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18/03/01(木)23:31:31 SS「Sil... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1519914691465.png 18/03/01(木)23:31:31 No.488239567

SS「Silent Evil」 前回までsu2272842.txtのあらすじ 逸見エリカは目覚めると荒廃した学園艦にいた 知っていたはずの風景が変わっていることに戸惑うエリカの前に現れたのは、かつての友人が化物になった姿であった 恐怖をしながらも学園艦から逃げ出すことを誓うエリカ 彼女が目指す学園艦のヘリポートはあと僅かであった……

1 18/03/01(木)23:32:36 No.488239860

 それからエリカは、道にいる異形を避けつつも進んでいき、ついにヘリポートへたどり着くことができた。  ヘリポートは小高い塔の上にあり、そこには階段を登っていく必要があった。  エリカは階段へと続くフェンスを開き、階段を登っていく。  幸いにも、その途中に異形の姿はなかった。  そして、ついに塔の頂上、ヘリポートへとたどり着く。  ヘリポートの上には、エリカの目指していたヘリ、Fa223がライトに照らされた姿でそこにあった。 「やった……!」  エリカは思わず声を上げる。  これでこの学園艦から脱出できる。  そう思うと足取りも軽やかになり、エリカはヘリに向かって駆け出した。  だが、運命は決してエリカに味方しているとは限らなかった。 「ウガアアアアアアアアアアアアアッ!」 「っ!」  突然の大きな呻き声が、エリカの耳をつんざいた。  エリカが何かと思い立ち止まると、突如下方から何かが飛び上がってきた。

2 18/03/01(木)23:33:40 No.488240116

 それはそのまま、ヘリの真上へと着地し、ヘリを大きく二つに割った。 「ヘ、ヘリが!?」  エリカの顔色が一瞬で絶望に染まる。  ヘリを引き裂いたソレは、舞い上がった煙の中からゆっくりと姿を現す。  ソレは、エリカのよく知った『顔』だった。 「こ、小梅……!」  それは、エリカがこの学園艦で最初に出くわした異形、小梅であった。  だがその姿は、エリカが最初見たときとは大きく変わっていた。  体は最初に見たときの二倍ほどに大きくなっており、手足が非常に大きく肥大化している。  肩がなかったその体は、今度は首がなく肩だけの不自然な姿へと変貌しており、頭は旨の当たりぼこりと飛び出していた。  顔の半分は黒い筋繊維で犯されており、エリカもかろうじて小梅と判断できるほどであった。  見開いた白目からは、あのタールのような黒い血が流れ出ている。まるで涙を流しているかのようであった。 「……エリ……カ……サ……! エリカサ……ン……! エリカ……サン……!」

3 18/03/01(木)23:34:03 No.488240190

 小梅はエリカを見ると、ぬちゃりぬちゃりと不快な足音を立てながらエリカに近づいてきた。  エリカはバットを構え、小梅と向かい合う。  小梅はエリカに近づくと、その巨体に見合わない素早い動きで腕を振り上げ、エリカに振り下ろしてきた。 「ぐっ!」  エリカはそれをぎりぎりのところで避ける。  あとすこしタイミングがずれていれば、今頃ぺしゃんこにされているところだった。  ヘリポートをくぼませているその腕が、何よりの証拠だった。  エリカは今までの要領で素早く背後に回り、バットを振り上げる。  そして、それを小梅の巨体に振り下ろした。 「うわあああああああっ!」  渾身の一撃。  だが、小梅はまったく動じないどころか、そのまま振り返り、エリカを振り払った。 「ぐふっ!?」  エリカは大きく吹き飛び、壊れたヘリにぶつかる。

4 18/03/01(木)23:34:28 No.488240283

 そのときに背中を強打し、エリカは腹部を抑えながら倒れ込み、咳が止まらなくなる。 「ゴホッ! ゴホッ! ゴホオッ!」  その咳が出ている口からは、だらだらと涎が垂れていた。  倒れているエリカに小梅がゆっくりと近づいてくる。  エリカは体に走る激痛を押さえ込みながらもなんとか立ち上がり、先程手放してしまったバットを再び握る。  だが、エリカの心の中では絶望が支配していた。  ――こんなの、勝てるわけがない……!  エリカの手足は震え、一歩、また一歩と近づいてくる小梅に対し、後ずさっていく。  後ろですぐヘリの残骸が背中をついた。  すると、エリカはそのヘリの残骸に手をつきながら、ヘリの後ろへと逃げ込む。  だが小梅は、そのヘリの残骸すら払い除け、エリカに近づいてくる。  エリカの背にはもう逃げる場所はない。  あるのは、下に広がる闇ばかり。  もはや、エリカは絶体絶命だった。 「私、こんなところで死ぬの……? 何がなんだかわからないまま、死んじゃうの……?」

5 18/03/01(木)23:34:43 No.488240368

 エリカがついに諦めようとした、そのときだった。 「エリカさん! こっち!」  自分の足元から、誰かがエリカの名を呼んだのである。 「そのまま飛び降りてきてっ!」  その声は、そこから飛び降りろという指示だった。  普通なら、とてもではないが従えない指示。  だが、その瞬間エリカはとあることを思い出した。 「そ、そうかっ!」  エリカはその声の言う通り、勢いをつけてヘリポートの下へと飛び降りた。  ふわりとした浮遊感がエリカを襲う。  エリカの体は、重力に引き寄せられ下へ下へと落ちていく。  エリカはその間、ぎゅっと目を瞑り、自分の目論見が叶っていることを願った。  すると、次の瞬間、エリカの体はバシャン! という大きな音と共に、水の中へと沈んでいった。

6 18/03/01(木)23:34:59 No.488240429

  ◇◆◇◆◇         「…………?」  気づけば、エリカは暗闇の中にいた。  つい先程水の中に飛び込んだはずなのに、今のエリカはどこだか知らない場所に立っている。  そのエリカを、突如光が照らす。 「んっ……!」  エリカはその光に思わず手で顔を覆った。  だが、それほど激しい光でも無かったため、すぐに目が慣れ、光によりはっきりと周囲を見回すことができる。  そこはどうやら細い廊下のようだった。  壁には幾つもの扉が並んでいる。

7 18/03/01(木)23:35:18 No.488240524

 光は、天井の電灯が点いた明かりだった。  エリカはどこか既視感を覚えるその廊下を、とりあえずまっすぐ歩いて行く。  不思議なことに、エリカの視界にはなぜかモノクロな、色のない世界が広がっていた。  やがて、エリカは両開きの大きな扉に行き着く。  その扉は異様だった。  扉自体は何もおかしくない。  だが、扉には、モノクロの視界でも恐らく血だと分かるべったりとした液体で、大きく文字が書かれていたからだ。  そこには、こう書いてあった。

8 18/03/01(木)23:35:35 No.488240606

『お前は罪人だ』

9 18/03/01(木)23:35:59 No.488240723

 それは自分に宛てられたメッセージであると、エリカはなぜだか理解した。 「…………」  エリカは息を呑み、その扉に手を掛ける。  そして、扉を開くと、その扉の向こうからは激しい光が差し込んできて、その向こうには――

10 18/03/01(木)23:36:20 No.488240832

  ◇◆◇◆◇     「……カさん。エリカさん!」 「んあ……?」  エリカは自分を呼ぶ声と体を揺さぶられる感覚によって、目を覚ました。  エリカが目を覚ましたとき、エリカは頭に柔らかい感覚を受けた。  温かく、落ち着くその感覚は、どうやら誰かの膝に頭が乗せられているのだとエリカは把握した。  おぼろげな視界を声のした上方に移す。  そこには、誰かの顔があった。  その顔はやがて、だんだんとはっきりとしていく。  そうしてあやふやだった視界は、ついにははっきりとモノを映すようにまで戻る。  そして、エリカの目には、とある人物の顔が映し出された。 「……みほ?」 「よかった! エリカさん! 目を覚ましてくれて!」

11 18/03/01(木)23:36:36 No.488240884

 そこにいたのは、かつての戦友であり、今では他校にいるライバルであり、尊敬する人物の妹であり、そして、エリカにとって決して無視できない存在である少女だった。  西住みほが、そこにいた。

12 18/03/01(木)23:36:53 No.488240941

  第二章 姉妹

13 18/03/01(木)23:37:15 No.488241033

「みほ……なの?」  エリカは自分の目が信じられなかった。  ――何故ここにみほがいるの。既に学園艦から去ったはずのみほが、どうしてこんなところに。 「どうして……どうしてここに」  エリカは起き上がりながら、みほに問いかける。 「えっと……実はお姉ちゃんと一緒に行動してたんだけど、お姉ちゃんが怪我して……それで、私は応急処置でもいいからできる道具を探しに……」 「……お姉ちゃん……えっと……隊長が!? ……じゃなくて、私はどうしてあなたがこの学園艦にいるって聞いてるのよ!」  エリカが聞くと、みほは、ああ、と納得したような表情を浮かべた。 「あ、そっちか……。うん、そのね、黒森峰の学園艦が大洗に停泊したから、お姉ちゃん達に会いに来たんだけど……お姉ちゃんから話聞いてなかった? そういえばエリカさん、私が来たときにはいなかったけど……」 「隊長から……? うっ」  エリカは急な頭痛に襲われた。  そして、一つの記憶を思い出す。  それは、エリカが携帯電話の留守番電話を取る記憶だった。

14 18/03/01(木)23:37:49 No.488241157

 記憶の中でエリカは、確かにまほからの留守番電話で、みほが黒森峰の学園艦に来るという連絡を受けていた。  そして、それと一緒に、エリカはみほに言われるまでまほの存在すら忘れていたことを自覚した。  エリカは体を震わせる。  それは、夜中に水に沈んだ寒さからではなく、自分の記憶の欠落が思った以上に深刻だということに気づいたからであった。 「ええ……そうね、確かに聞いていたわ」 「……大丈夫? エリカさん。流石に、この時期の夜のプールに飛び込んだら寒かった?」  みほはエリカの体の震えを寒さから来たものだと思ったらしい。  エリカは自分を心配するみほに対し、なんでもないように振る舞うことにした。 「ええ、大丈夫よ。少し震えただけだから。それにしても、この時期になってもまだ水が張ってあって助かったわ」  自分の脇にある屋外プールを見ながらエリカは言う。  エリカが落ちたプールは、黒森峰でも富裕層の家にある屋外プールだった。  黒森峰の生徒の間では有名な場所で、その場所が偶然ヘリポートの近くにあったのだ。 「うん、そうだね。 それにしても、エリカさんが無事でよかった……」

15 18/03/01(木)23:38:17 No.488241264

 みほがほっとしたような笑みを浮かべる。  そのみほの笑みは、みほが黒森峰にいた頃から変わらないと、エリカは思った。 「ありがとう、みほ。あなたのおかげで命拾いしたわ」 「ううん。お礼を言われるようなことじゃないよ。エリカさんが怪物に襲われているのを見たときはびっくりしたけど、なんとか助かって嬉しい」  みほの言葉に、エリカは思わず喜ぶ。  まだみほが自分のことを気にかけてくれていたことに、エリカはこんな状況でも安心を覚えた。 「……私、てっきりあなたは私のことを恨んでるものとばかり思ってたわ。だって、私はあなたが黒森峰からいなくなった原因みたいなものなんですもの」  エリカは語りながら思い出していた。  みほが黒森峰からいなくなった理由を。 「あなたは去年の全国大会で、水没した戦車から私を助けてくれた。でも、そのせいであなたは責任を負わされて黒森峰から去ることになった……その原因を作ったのは私。それなのに、私はあなたに冷たくあたって……」  昨年の大会。  それは、第六十二回戦車道全国高校生大会決勝戦。  その大会で、エリカは自身の乗る戦車を水没させ、チームが敗北する原因を作った。

16 18/03/01(木)23:38:38 No.488241344

 その水没した戦車をフラッグ車の車長であったみほが助けに来てくれたことによる敗北である。  もっとも、そのこともエリカは先程思い出したのだが。  それまで、エリカにとって大洗はみほのいる、決勝戦で負けた高校、という認識しか残っていなかったのだ。  だが、エリカはそれを気取られないように普通に振る舞う。 「ううん。いいんだよそんなこと。それに、あの事故は、私が悪いんだから……私が……」  みほの表情に陰りがさす。  エリカは、これ以上この話題を広げるべきではないと思った。  そして、それと同時に先程みほが言っていたことを思い出した。 「そ、そうだ! 隊長! 隊長が怪我をしたっていうのは本当なの!?」  隊長。それはみほの姉である西住まほのことである。  黒森峰の戦車隊をまとめ、みほの家の流派である西泉流の後継者であり、エリカにとって尊敬の対象である存在。  どうも、みほの話によるとそのまほが今怪我をして動けない状況らしい。  そのことを考えると、エリカは焦った。

17 18/03/01(木)23:39:11 No.488241477

「お、落ち着いてエリカさん! 怪我って言っても、ちょっと足に傷を負ったぐらいで、命に関わるような怪我じゃないから……でも、念のために私はこうして何か治療できるものがないかなって探しに来たの」 「なるほど……状況は分かったわ」  エリカはとりあえずの落ち着きを取り戻し立ち上がる。  それと一緒に、みほもまた立ち上がる。  そして、エリカはみほの肩をポンと叩いた。 「それじゃあ、行きましょう」 「行きましょうって……もしかして、一緒に来てくれるの!?」 「ん? 当たり前じゃない。隊長の危機なんでしょ。それに、こんな状況に置かれて、あなたと別行動を取るはずがないじゃない。一人より二人、二人より三人で行動したほうが、生き残る確率は上がるわ」 「エリカさん……!」  みほは心の底から嬉しそうな顔をした。  ただ一緒に行くというそんな理由で、そこまでの顔をされることに、エリカはどこか気恥ずかしさを感じた。  それを隠すために、エリカはぷいと首を振り、みほから視線を逸らす。

18 18/03/01(木)23:39:29 No.488241537

「そ、それじゃあ行くわよ! えっと、あなたがこっちに来たってことは、近くの病院が目的地なんでしょう? なら、二人で一緒に病院を目指すわよ!」  エリカの頭の中にある数少ない確かな記憶のうちに、病院の情報があった。  ヘリポートの近くにある、学園艦最大の病院。  恐らくみほの目的地はそこだろうと、エリカは思ったのだ。 「うん、そうだよ。病院なら何かあるだろうって思って……お姉ちゃんのいる場所も、病院からは遠くないし」  みほがその通りだと言うように説明する。 「あっ、そうだ!」  そして、みほはそのままエリカに駆け寄ってきた。  どうしたのかとエリカがみほの方を向くと、みほはエリカにとあるものを手渡してきた。 「エリカさん、これ、使って」 「みほ……? こ、これって銃じゃない!?」  そのみほの手に握られていたのは、拳銃だった。  ワルサーP38。別名グレイゴースト。ナチス・ドイツ政権下において、ドイツ陸軍が正式採用した第二次世界大戦における代表的な銃火器の一つである。 「これ、一体どうやって……?」

19 18/03/01(木)23:40:11 No.488241680

「ほら、黒森峰って当時のドイツの武器とかいっぱいあるから……」 「ああ、なるほど……」  エリカはすぐに理解した。  黒森峰は、第二次世界大戦下のドイツのロールプレイを行っている学校である。  その黒森峰学園艦には、戦車だけでなく他のあらゆるドイツの当時の武器、兵器が揃っている。  エリカが利用としていたFa223もそのうちの一つである。  みほの持っている銃も、そのうちの一つだと言うわけだ。 「つまり、くすねてきたってわけね」 「うう、確かにそうだけど……」  みほは困ったような顔をする。  エリカはそんなみほにふふっと笑いかけた。 「冗談よ。こんな状況なら仕方ないわ。それにしても、どうしてこれを私に?」 「私には、使えないから……その……あの怪物が怖くて、どうしても戦うことができなくて……」  みほは俯きながら言った。みほは優しい性格である。異形であるとはいえ、人の顔をしているものに銃を向けるのに抵抗があるのだろうと、エリカは受け止めた。

20 18/03/01(木)23:40:27 No.488241744

「なるほどね。ま、確かにあなたには荷が重いわ。私に任せなさい。もう、既に何体かは相手にしてるんだから」  軽い口調で言うと、エリカはみほの手から銃を受け取った。  それと一緒に銃弾の詰まったマガジンも受け取る。  銃弾は、それなりの数があるようだった。  エリカは銃弾をバッグのすぐに取り出せる位置にしまう。 「さて、今度こそ行きましょう。隊長が待ってるわ」 「うん!」  みほは嬉しそうに頷く。  エリカはそんなみほの笑みを見て、ついつられて笑みを零すのであった。      病院までの道のりは、エリカの想定していたよりも穏やかに済んだ。  その道中には異形の姿は殆どなく、いても道脇でただ立っているだけのことが多かった。  エリカとみほは、異形に出会うとその異形に気づかれないように慎重に進んだ。  銃を手にしたとはいえ、無駄な戦闘は避けたかったからだ。

21 18/03/01(木)23:41:10 No.488241926

 だが、戦闘を完全に避けられたというわけでもなかった。  道中、どうしても戦闘せざるをえない状況に追い込まれることも何回かあった。 「みほ、隠れていて!」 「う、うん!」  エリカはみほを安全な場所に逃がすと、迫り来る異形と一対一で向かい合う。 「ア、アアア……」 「く、喰らいなさい化物!」  エリカはその言葉と共に銃を放つ。  だが、最初は銃の扱いに慣れていないために、銃弾は上手く異形に当たらなかった。 「アアアア……」  そうしている間にも異形は近づいていくる。 「く、来るんじゃないわよっ!」  何発か無駄弾を撃ち、ようやくエリカの弾が異形に当たる。 「アアアッ……!」 「よ、よし!」

22 18/03/01(木)23:41:41 No.488242069

 怯んだ異形にエリカは銃弾を浴びせ続ける。  数発当てると、異形は崩れ落ち、動かなくなった。  そうして、エリカは異形との戦闘をこなしていった。  そうしていくうちに、やがてエリカは異形との戦闘も慣れ、銃弾を上手く当てられるようになっていった。  その戦闘を何度か経験しながらも二人は道を進んでいき、ついに目的地にたどり着く。 「なんとかたどり着いたわね……」  エリカは病院を目の前に言う。  病院は不気味なほどの静けさを纏ってそびえ立っていた。 「それじゃあ、入るわよ」 「うん」  エリカが先頭を切って、病院の中に入る。  病院の扉は自動ドアであったが、まだ機能しているようで普通に開いた。 「うっ……これは」  エリカは思わず手で口を覆った。  病院の中はその外観からは想像もできないほど荒れ果てていた。

23 18/03/01(木)23:42:07 No.488242186

 待合室の椅子はひしゃげ、リノリウムの床は所々が赤い血の痕で染められている。 「これは、少し覚悟していかないと駄目かもね……」 「う、うん」  エリカとみほは外にいたときよりも慎重に歩を進める。  そして、二人は病院の受付近くにある病院の地図に近づいた。 「さて、どこにありそうかしら」 「うーん……あ、ここにありそうじゃない?」 「ん? 倉庫か……確かに、色々と役立ちそうなものがありそうね」  みほが指し示したのは、全四階建ての各階にある倉庫だった。  それぞれ、廊下の端にある。  エリカはそれを見て頷いた。 「じゃあ行きましょう。できるだけ、慎重に……」 「分かった」  エリカとみほは暗い病院の中をゆっくりと進んでいく。  まずは、一番近い一階の倉庫を目指した。

24 18/03/01(木)23:42:23 No.488242265

 暗い廊下をコツコツという足音を立てながら二人で進んでいく。  すると、二人の目論見はすぐさま叶わないことをエリカは思い知らされた。 「これは……」 「だめ、だね……」  二人は目の前の光景に呟く。  エリカとみほの眼前には、巨大なバリケードが組まれていた。廊下の端に作られたそれは、明らかに倉庫への侵入を防ぐように作られていた。 「天井までぎっちりと詰められているわね……」 「うん。これ、本当に人の手で作ったのかなぁ……?」 「さあ? もう何が起きてもおかしくない状況だもの。私だってさっき変な鉄クズの山とか見たし」  二人は諦めて階段のある位置まで戻り、階段を上がっていく。  二人は階段を登るたびに緊張した面持ちになった。  何故なら、階段にまだ暖かい血液が引きずった痕があるからだ。  二人は静かに二階へ上がり、今度は二階の倉庫へと向かう。  だが、結果として二階の倉庫にも入ることはできなかった。

25 18/03/01(木)23:42:49 No.488242390

 二階には先程のような巨大なバリケードこそなかったものの、目的の扉に木材が打ち付けられていたのだ。  木の壁ではないというのに、釘は物凄い力で打ち込まれていた。 「ここも無理そうね……」 「うん……」  エリカとみほ落胆した様子で再び階段に戻っていく。  階段の血の痕は、未だに上の階へと続いていた。  二人は再び息を飲みながら階段を上がっていく。  次にたどり着いたのは三階。  先程までずっと続いていた血の痕は、三階の廊下に続いていた。 「……どうやら、化物はこの階にいるようね」 「だね……」  二人は暗い廊下の先を見る。  その先に、異形がいる。  そう思うだけで、二人の体は震えた。 「……幸い、倉庫とは反対側に血痕があるわ。つまり、倉庫に向かっていけば安心よ。でも念のため、後ろの方を私が警戒するわ。みほ、この階ではあなたが先頭をきって」

26 18/03/01(木)23:43:27 No.488242590

「う、うん。分かった……」  みほは不安がりながらもエリカの前に出て進む。  一方のエリカは、そんなみほの後ろで、銃を構え、背後を気にしながら歩いた。  二人は足音も立てないように慎重に歩を進めた。  そして、他の階よりも時間をかけて倉庫の前へとたどり着く。  三階の倉庫の前には大きなバリケードも、小さなバリケードもなかった。  一瞬、二人は喜びの色を示す。  だが、その扉を注視してすぐに落胆した。  扉にドアノブが存在しなかったのだ。  押して開かないかと試してみるも開かず、なんとか引いて開けてみようとするも取っ掛かりがなく無理だった。 「何よ、ドアノブがないってひどくない?」 「ははは……本当になんでもありだね」  明らかに不機嫌になるエリカに、みほは笑いかける。  絶望的な状況でありながらも、二人は和やかな空気になっていた。  それは、存在を示しつつも姿を見せない異形への警戒感の薄れがあるからかもしれない。

27 18/03/01(木)23:43:50 No.488242700

「さて、四階に上がるわよ。次が最後だから当たりだと嬉しいんだけど……」  今度はエリカが先頭を切り、三階の廊下を進む。  そして、階段にたどり着くと今度は軽快に階段を上がっていく。それは、上の階は比較的安全であると判断したからだ。  四階は他の階と比べて傷ついていた。  壁や床の塗装は剥がれており、壊れている扉もいくつか見られた。 「これは、期待できなさそうね……」  エリカは肩を落とす。  みほは特に言葉を口にすることもできず、苦笑いをするのみだった。  ボロボロの廊下を二人で歩くエリカとみほ。  その足取りは階段を登ったときと同じく、どこか足早であった。  そして、あっという間に倉庫の前にたどり着く。  意外なことに、倉庫の扉は他のどの階よりもまともな状態だった。  多少錆びついていたが、バリケードもなく、しかりとドアノブもついている。  エリカは僅かな期待をかけてドアノブを回した。  しかし、扉はガチャンという音を立て、扉を開こうとしていたエリカの腕に負担をかけた。

28 18/03/01(木)23:44:12 No.488242798

「……駄目ね、鍵がかかってる」 「そっか……」  みほが肩を落とす。  エリカはそんなみほの頭を撫でた。 「落ち込まないの。鍵がかかっているだけなら、鍵を探せばいいじゃない。恐らく事務所かどこかにあると思うわ。そこを探しましょう」 「……うん!」  みほはエリカに元気づけられ、エリカに笑みを見せる。  そして二人は四階にある地図を確認し、事務所を目指して階段を降りようとした。  そのときだった。 「…………?」  エリカの頬に、何か生暖かいものが落ちてきた。  エリカはそれを指で触れ、付着したものを見る。  それは、血だった。  血が天井から垂れてきていた。  エリカはゆっくりと天井を見上げる。

29 18/03/01(木)23:44:35 No.488242926

 そこには、ヤモリのように天井に張り付いている、四つん這いの異形の姿があった。 「……みほ、全力で逃げなさい。……逃げなさいっ!」  エリカはそう大声で叫ぶと、みほを階段の方向に突き飛ばし、自身は天井に向かって銃の引き金を引いた。  パンッ!  乾いた音が鳴り響く。  銃弾は、異形に当たらず異形のすぐ側の天井を削るのみだった。 「アアア……カンジャ……カンジャハドコダ……」  異形が歪んだ声を発する。  そして、ゴソゴソと手足を素早く動かして天井や壁を這い回り始めた。 「っ!」  エリカは慣れない手つきで異形を狙うも、その素早い動きに照準が定まらなかった。  異形はやがて壁からエリカに向かって跳ね跳んできた。 「きゃっ!?」  エリカはそれをなんとか避ける。  回避は本当にギリギリだった。

30 18/03/01(木)23:44:53 No.488243025

 その証拠に、エリカの頬を軽く異形の指が掠めていた。 「ここじゃ分が悪いわね……!」  エリカは銃を撃って異形の気を引きながら、廊下を走り始める。  だがその途中で、廊下に大きな穴が空いており足を止められる。 「なるほど、ここから四階に登ってきたのね!」  エリカは振り返る。  そこには壁と天井を行ったり来たりしながら近づいてくる異形の姿が。 「カンジャ……カンジャ……カンジャ……」  異形はその蒼白な顔をエリカに向け、迫ってくる。 「こ、こうなったら……!」  エリカは一瞬のうちに覚悟を決めると、なんと異形に向かって走り始めた。  そして、異形がエリカに向かって再び跳ねてきた瞬間に、前転しそれを避ける。  そして、そのまま今度は階段に向かって走り始めた。 「さあ、こっちよ!」

31 18/03/01(木)23:45:17 No.488243119

 エリカは今度は四階より上の階段を上がる。  その階段が行き着く先は一つ。  屋上だった。 「っ!」  エリカは屋上の扉をバン! という大きな音を立てながら開く。  そして、ある程度屋上の奥に行くと、開いた扉に向かって銃を構え、待つ。  僅かな間の静寂が訪れる。  エリカは、頬から静かに汗を流す。  やがて、その静寂を破るドスドスとした音が聞こえてきたかと思うと、次の瞬間、開いた扉を異形が通過した。 「今っ!」  エリカは銃の引き金を引く。  その弾丸は、他に逃げ場のない異形へと向かっていき、その眉間を貫いた。 「ガアアアッ……!」  異形の体が吹き飛ぶ。 「もう避けられないわねっ!」

32 18/03/01(木)23:45:44 No.488243227

 エリカは吹き飛んだ異形に、銃弾を浴びせ続けた。  やがてマガジンの中を撃ち尽くし、次のマガジンを装填する。そして、銃口を異形に向けたまましばらく静止した。 「…………」  異形は動きを止め、タールのような体液を垂れ流している。  異形がその活動を停止したことを、エリカは確認した。 「ふぅ……」  エリカは銃をしまうと、異形の死体に近づく。  その顔は、どうやら壮年の男性のようだった。  先程異形が呟いていた言葉から、恐らくこの病院の医者であると推測した。 「……立派な人間でも、こんな姿になってしまうのね……うん?」  そこでエリカは、異形の体にとあるものを見つけた。  それは、エリカのポケットライトの光を反射していたため目についた。  エリカは近づいてそれが何なのかを確認する。 「これは……鍵!?」  そう、それは鍵だった。

33 18/03/01(木)23:46:10 No.488243328

 鍵が、異形の体に埋め込まれていたのだ。  エリカはその鍵を、恐る恐るつまみ、一気に引き抜く。 「ふんっ!」  黒い体液を撒き散らしながら引き抜かれた鍵には、タグが付いていた。  そのタグにはこう書かれていた。 『四階倉庫』と。 「やったわ! これであの倉庫の扉が開く……!」  エリカは鍵を手にして笑みを浮かべると、そのまま四階の倉庫へと向かう。  倉庫の扉の前に立つと、鍵を鍵穴に挿れ、回す。  すると、ガチャリという音がし、扉を開くことができるようになる。  エリカは期待を込めて、扉を開いた。  倉庫の中には様々な薬品や資材が置かれていた。 「さて……」  エリカは倉庫の中を探索する。  すると、目当てのものはすぐに見つかった。

34 18/03/01(木)23:46:29 No.488243387

「あら、いいものがあるじゃないの」  そこにあったのは、小さなバッグに様々な治療道具が詰め込まれた、治療キットだった。 「これなら、きっと隊長の怪我を治療できるわ!」  エリカは笑顔になってその治療キットを自分のバッグに入れる。 「さて、みほを安心させてあげないとね」  そして、駆け足で倉庫の外に出て、そのまま階を降りていった。  三階、二階と足早に降りていき、一階にたどり着く。 「え……?」  そのとき、エリカは強烈な既視感に襲われた。  そこは、二階に上がるときには視界に映さなかった場所。  二手に別れた廊下の続く先。  その廊下に、エリカは見覚えがあった。

35 18/03/01(木)23:46:55 No.488243491

 そこは、エリカが水の中で見た幻覚に現れた場所、エリカを罪人だと責めた、あの扉だった。 「どうして……」  エリカは不思議な引力に惹かれるようにその扉に近づいていく。  扉には当然血文字があるわけもなく、ただそこに扉として存在しているのみである。  扉の上を見上げると、そこには『精神科』のプレートが掲げられていた。  エリカは震える手でその扉に手をかける。  そして、エリカはゆっくりと扉を開いた。   続く

36 18/03/01(木)23:47:51 No.488243782

タフなやつ

37 18/03/01(木)23:48:11 No.488243863

きたのか!

38 18/03/01(木)23:49:01 No.488244121

びょういん暮らしやつ

39 18/03/01(木)23:52:18 No.488245070

みほがエリカのイマジナリフレンドじゃないかとか疑ってみてしまう

40 18/03/01(木)23:52:22 No.488245088

なあダークサイド「」よ…みぽりんから何だか不穏な気配がするんだけど

41 18/03/01(木)23:52:47 No.488245188

西泉は誤字?

42 18/03/01(木)23:54:23 No.488245591

あのバリケードって外から侵入出来ないように作ったのかな それとも中の物を閉じ込めるために…

43 18/03/01(木)23:55:26 [す] No.488245833

>西泉は誤字? 誤字であります!大変申し訳ありませんでしたぁ!

44 18/03/01(木)23:55:59 No.488245959

>そして、エリカはゆっくりと扉を開いた 見知らぬ    天    井

45 18/03/01(木)23:57:51 No.488246384

>誤字であります!大変申し訳ありませんでしたぁ! 許さんぞ「」田ァ! 罰として再版の部数増やせ「」田ァ!

46 18/03/02(金)00:03:01 No.488247464

どこからが夢でどこまでが現実かわからなくなって来た

47 18/03/02(金)00:09:36 [す] No.488248775

>許さんぞ「」田ァ! >罰として再版の部数増やせ「」田ァ! はいぃ!学園祭にある程度はもっていきたいと思います「」隊長! それと次に投げるのは明日というか今日の夜11半から12時ごろを予定しています!

48 18/03/02(金)00:10:32 No.488248988

うる星やつらの「みじめ!愛とさすらいの母!?」や「決死の亜空間アルバイト」思い出した いろんな悪夢が入れ子式に絡まっているみたいな

49 18/03/02(金)00:12:50 No.488249475

>はいぃ!学園祭にある程度はもっていきたいと思います「」隊長! あと出来れば役場とかで通販してくれ「」田ァ

50 18/03/02(金)00:13:55 No.488249737

エリカよショッピングモールへ立て篭もるんだ

51 18/03/02(金)00:15:32 No.488250067

さすがダークサイド「」の不条理路線SS

52 18/03/02(金)00:16:59 No.488250391

大洗に寄港したってぇのがヤバ気だ

53 18/03/02(金)00:18:59 No.488250835

黒幕まである

54 18/03/02(金)00:20:48 No.488251276

黒幕…マカロン先生…うっ頭が

55 18/03/02(金)00:28:54 [す] No.488252948

>あと出来れば役場とかで通販してくれ「」田ァ 恐れながら申し上げます! 発行部数はさらに刷ろうとは思いますが少ないため通販に耐えうるほどの数を用意できないかと! 一応電子書籍版ならありますが紙の媒体で求めている方には申し訳ありません!

56 18/03/02(金)00:29:27 No.488253051

夢に見そうだよ...しかもこんな嵐の夜に

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