ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
17/07/23(日)00:53:50 No.441469006
SSですので苦手な方はご注意ください 前後編の予定なので今回お出しする話は途中までです
1 17/07/23(日)00:54:25 [1/10] No.441469167
朝、目が覚めた私はベッドから抜け出してペパロニさんを起こさない様に身支度をする。 寝癖が残っていないか鏡で確認をして、蹴り落とされている薄手の掛け布団をペパロニさんに掛け直してから自室を出る。 いつもは賑やかなこの寮の中で自分の足音だけが反響するこの時間は、独り占めしている様な気がしてなんだかワクワクしてしまう。 とくにこの季節は早朝でも明るいので、明るい時間なのに静かな事がなんだかおかしく感じて口元に笑みが出る。 しかし、今の時間は涼しいからいいものの梅雨が明けた今だと日中の蒸し具合が気になってしまう。 「出来る限り暑くならなければいいなぁ」などと思いながら窓の外に目を向けると、大きな入道雲がそびえ立っていた。 このまま晴れるのか、それとも雲に覆われるのか。そんな事を考えながら歩くとすぐにドゥーチェの私室の前に到着した。 私は入室前に忘れ物が無いかをチェックし、コンコンとノックをする。 「入ってくれ」 その声を聞いた私は扉を開き、室内に声をかける。 「本日もお手伝いに来ました」 そう伝えると、髪を下ろしているドゥーチェへと足を進める。
2 17/07/23(日)00:54:47 [2/10] No.441469264
「毎日すまないな。早起きも大変だろう」 いつもと同じくドゥーチェがそう労ってくれる。 「私から言い出した事じゃないですか。気にしなくてもいいんですよ」 「とはいえ苦労をかけていることに変わりはないからな」 すっかり挨拶代わりになったいつも通りの会話を済ませ、私は手漉きで髪をほぐしながら話題を変える。 「そういえば、さっき外を見ていたら大きな入道雲が出てましたよ」 「そうか。もうすっかり夏なんだなぁ。練習メニューの見直しだ。休憩の時間を短くして回数を増やす。それで給水と栄養補給をしっかりさせておこう」 「わかりました。ペパロニさんにも伝えておきますね」 「食堂にもお願いをしてレモンの蜂蜜漬けなんかも用意してもらおう。体調が悪くなってからでは遅いからな。 …それにしても蒸してくる時期になると癖の強い髪はつらい。バッサリと短くするのも…」 「それは駄目です」 「…被せて言うか。まあ、短くするのは弟にも止められてしまうからやめておこう」 「弟さんも反対なんですか?」 「顔立ちが似てるからな」 「それだと弟さんの年頃なら恥ずかしがっちゃうのかもしれませんね」
3 17/07/23(日)00:55:11 [3/10] No.441469360
「はい、終わりました。今日は暑くなりそうなのでテールの距離を離しておきましたよ」 「ありがとう。暑さもつらいが履帯が汚れる方が嫌だから晴れてくれるといいんだがな」 「大きな入道雲がありましたから急な雨はあるかもしれませんね」 「雨かぁ、そういえばちょうどこんな時期じゃなかったか?」 「何がですか?」 「カルパッチョが私の髪をいじり始めた時期だよ」 私は少し首を傾けて考え込む。 そして思い出す事が出来た事で「ああ!あの雨の日!」と声を出してしまう。 「いきなり大声を出すな!びっくりするだろう、まったく」 「すみません、思い出せたのが嬉しかったもので」 「お前の事だから常に覚えてるものだと思ったんだが…まあいいか」 ドゥーチェが少し間を置いてから話を続ける。 「もう一年にもなるんだな」 「そうですね。あっという間です」 二人で窓の外の入道雲を見て、それからは特に何を言うでもなく一礼して部屋を後にした。
4 17/07/23(日)00:55:45 [4/10] No.441469502
私は自室に戻らず、徐々に明るさを増していく校庭からさらに学園の外へと足を運ぶ。 練習までの空いた時間で先程の話を思い返したいと思ったのだ。 そうだ、この林の中を切り開いた練習場。あの頃は毎日ここでCV-33の操縦訓練をしていたんだ。 さらに記憶が鮮明になってきた私は嬉しくなり、時計を確認してから奥へ奥へと進む。 一年前の春はアンチョビさんの髪型も結んだだけのポニーテールで、ドゥーチェの役職には私より二学年上の先代が就いていた。 私とペパロニさんが経験者だったこともあってか、先代は教育係をアンチョビさんに任せっきりでCV-33に燃料を入れては遠出をして遊んでばかり居た。 他の先輩方も遊んだり出店で働いたりしていたので、アンチョビさんが一人で考えてくださっていたのを覚えている。 私たちはそれぞれ一輌のCV-33を与えられ、林の中に出来た細い獣道の様な練習コースを走っていた。 アンチョビさんは「自分が走った所に新しく道が出来るまでやれ」と口では言っていたものの運転に疲れが見えたらすぐに休憩を挟んでくれた。
5 17/07/23(日)00:56:07 [5/10] No.441469586
ペパロニさんは小さい車体にすぐに慣れ、飛び出しているブロックを使って片輪走行まがいのことまでやってのけた。 私は昔から中戦車に乗っていた事もあり、車体の軽さが逆に怖くておっかなびっくりの走行になってしまう。 アンチョビさんはそんな私の課題点を洗い出し、対策としてどう運転をすればいいのか実演も交えて教えてくれた。 「よし、じゃあお前の目標はペパロニだ。同期とはいえ競いあえ」 「目標ですか?どうすればいいんでしょう」 「そうだな。ペパロニがさっきやった数mの片輪…片履帯走行?まあいいや。あれを目標にしてみようか。この軽い車体に慣れていこう」 「わかりました。とりあえず車体がひっくり返らない様に速度を落としながらやってみます」 「はいはい!」と元気に手を挙げながらペパロニさんが主張をする。 「アンチョビ姐さん!私はどうしたらいいっスか?」 「ペパロニは指示通り動く練習だ。それと落ち着いて指示を聞く練習もだ」 「やだなぁいつもちゃんと聞いてるじゃないっスか。まあいいや、了解っス!」 「期間が決まっていないと集中力も持続しないだろう。二週間後に二人ともテストをするからな」 「「わかりました!」」
6 17/07/23(日)00:57:02 [6/10] No.441469869
翌日からは交代で私とペパロニさんに教えてくれることになり、もう一人は自学習すると決まった。 初日、アンチョビさんはじゃんけんで勝ったペパロニさんについていた。 通信機に耳を傾けると、ペパロニさんの声が響く。 指示に対する返事のタイミングが早くなっていき、ついにはアンチョビさんが話し始める前に返事をして叱られていた。 私は一人練習する寂しさを紛らわせようと、通信機を繋ぎ二人の喧騒を聞きながら運転を続ける。 「次の太い木を越えたら速度を極力落とさないで左折」 口に出して確認をしながら履帯を回す。 車体の小ささを覚えようと木々の間をくぐり抜けたりはするものの、履帯の跡を確認しないと距離感がわからない。 一つアイデアが浮かんだ私は一度戦車を降り、太めの木の枝を拾い集める。 集めた枝を木の近くに重ね、踏んで車体が傾くタイミングで視界と実際の幅のズレを把握しようと思ったのだ。 車体に戻り視界の左側に枝が見える事を確認し、エンジンをかけなおす。 明日の練習では成長を見せてびっくりさせてたい。そんな期待感を込めて前進を始めた。 びっくりではなく、褒めてもらいたいのが本音なのだけれど。
7 17/07/23(日)00:58:10 [7/9] No.441470162
翌日、私は練習前に自主練習で行った練習方法の報告をする。 「なるほど、それで車体の大きさは掴めたか?」 「自信はまだあまりないですが、それでも以前よりは掴めていると思います」 「よし、じゃあとりあえず走ろうか」 「はい」と返事をして、軽戦車が並ぶ格納庫へと向かう。 CV-33に乗り込んだ私は、アンチョビさんに連れられる様に林へと走り出す。 『通信テスト。通じてるか?…よし、大丈夫だな。まず10分間は好きに走る慣らし運転をしてくれ。転んでも見てないから大丈夫だ』 通信機越しにアンチョビさんの声が聞こえ、それに返事をした私は枝無しでの車幅把握が出来ているかを確認する。 大丈夫だとは思う。しかし不安になった私は一度停車し、地面に残った履帯の跡を確認する。 よし、目測で20cmほどのはず。これなら合格をもらえるだろう。 『そろそろ時間だ。始めるぞ』 その声を聞いた私は気持ちを引き締め、私はアンチョビさんのもとへと戻る。 『では今日はドライブだ。このまま学校から外出するぞ。のんびり走ろう』 練習の時間のはずでは?私は聞き間違いでないか確認をして、呆気に取られたまま「はぁ」と生返事をしてしまった。
8 17/07/23(日)00:58:32 [8/9] No.441470255
一般道を走りながら、私はアンチョビさんの通信を聞き逃さない様に注意を払う。 『よーし、もう少しセンターラインに寄ってみようか。下り坂だから速度を落とすぞ。その動きに合わせて車間距離もキープしてみよう』 アンチョビさんが周囲に車が居ない事を確認しながら私に指示を飛ばす。 私は「はい」と答えながら車線内の小さい動きながら常に変化する状況に対応するべくアクセルを緩める。 『よし、上出来だ。この先にコンビニがあるからそこで休憩しよう』 「えっ、私はまだ大丈夫ですが…」 『集中してると意外と疲れるんだ。まだ初日だし気負いすぎるな』 「わかりました」 『減速の仕方を見るにきっと今も肩に力が入っているんだろう。疲れるし急な動きに対応出来なくなるぞ。肩を動かしてリラックスしておけ』 言われた通りに私は右手を離して肩を回し、持ち直してから左手も同じ様に回す。 「はい、これからも意識していきます」 『素直でよろしい。そんな君にご褒美だ。…っと、その前に駐車場でも綺麗に停める練習って事にしておこうか』
9 17/07/23(日)00:58:50 [9/9] No.441470330
赤い看板のコンビニの駐車場にCV-33を並べて駐車し、私はペットボトルを受け取る。 「すみませんアンチョビさん。財布を持って来なかったもので」 「ああ、いいんだ。これはドゥーチェに渡されたお小遣いだからな」 「先輩たちも遊んでるだけじゃないんですね」 「いや遊んでばかりなのはそうだが…まあ、そうだな。ああ見えて私達の事もしっかり見てくれているぞ」 「そうだったんですね。見捨てられたのかと思ってました」 ふむ、とひとつ頷いてアンチョビさんは一計を案じる。 「そう思われていると知ったら見るだけじゃなく手伝ってくれるかもしれないな。伝えておこう」 「いいんですか?」 「ちょっとは隊長らしいことをしてもらわないと駄目だろう。よし、ゴミを捨てたら練習再開だ」 そう言うと太く長いポニーテールを揺らしながらジュースを勢いよく飲んでいく。 私も急いで飲もうとしたものの、「自分のペースでいいよ」と制された私は飲むペースを落とす。 それでも待たせるのは悪いので今度からは小さいペットボトルにしておこう。 そんな事を考えながらコクコクと喉を潤していった。
10 17/07/23(日)01:05:26 No.441472195
ドゥーチェはドゥーチェじゃなかったころか いい…
11 17/07/23(日)01:07:02 No.441472654
久しぶりに見た 前編だからなんとも言えないけどいつも通りいい雰囲気だ
12 17/07/23(日)01:10:58 No.441473931
いい... このパッチョさんドゥーチェ大好きなの伝わってきて好き...
13 17/07/23(日)01:12:43 No.441474619
ほんわかする
14 17/07/23(日)01:13:25 No.441474820
最初からあのスタイルでは絶対ないよね安斎って
15 17/07/23(日)01:14:36 No.441475160
大洗もあの半年苦労しまっくたとはいえこの3人の時代のアンツィオが一番苦労したんだろうな…
16 17/07/23(日)01:15:42 No.441475529
>大洗もあの半年苦労しまっくたとはいえこの3人の時代のアンツィオが一番苦労したんだろうな… 大洗は基本的に偏差値高そうだし おバカばっかのアンツィオだと本当に苦しかっただろうな…
17 17/07/23(日)01:18:17 No.441476310
なんせ何が辛いって3人のうち1人は頭脳面では役に立たぬ!
18 17/07/23(日)01:25:38 No.441478421
でも士気高揚に必要…
19 17/07/23(日)01:28:19 No.441479111
頭脳面以外だと極めて優秀だけどね! 操縦とか料理とか鼓舞とか!
20 17/07/23(日)01:29:57 No.441479446
カルパッチョも頭いいっけ?
21 17/07/23(日)01:34:00 No.441480291
割り算を1桁間違えてるのを訂正する程度には
22 17/07/23(日)01:35:54 No.441480700
カルパッチョはドゥーチェと会話になる程度には賢い
23 17/07/23(日)01:37:56 No.441481179
兵法も知ってる
24 17/07/23(日)01:38:31 No.441481295
>赤い看板のコンビニの駐車場にCV-33を並べて駐車し、私はペットボトルを受け取る。 ああ…一年前だからまだサークルKがあるんだな…
25 17/07/23(日)01:46:45 No.441482899
これ無線機の向こうのペパロニ最後の方はてんぱってるけどめっちゃ楽しそうなんだろうな…
26 17/07/23(日)01:48:49 No.441483270
アンツィオ軍団は仲がいい光景しか思い浮かばぬ