の声を上げた。 「どうしたの!? 何が書いてあったの!?」 「……読みますね」  そして、大河は読み始めた。優花里のボロボロになった手帳の、重大な事実が述べられている部分を。

7 18/06/16(土)00:41:51 No.512015503

『私、秋山優花里はもうすぐ死ぬでしょう。飲まず食わずでもう何日も経ちましたが、死因はそれではありません。私は、取り殺されるのです。西住殿と、エリカ殿に』 「それって……!」 「まって! 愛里寿ちゃん! ……王先輩、続きを」 『私はあのとき、エリカ殿が宿った西住殿を見て、恐怖に屈してしまいました。死にたくないと思いました。だから、斑鳩殿と西住殿と対面させ、インタビュー動画を作りました。あとはそれを、全国にネットで流せば呪いは日本中に広がるはずでした。そして、私も助かるはずでした。でも、私は直前で、やはりこれは駄目だと思ったのです。もしあの動画を流せば、この国は、いや世界は大変なことになります。だから私は、ギリギリのところで動画を流すのを止めさせました。あの、冒頭のインタビュー以外は撮ってもいないはずの映像が映し出された、あの映像を』 「あの映像は、みほさんへのインタビュー映像だったんだね……」 「はい、そうらしいです。では、続きを読みますね」

8 18/06/16(土)00:42:09 No.512015578

『そして、私はこの場所をよく訪れていた西住殿を捕まえ、この小屋の地下室へと監禁しました。この場所を封印しました。もう二度と、西住殿が外に出ないように、と。そのときは、それでよかったと思いました。でも、その直後に斑鳩殿が怪死を遂げたことにより、私の心は再び恐怖に支配されました。死にたくない、そんな気持ちが心を支配しました。だから、未だに捨てずに持っていたあの映像をDVDに焼き、あろうことか私は大切な友人である五十鈴殿、武部殿、冷泉殿へと渡してしまいました。そうすることで、私は助かると思って。でも、それは浅はかな考えでした。一度裏切った私を、西住殿は、いやエリカ殿は許してくれるわけがなかったんです。私の周りでどんどんと不幸が起き始めました。いずれは私の番でしょう。だって、私はあの西住殿を、エリカ殿を直接見てしまっているんですから。今願うのは、どうかあのDVDがこれ以上他人の目にさらされないことだけです』 「…………」  大河はそこまで読むと、手帳をパタンと閉じた。

9 18/06/16(土)00:42:28 No.512015674

 一同の間で緊張の糸が張り詰める。それは、探していた人物が呪いの根源であることを知ったゆえであり、そして、その根源が今すぐ近く、その小屋のどこかにいるということからだった。 「地下室……この小屋にそんな場所が……一体どこに……」 「……それは、多分ここ」  愛里寿は梓の言葉にそう言うと、そこにあった優花里の骨を横によけた。  そして、懐中電灯を当てると、そこには地下へと続く四角い扉があった。 「……入るよ、いいね」 「だ、大丈夫なんでしょうか。私達、これ以上踏み込んだら後戻りできないような……」 「もともとそのつもり。呪いを解くには、これしかない」  愛里寿は大河の不安げな声に対し、毅然とした態度で言うと、その扉を開けた。  地下に降りていく四人。地下は小屋の中よりも更に埃っぽかった。  そして、ある程度進むと、四人は、彼女を見つけた。 「あっ、あれって……!」  地下の壁に拘束されている女性が一人、そこにいた。それこそ、愛里寿が探し求めていた、西住みほ、その人だった。 「みほさん!」  愛里寿はみほに駆け寄る。

10 18/06/16(土)00:42:53 No.512015761

 驚くことに、みほは白骨化していないどころか、まだ顔の血色が良かった。  大河達もワンテンポ遅れて愛里寿に続く。 「……すごい……意識はないけど、まだ生きてる……」  梓がみほを見て言った。みほはまだ息をしており、かろうじてという様子だが生きていた。  そのみほに、紗季が触れる。そして、ぶつぶつと何か言葉をつぶやき始めた。 「紗季さん……?」 「しっ! みんな動かないで! 紗季は今、多分戦ってる……」  大河と愛里寿は梓の言葉通り、動くのを止め、その成り行きを見届けた。  紗季はずっとぶつぶつと何か言葉を続ける。  すると、周囲にあるものが次々と勝手に揺れ始め、ついには小屋全体が震え始めた。 「あ、梓さん! これって……!」 「いいから! みんな! 紗季を信じて!」 「……! ……!」  紗季のよく分からない言葉がより一層激しさを増す。それにつれ、揺れも激しくなる。 「……っ!」

11 18/06/16(土)00:43:11 No.512015866

 しかし、紗季が大きな声で何かを叫ぶと、その揺れはピタリと止み、静かになった。  そしてそれと同時に、紗季が床に倒れた。 「紗季っ!」 「だ、大丈夫ですか!?」 「……大丈夫。気を失ってるだけみたい。多分、除霊に成功したんだと思う」  その言葉に、大河はほっと胸を撫で下ろす。 「そ、そうなんですか……案外、あっさりとしたものですね……」 「除霊するときは、だいたいそうだから。でも、紗季が気を失ったのは初めてかも……」 「……そうだ、みほさん。みほさんをここから解き放たないと」  そう言い、愛里寿は周辺を探し、一度優花里のカバンまで戻り、そこから鍵を見つけ出す。  そして、その鍵でみほの拘束を解いた。 「さ、みほさん。辛かったでしょう。でも、もう大丈夫だから。もう、問題はないから」  愛里寿は優しい笑顔でみほに言う。  大河はと言うと、現実離れした状況に、一人ポカンとしていた。そして、なんとなしに後ろを振り返る。 「あっ……」

12 18/06/16(土)00:43:27 No.512015954

 そこで気づいた。その位置からの光景――みほが拘束されていた場所からの光景が、あのDVDに最後に映っていた光景だったのだと。  もしかしたら、みほは助けを求めていたのかもしれない。  大河はそう思った。DVDに自分へと繋がる映像を移して、友人に助け出してほしかったのかもしれない。それに、エリカの邪念が邪魔しただけなのかもしれない。  大河は、そう考えることにした。 「みほさん……!」  愛里寿はみほをおぶろうとするも、愛里寿の小さな体ではみほは少し大きかった。 「あっ、愛里寿さん、手伝います!」  大河は愛里寿を手伝い、みほを運ぶことにした。  ――終わった。これで、きっと終わったんだ。  大河はみほの重さを体で感じながら、そう思った。    ◇◆◇◆◇

13 18/06/16(土)00:43:43 No.512016017

 みほを病院に送り届け、警察の事情聴取を受けた大河は、自宅へと戻っていた。時間は、すっかり夜になってしまっていた。 「ふぅ……」  大河は軽く息を吐き、飲み物を口にする。 「一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなってよかった……」  大河は心からそう思っていた。  幽霊という存在を身近で感じた、恐ろしい一日だとも思った。  だが、喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉のように、大河はすでにこの事件をどうテレビのネタにしようか考えていた。 「ちゃんと録画しておけばよかったなぁ。そんな余裕なかったと言えばそれまでなんだけど」  そんなことを言いながら、大河はコップにさらに飲み物を注いだ。  プルルルルルル……。 「ん?」  と、そのときだった。  大河の携帯電話が、突如電話の着信音を鳴らし始めたのだ。

14 18/06/16(土)00:44:06 No.512016108

「誰だろう?」  大河は着信画面を見る。そこには、『澤梓』と表示されていた。 「梓さん? 確か病院で紗季さんを見舞っているんじゃ……」  不思議に思いつつも、大河は電話に出る。 「はい、もしもし王ですが」 『あっ、王先輩ですか!? 澤です! その、そっちに愛里寿ちゃん行ってませんか!?』 「えっ?」  突然の質問に大河は驚いた。なぜ愛里寿のことを聞いてくるのだろうか。愛里寿は今みほにつきっきりのはずだが、と。 「えっと、愛里寿さんはそっちにいるんじゃ……」 『それがいなくなったんです! それだけじゃなくて、先程まで病院のベッドで安静にしていたはずのみほさんが、容態が急変して、突然発作を起こして死んじゃったんです!』 「へっ……!?」  大河は思わず変な声を出してしまった。  みほが死んだ。それは、大河にとって理解不能な事態だった。 「そんな……除霊は成功したんじゃ!?」 『……もしかしたら、失敗したのかも……』

15 18/06/16(土)00:44:23 No.512016177

「そんな!」 『それで、急に愛里寿ちゃんもいなくなっちゃって……! 私、これから探してみようと――紗季!? どうしたの!? どこへ行くの!? あっ、すいません切ります! 王先輩は、絶対そこから動かないでくださいね!』 「ちょ、ちょっと待ってください! ちょっと! ちょっと!」  そこで電話は切れた。大河は、何がなんだか分からず、呆然とするだけだった。

16 18/06/16(土)00:44:40 No.512016245

「……ん? こんな時間に誰だ?」  麻子は、突然インターホンを鳴らされ、恐る恐る玄関へと向かった。  そして、のぞき穴から外を伺うと、そこに愛里寿が立っているのが見えた。 「……なんだ、島田さんか」  麻子は警戒を解き、扉を開ける。 「どうしたんだ島田さん、こんな時間に」 「こんばんは、麻子さん。会いたかったよ」  愛里寿は笑顔を麻子に向ける。その笑顔に、麻子はなんだか薄ら寒いものを感じた。 「……もしかして、西住さんのことか? そのことなら、澤さんからもう電話で聞いたぞ」 「そうだよね、もう電話で聞いてるよね。みほさんのこと。でもね、今回はちょっと違うんだ」 「……違う? 一体何が」  麻子はますます分からなかった。愛里寿が訪ねてきた理由が。  愛里寿はただただ笑顔を浮かべているだけ。それがとても解せなかった。  そして、もう一つ疑問に思ったことがあった。  彼女の目は、こんな色をしていただろうか?

17 18/06/16(土)00:44:56 No.512016319

「私ね、麻子さんにすっごく会いたかったんだよ? 華さん、沙織さんと会って、次は麻子さんって決めてたの。でも、警察に余計な足止めをくらっちゃったから……でも、こうして会えた。だから、私の目的は達成されたの」 「目的? 達成? 一体何を言って――」  麻子は途中で言葉を失った。  なぜなら、聞こえてきたからだ。背後から、その声が。 「アアアアアアアアア……」  水の底から這い出るような、その声が。 「え……あ……」  麻子はゆっくりと後ろを振り返ろうとする。だが、次の瞬間。 「っ!? がはっ!?」  麻子の喉に急に銀髪の髪の毛が巻き付き、そのまま麻子を部屋の奥まで引きずっていったのだ。 「……! ……!」  必死にもがくも、だんだんと気が遠くなる麻子。  その麻子が最後に見たものは、ただただ笑顔を浮かべている、愛里寿の姿だった。

18 18/06/16(土)00:45:12 No.512016384

「一体、何だって言うんですか……」  大河はただただ困惑していた。 「事件は解決したんじゃなかったんですか……!?」  すべてが丸く収まったと思っていた。しかし、みほが死んだということはそうではない。愛里寿がいなくなったということはそうではない。何かが起こっている。  大河はそう感じていた。  プルルルルルル……。 「っ!?」  再び大河の携帯が鳴る。  大河は恐る恐る電話に出る。  それは、梓からの電話だった。 『もしも……澤で……聞こえてま……か……王先……い……!』 「えっ? すいません! よく聞こえません! もっとはっきり!」

19 18/06/16(土)00:45:35 No.512016501

 電話は妙なノイズが入りはっきりと聞き取ることができなかった。  大河は大きな声を上げ、電話の向こうの梓に叫びかけた。 『今……麻子さんの家……麻子さん……死……で……!』 「えっ!? 麻子さんがどうしたんですか!? 梓さん!」 『いいで……愛里……絶対……出……でくださ……!』  そのとき、ピンポーンと、大河の家のインターホンが鳴り響いた。 「あっ、すいません! 誰か来たみたいなんで! 一旦切りますね!」 『だ……王先輩……待っ……!』  大河は電話を切り、近くにあるソファーに置くと、玄関へと向かう。そして、のぞき穴から誰が来たかを確かめる。  その人物に、大河は驚いた。 「愛里寿さん!?」  大河はその驚きの勢いのまま、扉を開ける。 「どうしたんですか愛里寿さん! 皆さん、あなたがいなくなったって大騒ぎしてましたよ!」 「うん、ごめんね大河さん。ちょっと上がってもいいかな?」 「えっ? それはいいですが……というか、あなたに私の家の場所、教えてましたっけ?」

20 18/06/16(土)00:45:50 No.512016583

「ふふふ……」  愛里寿は大河の疑問にただ笑って返すだけだった。  大河はその時点で、何かまずいものを愛里寿から感じる。だが、一度開いた扉を何故か閉めることができず、大河は愛里寿を家の中に入れてしまった。 「何やってるの? 大河さんも玄関で固まってないで入りなよ」 「え? ああ、はい……」  まるで家主と客が逆転したかのような会話だった。大河はそのまま愛里寿に続き、家の中に入っていく。  愛里寿は大河の家の廊下を楽しげに歩いている。 「あの、愛里寿さん。一体どうしたんですか……?」 「実はね、私、いなくなる直前のみほさんと会ってたの」 「え……?」  突如語り始める愛里寿。その語りに、大河は戸惑いを隠せない。

21 18/06/16(土)00:46:05 No.512016677

「みほさんはね、仲間を欲しがってた。ううん、欲しがってたのはみほさんじゃなくて、エリカさんなんだけど。とにかく、自分を受け入れてくれる人が欲しかったの。エリカさんの想いは昔から何一つ変わってなかった。それは、一人は嫌だ。忘れられたくない。そんな想い。私はそれをみほさんを介して理解して、みほさんを通じてエリカさんという人物を知って、同情した。可哀想に思った。力になりたいと、そう思った。そして私はその日から、エリカさんと一つになった」 「な、何を、言って……」  大河はその時点で察していた。眼の前の女性が、島田愛里寿という女性でありながらも島田愛里寿ではないということに。  なぜなら、灰色だったはずの彼女の瞳は、今、青く輝いているのだから。 「でもその後不測の事態が起きた。エリカさんの魂を宿していたみほさんが、まさか監禁されちゃうなんて。でも、もう大丈夫。エリカさんもみほさんも今は私の中にいるから」 「え……あ……」 「王先輩っ!」 「……っ!」  と、そこに玄関を開け梓と紗季がやって来た。そして、愛里寿を見て顔を真っ青にした。 「……! ねえ紗季、これって、やっぱり……!」

22 18/06/16(土)00:46:20 No.512016735

「……うん。エリカ、そこ……」  紗季が、愛里寿を指さして言った。 「王先輩! 逃げてください! エリカさんは、ずっと私達の側にいたんです! 愛里寿ちゃんの中にいて、ずっと一緒にいたんです! くそっ! 愛里寿ちゃんがDVDを見たのも、計算の内だったんです! 私達に自分の存在を気取られないようにするための……!」 「に、逃げろって言ったって……!」  大河の足はガクガクに震え、動けなくなっていた。恐怖が大河を支配していた。大河はなんとかその場から動こうとする。だが、転び、尻もちをついてしまった。 「あっ……!」 「王先輩! 紗季っ!」 「……うんっ!」  紗季は今までになく力強い返答をし、大河と愛里寿の間に立つ。  そして、両手を前に出し、またブツブツとつぶやき始めた。 「またそれ? でもね、無駄だって分かってるでしょ?」  愛里寿はクスリと笑い、紗季へとゆっくり歩み寄る。  一方、紗季は体中から玉のような汗をかいていた。

23 18/06/16(土)00:46:46 No.512016845

「……っ! ……っ!」 「頑張ったね。でももう、終わり」  そう言って、愛里寿は呪文を唱え続ける紗季の横まで行くと、ポンと肩を叩いた。 「っ!?」  その瞬間、紗季は吐いた。泥水を、床にぶち撒けた。  その泥水には、銀髪が混じっていた。 「っ! っ! っ!」  紗季は吐き続ける。その量は、明らかに人間の体から出るような水量ではなかった。  そして吐き続けた紗季は、ついに床へと倒れた。その目は白目を剥き、倒れてもなお口から泥水を吐き続けていた。 「あ……ああ……! 紗季……! 紗季……!」 「次は、あなた」  愛里寿がそう言い梓に向かって手を前に出す。 「っ!?」  すると、梓の四肢に銀髪がまとわりつき、梓を引っ張っていく。 「嫌ぁ! 嫌ぁ!」

24 18/06/16(土)00:47:04 No.512016956

 梓は泣きながらもがく。だがその抵抗も虚しく、梓は道路へと引きずり出された。  そして、その梓に向かってトラックが走ってくる。 「嫌っ、嫌あああああああああああああああああっ!」  梓の声は夜の帳にこだました。そのまま、梓は止まらないトラックに轢かれる。トラックはそのまま横転し、荷台の下に血溜まりを作った。 「あ……あ……」 「これで、みんな一緒」  愛里寿が笑顔で大河に言う。 「あああああああああああああっ!」  大河は愛里寿から這々の体で逃げる。家の中へと、必死で逃げ込む。 「どうして逃げるの? 私はただ、みんなで一緒になりたいだけだよ? エリカさんが一人で寂しくないよう、いっぱい友達を作ってあげるの。私とみほさんだけでもいいけど、それじゃあやっぱり寂しいしね」 「ああ……うああ……」  大河に歩み寄ってくる愛里寿。

25 18/06/16(土)00:47:20 No.512017008

 その愛里寿を、大河は近くのカバンに入っていたカメラで撮り始める。  なぜそうしたかは大河には分からなかった。ただ、テレビ記者としての彼女が、最期の光景を映し出そうとしたのかもしれない。  大河はカメラを見る。  カメラ越しに見る愛里寿は、愛里寿ではなかった。そこにいたのは、エリカだった。  碧眼銀髪で、体中から水を滴らせるエリカの姿が、そこにあった。 「さあ、大河さん。一つになりましょう……?」 「あ……ああああああ……ああああああああああ……!」  そこで、部屋の電気が消えた。それと同時に、カメラの電池も尽きる。 「くすくす……」  暗闇の中で聞こえてくるのは、愛里寿、いやエリカの笑い声だけであった……。    ◇◆◇◆◇

26 18/06/16(土)00:47:43 No.512017092

『続いてのニュースです。◯◯テレビの記者である王大河さんと戦車道プロリーグの選手島田愛里寿さんが失踪してから三ヶ月が経ちました。警察は同時期に起きた怪死事件となんらかの関係があると見て調査を続けていますが、捜査に一行に進展はなく……』

27 18/06/16(土)00:48:01 No.512017164

 ニュースを放映しているテレビが置かれている、ショーケースがある家電屋はシャッターを下ろし、その店頭には、誰も居ない。  店の中にも、店の外にも、それどころか、その通りには誰も人がいなかった。  そこは商店街のはずだった。だが、どの店もシャッターを下ろしており、そのシャッターにはどこのシャッターにも無数の張り紙がしてある。  その張り紙は、どれもが探し人の張り紙だった。  うちの子を探しています。夫を探しています。妻を探しています。祖父を探しています。祖母を探しています……。  そんな内容の張り紙がいくつもしてあり、その異様な光景はどこまでも続いていた。  商店街を抜けたスクランブル交差点にも人はいない。ただ、ビルに設置されたテレビが行方不明者のニュースを続けるだけであり、信号は虚しく赤く点灯していた。  その誰も居なくなった街に、雨が降り始めた。ポツポツと降り始めた雨は、やがてざぁざぁ降りになり、誰も居ない街を濡らしていく。  人のいなくなった街で、ただ雨音だけが鳴り響いていた。まるで、人のいなくなった代わりに雑踏を奏でるが如く……。  おわり

28 18/06/16(土)00:51:09 No.512017989

あわわ ガチのホラーじゃ…

29 18/06/16(土)00:51:33 No.512018082

おっかねぇだ…

30 18/06/16(土)00:51:59 No.512018174

読んでいただきありがとうございました su2444838.txt 過去作もよかったら ・シリーズもの su2444833.txt ・短編集 su2444837.txt

31 18/06/16(土)00:52:44 No.512018315

そして誰もいなくなった…そしてみんな一緒になった

32 18/06/16(土)00:55:11 No.512018875

前回の話見逃したのかな?

33 18/06/16(土)00:56:41 No.512019223

予想の斜め上の展開だった

34 18/06/16(土)00:58:05 No.512019553

マジもんのホラーじゃねえか!

35 18/06/16(土)01:00:05 [す] No.512019908

>前回の話見逃したのかな? あい!昨日は一時に投げて0レスで落ちました!「」っちーのタグも荒されてガルパンSSタグがつけれない状態になっていたので見逃したのかと! とりあえず上のテキストで補完してるからそっちを読んでもらえるとありがたいです

36 18/06/16(土)01:05:07 No.512020817

幽霊エリカが全ての登場キャラクターを取り込んでしまったということはエリカの思念体の中にガルパン世界の全てが入り込んだということになってその結果エリカが経験出来なかった第63回戦車道大会以降の世界=本編の世界が幽霊エリカの中の世界で展開して行く…つまりガルパン本編は実は………というのを想像してしまった

37 18/06/16(土)01:11:38 [「」ールグレイ] No.512022019

昨日来てたのね… ダークサイド「」に懺悔します ッチーのタグが目に余ったので先にタグ付けしてやれと怪奇幻想タグを付けたのは私です すまんかった…

38 18/06/16(土)01:13:27 [す] No.512022342

>すまんかった… いいんだ なんか雰囲気出たし!それに気持ちがとってもありがたいのよー ちなみに今作で通算100作目になります ここまでこれたのも「」のおかげですありがとうございます

39 18/06/16(土)01:15:44 No.512022736

100作目にトンでもねえブツを書きやがって

40 18/06/16(土)01:19:21 No.512023377

全員やつの中に取り込まれて逃れられなくなった 出ることが出来ない鳥かごの宮殿に捕らえられたのだ あ…100作おめでとう

41 18/06/16(土)01:19:57 No.512023508

100作目で人類滅ぼしたやつ

42 18/06/16(土)01:20:47 No.512023668

怨霊エリカはこれで完結なのかえ?

43 18/06/16(土)01:22:10 No.512023939

鈴木光司好きすぎる…

44 18/06/16(土)01:24:29 No.512024344

僕ぁさあ死んだ場所が映像に映るところは四国R-14をさぁ思い出したよぉ「」村くうん

45 18/06/16(土)01:25:13 No.512024498

破滅物いいよね…

46 18/06/16(土)01:26:18 No.512024737

あの…これもビジュアルノベルにするの?

47 18/06/16(土)01:27:06 [す] No.512024916

>あ…100作おめでとう ありがとう ここに投げてなかったら絶対100作まで続かなかったから「」のおかげだよ本当に >怨霊エリカはこれで完結なのかえ? はい もともと2で完結するのをホラー映画見てて「蛇足な3作りてぇ……」ってなったのが原因だからね! 正直めちゃくちゃ脳みそしぼったからこれ以上続き書ける気がしないの! >鈴木光司好きすぎる… リングに衝撃を受けた世代なので……

48 18/06/16(土)01:28:22 [す] No.512025176

>あの…これもビジュアルノベルにするの? するかもしれないししないかもしれない というのも2のビジュアルノベル化が予定は未定なので2するんだったら3もするだろうけどまず2どうなるかなーという感じだからね

49 18/06/16(土)01:30:38 No.512025565

斑鳩があっさりしんでてダメだった

50 18/06/16(土)01:33:59 No.512026175

1冊にまとめたらどうだろう 表紙は創元推理文庫の灰背っぽい感じでさ

51 18/06/16(土)01:34:52 No.512026316

>蛇足な3作りてぇ 蛇足が一番こえーよ

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