虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

17/07/16(日)22:42:05 ガルパ... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

17/07/16(日)22:42:05 No.440139856

ガルパンSS ダークサイド合同に寄稿したもの su1940038.txt のIF展開

1 17/07/16(日)22:42:23 No.440139959

書き込みをした人によって削除されました

2 17/07/16(日)22:42:40 No.440140041

【善意の牢獄】 -1- 「ごめんね、エリカさん…もうすぐだから少し待ってね」 「そうね、良くなってまた戦車に乗りましょう。  でも急がないでね。ゆっくりと落ち着いて休みながらでいいんだからね。  最近はちゃんと食べているし、体の方も肉がついてきてるからもうすぐよ!」 肉がついてきたなんて女の子に酷いね、とみほが笑った。 笑ってくれた。笑顔を見るのは久々だ。

3 17/07/16(日)22:42:57 No.440140136

「…あのね。私、山か海に行きたいんだ。  だからね、こんなに痩せていたら外も歩けないから体力を付けないといけないと思って」 「…っ!ええ!ええ!山でも海でも何処でも行きましょう!  どんな所でもついていくから!」 私がそう言うとみほは少しだけ困った様に笑って、ゆっくりと目を瞑り夢の中に落ちていった。 あの決勝戦から大分が経つが、まだみほは回復していない。 だけど食欲も戻りつつあり、外に出かけたいなんて言葉もでてきた。 笑顔も見れた。 これなら本当に"もうすぐ"元のみほに戻れるかもしれない。

4 17/07/16(日)22:43:12 No.440140212

-2- …最初にみほを見つけた時は本当に心臓が止まる程の衝撃を受けた。 最も、比喩表現ではなく現実的にみほの心臓が止まっていたかもしれないと思うと寒気がする。 あの10連覇を逃した日から黒森峰の戦車道は一定期間の休息日となった。 決勝の次の日からみほは実家に戻り、数日してから戻りしばらくしてからみほは寮の部屋から一歩も出てこなかった。 最初の頃は精神的ショックもあったのだから無理もないだろうと思い、そっとしていた。 しかしながら、二日も経つと私はある嫌な予感がした。

5 17/07/16(日)22:43:31 No.440140321

「…ねぇ、副隊長の事なんだけど誰か姿を見た人はいる?」 私は同僚達に聞いてみたが誰一人として姿を見ていないと応えた。 1年生から最上級生まで、深夜まで夜更かししている人から早朝から活動している人まで誰も。 私は背筋が凍り、みほの部屋まで走った。 みほは自分で食料を買って冷蔵庫に仕舞ったりなどはしない。 何時もはキチっとしているのに、あの意外な所でずぼらで家事も出来ないあの子はコンビニで弁当を食べるか、見かねた私が食事を作ってあげて私の部屋で食べるのだ。 ならば、それならばこの二日間はどうしていたのだ!部屋に食べる物はない。外に出てもいない。

6 17/07/16(日)22:43:46 No.440140405

「みほ!いる!?」 私はみほの部屋のドアを乱雑に叩くが返事は一向にない。 それは半ば予想済みだったので、みほから貰っていた合鍵で開けて中に入る。 そこにはフローリングの床にうつ伏せで体を投げ出していたみほがいた。 顔は此方側を向いていたので、みほは首を動かさず眼球だけをギョロリと動かして私を見てこう言った。 「…あっ  え、ぃあしゃん」  

7 17/07/16(日)22:44:01 No.440140490

「みほ…みほっ!」 慌ててみほに近づき体を起こす。 服装はあの決勝戦の時のままで、入浴もしていなかった様で臭気が鼻をついた。 見ると唇が異常に乾いており、皹割れて血が固まった跡がいくつも見られた。 肌もガサガサで潤いは全くなく、その手足は明らかにやせ細っていた。 ともかくとベッドに運び、どうするか混乱する頭の中で必死に考えた。 この二日間にまともに食物どころか水分すら摂っていないのは明らかだ。 確かスポーツ飲料が脱水症状には効果的だったはずだ。違う、それは汗によって塩分が失われたときではないか? だけど栄養素も入っているから適切でもある筈だ買いに行くか。違う!今はそんな時間すら惜しい! 兎も角、今は水分を摂取させる事だ。

8 17/07/16(日)22:44:17 No.440140538

私は急いでキッチンで水をコップに入れて、みほの上体を起こし口元に持っていった。 「…いあない」 だが、みほは顔を逸らし掠れてはいたが明確な拒否を示した。 「な、何言ってるのよ。飲まないと駄目でしょう…?」 「……」 「飲まないと…し、死んじゃうでしょう!」 「………」 「あ、貴女…まさか!」

9 17/07/16(日)22:44:32 No.440140612

無言の肯定だった。 この子は死にたがっていた。 刃物で自分を突いたり、首を括ったり、飛び降りたりといった能動的な自殺は勇気が持てないから、何もしない事での消極的自死を待っていたんだ。 そう気づいた時、私の手は震えだし、それはたちまち全身へと伝播した。 いや、落ち着け逸見エリカ!ここで呑まれてどうするのだ。 私は左手で自分を抱くように右腕を力強く掴み、無理やり震えを抑えると水を自分の口に含み、みほの顔と顎を両手で掴んで無理矢理此方に向かせ、口付けした。 「…ん!むぅ!」 みほは驚きもがき、私から離れようとしたが私は其れを許さなかった。 まともに食事も取っていなかったみほが私の力に適うはずも無く、その弱弱しい抵抗を力ずくで押さえ、その唇を舌でこじ開けて中に入れた。

10 17/07/16(日)22:44:51 No.440140707

「ん!」 僅かに痛みが奔る。 舌が歯で噛まれた様だが構うものか。 そのまま口の中の水をみほの咥内に注ぎ込んだ。 暫くそのままであったが、私が口を塞ぎ続けていると諦めた様で喉をごくりと鳴らし水を飲み込んだ。 それを確認して私は口を離した。離れる時に、互いの唇の間を明らかに水の其れではない粘性を含んだ物が赤を含んだ銀筋で一瞬だけ繋いでいた。 「はぁはぁ…」 互いに酸欠気味になり息を荒くしていたが、特に何かを言う事はなくそのまま時が過ぎていった。 私は息が落ち着くのを待つと、再び水を口に含んでみほに口移しをした。 此方に向かせるのに腕を使ったが、今度は然したる抵抗も無く、素直に受け入れ飲んでいった。 今度は酸欠になる事も無いので直ぐに次へと移り、コップを空にするまで繰り返した…。

11 17/07/16(日)22:45:16 No.440140828

-3- その後、何杯かのコップを空にし、簡単な流動食を作って同じ様に口移しで食べさせた後、隊長に報告と相談をした。 隊長は知るなりみほの部屋へと走り、その姿を見ては愕然とし、泣きながらみほを抱いて謝り続けた。 私は…いやに冷静にその姿を見ていた。 あれほど尊敬し、慕って、好きだった隊長のその姿に私は「何を今更…放っておいた癖に…」と暗い気持ちを抱いていたのだ。 ふと視線をみほに移すと、みほは自分にしがみ付いて泣いている実姉を興味が無い様などうでも良さそうな目で見ていた。

12 17/07/16(日)22:45:33 No.440140906

その後、医者に見せられ肉体的には脱水症状と診断された。 栄養に関しては人間は二日くらいならさほど危機的ではないが、水分に関しては非常に危険であり、正しく紙一重だったらしい。 一方で精神的には心的外傷後ストレス障害つまりPTSDと診断され、通常の日常生活を送るのは難しいとされた。 病院への入院や自宅療養の話がでたが、入院はみほが頑として聞き入れなかった。 勿論、隊長も強く勧めたが、あのみほが酷く暴れて「病院へ入院するくらいなら死んでやる!」と鬼気を孕んで叫んだのだ。 その尋常ならざる様子と前科がある事から、とてもではないが冗談やハッタリと楽観的に受け取る事は出来なかった。

13 17/07/16(日)22:46:09 No.440141107

次いで自宅療養だが、自宅と言っても実家である本家ではなく別の別荘での療養と話は進んでいた。 みほの母親である家元は事情を聞くと動揺し、そして実家で…手元での療養を主張した。 これには隊長も同意したが、私が「実家ではみほは気が休まる事無く落ち着いて療養などできないのでは?」と言うと家元は跳ねる様に立ち上がり私を睨めつけた。 以前の私ならばこの様な事態に陥れば萎縮していただろう。それ以前にあのような事を言える筈がない。 しかし、今はそんなことを言っていられない。そんな悠長で優柔不断な事をしていれば取り返しのつかない事になってもおかしくないのだ。 私はその視線を受け止め睨み返してやった。 しばらくそのまま睨みあっていると、家元はふと力を抜き、静かに座ると独り言ちた。

14 17/07/16(日)22:46:29 No.440141214

「私は…確かに母親として失格だったのかもしれないわ。娘がああなるまで放っておいたのだから…  でも母親であると同時に西住流の家元でもある。大勢の門下生を抱える身としてその義務を果たさねばならないのよ。  …だけどもうみほはそんな事をしなくていい。もう戦車道もやらなくていい!ここで母親として傷ついた娘に優しくして守ってあげたいの…」 あの家元が泣いていた。 今までみほに母親としてしてやれなかった事をしてあげたいのだろう。 だから言ってやった。 「今更もう遅いんじゃないですか?」 隊長が私の名前を叫ぶのが聞こえる。 家元は…西住しほはゆっくりと項垂れ、 「そうね…そうかもしれないわね…」 とだけ言った。

15 17/07/16(日)22:46:53 No.440141331

-4- こうして実家での療養は見送られ、療養地にある別荘での静養が候補にあがった。 しかしながらその話も流れた。 みほが一切の食事を取らなかったからだ。 唯一、私の口移しからだけ食事や水を摂っていた。 「エリカにそんな事まで頼む訳には行かないから。家族である私に任せてくれ。」 と隊長は自分がその役割をこなそうとしたのだが、みほは受け入れなかった。

16 17/07/16(日)22:47:10 No.440141403

「何故だ?お願いだ…。食べてくれ…お願いだから…」 最初は説き伏せる様に説得し、そしてそれは懇願へと移っていった。 いよいよ焦れた隊長は最初の私と同様に無理矢理みほの頭を掴み無理矢理口移しをしようとしたが、 みほは「嫌ぁっ!」と叫び思いっきり隊長の顔を叩き拒否した。 隊長はあまりの事に後ろによろけて倒れ、呆然とした表情でみほを見上げていた。 その顔にはありありと最愛の妹が、自分を何時も慕っていた妹が自分に暴力を振るった事が信じられないと書いてあった。 「どうして…どうしてなんだみほ!何故私は駄目で何故エリカはいいんだ!」 隊長は泣きながら叫んでいた。 そしてそんな隊長をみほは怯える様な目で見ていた事に気づくと、隊長は泣きそうな顔をした後に私を睨むと静かに部屋から出て行った。 私は隊長が役割を引き継ぐと言った時は焦りを覚え、みほに拒否された時は自分だけがみほにとって許された特別の存在である事を嬉しく思い、そして隊長に睨まれた時には優越感を感じていた…。

17 17/07/16(日)22:47:29 No.440141514

みほは黒森峰学園艦内に一室用意され、そこで静養する事になった。 元々は西住流が興した学園であり、その程度の事は造作もないようであった。 私は休暇中はほぼ付きっ切りで食事を与えたり、入浴させたりと看病をしていた。 休暇が終わると隊長には戦車道の休止の届けを出してみほの看病に専念することを申し出た。 其れを受けて隊長は泣きながら謝ってきたのだった。 「すまない…エリカには本当にすまない。  私は駄目な姉だ。妹が一番苦しんでいる時に何もしてやれなかった。  辛かっただろう。苦しかっただろう。なのに私は隊長だからと言い訳して、みほは強いから何とかなるだろうと…。  …エリカ、みほを…妹を宜しく頼む。頼みます。お願いします。どうか、どうか…」

18 17/07/16(日)22:47:46 No.440141619

-5- 幸いながら事情を考慮され、また西住しほが動き最大限の便宜が図られた。 通常の学業に関しても自宅学習などの非常に多大な配慮がされたので、かなりの大きな時間をみほの看病に充てられた。 看病と言っても肉体的には一時的に脱水症状になっただけで、暫くすると問題もなくなったのでそれほど大変ではなかった。 自分に求められる事はトイレ以外は自発的にしようとしないみほの手を握ってやりながら話しかけ、食事を口移しで食べさせ、手を引き一緒に入浴してやる事などだ。 最初は朝になったら通い、学校に行って昼に戻って夜に帰るという生活をしていたが、目に隈ができていたみほを問い詰めて、夜に一人で寝ていると悪夢で飛び起きてまともに寝れていない事が判明してからは、一緒のベッドで手を握ってやりながら寝る事になった。 そうして看病していると徐々に改善の兆しが見えてきた。 流動食でしか食べれなかったが、暫くすると精神的に回復してきたのか固形物を食べるようになった。 みほから話しかけてくるようになった。 か細かった食欲が少しずつ増えてきた。

19 17/07/16(日)22:48:01 No.440141704

そして今日は遂に笑顔を浮かべるようになった! 更に外出がしたいという積極的行動も求めるようになった事もあり、もうすぐ前のみほが帰ってくる希望が見えたのだ。 …・・そしてそれはもう私だけのみほではなくなるという事だ。 もう籠の中の小鳥ではなくなる。 私からではないと満足に食事も取れない不完全な生き物ではなくなる。 私がいないと生きる事すら出来ないお人形じゃなくなるのだ……

20 17/07/16(日)22:48:26 No.440141809

-6- 「じゃあ行って来るね!エリカさん!」 「気をつけるのよ?何かあったら絶対に連絡するのよ?」 「もう心配性だねエリカさん。えへへ、でも心配してくれて嬉しいな」 「あったり前でしょう!…まったく、じゃあ楽しんできなさいね」 「うん!それじゃあね!いってきます!」 笑顔を浮かべてから3週間がたった。 あれからみほは順調に食事をし、リハビリを兼ねて部屋内でできる簡単な運動をする生活を続けた。 精神面でもよく笑い、よく喋るようになった。

21 17/07/16(日)22:48:44 No.440141888

その様子はもう昔の私が良く知っているみほだった。 いや、それ以上に元気で朗らかになっている気がする。 あの時は…思えば私も西住の副隊長として壁を作っているように思える。 みほに話しかける人もいたが、同様に友達としてではなかった。 今から考えれば本当の意味でこの子の笑顔を見たのは初めてだったかもしれない。 そんな中で学園艦が熊本に寄港にする事になり、みほはそのタイミングに合わせて外出がしたいと言ってきた。 勿論私は大歓迎だ。引きこもっていたみほが外に出たいというのだから喜んで付き合おう。

22 17/07/16(日)22:49:03 No.440141980

しかしみほは一人で行きたいと言ったのだ。 「エリカさんには申し訳ないんだけど…。外で自然の中を歩きながらちょっと一人になりたいの。  ごめんね、エリカさんには何時もお世話になっているのにこんな事を言い出して…」 私は渋った。 正直な所、もうだいぶ回復したとはいえまだ一人にするのは心配だったのだ。 それでもみほが折角意欲的な事を言い出したのだ。望み通りにしてやりたいのも確かだ。 いや、解っている。もうみほは以前の通りなのだ。 私はただ其れを認めたくないだけなのだ…。一人で立っていて欲しくないのだ…。 でもみほを何時までも縛っている訳には行かない。 何時か籠から出して空の中に飛び立たせないといけないのだ…。 だから認めた。 条件として車には絶対に気をつける事、知らない人にはついていかない事、水辺には気をつける事…と言っていたら「もう!解ってるよ!エリカさんなんだかお母さんみたい」と言われてしまった。

23 17/07/16(日)22:49:19 No.440142059

そして当日、心配していた天候は晴れであってくれた。 まるでみほの笑顔を表しているかのようだ。 あの日、暗く風が吹き荒れ大雨だった空模様から爽やかな希望あふれる快晴となったのだ。 私は手を振ってみほを送り出してやろうと笑顔を浮かべた。 だが、寂しさを隠せなかったのか、みほはちょっとだけ困ったような表情を浮かべた。 しまった、快く送ってあげようと思ったのだが…。 そうすると出かけようとしたみほが此方にとことこと寄ってきて、私の耳元に首を寄せると 「今度はエリカさんと二人っきりで行こうね…」 と囁くとばっと身を翻して離れた。 ……顔が熱くなる。鼓動が激しくなる。 そうか…籠に囚われていたのはみほじゃなくて私だったんだ…。

24 17/07/16(日)22:49:35 No.440142144

「まったく…楽しみにしてるわよ!」 「うん!それじゃあ今度こそバイバイ!」 そう言ってみほは笑顔で手を振ると靴を履いて出て行った。

25 17/07/16(日)22:49:51 No.440142218

-7- …おかしい。 何か胸のざわめきと共に違和感を感じる。 別れ際のみほの笑顔に何か……。 いや、よくよく考えれば違和感を覚える様になったのはもっと前からなのではないだろうか? 今までは気づかなかったが、一度ズレを意識して振り返ると……記憶の中のみほは何時も何処かしらおかしく感じた。 最近は快復してきて昔のみほに戻ってきた?また笑顔を見せてくれるようになった? 本当に? 本当にそうなのか? みほの笑顔を思い出そうとする。 しかし、記憶の中の笑っているみほの笑顔はどれも歪んでいた。 つい先程見せてくれたばかりのみほの笑顔に至っては……思い出そうとしても黒く塗りつぶされていて表情すら見えなかった。 ……私は強烈な胸騒ぎを感じて、急いで帽子とサングラスをとってきて、玄関を開けてみほの後を追った。

26 17/07/16(日)22:50:07 No.440142280

-8- やはり変だ……。 今日はちょっと町に出かける程度の予定だった筈だ。 しかし、電車を幾つも乗り継ぎ、既に私も知らない遠い場所まで来てしまった。 聞いた事すらも無い駅で電車を降りるところを見るとどうやらここが目的地らしい。 小さな木造の駅からでるとみほは閑散としている道を歩き出し、私は身を潜められる物も人もいない中で何とかして尾行を続けた。 僅かに残る人の文明圏すらからも離れる様に移動するみほの様子になんだか漠然とした不安を感じ始めてきた。 既に私自身にはここがどういう場所すらもわかっていなかったが、僅かに香り始めて来る磯の匂いと波の音で海に近くなっている事だけは解った。 そうしているとついに海に面する崖までたどり着き、いよいよ不安は確信的な物へと移り変わっていった。

27 17/07/16(日)22:50:22 No.440142372

「……貴女、何してるの…」 「…え、エリカさん!?」 そしてみほが靴を脱ぎだした所で私は姿を表し、詰問するとみほは何でこんな所に!?と動揺を見せた。 その動揺につけ込む形で私は有無を言わせずに近寄った。 間を空けて考える時間を与えると飛び降りる猶予を与えてしまうかもしれないからだ。 少なくとも崖際に行かれて「来ないで!」と叫ばれるより早く捕まえて起きたかったのだ。 実際、狼狽していて思考に空白が出来ていたのかみほは容易く私の接近を許し、その腕を捕まえる事を成功した。

28 17/07/16(日)22:50:42 No.440142473

「何しようとしてたのよ……!」 「……」 「……私が何かした?何かが足りなかった?  解っているわよ。私が貴女にどんなに謝っても許されないってのは。  確かに私はあの時まで貴女を見てなかった。理解しようとしてなかった。  私を貴女が憎んでいるのは理解しているわ……」 「ち、違うよ!私はエリカさんを憎んでなんか無い!  私はエリカさんに感謝しているし傍にいてくれて嬉しかった」 「……じゃあなんで死のうとしたのよ!!」 私は自分でも精神が不安定になりつつある事を自覚していた。 みほの発言に安心しつつも理不尽さを感じて反射的にヒステリックに叫んだ。

29 17/07/16(日)22:51:00 No.440142567

それにみほは少しだけびくりと体を震わせるとぽつぽつを語り始めた。 「だって……だって、きっと見つけられずに独りで死んでいくんだろうと思っていた。  誰にも気にされず、興味を持たれる事も無く、独りで寂しく死んでいくんだろうと……。  でもエリカさんがそんな私を見つけてくれて心配してくれて……泣いてくれて本当に嬉しかった。  私は必要とされているんだ。私に泣いてくれる人がいるんだって……。  それでね、エリカさんが私のお世話をしてくれている間は本当に幸せだったの……。  今まで生きてきて感じてこなかった安らぎがあった。温もりがあった。  ぬるま湯の中でたゆたう様な不安も激情も何もない、エリカさんと生きていく日々は本当に心地良かった……。  でも、エリカさんにはエリカさんの人生がある。  私は知っているよ。エリカさんがどれだけ戦車道に対して真剣だったか、努力したか、本気だったのか。  ひたむきで、前だけを見て、颯爽としてて、何かに躓いて転んでも目標だけを睨み続けて歩き出すエリカさんを」 「……」

30 17/07/16(日)22:51:15 No.440142642

「だから……駄目なんだよ。  私なんかの為にエリカさんが戦車道を辞めてしまったら駄目なんだよ。  私なんかの為に人生を浪費してしまったら駄目なんだよ。  私なんかの為に時間を無駄にしちゃ駄目なんだよ。    ……私なんか生きていちゃ駄目なんだよ」 「……みほっ!」 「だって!だってそうじゃない!!!  私の為にエリカさんが犠牲になる必要なんてどこにもないじゃない!!!!  何で!?何で私なんかの為に!?」 そう叫ぶとみほはぺたりと地面に座り込んですすり泣き始めた。

31 17/07/16(日)22:51:32 No.440142734

そして滲む声で所々つまりながら続けた。 「こ、これ以上、エリカさんに甘えていたらその心地良さに溺れてしまう。  そうなったら も、もう私も離れられなくなってしまう。  だから…だ、だから少しでも早く私はいなくならなきゃいけないの……」 そう言い終わるとみほの泣き声はさらに加速し、啜り泣きから号泣に……まるで子供の様に泣いた。 私はそれを見てふぅと息を吐き、馬鹿馬鹿しいと言わんばかり肩をすくめると地面に膝をつけ、みほの額と私の額をこつんと合わせて、視線の高さをあわせた。 「みほ……私はいま二つの点で怒ってるわ」 「エリカさん……?」

32 17/07/16(日)22:51:48 No.440142822

「一つは私なんかって自分を卑下した事よ。  私はどうでも良い塵を目標にした訳じゃない。  そんな存在を支える為に戦車道を歩んでいた訳じゃない。  それは私に対する……いいえ、貴女の乗員だった子、貴女に負けた子……戦車道を歩む全ての子に対する侮辱だわ。  これは決して貴女が戦車道の名選手だからだけじゃない。  貴女という人間そのものに対してもそうよ。  何よりも貴女に命を助けられた子はどうなるの?  赤星はどうでも良い存在に命を救われた程度の価値しかないの?」 「そ、そんな事は!」

33 17/07/16(日)22:52:06 No.440142905

「二つ目は私が犠牲になっているって言ったわね?  勝手に決めないで欲しいわね!  私は別に誰かに頼まれた訳でも強制された訳でも代価を貰ってやっている訳じゃないわ!  私が私自身の意思によって貴女を支えていたのよ!  それもこれも貴女という存在を大事に思っていたからよ!  最初は確かに戦車道選手としての目標に過ぎなかった!  でもね……それだって一緒にいればそれだけで終わる訳が無い」 言っている内に私も目が滲んできて言葉に詰まりだしてきた。 「あ、貴女は私の大事な仲間で、だ、大事な副隊長で……そして大事な親友なのよ?  貴女が傍にいないのに せ、戦車道なんてやって な、何の意味があるのよ……。  ……わ、私は貴女の看病をしている事を苦に思った事なんて一時もないわ!」

34 17/07/16(日)22:52:27 No.440142997

駄目だと思っても、私の涙腺の止水弁は瞬く間にそのバルブを緩め、目の端からぼろぼろと涙が零れ落ちた。 それを見せまいと私はみほを引き寄せて抱きしめた。 「エリカさん…」 みほは少しだけ驚いた様子を見せたが、直ぐに腕に力を込めて私を抱き返した。 暖かいみほの体温に僅かに心が落ち着く。 ……私が慰めようとしたのにこれじゃあ"あべこべ"だ。

35 17/07/16(日)22:52:43 No.440143081

「だ、だから……死ぬなんて言わないでよぉ。  私の事を思うなら、また元気になって一緒に戦車道しようよぉ……!  そうじゃなくても、わ、私がずっと世話するから!  私が帰ったらみほがいておかえりって言ってくれるだけでいいから…!!」 「……うん、ありがとう。  それとごめんなさい。エリカさん…」 「……みほ、みほぉ」 私たちは涙を流しながら二人で抱き合った。 最初は驚いたけれど結果的にこれで良かったのかも知れない。 泣きながらではあるけれど、今始めてみほの本当の笑顔を見れた様な気がする。 今までにあった僅かな心のすれ違いも今ここで初めて裸にしてぶつけ合う事で解消されたのだ。 考えてみると私達は長い期間を共にしてきたが、今ここで初めて心を繋ぎあったのだ……

36 17/07/16(日)22:52:59 No.440143158

   

37 17/07/16(日)22:53:18 No.440143230

   

38 17/07/16(日)22:53:39 No.440143345

      「……そんなエリカさんだから。  やっぱりこれ以上甘えられないよね……」      

39 17/07/16(日)22:54:53 No.440143729

長いので続きはテキスト su1940068.txt

40 17/07/16(日)22:58:38 No.440144897

えぃあしゃん…

41 17/07/16(日)23:00:10 No.440145365

私こういうの好き!!!

42 17/07/16(日)23:01:31 No.440145814

ああそうなるのかと思って読み進めたら良い意味で裏切られたよちくしょう 面白かった

43 17/07/16(日)23:01:57 No.440145990

説得しても通じないならしょうがないよね…

44 17/07/16(日)23:02:45 No.440146245

この人の書く話大抵お姉ちゃんが曇ってる…

45 17/07/16(日)23:04:31 No.440146749

その他短編 su1940093.txt 別のシリーズもの su1940094.txt

46 17/07/16(日)23:04:54 No.440146860

>面白かった ありがとう…ありがとう…

47 17/07/16(日)23:05:15 No.440146998

>この人の書く話大抵お姉ちゃんが曇ってる… そんな事は多分無いと思う気がする

48 17/07/16(日)23:08:12 No.440147910

痛くせねば覚えませぬ

49 17/07/16(日)23:09:09 No.440148381

お姉ちゃんが不憫で…

50 17/07/16(日)23:10:01 No.440148712

うわー! うわあああ!!

51 17/07/16(日)23:11:38 No.440149344

でも全部お姉ちゃんと母親が悪い

52 17/07/16(日)23:12:08 No.440149519

まあこのみぽりん止めるにはもうこのくらいするしかないよね (((何事も暴力で解決するのが一番だ)))

53 17/07/16(日)23:12:24 No.440149609

暴力はいいぞ

54 17/07/16(日)23:13:48 No.440150138

歴史関係の知識ネタ好きだね

55 17/07/16(日)23:15:25 No.440150707

いちど殺して生きてるけど死んだままなのいいよね…

56 17/07/16(日)23:15:43 No.440150822

今読んでる途中だけどすっげードキドキしてる

57 17/07/16(日)23:15:52 No.440150872

えぃあしゃん久しぶりに見たわ~ いや~やっぱいいわこれ~

58 17/07/16(日)23:21:34 No.440152811

su1940127.txt 貼り忘れたけどIFではない展開の続き

59 17/07/16(日)23:23:17 No.440153360

こう来たか…流石だ

60 17/07/16(日)23:25:00 No.440153943

やっぱりやつの拳はすごいぜ

61 17/07/16(日)23:25:11 No.440154012

誰も死んでないハッピーエンドだ…

62 17/07/16(日)23:26:45 No.440154457

お姉ちゃんに噂を教えたある人物とは…

63 17/07/16(日)23:36:31 No.440157268

「嬉しいです!今までは死ぬのが当たり前だと思ってたけど、笑って誤魔化したけど、いまは嬉しいです!エリカさん」 「でもね、苦しみに勝つためには、並大抵の努力じゃ勝てないのよ!血ヘドを吐いて死ぬほどの努力をしなきゃならない!そのために私はこれからみほを殴る!いい、殴られた痛みは三日で消える。でもね、今日の心の痛みだけは絶対に忘れるないで!」 ~これは暴力ではない。もし暴力だと呼ぶ者があれば出るところへ出てもよい。エリカはそう思っていた~ 「私がみほを生かしてあげる!」

64 17/07/16(日)23:37:28 No.440157528

>「嬉しいです!今までは死ぬのが当たり前だと思ってたけど、笑って誤魔化したけど、いまは嬉しいです!エリカさん」 >「でもね、苦しみに勝つためには、並大抵の努力じゃ勝てないのよ!血ヘドを吐いて死ぬほどの努力をしなきゃならない!そのために私はこれからみほを殴る!いい、殴られた痛みは三日で消える。でもね、今日の心の痛みだけは絶対に忘れるないで!」 >~これは暴力ではない。もし暴力だと呼ぶ者があれば出るところへ出てもよい。エリカはそう思っていた~ >「私がみほを生かしてあげる!」 凄くハッピーエンドっぽい!

65 17/07/16(日)23:38:24 No.440157793

黒森峰ウォーズ~泣き虫エリカの700日戦争~

↑Top