虹裏img歴史資料館

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18/02/08(木)00:58:51 SS「Bot... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1518019131290.jpg 18/02/08(木)00:58:51 No.483673753

SS「Bottom of the Bottom」

1 18/02/08(木)01:00:08 No.483673929

 河嶋桃が彼女と出会ったのは、高校一年のときだった。  桃はその日、親友の角谷杏や小山柚子と、学園艦の下を探検しに来ていた。船の上については中等部からいるためもうよく知った場所だったが、船の下に関して彼女達はまだ知らないことが多かった。  そのため、桃達は興味がつきない船の下を自分達の足で探ってみることにしたのだ。  しかし…… 「どこ行ったの二人共ー! うわああああん!」  桃は一人はぐれ、船の底でひとりぼっちになってしまったのだ。  船の底は複雑な構造となっており、道に慣れていない彼女がはぐれてしまった場合迷うのも無理はなかった。  桃は涙を流しながら、暗い船底を彷徨っていた。 「うう……なんでこんなことに……」  桃は暗い面持ちで涙を拭う。携帯電話は通じていたために連絡は取れたが、あいにく桃が自分のいる場所がよく分かっていなかったため、正確な場所を教えられずにいた。 「それにしても荒れてるな……学園艦の船底がこんなことになっていたなんて……」

2 18/02/08(木)01:00:40 No.483673990

 桃は船の底の荒れ様を見て言う。  船の底は、明かりすらまともに照らされず、壁は落書きされ放題。周囲にはゴミが散乱しているなど目も当てられない状況だった。 「ううう……」  桃はそんな雰囲気に飲まれ、今にも泣き出してしまいそうだった。 「おいお前」 「ひっ!?」  と、そんな桃に突然声がかけられた。桃は人がいるとは思っていなかったため驚いて情けない声を上げてしまう。 「見ない顔だな。何者だ」 「わ、私は怪しいものではないぞ!? わ、私は……!」  桃は必死に弁明しながらも声のしたほうを向く。  すると、そこには長い黒髪を後ろでまとめ、羽根付き帽子を被ったロングコートの褐色の女生徒が立っていた。 「お、お前こそ何者だ! 船舶科の生徒か!?」 「ん? まあそんなところさ。それよりお前、陸の上の生徒だろう? 陸の上の生徒が、どうしてこんなところに?」  船の上を陸の上と呼んでいるのを桃はなんとなく察した。  妙な呼び方をするものだとこっそり思ったが、それを口に出して言うことはなかった。

3 18/02/08(木)01:01:10 No.483674059

「わ、私はその……迷って……」 「ふっ、迷い込んだ魚というわけか、面白い。興味が沸いた。ちょっとついてきなよ、ここは陸の上の子にとっては、少し危ない」  褐色の生徒はそう言うと、桃に背を向け歩き出す。 「お、おい待て!」  桃はその背中を慌てて追う。そしてその道中で、他の生徒も見た。  そして桃は驚いた。そこにいる生徒達は、皆非常に荒れており、今にも桃に襲い掛かってきそうな雰囲気をもった、野獣のような生徒ばかりだったからだ。  そこには規律や風紀と言ったものは存在せず、たた無秩序な空間だけが広がっていた。  桃はその光景に怯えて声も出せず、ただ目の前の褐色の生徒にぴったりついていった。  そして、桃は人気のない空き教室のようなところに案内された。 「ここならいいだろう。さ、座れ」 「お、おお……」  桃は促されるまま座る。  すると、褐色の生徒もまた、桃の前に向かい合うように座った。 「さあ、何から話そうか。せっかく陸の上から来たんだ。陸の上のこと、いろいろ教えてくれよ。そうしたら、ここの出口を教えてあげるからさ」 「わ、わかった……」

4 18/02/08(木)01:01:31 No.483674096

 桃は怯えながらも陸の上、つまり普通の学園艦の生活について教えることにした。  最初は教えることなどあるのだろうかと思ったが、桃が話す内容を目の前の褐色の生徒は嬉々として聞いてくれた。  そうしていくうちに、桃はだんだんと怯えがなくなってきた。  目の前の褐色の彼女が話しやすい雰囲気を作ってくれたおかげかもしれない。  そして、ある程度話すと、褐色の彼女は満足気に頷いた。 「なるほど、ありがとう。やはりこちらとは随分環境が違うな」 「そうなのか……」 「ああ、正直こっちの生活は肥溜めみたいなものさ。……さあ、私は満足した。だから、ここの出口を教えよう」 「ありがとう……なあ」  褐色の生徒が立ち上がったとこで、桃は彼女を呼び止めた。 「ん? なんだ?」  そして、聞いた。 「名前、教えてくれるか? せっかくの縁なんだ。私もお前のこと、少しは知りたい」 「ふっ、名前を知りたかったら、まずは自分から名乗るのが礼儀なんじゃないか?」

5 18/02/08(木)01:01:53 No.483674153

「……それもそうだな。私は桃だ。河嶋桃」 「桃か、いい名前だな。私はお銀。竜巻のお銀」  それが、桃とお銀の出会いだった。  桃はその後お銀によって案内され船底を脱出するも、どうしてもお銀の事が頭から離れなかった。誰も船底にいる船舶科の生徒達について何も知らなかったからだ。  友人の杏や柚子はもちろん、船の上層にいる船舶科の生徒達ですら底の生徒達に関しては知識がなかったのだ。  桃はこれを異常だと思った。  唯一知っていたのは、風紀委員の生徒だった。風紀委員の生徒曰く、船底は「大洗のヨハネスブルグ」などと呼ばれており風紀委員ですら近寄らない場所なのだという。  だが、どうしてそんなことになっているかと聞くと、風紀委員もそれは分からないと答えた。  桃はますます気になった。なので、今度は自分の意志で船の底へと行き、話を聞きに行くことにした。  今度はしっかりと道順を覚え、地図も確認したために迷うことなく船の底へと行くことができた。

6 18/02/08(木)01:02:39 No.483674254

「……これは……」  桃は改めて船底に行って唖然とする。  意識をして見ると、本当にひどい荒れ様だった。まず空気からして、上層とは違う。  下層の空気は非常に淀んでおり、気分が悪くなりそうなものだった。  このあからさまな環境の差は、いったいどういうことかと考えた。  しかし、そんなことで足踏みはしていられないと桃は思った。桃は船底の奥に進み、お銀を探すことにした。  他の生徒の目が痛く、恐ろしかったが、桃はなんとか無視して進んだ。 「おい」  すると、以前と同じように、突然桃に声がかけられた。 「ああ、お銀! 会いたかったぞ!」  そこにいたのはやはりお銀だった。桃は顔を明るくして言う。 「どうした? また迷ったのか?」 「いいや違う。今回はお前に会いに来たんだ」 「私に? 面白いことを言うものだな。私に会っても何も面白いことなどないぞ」  お銀は不敵に笑いながら言う。

7 18/02/08(木)01:03:00 No.483674312

 桃はその言葉に頭を横に振った。 「いいや、それを決めるのはこの私だ。とにかく、お前の話を聞かせてくれ」 「ふむ、おかしなことを言う……まあいい。ついて来な。ここはちょっと危ない」  お銀はそう言って以前と同じように桃を先導する。  やがて桃は以前と同じく誰もいない空き教室へと案内された。 「それで、私の話を聞きたいって?」 「ああ、ぜひ教えてくれ。ここのこと。そして、お前のことを」 「酔狂なことを言うな。どうして知りたいんだい?」 「どうしてって……それは……とにかく、知りたいんだ!」  桃ははっきりとした理由を言うことができなかった。  とにかく知りたい。それが今の桃に言える言葉だった。  こんなあやふやな理由では答えて貰えないのではないか、と桃は思った。しかし、桃の言葉にお銀は笑った。 「はははっ。面白いね。いいよ、教えてやろう。私達のこと、そしてこの船底のことを」  そうしてお銀は語り始めた。  その内容は、驚くべきものだった。

8 18/02/08(木)01:03:24 No.483674377

「ここは船舶科でも一番の汚れ仕事をするところなのさ。いわゆる過酷な肉体労働とかだね。上層の子達じゃとてもできないような、それはそれは辛い仕事さ」 「どうしてそんな仕事をお前達が……」 「さあ」 「さあって……」 「実際、理由なんてないよ。私達は生まれたときからこの船底にいて、そうやって働くことを決められていたんだから」 「生まれた、ときから……!?」 「ああ。私達は親の顔も知らない。ただ、生まれたときからこの暗い船底にいて、働くことを宿命付けられていた。私達は、生きた歯車なのさ」 「そんな……」  桃は言葉を失う。  学園艦というものが、そんな非人道的な労働を容認していることを桃は信じられなかった。  桃にとって学園艦は素晴らしい場所だった。しかし、今こうしてお銀の事情を聞くと、そのイメージが破壊されていった。  さらにお銀は話す。船底の劣悪な環境について。 「ここは衛生環境も悪い。体力がないやつはすぐに病気になってしまう。そして、あっという間におっ死んじまうのさ」

9 18/02/08(木)01:04:04 No.483674467

「死ぬって……そんな簡単に……」 「簡単なことなのさ。私達は、ここでは消耗品なんだ。言ったろう? 私達は生きた歯車だって」  桃はもう言葉を継ぐことすらできなかった。  聞くべきではなかったのではないか。そんなことすら思い始めた。しかし、桃はぶんぶんと頭を振って、その考えを頭の中から出した。 「認めない……私は認めないぞ!」 「ん? 認めないって、何を……」 「そんな環境がまかり通っていることをだ! 私は学園艦が好きだ! だから、そんな環境があることなんて許せない! 私は、絶対に許さない」 「許さないからってなんなのさ。その環境を変えることができるとでも?」 「できる!」  桃は大きな声で言った。  お銀は、その剣幕に気圧される。 「……随分と啖呵を切るねぇ」

10 18/02/08(木)01:04:23 No.483674516

「当然だ! 私はやってみせるぞ! いや私一人の力では無理かもしれないが……それでもやってみせる! 待っていろお銀、今に目のもの見せてやる!」  そう言って桃は船底から出ていった。  その背中を見て、お銀はふっと笑った。 「なんだか、面白い人だ……」 「二人共! 頼む! 私と一緒に生徒会に立候補してくれ!」  桃はその日の夜、杏と柚子にそう言って頭を下げた。 「えっと……どうしたの河嶋、突然さ?」  杏が頬を書きながら言う。当然だろう。突然船底に行ったと思った桃が、さらにいきなりそんなことを言い出したのだから。 「お願いだ! 私にはやりたいことができた! この学園のために! でも、馬鹿な私じゃ一人では何も出来ない! そのためには、二人の力が必要なんだ! 頼む!」  桃は頭を下げながらも、声を張り上げて言った。

11 18/02/08(木)01:04:57 No.483674605

 そんな桃を見て、杏と柚子は顔を見合わせる。  そして、その頭を下げる桃の肩を、ぽんと柚子が叩いた。 「……うん、いいよ。桃ちゃんがそこまで言うなら、やってあげる」 「本当か!?」 「うん、私もいーよー。会長って好き勝手できて楽しそうだしねー」 「二人共……ありがとう!」  こうして、桃と杏、柚子の三人は生徒会選挙に出馬し、一年でありながら圧倒的な人気を集めて生徒会選挙に当選することとなった。  そして、それから桃は生徒会として力を尽くした。  学校の生徒達が心地よく生活できるよう、様々な配慮を杏達と共にしていった。  そして、それと同時に桃が生徒会役員になろうと決めた目的のためにも動き出していた。  それは、船底の環境改善だった。  桃は広報という身でありながらも柚子に協力してもらい費用の流れなどを調べた。  すると、船底の生徒達には殆ど資金が回っていないことを突き止めた。  桃はこれこそが船底の環境悪化の原因の一つだと思った。船底は本当に放置されている状況を改善せねばと思った。  そこで桃は、会長となった杏に掛け合い、船底の環境改善のための資金を用意するように掛け合った。

12 18/02/08(木)01:05:29 No.483674692

 それは最初、なかなかうまくいかなかった。大洗学園艦は裕福な学園艦とは言えない。そのため、使える資金には限りがあった。  しかし、そこは副会長となった柚子の上手な工面のお陰で、ある程度資金が浮いたために、そのお金の殆どを船底に回すことができた。  結果、船底の環境改善を図ることができるようになった。  なので、桃はさっそく環境改善に取り組むことにした。 「おい、お銀はいるか?」  桃は船底にまたも行き、今度は恐れることなく自分からお銀を探した。 「あぁ? なんだてめぇ? お頭になんの用だぁ?」  ガタイのいい生徒が桃に因縁をつけてくる。桃は正直怖かったが、それでも船底のためにと勇気を振り絞り、言う。 「私はお銀に大切な用があってきた。生徒会広報の河嶋桃だ。お銀はどこだ」 「ふっ、そう簡単に教えるわけには――」 「そこまでにしておけ、ムラカミ」  そこで、ムラカミと呼ばれたガタイのいい生徒の後ろから、お銀が現れた。  お銀は相変わらず悠然とした様子で立っていた。

13 18/02/08(木)01:05:51 No.483674755

「やあ桃。久しぶり……というほどでもないね。どうしたんだい今日は?」 「ああ、実はお前達に提案があって来た」 「提案?」  お銀は不思議そうな顔で返す。そんなお銀に、桃は言った。 「学園艦下層部の、環境改善だ!」 「環境改善……?」 「ああ。私は生徒会になり、この船底のための資金を集めてきた。あとは、どんな改善をすればいいか計画を立て、それを実行するだけだ。だから、そのための知恵をどうか貸してくれ、お銀」 「あんた、本当に私達のために……!?」 「当然だ。言っただろう。こんな環境、私は認めないってな」 「……ふふっ、あっはははははははは!」  お銀は大声で笑い始めた。そして、少しの間笑い続けると、笑いによる涙を拭って、言った。 「あんた、本当に凄い人だね! 尊敬するよ……よし、その話乗った。私もあんたに協力させてくれ、いや、させて欲しい。お願いだ桃、いや……桃さん」 「ああ、当然だ」  二人はそう言ってガッチリと握手を交わした。

14 18/02/08(木)01:06:10 No.483674794

 こうして、学園艦下層部の改造計画が始まった。  最初にお銀が船底の設備について説明した。船底の環境は桃が思っていた以上に荒れていた。その修理には、大規模な工事が必要だった。  桃はそれを柚子の助けを借りて見積もってみたが、予算的にはあまり問題はなさそうだった。  そのため、さっそく他の生徒会や学園艦にいる各部活に協力してもらい改造工事を行うことにした。  最初に取り掛かったのは水回りの工事だった。学園艦下層部は、まずもって水質が酷かった。  しっかりと浄水された水が使われておらず、それは病人が出てもおかしくないものだった。  なので、まずは水を学園艦上層部と同じ水準にまで引き上げた。  そしてその後は、空気の循環を正常にした。学園艦下層部は、空気循環も劣悪であり、汚れた空気がかなり溜まっている状況だった。  それを、しっかりとした換気装置を取り付けることにより改善した。

15 18/02/08(木)01:06:35 No.483674842

 そしてさらに改造を行ったのが、彼女ら船舶科の生徒達の仕事場だ。桃は仕事場を観察して驚いた。その仕事が、かなりの部分で人力に頼っていたからだ。桃はその仕事場に多くの機械を導入した。どうしても人力でやらなければいけない部分が多々あるため機械を入れられたのはごく僅かなところであるが、それでも労働環境はマシになった。  あいにく、水と空気、そして労働環境の改善に大部分のお金を使ってしまったため、汚れた壁面や廊下の掃除にまでは手が回らなかった。  それは、お銀が壁や廊下はそのままでいいと言ったのもある。 「小奇麗すぎると逆に落ち着かなくてね。ここにいる連中には、これぐらい汚いほうがいいのさ」  桃は最初それでいいのかとも思ったが、お銀が少しばかり残った予算を使いたい道があると言ったので、それを了承することにした。  しかし、桃はお銀のその予算の使い道で驚くことになる。 「な、なんだこれは!?」  桃は驚いた。なんと、船底にいつの間にかバーが作られていたからだ。 「なんだって、バーだよ。こういう場所がどうしても欲しかったのさ。大丈夫、従業員は確保してある」

16 18/02/08(木)01:06:55 No.483674894

 お銀がそう言って指差した先には、ヒラヒラのカチューシャをかぶりベストをまとった生徒がシェーカーを振っていた。 「……生しらす丼のカトラスです、よろしく」 「あ、ああ……よろしく……じゃなくて!」  桃は流されそうになりながらもなんとか気を取り直し言う。 「他に使い道はなかったのか!? もっとこうしたいとか、ああしたいとか、いろいろあったんじゃないのか!?」 「いいや、私達にはこれで十分だよ桃さん。仕事終わりの疲れを一杯のノンアルコールカクテルで癒やす場所があれば、それでいい……そう、それでいいのさ」  そう言って、お銀はカトラスから渡されたノンアルコールカクテルをぐいっと一杯飲んだ。  その様子に、桃は苦笑いしながらも、そういうものかと自分を納得させた。  こうして、学園艦の下層部は大きく環境が改善された。あいにく生徒達の風紀は改善されはしなかったが、少なくとも下層にいる船舶科の生徒達が日々の生活に余裕を持って生活できるようになった。

17 18/02/08(木)01:07:15 No.483674946

 桃は一度の改善で満足せず、生徒会において杏に掛け合い、下層部用の費用枠を作り上げた。下層部の環境の維持、改善に努めるための費用だ。  そうした桃の努力あって、船底は以前よりもかなり住みやすい環境へと変わっていった。  桃は船底に定期的に見回りを行うようになった。そうしていくうちに面白い変化があった。  桃が船底にいくと、普段荒くれている船舶科の生徒達が皆桃に頭を下げるのだ。  それだけ、船舶科の生徒が桃に感謝をしているということであった。  それはお銀達もそうであった。 「ああ! 桃さん! いらっしゃい!」 「ああ、来たよお銀」  お銀が余った費用で作ったバー『どん底』の常連客に桃はなっていた。  そこでは、お銀が明るく桃を迎えた。 「漕いでー。漕いでー」 「おっ、フリント。今日もいい声してるな」  桃は『どん底』で歌っている長髪のスレンダーな生徒、フリントに向かっていった。  フリントは歌いながら桃に向かって会釈した。 「あっ桃さん! ちぃーっす!」

18 18/02/08(木)01:07:36 No.483674999

 バーのカウンターでそう言ったのはラムという生徒だった。もこもことした頭が印象的だ。 「やあラム、今日も飲んでるな」 「そりゃもう! へへー」 「それで桃さん。今日はどんな用で?」  お銀が桃に聞く。 「いや、これといった用はないよ。ただ、ちょっとみんなの顔を見に来ただけだ」  桃はそう答える。  そうして、カトラスに一杯のノンアルコール酒を頼む。  それが、桃の生活の一部となっていた。  船の底での時間は、桃にとって大切な時間の一つとなっていた。こうした時間が続けばいい。桃は船の底でそう思った。  そうしていくうちに、あっという間に二年の時が流れた。

19 18/02/08(木)01:07:55 No.483675048

   ◇◆◇◆◇ 「……廃、艦……?」  桃は言葉を失った。目の前の役人の言った言葉が信じられなかった。 「ええ、だから大洗学園艦は、今年度を持って廃艦になると決定しました」  話はこうだった。文科省は学園艦の再編を執り行っており、その最初の対象に大洗学園艦が選ばれたのだと。  一体どうすれば廃艦が免れるのか。桃達は役人に食い下がった。  そこで会長である杏が、役人に戦車道の大会で優勝すれば廃艦はなしだと約束を取り付けた。  話はそこでひとまず終わりだと思った。  だが、帰り際で役人は言った。 「そうそう、あなた達は船の下層部に費用を回していたようですが、それは今からでもやめたほうがいいでしょう。はっきり言ってその予算の無駄遣いが大洗学園艦の廃艦の理由の一つになったとも言えます」

20 18/02/08(木)01:08:10 No.483675089

「な、なんだと!?」  桃は怒り心頭となり立ち上がった。 「下層部の生徒のためにお金を使うことの一体何が無駄だと言うんだ! あいつらだって大洗の大切な生徒なんだ! それを無駄だなんて……!」 「……はぁ」  桃がそう言うと、役人はこれみよがしにとため息をついた。 「一応聞いておきますが、下層部に資金を回そうと考えたのは誰ですか?」 「……私だが」  桃が嫌々ながらに言う。  すると、役人は無表情に言った。 「……そうですね。あなた達には一応話しておきましょうか。学園艦の下層部というもののことを」 「……は? 一体どういうことだ……?」 「まあまて河嶋。……教えてもらおうじゃありませんか、その話」  杏が桃を止めて言った。  すると、メガネをクイと上げて役人は話し始めた。 「いいですか。学園艦の運営というものには莫大な費用がかかります。そのために削れるものは削っていかなければなりません」

21 18/02/08(木)01:08:34 No.483675151

「なんだ!? そのためにあいつらには犠牲になれっていうのか!? それは教育機関としてどうなんだ!」 「河嶋」  桃が食いつくも、杏が手を出して制止する。どうやら役人の話にはまだ続きがあるあらしい。 「そして、学園艦という巨大な船を動かすには人手がいります。しかし、上層部の仕事ですら生徒で回すような学園艦に、下層に回す人的余裕はありません。そのために、我々は作ったのです」 「作った……? 何を……」 「『人間』を、ですよ」 「は……?」  桃達は最初その意味が分からなかった。だが、役人の次の言葉に、桃達は目を見開くことになる。 「だから我々は作ったのです、人工的に『人間』を。正確には母体となる人間から細胞を抽出し、そこから未受精卵にその細胞核を移植することによって作り上げる……ようはクローンと言われる技術ですね」 「ちょ、ちょっと待て!? じゃあ何か!? あいつらは、試験管から生まれたとでも言うのか!?」

22 18/02/08(木)01:09:40 No.483675311

「察しが良くて助かります」 「そ、そんな馬鹿な話……!」  桃は否定しようとするも、役人はとても冗談を言っているようには思えなかった。 「あなたが信じても信じなくてもこれは事実なのです。そして、彼女らの命は非常に短命。おそらく、二十歳を迎える前に死ぬでしょう」 「な……!?」  桃達三人は、あまりに衝撃的すぎる事実に言葉を失った。  そんな三人を前に、役人は淡々と述べる。 「だからこそ、無駄だと言ったのですよ。消耗品にすぎない彼女らのために資金を回すなど、無駄もいいところです。というか、そうでもなければ人間をあんな劣悪な環境に押し込むわけがないでしょうに。もう廃艦になる学園艦ですが、残り僅かな期間を有意義に過ごせるように、忠告しておきますよ。それでは」  そう言って役人は去っていった。  応接間には、突然衝撃の事実を告げられ、唖然とした三人だけが残った。

23 18/02/08(木)01:09:57 No.483675351

「…………」 「どうしたんだい桃さん? 今日は暗いね」  その日の夜、桃はバー『どん底』に来ていた。  突然いろいろなことを通告され、頭がパンクしそうになっていた彼女は、いつしかそこに訪れていたのだ。 「……ああ」 「何かあったのなら話して欲しい。私達は桃さんに恩義を感じているんだ。できることなら、力になりたい」 「そうですよ! 私達、桃さんのおかげでこんな楽しい生活ができてるんです! いつでも力になりますよ!」 「はい! なんでもいってください桃さん!」  お銀に続いてフリントとムラカミが言った。  桃はそんな彼女らを見てつい聞いてみたくなってしまう。  ――お前達は自分の命が短いのを知っているのか? と。  だが桃はその言葉をぐっと抑えた。

24 18/02/08(木)01:10:13 No.483675382

 知らなかったら非常な現実を彼女らに教えることになるし、知っていたら今までの関係が崩れかねない。そうなってしまっては、彼女らにとってこの憩いの場となっている空間を壊してしまうかもしれない。  桃はそれが嫌だった。そして何より、そのことを聞いて現実を受け止めることが、桃は怖かった。 「……いや、なんでもない。ちょっと疲れているだけだ」  だから桃は嘘をつくことにした。彼女らには最後のときまで楽しく生きて欲しい。それが桃の願いだった。  そして、そのためにはどんな手段を使っても学園艦を存続させなければいけない。学園艦というもののシステムを変えなければいけない。  桃は心の中でそう誓った。  しかし、どうすればいいのか桃達には分からなかった。だが、そこで桃達にとって救世主が現れた。  それは、西住みほという生徒であった。

25 18/02/08(木)01:11:05 No.483675497

 戦車道の名門である黒森峰の元生徒であり、戦車道の名家である西住流の娘。そのみほがいれば勝利は間違いない。そう思い、桃達は強硬手段を取ることになった。  そこには、学園艦のために、そして、お銀達のためにという強い意志があった。  そしてみほによって大洗は救われることとなる。  その後、また一つ大きな騒動があるとも知らずに。  つづく

26 18/02/08(木)01:14:09 No.483675945

重い…重いよ…

27 18/02/08(木)01:16:03 No.483676226

すごい話にしてきたな…

28 18/02/08(木)01:19:40 No.483676699

ガルパンはSF大賞獲ってたしSFだよね! しかしそうなると全部の学園艦の船底にクローン船舶科が? 人間の船舶科や水産科はいないのかな…

29 18/02/08(木)01:22:55 No.483677179

桃ちゃんはこういう子だよね…

30 18/02/08(木)01:23:01 No.483677195

ニルギリとか3号メガネや大洗の号外ちゃんもオリジナルが同じ八卦衆的なアレなんだ……

31 18/02/08(木)01:24:05 No.483677347

早速最終章ネタで来たか…

32 18/02/08(木)01:26:48 No.483677668

お銀さんのパイプ飴は細胞の崩壊を遅らせる為の薬品が配合されている

33 18/02/08(木)01:27:33 No.483677757

何ということだ! 何ということだ!

34 18/02/08(木)01:28:01 No.483677811

つづくんだ…

35 18/02/08(木)01:28:30 No.483677877

>お銀さんのパイプ飴は細胞の崩壊を遅らせる為の薬品が配合されている 「」はさぁ… 咄嗟にこういうネタ思いつくのが本当に上手だよね…

36 18/02/08(木)01:30:06 No.483678090

二十歳前に死ぬなんてまるで会長みたいじゃないか!

37 18/02/08(木)01:30:32 [す] No.483678145

>つづくんだ… 続くと言っても文量的には明日はちょっとだけになる可能性が高いけどね! 文量と今日中にお出しできる部分がこれぐらいって感じだったから あ、続きは明日の11時~11時半ぐらいにはお出ししたいです 多分明日で完結すると思う

38 18/02/08(木)01:30:57 No.483678200

あの…もしかしてダークサイド「」?

39 18/02/08(木)01:32:11 No.483678353

あたし達は太く短く生きるのさ…桃さん

40 18/02/08(木)01:32:35 [す] No.483678405

>あの…もしかしてダークサイド「」? 左様 本当は最終章見た翌日にお出ししたかったけど遠征で疲れて二日間ぐったりだったからね 遅くなってすまない

41 18/02/08(木)01:33:30 No.483678541

どん底に押し込められるようなクローンは欠陥品か廃棄間近なんだ…

42 18/02/08(木)01:33:38 No.483678559

やべえぞ バルトでダーク成分を大量補充したみたいだ

43 18/02/08(木)01:36:46 No.483678928

>本当は最終章見た翌日にお出ししたかったけど遠征で疲れて二日間ぐったりだったからね 身体は大事にせないかんよ >遅くなってすまない いいんだ…てか俺は既に泣きそうだ 桃ちゃんの頑張りとサメさんの苛酷な運命に

44 18/02/08(木)01:39:00 No.483679185

(わかっていたさ桃さん、自分の身体の事だからね だけどね…桃さんを逢えて…よか…っ……た)

45 18/02/08(木)01:40:11 No.483679326

まさか劇場で観賞しながらダークなネタを練っていたとでも言うのか

46 18/02/08(木)01:40:42 No.483679391

も…も…しゃ…ん

47 18/02/08(木)01:42:24 [す] No.483679584

>まさか劇場で観賞しながらダークなネタを練っていたとでも言うのか 見てる最中は(みんな凄い前向きに頑張ってる……なんて眩いんだ……尊い……不幸にしたい……)とか思ってたぐらいだよ 具体的なネタは身終わった後に湧いたよ

48 18/02/08(木)01:42:38 No.483679616

無事に帰還できて何よりだよ 風紀委員も自覚してないだけでクローンなんだろうな…

49 18/02/08(木)01:42:59 No.483679655

「まほさn…マスター この写真の人たちは?」 「ああ…みほのなかまだよ ゆうきあるなかまたちだったんだ」

50 18/02/08(木)01:44:02 No.483679775

というか風紀委員はクローンじゃなきゃあんなに人用意できねえよ…

51 18/02/08(木)01:44:12 No.483679789

>みんな凄い前向きに頑張ってる……なんて眩いんだ……尊い…… うn >不幸にしたい…… うn…?

52 18/02/08(木)01:44:43 No.483679843

>カチューシャも自覚してないだけでクローンなんだろうな…

53 18/02/08(木)01:45:43 No.483679963

カレースナック・ゴンにまた新たな写真が・・・

54 18/02/08(木)01:46:44 No.483680059

エルピー・カチュ カチュツー カチュスリー ・ ・ ・

55 18/02/08(木)01:47:03 No.483680095

ゴンはいつからお墓になったの……

56 18/02/08(木)01:47:17 No.483680124

>ノンナも自覚してないだけでクローンなんだろうな…

57 18/02/08(木)01:47:50 No.483680188

桃ちゃん……

58 18/02/08(木)01:49:43 No.483680403

彼女達は精一杯生きたんだ!!

59 18/02/08(木)01:49:59 No.483680440

生きろ!

60 18/02/08(木)01:51:05 No.483680562

>ゴンはいつからお墓になったの…… カッちゃんが逝ってから

61 18/02/08(木)01:51:44 No.483680639

>風紀委員も自覚してないだけでクローンなんだろうな… 優季ちゃんが身長145cmだからとスカウトされてたから人間だよ… 人間も混じってるよ…

62 18/02/08(木)01:52:12 No.483680694

まだ死ぬとは決まってない…決まってないんだ

63 18/02/08(木)01:52:30 No.483680734

実はガールズ&パンツァーの舞台になっている地球は過去に最終戦争で一度滅んでるんだけど通りがかった宇宙人が遺伝子操作技術を駆使して再現した箱庭世界っていう裏設定があって…

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