17/10/03(火)22:53:16 はいふ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1507038796242.jpg 17/10/03(火)22:53:16 No.457099580
はいふりSS 真冬誕 遅刻にゃあ…
1 17/10/03(火)22:53:37 No.457099659
「くぅーっ! やっぱり温泉にはこれだよな!」 湯気のたつ夜空の下に、そんな声が響き渡る。 他に入っているのが私だけだからいいものの、酔っ払い丸出しのそんな姉の態度に、思わず私は顔をしかめてしまった。 「ほどほどにしときなよ? 姉さん酒癖悪いんだから」 「ははは、こんな日くらい固いこと言うなよー」 酒気を帯びた笑い声と共に、真冬姉さんが再びお猪口を傾ける。 だめだ、まるで話にならない。 「まったく……母さんも真霜さんもいないからって羽目外しすぎだよ」 「心配すんなって。ちゃんと節度は保って飲んでるからよ」 そう言ってまた新しくお酒を注ぐ姉さん。まるで説得力がない……。 「ほんとかな……」 「っとにシロは心配性だよなー」 「姉さんが大雑把すぎるんでしょ」 ……まったく、だから私は嫌だったのだ。
2 17/10/03(火)22:54:00 No.457099765
あれ…もうそんな季節だっけ…
3 17/10/03(火)22:54:18 No.457099851
ストッパーになれる母さんや真霜姉さんがいない状態で、真冬姉さんと温泉に行くだなんて。 ……でも、今日に限っては多少のことには目をつむるとしよう。 なにしろ、今日10月2日は真冬姉さんの誕生日。母も真霜姉さんも仕事で不在の今、祝ってあげられるのは私しかいないのだ。 それに、真冬姉さんだってブルーマーメイドとして多忙な日々を送る中で取れた、貴重な休暇なのだ。 ならば、出来る限りやりたいことをさせるのが家族としての努めだと私は考えている。 しかし── 「あれ? なんだもう空になっちまったのか……もう一本頼むかな」 「姉さん、だから飲み過ぎだってば」 「平気だろ、まだ二本空けただけだぜ? むしろこれからが本番だって。 すいませーん! お銚子もう一本!」 「ああ、もう!」 ざぶざぶと湯船から上がった真冬姉さんが、備え付けのインターホンに酔いの回った声で注文する。 本当に、さっきからずっとこの調子だ。酒には強い方だとは聞いてはいるけれど、いくらなんでも飲み過ぎではないか。
4 17/10/03(火)22:57:44 No.457100818
「ああそうだ、シロもジュースかなんか頼むか?」 「いらないわよ!」 はいはい、という姉さんのなげやりな声を背中で聞きながら、私は口許まで湯船に浸かる。 本当に、ずっとこんな調子なんだから。 「なんだよシロ、さっきからずっとピリピリして。腹でも痛いのか?」 「そんなんじゃないっ」 私の隣までやってきた姉さんが、からかうような声音で聞いてくる。 同時にかかる酒臭い吐息で、私まで酔ってしまいそうだった。 「まあまあ、こんな日くらいもうちょい素直になれよ。せっかくこうやって二人で話もできるんだしさ」 「誰のせいだと思ってるのよ……」 「はははっ。さーて、誰かな」 「はあ……」 もうため息しかでない。 「で、どうだ学校は」 「別に、普通だよ。もうすぐ文化祭があるから、ちょっとだけ忙しいけど」
5 17/10/03(火)22:59:22 No.457101266
「ああ、そういやもうそんな時期か。シロのクラスは何やるんだ?」 「劇。かぐや姫だったかな」 「かぐや姫ねえ。誰が姫役なんだ?」 「今選考中。脚本担当の子が色々考えてるみたい」 「へえ、結構本格的になんだな」 「どうかな……」 ちなみに、脚本担当は納沙さんと青木さんだ。 私としてはろくなことにならない予感しかしないので断固として反対したかったのだけれど、他に立候補がいなかったためになし崩しで決まってしまった。 なので今は、せめて平穏無事に終わるように祈るしかない。 「クラスの子達とはどうなんだ?」 「どうって?」 「仲良くなれたのか?」 「……まあ、普通だよ」 「ふうん……」 「なに?」
6 17/10/03(火)22:59:52 No.457101391
「いや、お前のところって艦長を筆頭に緩そうなクラスだからよ、変にクソ真面目なシロが浮いてねえか心配だったんだ」 「緩すぎるから私が引き締めなきゃいけないのよ!」 思わず、湯船から立ち上がってしまう。 大袈裟かもしれないが、そこだけは主張しておきたかった。 「おいおい、興奮すんなよ。どうどう」 「……」 「まあその気構えはいいけどよ、気負いすぎるのも問題だぜ? 一から百まで緩いのはダメだけど、お前らのクラスはやるときゃやる奴等ばっかりだってもう分かってるじゃねえか」 「それは、そうだけど……」 確かに、真冬姉さんの言うとおりではある。 春の騒動に、クラスが解散の危機に陥ったときの団結力は誇るべきものだと私だってわかっている。 けれど、それはそれ、これはこれ。 やっぱりうちのクラスは規律が緩すぎると思えてならないのだ。 「人には皆向き不向きってのがある。無理に今の空気をねじ曲げちまって、不和の原因なんかになっちまったらそれこそ問題だ」 「……」
7 17/10/03(火)23:00:31 No.457101572
確かに、姉さんの言うとおりではある。 確かにクラスの規律は緩いし、見ていて危なっかしいと思うくらいではあるけれど、無闇やたらにそれを直そうとして空気が悪くなってしまってはなんの意味もない。 そのことだって、春先の騒動で私も少しは学んだつもりだ。 だからその言葉はよく分かる、のだけれど。 「それに、緩いってことは親しみやすい空気が出来ているとも言える。そういう空気だと、海難救助のときなんかに遭難者も安心させられやすいからな。もちろん、しっかりとやるべきことをこなしているってのは大前提だけどよ」 「……」 「ま、何事も利点はあるってことだ。……とはいえ、お前みたいにクソ真面目なのもクラスにはやっぱりいなきゃならねえとは思う」 「え?」 「いくらやるときはやるって言っても、引き締められるやつがいないと必要なときに全力を出せないからな。さっきも言ったけど、気負いすぎないように頑張ればいいんだよ」
8 17/10/03(火)23:01:07 No.457101715
顔は酔いで真っ赤なままではあったけれど、その声音は真剣なものだった。 「ま、お前なりに頑張れってことだ」 「姉さん……」 そんな激励の言葉に、思わず胸が熱くなってしまう。 やっぱり、真冬姉さんも私の尊敬する姉の一人だ……! 「と、言うわけでだな」 「……へ?」 と、真冬姉さんがおもむろに立ち上がる。 もう上がるのだろうか。 「そんなかわいい妹のこれからを応援して、私が根性を注入して──」 「バカーッ!」 思わず、私は飛び上がるようにして湯船から上がる。 いくら二人きりとはいえ、あんなことをされてたまるものか……! 「恥ずかしがるなよ! 他に誰もいねえんだから!」 「そういうもんだい、じゃ……あれ?」
9 17/10/03(火)23:01:40 No.457101855
追ってくる姉さんから逃げようとして、足がふらつく。力がまるで入らない。 慌ててバランスを取ろうにも体が思うように動かず、視界がぐらぐらと揺れ始めた。 ま、まさか私、のぼせ──!? 「お、おいシロ!?」 姉さんの声が遠くに聞こえる。ぐらりとひときわ大きく視界が揺れて、露天の星空がいっぱいに映し出されて── そうして、私の世界は暗転した。 「──はっ」 目が覚めると、板張りの天井が視界に入ってきた。 ついで、背中から伝わる固い感触。どうやら、脱衣所のベンチに寝かされていたらしい。 「おう、起きたかシロ」
10 17/10/03(火)23:02:08 No.457101972
「姉さん? 私……」 「まったく、人の心配する前に自分の面倒ちゃんと見ろよな」 「うっ……」 水の入ったペットボトルを投げ渡される。言い返す言葉もなかった。 あれほどお酒を飲んで赤くなっていたというのに、姉さんはそれをまるで感じさせないほどにしゃきっとしていた。 「こういう抜けてるところが多いうちは、シロもまだまだだな」 「くうっ……」 服を着ながら、悔しさに歯噛みしてしまう。 ちゃらんぽらんな姉の面倒を見るつもりでいたというのに、すっかり立場が逆転しまっていた。 「さて、シロも着替え終わったことだし帰るか」 「……」 「大丈夫か? おぶってかえってやってもいいぞ?」 「しなくていい!」
11 17/10/03(火)23:02:32 No.457102073
からかい気味に言ってくる姉を放置して、私は荷物を手に脱衣所を出る。 「ははは、ムキになってら。まだまだシロはお子さまだなー」 「うるさい!」 そんな態度までからかわれて、私はますます足を早めて姉さんの先を歩いた。 やっぱり、真冬姉さんなんて大嫌いだ。 けれど同時に、昔と変わらないままの姉さんに何故だか安堵を覚えて。 「おいシロー、飯はどうするー?」 「なんでもいい!」 渡しそびれたプレゼントをいつ押し付けるかを考えながら、私は姉さんからもらった水を一気に飲み干した。
12 17/10/03(火)23:03:27 No.457102295
おわり テキスト版 su2049388.txt
13 17/10/03(火)23:09:01 No.457103663
にゃあああ…
14 17/10/03(火)23:09:44 No.457103847
姉さんの前だと本来の口調になっちゃうシロちゃんはやはりいい…
15 17/10/03(火)23:22:17 No.457106688
なぜそこで姉妹レズに発展しないのですか真冬…母さんは失望したわ…
16 17/10/03(火)23:49:12 No.457113427
お酒注文しておいて尻揉みに行くのはさすが真冬姉さんにゃあ…見られなくてよかったにゃあ…