虹裏img歴史資料館

1 17/12/04(月)22:08:02 No.469869037

「……今回は、あの個性的な戦車では戦いませんのね」 ダージリンはひとしきり挨拶を終えた後、おもむろにそんな口を開く。 戦車道全国大会後のエキシビジョンマッチ、試合前のことである。 「あはは……あの時は、皆さんまだ初心者でしたから、その」 みほは言葉を詰まらせつつ苦笑する。 思い出すのは、まだ戦車を動かして間もない初夏のこと。 発掘したての戦車で臨んだ初めての練習試合、そこに現れた四両の戦車を見てみほは目を丸くした。 昨日までは無骨な漢数字が書かれるばかりの地味な戦車達だったのが、 各チームによって多種多様な個性あるペイントを施されていたのだった。

2 17/12/04(月)22:08:56 No.469869224

かわいさ重視でピンク色に飾ったウサギさんチーム。 バレー部勧誘のメッセージを書いたアヒルさんチーム。 戦国、幕末、ローマ、ＷＷ２のメッセージを盛り込んだカバさんチーム、 とにかく目立つよう金ぴかに塗ったカメさんチーム。 わざわざ目立ってまで自分勝手に、わがままに、好きな塗装を施すその在り方は、 黒森峰と西住流の戦車道に縛られ続けていたみほが、自由な戦車道を目指す大きなきっかけの一つとなった。 それ自体はとても思い出深い出来事ではあるのだが──。 流石に全国優勝を果たした今、またそこまで思い切った冒険をしようとも思えない。 もちろん、その考えは今やすっかり成長した各チームの車長とても同じである。 みほの後ろで羞恥に顔を真っ赤にした梓が、胸を張るエルヴィンが、干し芋をかじる会長がみほの言葉に続くように言った。

3 17/12/04(月)22:09:55 No.469869434

「わ、私達、もうＭ３をピンク色に塗ったりはしませんっ！」 「うむ、歴史の心はこの胸にあればよい」 「まー、勝ちに行くなら金色はなしだよねー。面白かったけどさー」 「……あら、そう？」 ダージリンは紅茶を一口飲み、やはり目を細めて優美に笑うとどこか残念そうに口を開いた。 「私としては、あの塗装した戦車でも一向に構わないのだけれど」 そう言うと、「試合、楽しみにしていますわ」と一言残し副官アッサムを伴って去っていく。 その背が小さくなったのを見届けると、みほの隣に立つ河嶋はフンと鼻を鳴らした。

4 17/12/04(月)22:11:17 No.469869750

「全く、昔のことをネチネチと！　気に食わん！」 「桃ちゃん、それ本人に言いなよ…」 小山の窘めにうっと言葉を詰まらせ、大洗女子学園メンバーは引き続き試合開始に向けて戦車の点検に向かう。 今や、ずらりと並ぶ戦車達に個性を表す派手な塗装は施されていない。 しかしそれぞれの戦車の個性を知り、特性を知り、何より幾度もの戦いをともに乗り越えてきた彼女たちの心には、 もはや塗装など必要ないほどに深い、戦車への愛着が浮かんでいるのだった。

5 17/12/04(月)22:12:47 No.469870102

◆ ダージリンはつかつかと心持ち早足で戻り、空っぽになったカップをかちゃりと鳴らし振り向きもせずに口を開いた。 「アッサム、分かっているわね」 「……ええ」 彼女の言葉に副官は短く答えると、線路が切り替わったようにダージリンと別れて歩いていく。 一人になったダージリンは、そのまま聖グロリアーナの格納庫に向かった。 重い扉を一人でぎぎと開き、間から差し込む光が中を照らす。 整備はすでに終わっており、中には誰の影もない。 埃が舞いきらきらと光る格納庫には、今日の試合で使われる英国戦車達が座っていた。

6 17/12/04(月)22:13:35 No.469870271

中心にはチャーチル。しかしその塗装はいつものダークグリーンではなく、輝かしいまでの汚れなき純白。 縁にはティーカップを思わせる金色のラインが入っており、シンプルながら戦車の武骨さとは正反対の気品を感じさせる。 真ん中には紅茶ポットのエンブレムが書かれており、筆記体で「ダージリン」のスペルが綴られていた。 純白のチャーチルが並ぶ中、右側にはルクリリの乗るマチルダが停められている。 こちらは全身を西洋甲冑のような鮮やかな銀色でペイントされており、車体には西洋槍が雄々しく四本も突き上げられている。 キャタピラは馬に見立てたのか栗毛色に塗っており、戦車でありながらさながら騎兵のような勇ましさを見せていた。 しかし何より目立つのは左端のクルセイダーだ。 車体には甲子園優勝旗のような巨大な旗が付けられ、「聖グロ」の文字がでかでかと刺繍されている。 ボディーには「かっ飛ばしますのよ！」と不思議なお嬢様言葉が流線形の文字で描かれていた。

7 17/12/04(月)22:14:38 No.469870488

他にもバスケットとサンドイッチをイメージしたピクニック戦車、 黒と銀のシンプルかつハードなカラーリングを施したＵＫロック風戦車、 更には本当は海の方が好きなのか、戦車をイギリス戦艦に見立てたものもある。 個性の塊のような戦車達を前にダージリンは右から左へ視線を動かし、 誰も周りにいないことを確認すると、両手を後ろに組み、つまらなそうに地面の小石を蹴っ飛ばした。 「……せっかく塗ったのに」 ダージリンらしからぬ年相応の子どものような事を呟く。 格納庫の前を、アッサム指揮のもと通常塗装のチャーチルやマチルダがせわしなく走り抜けていった。 いずれペイント戦車杯でも開催してやろうかしら、とけったいな計画を考えながら、格納庫を何食わぬ顔で出る。 ダージリンは歩きながら、唐突な車両の変更に戸惑っているであろう隊員達にどう言い訳したものかと考え始めていた。

8 17/12/04(月)22:16:23 No.469870860

ドラマＣＤ見てたら思いついたぞ てきすと！ su2133798.txt

9 17/12/04(月)22:18:31 No.469871371

きたのか！ お祭りなら派手に飾った試合があってもいいよね

10 17/12/04(月)22:20:40 No.469871855

お祭り塗装いいよね… 誰か唐草模様で塗らないかしら

11 17/12/04(月)22:22:58 No.469872410

>誰か唐草模様で塗らないかしら 真っ先に継続が思い浮かんだ…

12 17/12/04(月)22:25:26 No.469873048

その幟旗には「優雅」「伝統」「動きながら撃つ」「ニシン」の文字

13 17/12/04(月)22:32:41 No.469874771

ダー様ならやりかねないのがとても良かったぞスレ「」

14 17/12/04(月)22:34:44 No.469875235

無理を通してやっつけてみたい欲はT28で満たされたから 今度は好きな塗装したい欲が出てきたんだな…