18/01/24(水)23:12:32 SS「羊... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1516803152038.jpg 18/01/24(水)23:12:32 No.480871219
SS「羊質虎皮のソリチュード」 前回までsu2212346.txtのあらすじ 幼い頃から虚勢癖を持つエリカ。黒森峰で戦車を水没させたことにより大洗に転校した後、大洗でも戦車道をやることになる。その中でエリカは多大なプレッシャーに押しつぶされそうになり、その結果味覚を失い嘔吐を毎日してしまうほどになる。そんなエリカ達大洗の次の相手は因縁深いプラウダ高校なのであった……
1 18/01/24(水)23:13:26 No.480871446
全国大会準決勝、プラウダ戦。 雪が降る雪原の中行われたその戦いは、最初順調かに思えた。 開幕の前にこそ相手の隊長であるカチューシャから「去年は優勝をくれてありがとう」などと煽られたが、エリカはそれを普段の虚勢を使っていなした。 本当はその言葉に大きく心を揺さぶられていたのだが、そのことは必死に心の奥にしまい込んだ。 エリカが心を押し殺しながらも始まった試合において、各隊員からは慢心が見られた。 誰もが相手がプラウダでありながら、自分達が勝つと確信していた。戦車が増え、風紀委員が隊に加わったのも精神的余裕を作る要因の一つだった。 エリカはそれを咎めたが、誰も耳を貸さなかった。それは最初の攻勢からも見て取れた。 皆、次々に攻撃的になりプラウダを攻めていった。 しかし、それがいけなかった。それはプラウダの策だった。大洗はプラウダに嵌められ包囲される形となった。なんとか廃屋に逃げ込むも、外には多数のプラウダの旧ソビエト製の戦車が囲んでいた。 追い詰められた状況と、寒さによる過酷な環境は、それまで慢心していた隊員達の心を削った。 誰もが皆諦めの色を出す。
2 18/01/24(水)23:13:54 No.480871565
それは、カチューシャが使者を出して降伏を勧告しにきたときに頂点となった。 「もう諦めよう? このままじゃ無理をしたら怪我人が出るかもしれないし私達十分に戦ったよ?」 「そうだな、準決勝にこれただけでも上々だ、無理をする必要はない」 沙織と麻子が言う。 それに、周りの隊員達も次々同調し始めた。 エリカも、そう思い始めていた。 ――もういいじゃないか、ここまで私はよくやった。もう頑張らなくたっていい。みんなだってそう言ってる。もう虚勢を張らなくったっていいんだ。 エリカには限界が来ていた。 もうこれ以上虚勢を張り続けることは、体が、心が、無理だと悲鳴を上げていた。 だからエリカはもう楽になろうと思った。すべてを捨てて、弱い自分を曝け出してもいいと、やっと決心がついた。 エリカはそのために口を開こうとする。 「……わ――」 「――駄目なんだ!」 だが、その声は桃によって遮られた。 「……どうして、駄目なんです」
3 18/01/24(水)23:14:18 No.480871653
エリカは落ち着いた口調で聞いた。 すると、桃から帰ってきたのは、あまりにも衝撃的な答えだった。 「優勝できなければ、我が校は廃校になるんだ!」 そこから生徒会の面々が語った事実はこうだ。 文科省は学園艦の統廃合を勧めており、その対象に大洗女子が選ばれた。そして、会長である杏は廃校を阻止するための実績作りとして、昔盛んだったと言われる戦車道を選んだ。 それが、大洗が戦車道を復活させた理由だったのだ。 その事実を聞いた瞬間、誰もが狼狽えた。 「そんな、バレー部復活どころじゃありませんよ!」 「無条件降伏……」 「私達バラバラになっちゃうの!? 嫌だよそんなの!」 「ここでしか咲けない華もあると言うのに……」 その悲鳴にも似た声を聞いて、エリカは考える。 ――廃校だなんて、そんな……。もし廃校になったら、沙織達はどうなるの? 他の子達は? いくら周囲の期待が辛かったとはいえ、もはや隊員達は大切な仲間になっていた。さらに、沙織達と離れることもエリカには辛かったし、何より沙織達が傷つく姿を見たくなかった。 ――もう、誰かが傷つく姿を見たくない……。それに……。
4 18/01/24(水)23:14:49 No.480871780
さらにエリカは、杏達生徒会を見る。 ――この人達も偽りの中で戦ってきたんだ。私のように。そんな思いを、私は裏切れるのか? 友を助けたい想い。願いに答えたい想い。そんな様々な想いが、エリカを追い詰める。 ――私は……私は……! 「……戦おうじゃないの!」 いつの間にか、エリカの口は開いていた。 「廃校だなんて、絶対に私がさせないわ。私がこの大洗を優勝に導いてあげる。廃校を回避させてあげる。私を信じなさい、みんな」 エリカは今までで一番派手に髪をかき上げ、自信に満ち溢れたように見える姿で言った。 エリカは、自分を殺すことを選んだ。 その言葉に、隊員達の目にも希望の光が灯る。 「……そうだよ! 逸見隊長がこう言ってるんだ! 逸見隊長が私達を裏切ったことなんてあった!? きっと、きっと逸見隊長ならやってくれる! だって逸見隊長は凄いもん!」 そう言ったのは、梓だった。梓の純粋な尊敬が、エリカに刺さる。
5 18/01/24(水)23:15:23 No.480871917
「そうだ、まだ降伏には早い! これは我々にとっての沖縄戦だ!」 「いや、大阪冬の陣だな」 「鳥羽伏見の戦いぜよ」 「ヘラクレアの戦いだ」 「「「それだ!」」」 「バレー部魂見せてやるぞ皆!」 「「「オーッ!」」」 「廃校なんて校則で認めないわよ!」 それぞれが盛り上がり始める。 その姿を見て、エリカはもう後には引けないことを自覚した。 「やっぱり凄いよエリカは。簡単にみんなを勇気付けちゃうんだもん!」 「はい、逸見殿には惚れ惚れいたします!」 「私も、エリカさんを信じて頑張ってみたいと思いました」 「……ま、単位習得ができなくなるからな。仕方ない」 エリカのチームの面々も、エリカを褒め、やる気を出す。
6 18/01/24(水)23:15:51 No.480872016
エリカはその思いに応えるためにも、必死で頭の中で作戦を立て始めた。もちろん、西住姉妹のやり方で、である。 そして降伏勧告の制限時間である三時間が過ぎた。エリカがとった戦略は、正面突破であった。それも、相手が恐らくわざと薄くしている箇所ではなく、最も防御の厚い箇所を抜くという作戦だった。 その作戦において、生徒会チームの奮戦や、優花里の偵察などによってなんとか自分達にとって有利な状況を作り、そしてついには歴女チームの待ち伏せによって相手戦車を撃退した。 大洗は、プラウダに勝利したのだ。 こうして、残るは最終決戦。黒森峰を残すのみとなった。
7 18/01/24(水)23:16:21 No.480872120
◇◆◇◆◇ プラウダに勝利したことによって、エリカへの隊の信頼は最大になった。 誰もがエリカを褒め称えた。誰もがエリカも賛美した。 エリカについていけば、何も問題はないと、みなが口を揃えていい始めた。 「みんな、逸見隊長のおかげです! 私達、頑張ります!」 「ここまで来れたのも逸見ちゃんのおかげだよ、ありがとね」 「逸見隊長! これからの采配、期待しています!」 「隊長、バレー部の力、ぜひとも使って下さい!」 「あなたは信頼できる隊長だわ、お願いね、隊長!」 エリカの評判が学校中に広がり、新たな仲間も加わった。自動車部の面々、そしてネットゲーム通称ネトゲを愛好している少女達だった。 エリカは今、大きな神輿の上にいた。大洗という大きなものを背負った神輿の上に。 誰もエリカの虚勢に気づかない。誰も、エリカの本心に気づくことはない。 エリカはそんな中で、孤独に戦っていく……はずだった。
8 18/01/24(水)23:16:51 No.480872241
だが、運命の悪戯は、エリカに思わぬものを施すこととなった。 「んーそれにしても今日は私一人だけって珍しいよね、皆どうも用事があるってこんなこともあるんだねぇ」 その日、エリカの家には沙織がやって来ていた。沙織の言う通り、他の面子はそれぞれ用事が立て込んでおり来ることができなかった。 なので、今エリカの家にはエリカと沙織二人きりだった。 「まあ、たまにはこうのもいいじゃない」 「そうだよね! あ、もうそろそろ料理できるよ!」 沙織はエリカのために料理を作っていた。砂糖をふんだんに使った甘口のクッキーだ。 沙織は料理を終えると、それをエリカに出した。 「さ、食べよ!」 「ええ、いただきます」 「いただきます!」 沙織はクッキーを口に含む。 その瞬間、沙織は失敗したと思った。
9 18/01/24(水)23:17:22 No.480872363
クッキーが異常にしょっぱかったのだ。どうやら砂糖と塩を間違えたらしい。 とてもではないが食べられたものではなく、沙織はすぐさまエリカに謝ろうとした。 だが―― 「うん! 甘くて美味しいわね、このクッキー!」 「え……?」 沙織は耳を疑った。 ――甘い? これが? 嘘……だよね? 最初はエリカが遠慮して言っているのかと思った。 だが、エリカは物凄い勢いでクッキーを平らげていく。 「……ねぇエリカ。ちょっとこのクッキー甘すぎない?」 沙織は不審に思い、カマをかけてみることにした。 するとエリカはこう答えた。 「え? そ、そうねぇちょっと甘すぎるかも。でもたまにはこれぐらい甘いクッキーがいいいと思うわ。なんだかチョコレートみたいで美味しいし」 沙織は知った。 知ってしまった。
10 18/01/24(水)23:17:44 No.480872445
エリカの味覚が、異常になっていることに。 「……嘘」 「え? 嘘じゃないわよ。あ、私が遠慮してると思ってるんでしょ。そんなことないわよ。証拠にほら、沙織の分のクッキーまで頂いちゃうわ」 エリカは笑って沙織の分のクッキーを手にする。そして、そのままクッキーを口に含んでさらに笑ってみせるエリカ。 沙織は、エリカに尋常じゃないことが起きていることを、その直感で悟った。 「……実はねエリカ、これ、甘くないんだ」 「え?」 「砂糖と塩を間違えちゃってさ。とてもじゃないけと食べれないくらいしょっぱいんだ」 「……あ……」 「ねぇエリカ……何か私に、隠してない?」 沙織は真顔でエリカを問い詰める。 エリカは、今まで沙織に見せたことのないほど狼狽した顔を見せた。 「べ……別に何も……」 「嘘だよ……」 「う、嘘なんかじゃ……」
11 18/01/24(水)23:18:10 No.480872554
「嘘だよ!」 沙織の声が部屋に響き渡る。それに、エリカはびくりとなって震えた。 「エリカ、何かおかしいよ……その態度、今までのエリカらしくない。ねぇ、エリカ。何があったのか話してよ。私達、友達でしょ?」 「わた、しは……」 エリカは震えた。 ――知られてしまう。知られてしまう。私の秘密が、沙織に……! 憂慮していた事態が、ついにやって来た。 そのことをどうごまかすか、エリカは考えようとした。だが、突然のことにエリカの頭は回らない。それどころか、焦ってどんどんとぐちゃぐちゃになっていく。 エリカは沙織の目を見る。問い詰めるようなその視線に、エリカはとうとう耐えられなくなった。 「……その、ね。私、実は……」 「うん」 「その……その……」 「大丈夫、落ち着いて、エリカ」 沙織の心優しい声。 沙織も胸裏ではどんどんと変貌していくエリカの姿に戸惑っていたのだが、沙織はそれをなんとか隠した。自分が困惑しては、エリカを追い詰めてしまうと思ったからだ。
12 18/01/24(水)23:18:39 No.480872662
「私……私……ごめんなさい!」 エリカは沙織に頭を下げた。 沙織はなぜ頭を下げられたのか分からなかった。 だが、次の言葉でその理由をなんとなく察することができた。 「私……今までの私は全部、作りものだったの!」 「作り、もの……?」 「うん……」 そうしてエリカは沙織に暴露した。 今までの自分はすべて虚勢を張っていた偽物だったこと。本当はとても気弱で、臆病な生活だったこと。戦車道が、周囲の期待が辛かったこと。今にも不安に押しつぶされそうなこと。そして、その現れとして食べ物の味がまったくわからなくなり、それらをすべて戻していること、などである。 すべてを聞き終えた後の沙織は、顔を真っ青にしていた。 「それじゃあ……今まで私達がエリカにひどいことを……」 「ううん! そんなことないの! 悪いのは私! 私なの! ごめんなさい、ごめんなさい!」 「ちょっと!? どうしてエリカが謝るの!?」 「全部私が悪いの……私がこんなに弱いから……私が、私が全部悪いの……!」 エリカは沙織に土下座する形で頭を下げていた。
13 18/01/24(水)23:19:03 No.480872742
沙織は必死になってそんなエリカの頭を上げさせる。 「何言ってるの!? 悪いのはむしろ私達だよ! エリカに全部背負わせて、こんなになるまで……」 「いいえ、私が悪いの。私が……」 エリカは壊れたラジオのように自分が悪いと呟き続けていた。体はぷるぷると震え、目からは涙を零していた。 沙織は、エリカが落ち着くまで待つことにした。エリカが落ち着かねば、まず話も何もできない。 そうして一時間ほど経った後、ようやくエリカは落ち着きを取り戻し、沙織と話せるようになった。 「……大丈夫、エリカ?」 「……うん」 「……そっか。良かった。……それでさエリカ、私、考えたんだけどさ」 「……うん」 「……棄権しよう。大会」 「っ!?」 今度はエリカが驚く番だった。 廃校を嘆いていたはずの沙織の口から、そんな言葉が飛び出してきたのだ。 「どうして……? やっぱり、私が頼りないから……? 私が駄目な人間だから……?」
14 18/01/24(水)23:19:36 No.480872859
「違う! そうじゃないよ! ……たしかに廃校は嫌だよ。でもね、大切な友達がこんなになっているのに、それを無視してまで戦うなんて私にはできないよ……ね、だからエリカ、もう全部皆に話して――」 「嫌! それだけは嫌!」 エリカは激しく頭を振った。 「どうして? こんなにまでなって、どうして……」 「嫌なの! 私、自分の本性を誰にも知られたくないの! 怖いの!」 「そんな……きっとみんなはエリカを受けれいて――」 「そんなことない! みんな、私に愛想をつかしちゃう! みんな私のこと嫌いになる! 友達も、後輩も、先輩も、お父さんもお母さんもお姉ちゃんも! みんなみんな……」 そう言うエリカの姿は、まるで幼い子供のようだった。 沙織には、そんなエリカがとても痛ましく見えた。 「大丈夫だよ! エリカのこと嫌いになる人なんて、いるはずないよ!」 だからこそ、大丈夫だよという言葉をかける。エリカに安心して欲しいと訴えかける。 だが、エリカは――
15 18/01/24(水)23:19:52 No.480872928
「嫌! 絶対に嫌! 私は私でいなくちゃいけないの! 逸見エリカでいなくちゃいけないの! お願い沙織、黙ってて、この事はみんなには黙ってて! バラしたら、絶交だからね!」 エリカの目は本気だった。 てこでも動かない硬い意思がそこにはあった。 沙織は、本当は諦めたくなかった。 エリカをなんとしても救いたかった。 だが、今の自分にその力がないことを、沙織は知った。 今自分がバラせば、エリカは本当に壊れてしまうと、沙織は悟ったのだ。 「……分かった」 だからこそ、沙織は折れた。 折れてしまった。 「……エリカのこと、黙ってる」 「ありがとう! ありがとう沙織……!」 エリカは沙織の腰に抱きついた。 そのエリカの頭を撫でながら、沙織は静かに涙を流した。 それは、無力な自分に対する、悔しさからくる涙だった。
16 18/01/24(水)23:20:29 No.480873072
◇◆◇◆◇ ついにこの日がやってきた。全国戦車道高校生大会決勝戦。 相手は、エリカの古巣である黒森峰。 そして、エリカが敬愛してやまなかった、西住姉妹。 「エリカさん……」 みほは、試合前の整列の後に、エリカに話しかけた。 「……ふん」 しかし、エリカは一瞥しただけで去っていこうとする。 「私、諦めないよ!」 そんなエリカに対し、みほは大声で言った。 そのみほの言葉に、エリカの足が止まる。 「私、諦めない! 私は自分の選択が正しいって信じてるから! だから、それを証明するために戦う! エリカさんと、全力で!」 「……せいぜい頑張りなさい。私のせいで、また黒森峰が負けないようにね」
17 18/01/24(水)23:20:51 No.480873163
みほの言葉にエリカは厭味ったらしく返した。決して顔をみほには向けず、背中だけ向けて。 みほは握りこぶしを強く握る。 ――エリカさんに絶対に勝とう! そうすれば、きっとエリカさんともまた話せるようになる! だって、それが戦車道だから……! みほはそう決意を新たにした。 そうして、二人その語らいを最後として、試合を始めた。 みほが絶対に勝利すると決意した戦い。 だが、試合はみほの思ってもみなかった方向に進んでいった。 黒森峰は電撃戦を仕掛けた。できるだけ素早く相手の裏に周り、フラッグ車を仕留める作戦だった。 だが、その作戦は読まれていた。大洗は黒森峰が展開する前に山頂に陣を敷いていた。 そして、来る戦車を次々と撃破していく。 それだけではない。 その後の黒森峰の動きすべてに、大洗が先回りしていたのだ。 みほは何かがおかしいと思った。それにはまほも同調した。 なぜこうまで作戦が読まれるのか。 諜報員でも送り込まれているのではないかという疑いすら浮かんだ。
18 18/01/24(水)23:21:23 No.480873282
だがその疑問に答えは出ることなく、戦いは市街戦へと移っていった。 「はぁ……はぁ……!」 エリカは肩で息をしながら、フラッグ車として市街の狭い路地を走っていた。 ここまでは完璧だった。 エリカは完全に西住姉妹の作戦を読んでいた。 それは、決して諜報員を送り込んだわけでも、無線を傍受しているわけでもない。 ではなぜか? その答えは簡単だった。 今までエリカは西住姉妹の思考を模倣してきた。その結果、エリカは西住姉妹の思考パターンを完全に把握することができるようになっていたのだ。 それは、完全に西住姉妹の作戦を読み切るというところにまで至っていた。 重戦車中心の編成でどう戦うか。どの戦車をどう運用するか。局所での戦い方はどうするか。
19 18/01/24(水)23:22:00 No.480873407
そのすべてがエリカには分かった。 だが、その代償は決して軽くなかった。 「大丈夫、エリカ?」 「はぁ……はぁ……ええ……大丈夫……」 西住姉妹の常識外れの思考を模倣するには、かなりの体力を使ったのだ。結果、エリカの消耗は激しく、いつ倒れてもおかしくない状況になっていた。 それでもエリカが倒れないのは、ひとえにエリカの虚勢癖ゆえである。他人の前では無様な姿は見せられないとの虚勢癖が、彼女を支えていたのだ。 今、エリカ車の後ろには相手のフラッグ車――まほの乗る戦車が追従していた。他の戦車は、エリカの指示で仲間達が抑えていた。 「っ! 今よ!」 狭い路地をすり抜けたときに、エリカが号令を出す。 すると、敵のフラッグ車が通った後の道を、自動車部の乗る戦車が塞ぎ、敵とエリカ車が一対一になる構図を作った。 「よくやったわ!」 『なんのこれしきー! 後は任せたよ隊長!』 “任せた。” 黒森峰幾度となくエリカを苛んできた言葉。 それが黒森峰との戦いで出てきたことに、エリカは思わず笑ってしまう。
20 18/01/24(水)23:22:28 No.480873506
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21 18/01/24(水)23:22:46 No.480873580
「……笑っているのでありますか? 逸見殿?」 「え? ええそうね、楽しいじゃない、この状況」 エリカは心にもないことを言う。 だがその真意に気づけているものは、沙織を除いていなかった。 「エリカ……」 「気を抜かないで沙織。さあ、ここからが正念場よ。私達の実力で、フラッグ車を倒すわよ! 信じなさい、あなた達の実力を! だってあなた達は、この私が鍛え上げたんだから!」 エリカの言葉に、エリカ車の面々は身が引き締まる思いとなった。 そしてエリカ車とまほ車が路地の中の広い空き地に出たときに、戦いは始まった。 両者とも少しも引けを取らない戦いを見せた。 個々人の力量が問われる、ある意味道としての戦車道にはもっとも正しい姿かもしれない戦い。 その戦いの中で、互いの乗組員はどんどんと疲弊していった。 しかし、それも僅かな間である。 道を塞いでいる自動車部の戦車が、そろそろ限界に来ていたのだ。 エリカは勝負に出ることにした。
22 18/01/24(水)23:23:39 No.480873765
「一撃をかわしてその瞬間に距離を詰め勝負を決めるわよ! みんないいわね! 優花里! もっと装填の速度上げなさい! 華! 〇・五秒上げる! その瞬間に確実に仕留めて! 麻子! 全速力で近づいて一気に後部に回りなさい! 全員いいわね!」 「「「「了解!」」」」 「よし、前進!」 エリカの最後の命令は、みほを意識したものだった。みほならまほとどう戦うか。それがエリカの出した答えだった。 エリカはその考えをひねり出した結果、鼻から鼻血を流していた。 まほ車を中心に円を描くかのように、エリカ車が動く。そしてまほ車の一撃を交わすと、エリカ車は一気に距離を詰める。 互いに一撃確殺の距離まで近づき、砲撃。 そして―― 『黒森峰フラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!』 「……うおおおおおおおおおおおおおおお!」 会場が歓声に包まれる。また、黒森峰車を足止めしていた仲間達からも喜びの声が上がる。 そして、それはエリカ車でも同様だった。 「……やったー! やったよみんなー!」 「やりました! やりましたよ!」 「ええ! やりましたね!」
23 18/01/24(水)23:23:59 No.480873839
「……やったな」 みなが勝利を喜んだ。 そんな中でエリカは、一人キューポラから顔を出し、相手車両から顔を出しているまほを見て、言った。 「……勝ちましたよ、まほさん」 「……ああ、そうだな」 「……また私のせいで黒森峰が負けましたね」 「……そうだな。だが」 「だが?」 「なんだか、私は今晴れやかな気持ちだよ、エリカ」 「っ……!? どうして、どうしてあなたは……!」 エリカは言葉に窮し、戦車の中に戻る。
24 18/01/24(水)23:24:24 No.480873918
「……大丈夫、エリカ?」 そんなエリカに、沙織が声をかけてきた。 「ええ、大丈夫。私は、大丈夫よ……」 沙織を見て、エリカは微笑みながら沙織の手を握った。 エリカは、沙織の優しさが嬉しかった。 沙織も、そしてエリカもひとまず安心することにした。 もうこれで、無理な虚勢を張る必要もなくなった。そう思ったからだ。 二人の願いは僅かな間だが叶えられることとなる。 そう、僅かな間だけ。 つづく
25 18/01/24(水)23:25:16 No.480874100
やべぇぞ…
26 18/01/24(水)23:25:35 No.480874177
>黒森峰幾度となくエリカを苛んできた言葉。 で抜けてる?
27 18/01/24(水)23:26:52 [す] No.480874457
>で抜けてる? 抜けてたね……ありがとうすまない
28 18/01/24(水)23:27:30 No.480874605
エリカ…まさか島田耶識
29 18/01/24(水)23:28:21 No.480874818
誰も悪くないのににににに……
30 18/01/24(水)23:30:25 No.480875276
クッキー食べたときマズイのを取り繕うために甘いと言ったのか それとも本当にやつの味覚が狂ってきたのか
31 18/01/24(水)23:31:06 No.480875410
澤ちゃんが例のワードを言ってないのに真実を知ったら言った状況以上に曇りそう
32 18/01/24(水)23:33:13 No.480875880
>エリカはその考えをひねり出した結果、鼻から鼻血を流していた こうやってダーク「」が入れてくるワードが俺を狂わせる やつも少しずつ狂っていく
33 18/01/24(水)23:34:39 No.480876198
逸見隊長のおかげで 黒森峰に勝てました!あの時 逃げなくてよかったです !
34 18/01/24(水)23:36:28 No.480876619
逸見の五感が奪われていく気がする ゾロ目出てないのに
35 18/01/24(水)23:37:51 No.480876930
善人しかいないダークサイドいいよねよくない…いやいい!
36 18/01/24(水)23:40:22 No.480877431
>逸見隊長が私達を裏切ったことなんてあった!? やつは心の中で嘔吐した でも表情には出さない
37 18/01/24(水)23:43:00 No.480877977
別の人格を演じるあまりに本当の自分が乖離していって何が自分自身なのかが判らなくなって精神的に崩壊するんだよね
38 18/01/24(水)23:44:39 No.480878327
いつ神輿
39 18/01/24(水)23:46:24 No.480878698
それでもバレー部のレズ神輿よかマシでは……?
40 18/01/24(水)23:49:10 No.480879321
今夜も寒い・・・ 今回のラストでやつの心に晴れ間が差したけどこの後最大級の寒波が襲来するんでしょ! …おや、どこからか水音が聞こえて来たようだ
41 18/01/24(水)23:51:17 No.480879764
出番を取られた赤星の怨念の行方はどこへ向かうんですか?ダークサイド「」よォ!!!11!
42 18/01/24(水)23:53:25 No.480880217
カミーユみたいになっちゃわない?
43 18/01/24(水)23:53:32 No.480880243
あんこう鍋イベントあったら会長どんな顔してたんだろ
44 18/01/24(水)23:53:44 No.480880283
このあと1ヶ月程でまた廃校危機になるんだからやつの胃がヤバイわ
45 18/01/24(水)23:54:41 No.480880498
痛々しくて読むと辛いのに続きが気になって読んでしまうじゃないかどうしてくれる
46 18/01/24(水)23:55:20 No.480880638
書き込みをした人によって削除されました
47 18/01/24(水)23:56:23 No.480880857
とりあえずダーク「」は根をつめないでな 雪かきした?
48 18/01/24(水)23:56:43 [す] No.480880929
>出番を取られた赤星の怨念の行方はどこへ向かうんですか?ダークサイド「」よォ!!!11! 赤星は見えないところでみぽりんの支えとして頑張ってるから……描写されることはないけど あ、それはそれとして次回で最終回になります
49 18/01/24(水)23:57:50 No.480881167
>このあと1ヶ月程でまた廃校危機になるんだからやつの胃がヤバイわ ダメージは胃袋だけで済むのだろうか
50 18/01/24(水)23:57:54 [す] No.480881173
>とりあえずダーク「」は根をつめないでな >雪かきした? 文章自体はずっと前に書いたやつだから大丈夫だよ! 雪は……うn……
51 18/01/24(水)23:59:13 No.480881454
>文章自体はずっと前に書いたやつだから大丈夫だよ! よかった… >雪は……うn…… よくない
52 18/01/24(水)23:59:47 No.480881573
>あ、それはそれとして次回で最終回になります そうか…遂にお姉ちゃんのカレースナックにみぽりんとカッちゃんとやつの写真が飾られる日が来るのか
53 18/01/25(木)00:00:39 No.480881766
>そうか…遂にお姉ちゃんのカレースナックにみぽりんとカッちゃんとやつの写真が飾られる日が来るのか だから カチューシャは 死んで ねーよ!
54 18/01/25(木)00:01:09 No.480881897
>雪は……うn…… ダークサイド「」の所の雪は他と段違いだからねぇ
55 18/01/25(木)00:01:51 No.480882040
どうぶつの森みたくスナックゴンも写真コンプ目指そう
56 18/01/25(木)00:03:38 No.480882454
試合に負けたチームを励ますために自分でボルシチを作ろう所したんだ… でもカチューシャは火の取り扱いに慣れてないから
57 18/01/25(木)00:06:44 No.480883186
水没と焼死で見事な対比になってますね
58 18/01/25(木)00:08:44 No.480883650
なんで「」はそんなにカッちゃんを殺したがるの…
59 18/01/25(木)00:08:54 No.480883704
生き残ったあんこうチームが行くのは何処だ!その答も出せないままに戦車はエリカの生き血を吸う IV号が見せる最後の鼓動 次回機動戦車Zパンツァー『さよならエリリン』 君は逸見の涙を見る…
60 18/01/25(木)00:10:45 No.480884177
>なんで「」はそんなにカッちゃんを殺したがるの… 年末にダークサイド「」がお出しした物が哀しいインパクトが強すぎた