17/11/02(木)23:55:12 天気の... のスレッド詳細
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17/11/02(木)23:55:12 No.463193927
天気の絵描きたちはその名に違わず、空に天気を描くのが仕事だ。 それぞれがそれぞれの担当を持ち、僕は曇天。 とは言え雲全般を任されており、雨にも雪にも青天にも呼び出されるのが実情だったりもする。 今日の仕事はある山に描く笠雲。 何やら神聖な霊峰らしく、そういう仕事は大体緊張と責任感の裏返った恐怖に押しつぶされそうになる。 「スレット、貴方なら出来ますよ」 虹天使はいつも簡単そうにそんなことを言う。 天気の天使はそれぞれの天候を担当している。 一つの天気が一つの色。七つの天気は七つの色、一つの虹。 そしてその七色を統括するのが虹天使、僕らの長。 「はい、アルシエル様。頑張ります」 一つにして七つの彼女。七つにして一つの彼女。 虹天気アルシエルはいつも僕に優しく微笑んで、背を押してくれる。そんな言葉を掛けられたのなら、前に進むしかないだろう。 アルシエル様の見たい空が僕の見たい空だから。 空は澄み渡り青く、まばらに浮かべた雲の白色に一層爽やかな印象を受けた。地平線を隠す遠くの山々の一つ、森羅の霊峰。
1 17/11/02(木)23:56:01 No.463194136
「ナルサス、霊峰の周りだけ曇っています。これは一体全体どうしたのでしょう」 「笠雲です。遠くから見ると綺麗なんですが……霊峰に笠がかかってもあまりありがたみがないですね」 分からないことが多いのは少しもどかしいです。 私、森羅の姫芽宮はこの霊峰で一番の年下です。 ええ、知らないことも沢山あるのです、恥ずかしながら。 草木の掠れた声の一つ一つに、咲いた花の一つ一つに、空覆う大樹の一つ一つに、役目と意味があることを知らないのです。 大きく長い生命の輪廻、生まれた新芽がやがて枯れて次に命を育むまでのサイクル。 姫として相応しくなるべく山と心を通わせるのも努め。しかし、とはいえこれが中々難しいものでして。 草や種が地を覆うように、木々は空を覆います。そしてそれと同じように、雲が空を覆いました。 地を這う虫には今日の空の色は見えているのでしょうか。 私の知る山の全景よりも大きな空の全景を見る人からすると、今日の霊峰はどのように映るのでしょうか。 「姫?」 ああ、もう。この花卉士はいつも私の考えを乱します。困ったことです、良くないことです。 「何ですか、ナルサス。今考え事をしていたのです」
2 17/11/02(木)23:57:00 No.463194388
二重、三重に笠被る山。影はより濃く山に落ち、霊峰の深き生命の色は強く映る。 「お見事ですね、スレット」 声の主は虹天使。いつもこっそりと僕の仕事を見ていてくれる空の架け橋。 「ありがとうございます、緊張しましたが」 「おや、あの木」 アルシエル様の指差す先には真っ赤な大樹。秋色の山の中でそれは一際鮮やかだ。 「少し、降りてみましょうか」 彼女は好奇心が強い。様々なものを見て、自らの色にする。彼女の虹はそうして鮮やかになっていく。 それに振り回されるのが嫌かというと、そうではないのだけれど。美しき人がそうなるのを隣で見ることが出来るのだから。 「ええ、そうですね」 あなたのパレットの一色に、カンバスに乗った一色に僕がいるだけで幸せなのです。 ふわりと風に乗り、季節に似合わぬ生命力の満ちた空気を吸う。 「おや、御客人ですかな。これは珍しい」 大樹はその太い幹を震わせて口を開いた。そこが口であるならば。 「失礼致しました、私は」
3 17/11/02(木)23:57:47 No.463194572
真っ赤な花弁が紅葉と共に風に揺れた。 それらのいくつかが散って、僕らの前を切った。アルシエル様のパレットに色が増える。 「私たちは、天候を司る者です。私は虹のアルシエル。こちらは雲のスレットです」 ぺこりと頭を下げた彼女に倣い、考える。 成程、霊峰には木々の精霊がいるのだろうか。それとも意志持つ巨木か。 「ようこそ、天気の天使様。私はレギア。せっかくこの霊峰に来たのですから、少し見て回るとよいでしょう……ブレイド、お二人の案内をしなさい」 大樹の呼び声に、幹の裏から男の返事。葉を合わせたような着物と編み笠の下の顔から判断するに、彼は人のようだ。 何かを言おうとして口を開き、思い直したように閉じた。 異質な日だ。僕らが下の世界の人々と交わることは滅多にない。僕たちは天上の住人で、地上の者とは一切が異なる。 異なる二つが交わる時に起こる物事というのは往々にして変化で、それは常に良い方向だけには左様しない。 現状で足りているのなら、求める必要もない。それを求めるのは必要な者だけ。 僕らは百年前の空でも百年後の空でも、変わらず空に描くだけの存在だ。 「スレット、行きますよ」
4 17/11/02(木)23:58:03 No.463194624
虹の天使は楽しそうに笑った。あらゆる面において彼女は異質な存在だ。 七色の天使であること。彼女が僕らに色を与えたことも、強い好奇心とともに自らの色を増やしていくことも。
5 17/11/02(木)23:58:47 No.463194801
ナルサスは私よりずっと年上です。見かけは余り変わらないのですが、どうにもこれは不公平に感じます。 山の下の人々は「年の差」というものを重視するそうですが、私たちにとってもそうなのでしょうか。 とびきり年上のレギア。その次にシャーマン。後の者の年齢の順番は知りません。ああ、そういえば、オレイアとアルセイに至ってはいつから存在するのかも。 「姫、覚えていますか。貴方が芽を出した時のことを」 ナルサス、私の花卉士。 霊峰は私の父であり母。森羅の者は皆兄弟姉妹だと誰もが口を揃えて言いますが、私にはそれが分かりません。私は皆の世話になってばかりなのですから。 小川のせせらぎが耳をくすぐります。 ええ、覚えていませんよ。 「貴方は望まれて生まれてきました。愛されて生まれてきました」 「随分と軽々しく」 ナルサス、私の花卉士。 貴方は何度も過去を掘り返します。ですが私はここにいるのです。そしてもう、神芽のスプラウトではありません。 「愛するなどと言うのですね」 花卉士は足を止めました。まるで考え込むように。 しかし口を開いたのは一瞬で、初めから答えが分かっているようでもありました。
6 17/11/02(木)23:59:11 No.463194910
「さ、失礼いたしました。ご覧ください、姫」 せせらぎの音源は小さな、生まれたばかりの新芽のように弱弱しい始点でした。 それは産声のような音を岩に上げ、けれど遠くまで小さな糸を紡いでいました。 「この川が、他の支流と繋がって、滝に、それから山の麓まで繋がっているんです。僕たち森羅の精霊と同じように」 そういうと、彼はそっと兜を脱ぎました。 それから岩の一つに腰掛けて、私を手招きして――もう。 ナルサス。貴方の隣に居るということは、貴方と同じ景色を見ることですもの。 「ここは、リーフの生まれた小川。もう少し下流でロータス。ちなみに、僕もこの近くで生まれたんです」 同じ景色を見て、だけどきっと見える色は違うのでしょう。 私より古い貴方は、私の知らない景色を知っているのでしょう。 それは小さなものが大きな世界を完全には把握できないように、過去というのは不可侵なのでしょう。
7 17/11/02(木)23:59:54 No.463195077
「それからこの小川が……」 ブレイドさんは随分と歩くのが早い。流石にこの山に住んではいるだけある。 彼に追いつくために、僕もアルシエル様もこっそりと空を飛ぶ必要があった。 「姫芽宮様!」 ブレイドさんが頭を下げた。それに倣おうかと思案している内に、その対象が顔を覗かせる。 「あら、そちらの方は?」 姫芽宮。若草色の髪の美しい彼女は季節外れの咲桜の枝を握っている。 その隣で甲冑に身を包んだ若者がそっと構えた。 「天候を司る天使様です。名は――」 「アルシエルとスレットです。今日はこの山の上に雲を掛けたのですが、あんまり美しい山でしたので、つい」 そう、つい。空に生きる僕らはそこに生きる人々と同じ視点で見たくなってしまった。 遠くから見て美しいものが、近くでも果たしてそうなのか。気になってしまう。 きっとアルシエル様のパレットに残るのはそうして確かめて得た色なのだろう。 「そうなのですね。少し、お伺いしてもよろしいでしょうか?」 霊峰の姫は目を輝かせた。その色はアルシエル様のパレットに乗るだろうか。
8 17/11/03(金)00:00:13 No.463195155
「私は生まれてこの方、この山から出た事がありません。勿論、霊峰が素晴らしき地であるのは姫である私も理解しています。ですが……ですが、天使様から見てもやはりこの山は美しいのでしょうか?雲のかかるこの山も、美しいのでしょうか?」 彼女は、アルシエル様と少し似ているな。 そう思った矢先、アルシエル様が口を開いた。 閉ざされた瞼の裏でその瞳は彼女をしっかりと見つめているような気がした。 小川を挟んで、二人の高貴な女性が見つめ合う。 「ええ、とても。翼があるのなら、きっと見て下さい。特に今日は、スレット特製の雲もありますから」 「翼、ですか。生憎ですが、そのようなものは……」 「ありますよ、姫」
9 17/11/03(金)00:01:05 No.463195393
ナルサスは、兜を脱いだまま剣を握った彼は、初めからそれを知っているようです。ええ、でも、彼の言う通りなので仕方ないですが。 「オレイア様!」 「スプラウト、私を呼んでくれるのを待っていたのですよ」 「……別に、忘れていたわけではありません」 ただちょっと、ナルサスと一緒にいる時間をもう少し……って違います、そういうのでもありません。 オレイアの背に乗り、二人の天使とともに大空へ。 風を切り、高く高く、霊峰の土が、川が、木々が遠くなり、そして。 森羅の霊峰。その頂点を隠すような三重の雲はブレイドの被りもののように曲線を描いています。 「ナルサス」 「はい」 「見えますか」 「勿論です」 木々の中に強く浮かんだ赤はレギアでしょうか。 秋色に染まった森の中でなお一層、眩しいものでした。それから、少し離れて背の高いのはきっとシャーマンでしょう。木々の隙間から覗くのはきっと滝。 ああ、私の生まれた場所は。
10 17/11/03(金)00:01:37 No.463195502
「さて、そろそろ私たちは失礼しましょうか。余り長くいると、ここにずっと居たくなります」 アルシエル様は言った。彼女の瞼の裏には何色の景色が。 その閉ざされた瞳の奥に描かれたそれは僕と、あの霊峰の人々の見たものと同じなのだろうか。 同じものを見るというのは幸せなことだ。 虹天使様と、他の天気の皆と同じ景色を見ること。下界の人々と同じ景色を見ること。 僕らが描いた天気が、それが染め上げた世界が、こんなにも美しいこと。それを共感できること。 それらの全てに、幸福という名をつけよう。 「スレット、別れの挨拶です。脱ぎなさい」 「し、しかしアルシエル様……」 「何も今生の別れではありません。私たちは天気模様を残して次の空へ行く。そうしてまたいつか、この空に戻る。そうでしょう?私たちは出会いたい人に出会うことができます。素晴らしいことですとも」 アルシエル様、僕のしかしは異なるものに向けたものです。 けれど。 言われるがままに服を脱ぐと僕は真夏の積乱雲のように白い肌を晒すことになった。 赤面する僕とは対照にアルシエル様は退屈そうであった。
11 17/11/03(金)00:02:04 No.463195602
「スレット、貴方の服はまだ除外されただけ。天気模様はそこから効果を使うのではないのですか?」 「えっと……僕の魔霧雨から魔降雷!蝕みの鱗粉(2017年11月11日発売予定のデュエリストパック-レジェンドデュエリスト編2に収録)をまき散らし……ではなく吹き飛ばします!さらに曇りの天気模様の効果でアルシエル様にダイレクトアタック!」 「スレット、私の効果発動。あなたを除外して魔霧雨を無効にして破壊します」 「ちょっアルシエル様置いてかないで下さい……」
12 17/11/03(金)00:03:00 No.463195843
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13 17/11/03(金)00:03:28 No.463195953
「……お二人とも行っちゃいましたね」 「ええ」 ナルサス、私は恵まれているのですね。 生まれたい場所に生まれ、出会えてよかったと思える者と出会え、そして。 「愛されたいと思った者に愛される」 「姫?」 「ナルサス、そろそろ戻りましょうか。脱ぎなさい」 「し、しかし姫……」 「勿論、またオレイアの背に乗りましょう。私はこの景色が大層気に入りましたし、皆にも見て欲しいですから。ありがとう、ナルサス」 ナルサス、あなたのしかしが指しているものなどお見通しです。 私はあなたの、皆の、この山の姫芽宮なのですから。
14 17/11/03(金)00:03:50 No.463196022
言われるがままに甲冑を捨て肌着を脱ぎ、彼は生まれたままの新芽のように体を晒します。 ですが、赤面する彼と対照に私は退屈です。 「ナルサス、貴方はまだめくられただけ、森羅の者はそこから効果を使うのではないのですか?」 「えっと……現れろ、ソリティア導くサーキット!僕のタートルヘッドが姫を確認!僕と姫をセット!リンク召喚、現れろ、リンク2!アロマセラフィ-ジャスミン(2017年11月25日発売予定のLINK VRAINS PACK収録)!」 「ナルサス、森羅の滝滑りの効果を発動します。スレットさんの直接攻撃宣言時にデッキの一番上を確認し……あなたです。滝滑りをしなさい」 「ちょっ姫ここ空中なんですけどおああああああああ」
15 17/11/03(金)00:05:00 No.463196306
そういえば、先程ナルサスが言いかけたのはなんだったのでしょうか。 気になってこのままでは夜も8時間ぐっすり眠れるか怪しいです。 「お帰りなさい、姫芽宮様」 「レギア、ただいま戻りました。空から見ても、貴方は立派ですね」 「ありがたき御言葉。……私の花は、貴方が生まれた時に咲いたもの。これから姫となる方が、霊峰で一番目立つ私の花を忘れないように。私たちがあなたの帰る場所となるように。ちょうど、私の枝の下……あの客人が降りた場所であり、姫が今立っている場所ですな」 「そう、なのですね」 あの時、ナルサスが言おうとしたこと、少しだけ分かった気がします。 霊峰の外から最もよく見える樹の下で、霊峰の誰もが集まる場所。 空にかかる雲は徐々に晴れて、その先には青空が果てしないように続いていました。
16 17/11/03(金)00:07:33 [終わり] No.463196902
スレットは脱ぎキャラじゃないです 今回のお話にも出てきましたが2017年11月11日にはデュエリストパック-レジェンドデュエリスト編2が発売!2017年11月25日にはLINK VRAINS PACKが発売します! 販促したから許してください!
17 17/11/03(金)00:08:04 No.463197014
姫が珍しくしおらしいと思ったらアルシエル様が暴れだすし結局いつもの姫だった
18 17/11/03(金)00:09:49 No.463197446
>スレットは脱ぎキャラじゃないです 嘘を付け!
19 17/11/03(金)00:13:16 No.463198314
滝滑りしたナルサスはどこへ…
20 17/11/03(金)00:14:29 No.463198593
どうでもいいけど滝滑りの効果をちゃんと使ってるの初めて見た気がする
21 17/11/03(金)00:16:04 No.463198976
>滝滑りしたナルサスはどこへ… 墓地かな…
22 17/11/03(金)00:21:34 No.463200184
ひどいクロスオーバーだ
23 17/11/03(金)00:27:49 No.463201784
大長編だわ…
24 17/11/03(金)00:33:45 No.463203156
こんな酷い新商品の宣伝初めて見た
25 17/11/03(金)00:40:03 No.463204604
二人も脱がされてるの初めて見た
26 17/11/03(金)00:40:13 No.463204642
ひどいクロスオーバーでダメだった
27 17/11/03(金)00:45:18 No.463205741
どことなくいい話だった気がするのが酷い
28 17/11/03(金)00:49:10 No.463206549
レス番が変わった時に2~3行でどっちサイドのやりとりかが分かるようになってて熟練の技を感じる
29 17/11/03(金)00:51:32 No.463207120
凄く久々にみた気がする