「雷お... のスレッド詳細
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18/01/28(日)16:45:04 No.481599727
「雷お姉ちゃん…私もう戦車道なんて辞めたい…」 従姉妹のみほちゃんから先日このような相談があった。 最初こそ引き留めてはみたものの、話を聞くとどうも夏の大会以来、彼女の中で戦車道への忌避感が拭いされないようだった。 精神的にも大分参っているようで、このままやらせても良い方向になるようには思えない。 転校させて一度心を休めた方が良いだろう。 …とは言え、みほちゃん一人で西住流家元…しほさんと掛け合いが出来るとも思えなかった。 そこで菊代さんと常夫おじさんに連絡を取り、コトのあらましと転校させた方がいいという私見を述べる。 二人からは大方の同意を得られたので、みほちゃんがこの相談をする時に力になって欲しいと頼んで、この日はみほちゃんを家に帰した。 ──その一ヶ月後にみほちゃんは大洗へと転校した。
1 18/01/28(日)16:47:02 No.481600030
…… ss306797.jpg 「…雷ちゃん、ちょっといいだろうか」 みほちゃんの転校から一週間後。久々の帰港日に実家に帰ると、まほちゃんが家の前で待ち構えていた。 彼女はみほちゃんの姉で、黒森峰の隊長だ…私はまほちゃんより一つ歳上だけど前に大怪我での休学から留年したので今は同じ三年生だ。 まぁ私はサンダースで二軍の隊長なので練習試合でもそうそう当たる事は無いけども。 黒森峰の一軍とやりあったらなんだ。部隊が溶ける。ある程度は粘るけど。 とりあえずまほちゃんを家に上げることにした。積もる話になるだろう。 「…で、まほちゃん?話って何さ?」 「…みほのことで…な」 大方そうだろうな、と思っていた。連休でも無いのに長崎のウチにわざわざ訪ねに来るくらいだ。 私はみほちゃんから相談があったことと、彼女に転校を勧めたことを伝えた。
2 18/01/28(日)16:48:28 No.481600232
「…雷ちゃんには相談したんだな…みほ」 「えっ?」 「……みほは、私には何も言ってくれなかった」 「まほちゃんアンタ何も聞いてないの?」 そう言えばと、私はみほちゃんとの会話を思い出す。 あの子は『私が決勝の後にお母さんから怒られた時、お姉ちゃんは何も言ってくれなかった』とか言ってたっけ… そんなことを言っていた、とまほちゃんに告げる。するとまほちゃんは俯いて少し黙ってしまった。 こうなるとちょっと長いので私はお茶を淹れることにした。 「……あれは私が悪かったからな…」
3 18/01/28(日)16:50:35 No.481600583
少し経ってまほちゃんが口を開く。あの時は自分が何かを言える立場でも無かった、と 「あー…『何も言わなかった』じゃなくて『言えなかった』のね」 まぁ何を言っても隊長は自分だし責任感強いこの子のことだ。そんな責めたりもしないだろう。 「いやー普通は戦車からは飛び出さないでしょ。あれは流石に想定外じゃない?」 「…みほがどう思うか、までもな」 「それも含めて、よ。どうせ何も言わずに飛び出したんでしょみほちゃん?」 まほちゃんは口ごもる。肯定、ということだろう。
4 18/01/28(日)16:51:42 No.481600771
「……そんなに信用されてないのかな、私は」 珍しく弱々しい調子でまほちゃんが言う。まぁ実の妹が親戚の私に相談して、自分に相談無しで転校されたらそうもなろう。 だけど気になる事が一点あったのでまほちゃんに訊ねる。 「差し向かいで姉妹トークしてたかいまほちゃんや?」 「……えっ?」 「だから話よ話。みほちゃんとちゃんと会話できてたの?」 「話なら毎日していたが…」 「戦車道以外の話はしてたかって言ってんのよ。『あっこのファーストフードの新メニューおいしそう!』とか『ねぇねぇ!今度この新作戦争映画見に行こうよ!』とか」 「………あまりしてなかった…かな」 「あまり、ねぇ…」
5 18/01/28(日)16:52:22 No.481600867
まほちゃんはあまり余計な話をする性格でもない。こっちが振れば反応あるけど戦車道とか鍛錬とかそっちの話の方が盛り上がる。 そしてみほちゃんも自分から話をガンガン振るタイプでもない。二人ともどちらかと言えば待ちだ。そんな二人が自分からする話と言えば…やはり戦車道絡みになることが多いだろう。 …幼い頃はそうでも無かったのだが、物心ついたときからそんな感じだった。 西住本家には他に陰と陽という双子の妹が居て、あの二人は意思の疎通が良く取れているのだが… 「一つ言っていいかねまほちゃん?自分の事どう思ってるか伝わってこない相手に相談は出来んよ?」 「そうだろうな…」 「そうともよ。で、多分みほちゃんはまほちゃんが自分の事どう思ってるかってのがあまり伝わって無い」 「…雷ちゃんは昔から手厳しいな」 「アンタ達のお姉ちゃんみたいなもんだもの。遠慮なんてしないわよ」 茶菓子代わりに焼いた豚バラ肉をまほちゃんに出してやると、まほちゃんはちょっと渋い顔をする。
6 18/01/28(日)16:53:05 No.481600981
「肉は茶請けにどうなんだろうといつも思うんだが…」 「あ、コロッケの方が良かった?あと学園艦土産の凄い色のケーキとかあるけど」 「いや、いい。雷ちゃんは昔からこうだものな」 ウチに来る度に毎度の様に出すのでまほちゃんも慣れたように塩コショウをかけて口に放り込む。 もぐもぐ。もぐもぐ。 咀嚼しているまほちゃんを見ていたら、目が潤んでいるように見えた。 「……どしたのよ?」 「………昔は、戦車に乗ってるだけで皆楽しかったな…って」 「ああ…そうねぇ…」 本家の私有地を子供だけでⅡ号戦車で駆け回ったりするだけで楽しかったあの頃。 全員泥だらけになって帰ったら親たちにたらふく叱られた事。 おやつ代わりに家から持ってきた肉を鉄板借りて焼いて皆でバーベキューごっこした事…
7 18/01/28(日)16:53:33 No.481601052
「…楽しかったねぇ…陽ちゃんとか遊んでてもすぐ調子悪くするから皆心配したりしてさー」 「…あまりはしゃぐと陰がすぐ止めてな」 「泥だらけにしたときはしほさん凄く怒ってさー」 「二人で目一杯絞られたな」 「…ままならないよね、本当にさ」 「…そうだな」 はぁ、と二人して溜息をつく。 まだ大人でも無いが、いつまでもあの頃の子供でもいられない。 なんてままならないんだろう。と。
8 18/01/28(日)16:54:04 No.481601125
それでも… 「…前に進むしかない、か」 結局はそうなのだ。生きてる以上は何かしらの選択をして進むしかない。 みほちゃんの転校もその選択の一つに過ぎない。 そんなことはまほちゃんも最初からわかっていたのだ。なら彼女が今日来たのはきっと… 「…すまない。愚痴なんて聞かせて」 「いいって。まほちゃんがそんな話できるの私くらいだろうしさ」 ただでさえ溜め込みやすい性分の上にコトがコトだ。まほちゃんでも抱えきれなかったんだろう。 「いつでもおいでよ。私で良かったらいつだって聞いてあげるからさ」 「…ありがとう。雷ちゃん」
9 18/01/28(日)16:54:38 No.481601225
…… 二人で食器を片づけて一休みしていると、まほちゃんが不意に口を開く。 「……もし、みほが他で戦車道を始めたらどうしてやるのが一番良いんだろうか」 「その時は…うーんそうだなぁ…相談無しに出てった鬱憤でも試合でぶつけてやればいいんじゃない?まーもしそんなことがあったら、だけどね」 戦車道の無い学校に行くと言って出て行ったのにそんなことが起きる訳も無いだろう。私は冗談交じりにそう返した。 選択する自由もあるならぶつけてやる自由だってある。そんな万が一な事態が起きたならそれくらいしてもバチは当たらないだろう。 まほちゃんはちょっとやり過ぎるんじゃないかと心配だが…まずかったら仲立ちしてやればいい。うん。 …それより心配な事があった。
10 18/01/28(日)16:55:12 No.481601314
「…みほちゃんさ、あんな状態だし結構すぐ帰ってきちゃうと思うんだよね…何だかんだ言って結構人見知りするし」 オドオドしてる割には芯がしっかりしてるみほちゃんだが、今の精神状態はそんなによろしく無さそうだった。 そこに新しい環境と知り合いが居ない状況がドン。ちょっとストレスが大きくなるのでは?と思ったのだ。 「まぁ、良い出会いがあれば当面帰って来ないかもしれないけど…そん時は二人で喜んでやろうよ。みほちゃんが心許すだけの友達が出来たってことだろうからさ」 「…そうだな」 少し寂しそうな返事だったが、まぁ仕方ないだろう。ずっと一緒には居た姉妹だったし。
11 18/01/28(日)16:56:30 No.481601549
…… そろそろ帰るということでまほちゃんを見送りに出る。 「今日はありがとう。雷ちゃんと話して大分落ち着いた…と思う」 「思うってさぁ…ま、思うとこなんて幾らでもあるだろうけど指針くらいは立ったでしょ?」 「ああ。とりあえず当たるようなら全力でぶつかってみるさ」 冗談交じりに今日初めての笑顔を見せるまほちゃん。来た時より元気にはなったようだ。 私はそんなまほちゃんに最後に言っておきたかったことを口にする。 「……良い出会いが無くてさ、もし泣きそうな顔でみほちゃんがそっち帰って来たら…今度はみほちゃんのこと見て話してあげてよ? …あの子ね、寂しいんだよきっと」 「…わかった」 小さく、だけど力強い返事だった。これでまほちゃんは大丈夫だろう。あの子が帰って来ても姉として出迎えてやってくれるはずだ。
12 18/01/28(日)16:57:09 No.481601666
…手を振るまほちゃんの背中が小さくなる …まほちゃんだって幾ら隊長だと言ってもまだ子供だ。みほちゃんも、当然私も。幾らだって迷うこともある。 だけど人なんてのは迷いながらぶつかりながらようやっと成長するもの。だったらいっぱいぶつかって互いに落ち着くまで擦り減ってしまえばいい。 そうやって型にハマれば今度は収まりが良くなるはずだから。 まほちゃんが帰った後こんなことを思った。 しかし、まぁ
13 18/01/28(日)17:00:28 No.481602194
「…はぁーあ。みほちゃんみたいなタイプこそケイみたいな大将の下で生きると思うんだけどなー」 我がサンダース大付属の隊長にして親友の顔を思い出す。 ケイは人を見て励ましたりするのが物凄く得手だ。というか裏表が無い。天性のモノを持っている。 まほちゃんも指揮官としては判断も切れ、同世代では乗員も含め全国トップと言っても過言じゃ無い実力者だ。 だが、人の背中を押してやることにかけてアイツを上回るヤツはそうは居ないだろう。 一軍二軍三軍なんて私が入学した時は『どうせ黒森峰の勝ちだろう』と厭戦感まで出てバラバラだった。 そこに新しい風を吹きこんで、世代が進むごとに文字通り空気を変えていったのがケイだった。 私と同期の桜だったやつらもそれを認めていて、満場一致でアイツを隊長に推したのを今でも覚えている。 ケイから副隊長に推されても私が二軍の隊長に留まった理由の一つは、アイツに次の時代をやって欲しかったからだ。 『アイツの色にサンダースを染め直して欲しい』 卒業してった同期も私も皆同じ意見だった。
14 18/01/28(日)17:04:27 No.481602880
「勿体ないよねぇ…もし帰ってきたらコナかけてやろうかしら」 ウチなら多分きっと活かせる。私とアイツがいればきっと…でも 「ま…みほちゃんにはみほちゃんの道がある、か…」
15 18/01/28(日)17:05:08 No.481602995
…… 「はあっ!!?大洗が大会に出る!?しかも廃校が決定した!?ちょっとちょっとどういうことよアリサ!!?」 「ライさんちょっ…苦しいですって…」 言われて襟を掴んで締めあげていた手を緩める。やってきたのはアリサだった。 アリサは私が副隊長としてケイに推した子だ。ちょっと勝負にこだわり過ぎるきらいがあるが…まぁそういうとこも私とよく似ている。 そのアリサが持ち込んだ情報によると、何でもみほちゃんの転校した大洗が戦車道を復活させた上に、みほちゃんを隊長に抽選会に居たとのことだった。
16 18/01/28(日)17:06:30 No.481603267
「うわぁ…こりゃあもし黒森峰と当たったら…で、カードは決まったんでしょ?」 「あ、はい。初戦はウチとです」 「お…?」 …ある意味僥倖だった。大洗はアリサの情報によれば十両を割ってる弱小の上に八九式まで駆り出しているそうだ。 十中八九はウチが勝つだろう…とデータだけなら思えるが… 「まぁあんな弱小余裕ですよ。今年出来たようなチームに負けるわけ無いですって」 「あんまり油断するんじゃないよ…あの子がやるって決めたってことは訳があるはずだから…本気だと手ごわいかもよ」 「西住流のことですか? そうは言っても黒森峰最大の強みは戦車の強さだってライさんも言ってたじゃないですか?それがロクな戦車も無い学校に居たって…」 「油断するなって言ったのよ。そうね…そんなに自信があるならアリサは完勝狙ってみてよ。ウチは一両も落とされないように、さ」 「…珍しいですねそこまで言うの? わかりました。やれるだけのことはやってみますよ」
17 18/01/28(日)17:06:59 No.481603372
「よし。じゃあ次。廃校って?」 「学園艦の老朽化が理由だそうです…が、調べると何かキナ臭い噂もあるみたいですが…まぁ噂ですからね」 「ふむ…まーそれじゃ仕方ないか。アリサもう一回言っておくけど──」 「油断するな、ですよね。もう何度も聞きましたよ。ライさんの下に居た時からずっと」 「わかってるなら良いのよ」 アリサが部屋を出る。これでいい。あの子は勝ちにこだわるからこれで容易に負けは無くなるだろう。 しかし、まぁ 「辞めたいって言っておいてさー他でやっちゃうってさー…なんというか自由って感じよねー…」 どんな理由があるにしろ…みほちゃんが羨ましいと思ってしまう私だった。 何気なく携帯を見ると、陰ちゃんと陽ちゃんから着信と苦情っぽいメールが何件も入っていた。 きっとみほちゃんのことだろう。さてどう返事したものか… 七輪で焼いた肉の焦げる臭いがした。私は諸々に舌打ちをして焦げた肉を口に放り込んだ。 おしまい
18 18/01/28(日)17:08:59 No.481603725
世話焼きお姉さんすぎる…いい…
19 18/01/28(日)17:09:39 No.481603847
>彼女の中で戦車道への忌避感が拭いされないようだった。 >ケイみたいな大将の下で生きると思うんだけどなー 誤字発見
20 18/01/28(日)17:10:21 [す] No.481604002
雷住殿見てたら何かやりたくなった やった
21 18/01/28(日)17:11:35 No.481604222
ちゃっかり西住四姉妹世界なのいい… 陰陽が凄く拗れてそう
22 18/01/28(日)17:14:16 [す] No.481604698
>誤字発見 失礼しました… あと雷ちゃんの実家置いてく ss306799.jpg
23 18/01/28(日)17:14:54 No.481604785
>ちゃっかり西住四姉妹世界なのいい… いやなやつよりも早く嫌味言いに来そう
24 18/01/28(日)17:17:00 No.481605179
西住精肉店は有限会社なのか…
25 18/01/28(日)17:17:06 No.481605198
お姉ちゃんが本音出せるお姉ちゃんいい…
26 18/01/28(日)17:18:49 No.481605498
>「戦車道以外の話はしてたかって言ってんのよ。『あっこのファーストフードの新メニューおいしそう!』とか『ねぇねぇ!今度この新作戦争映画見に行こうよ!』とか」 おケイさんだこれ
27 18/01/28(日)17:20:50 No.481605898
ちゃんと佐世保だ…
28 18/01/28(日)17:29:42 No.481607668
>いやなやつよりも早く嫌味言いに来そう 陽ちゃんエラいことになってそうだよね…
29 18/01/28(日)17:34:23 No.481608700
>>いやなやつよりも早く嫌味言いに来そう >陽ちゃんエラいことになってそうだよね… 無邪気な残酷さを発揮するスイッチが入ってる陽ちゃん
30 18/01/28(日)17:34:41 No.481608757
劇場版で家に黒森峰の制服かかったままだったから最初の頃は家族皆いつか帰ってくるもんだと思ってそうだよね
31 18/01/28(日)17:37:35 No.481609401
雷姉ちょっとみぽりんに嫉妬しててこれは…いつか戦いそう