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17/07/15(土)00:03:37 先日待... のスレッド詳細

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17/07/15(土)00:03:37 No.439685584

先日待ちに待ったダークサイド合同Ⅱされました ので宣伝を兼ねて投稿させていただいた自作品をぶん投げたいと思います 画像は合同誌の表紙お借りしましたこういう時自分で絵をかけたりコラ作れたりする人は凄いなぁと思います 合同誌はこちら sq92174.pdf

1 17/07/15(土)00:04:24 [sage] No.439685764

『逸見エリカが決勝戦直前にパンツァージャケットを着替えた理由』 「私、戦車道辞めます……」  その日、黒森峰女学院の校舎裏で、赤星小梅はそう告げられた。   「…………そっか」  辞めるといった眼前に立つ少女は、かつて小梅の指揮する戦車の乗員だった少女。  その最後の一人であった。  分かった、今までご苦労様、これからもよろしくねなどと当たり障りのない会話を交わし、少女が去った後、小梅は校舎裏の壁にもたれかかり、ゆっくりと息を吐いた。   「……とうとう、私一人かぁ」

2 17/07/15(土)00:04:45 [sage] No.439685842

第62回戦車道全国高校生大会決勝戦、黒森峰女学院とプラウダ高校の戦いの場で、とある事故が起きた。  決着も間際の時、黒森峰の戦車が一台、悪天候による視界不良と地盤の緩みから川へと転落したのだ。  戦車道の試合においては珍しくもないトラブル、本来であれば運営の救護班が救助に向かうだけの話であった。  しかし、その時黒森峰のフラッグ車を任されていた車長が川へと飛び込み、救助に向かうという行動をとる。  結果、通常よりも早く、水没した戦車の乗員たちは助け出されることができ。  結果、車長不在となったフラッグ車はプラウダによって撃破され、王者黒森峰は10連覇を逃した。  フラッグ車を放棄した車長、黒森峰の副隊長でもあった少女は自らの意思で黒森峰を去り、この一件はそれで決着を迎える。

3 17/07/15(土)00:05:41 [sage] No.439686051

しかし、それで決着とはいかなかった者たちがいる。 事件の最大の当事者、水没した戦車の乗員だった少女たちである。 水没という失態を犯したこと、副隊長がそのためにフラッグ車を放棄したこと、自分たちでなく副隊長が黒森峰を去ってしまったこと。 そうした要因が彼女らにのしかかり、内外様々な重圧から彼女らは段々と戦車道を、黒森峰を離れていった。 ただ一人、水没した戦車の車長であった少女、赤星小梅を残して。

4 17/07/15(土)00:06:23 [sage] No.439686228

「……やっぱり、しんどいなぁ」 再び空を見上げて、小梅は呟く。 辞めていく彼女らを止めることなど、できるはずもない。 それは、小梅自身がよくわかっている。 「色々、言われたからね……」 戦車道に携わる生徒たちが属する機甲科内部では、特に何か言われることは無い。 隊長によってこの件で赤星らを責めること禁ずる厳命が出されたからであり、そうでなくても戦車に関わる彼女らにとってああした事故は珍しくも無かったことからである。 しかし外部から様々な厳しい言葉があったのも、事実だった それでも、小梅は戦車道を辞めることはしなかったのだが、   「無理強いしてたかな、私……」

5 17/07/15(土)00:07:27 [sage] No.439686452

車長である自分が辞めないせいで、乗員の逃げ道を塞いでいたのかもしれない。 そう思うと、ただでさえ沈んでいた気持ちがますます沈んでいく。   「でもなぁ……」 それでも、辞めるつもりはない。 辞めたくない。 戦車は好きだし、まだ続けたい。 何より、ここで辞めてしまったら、あの人に申し訳がない。 小梅は空を見上げていた視線を降ろし、今日も頑張ろうと練習場へと足を向ける。 いよいよ乗員がいなくなってしまったし、どこかのチームに入れてもらわないとと思いつつ歩く小梅。 校舎裏から一度校舎へと入る、学園内には多くの生徒がおり、その波の中をかき分けながら進む形になった。

6 17/07/15(土)00:08:16 [sage] No.439686659

と、   「あれ、赤星小梅さんじゃない……」 聞えよがしに、そんな声がした。   「ねぇねぇ、あの人、まだ戦車道辞めてないんだってさ」 「うっそー、あんなミスやったのにぃ!?」 あからさまな嘲笑、一時期に比べれば減ったものの、されて嬉しいわけもない。 グッと口を引き絞り、無視して小梅は進む。   「……ほら、見てよ、あの人だって」

7 17/07/15(土)00:09:34 [sage] No.439686971

「……辞めるなら、まずあいつが辞めるべきだよぇ……」 どんなに進んでも、嘲笑が消えない。 人の流れはどんどん進んでいくのに、嘲笑だけが常に囁きかけられる。   「副隊長、凄い人だったんでしょ……なのにねぇ」 「誰か言ってやればいいのにね、お前さっさと辞めろよってさぁ」 「あいつが辞めないせいで、皆困ってんだよ」 「さっさと消えろよな」 「消えろ」 「消えろ」 「消えろ消えろ消えろ」

8 17/07/15(土)00:10:22 [sage] No.439687157

「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ 段々と、息が苦しくなってくる。 視界が、暗くなってくる。 まるで、あの時、水中に落下する戦車の中でどうしようもない絶望に包まれていた時のように。 でも、もうあの時助けに来てくれたあの人はいない。 私のせいで、いなくなった。 本当は。 私が、消えるべきだったのに。 私が、私が、私が―――― 「ちょっと、赤星さん」

9 17/07/15(土)00:10:56 [sage] No.439687279

「…………え?」 ふと気づくと、小梅は人気のない廊下の隅で立ち尽くしていた。 一体どこまでが現実で、どこまでが悪夢だったのか、それすら分からずに混乱する小梅に、声の主が再び話しかける。   「……本当に大丈夫なの?」 「え、あ、大丈夫、大丈夫です」 ようやくはっきりした意識でとりあえず返事をした小梅は、そこで声の主が誰かを見た。 それは、   「……あ、逸見さん」 「何よ、気づいてなかったの?」

10 17/07/15(土)00:11:58 [sage] No.439687493

黒森峰女学院戦車道現副隊長、逸見エリカであった。 エリカは訝し気に小梅を眺めた後、ほら行くわよとぶっきらぼうに、   「練習、始まってるわよ……あなたが遅れるなんて珍しいわね」 そう言ってさっさと歩きだしてしまう。   「え、練習、もう始まってるんですか!?」 エリカの言葉に慌てて時計を確認すると、確かに針の位置はそれを指し示している。 それほどの間自失していたこと、練習をサボってしまったことに大いに慌てて小梅は大急ぎでエリカと共に歩き出す。 それにしても、   「その……どうして、逸見さんが態々私を?」

11 17/07/15(土)00:13:01 [sage] No.439687727

探しに来たのか、と問う。 少し先を早足で歩きながらチラリと後ろを見て、エリカはため息とともに言う。   「……あなたのチームの子、辞めたんですってね。  あなたもその子も練習来ないから連絡とったら、そう言われたわ」 「……はい、私から隊長に言うつもりだったんですけど」 すいません、と頭を下げる小梅の方は見ずに、エリカは続ける。 「それで、皆があなたのこと心配したのよ、電話にも出ないし」 そう言われて小梅は携帯を確認すると、いつの間にやら不在着信がずらりと並んでいる。 どうやら自分が思っていた以上に大事になっていたらしい、そう気づいてますます小梅は青くなる。   「あ、その……すいません、本当に。  どうしちゃったんでしょうか、私……急に、何か気分が重くなって、それで」

12 17/07/15(土)00:13:46 [sage] No.439687867

あわあわと言う小梅。 「……それで、色々と考えてしまって。  あの人が、いなくなったのに、私がここにいるのはどうしてだろうとか。  その、辞めた子たちにも、私のせいで負担掛けちゃったのかなとか、どうしてそんな私をあの人は助けてくれたんだろうとか、それでも私がまだ」   戦車道を続けても、いいのかな。 そう言葉にしようとする直前、無言だったエリカが足を止め、小梅へと向き直った。   「え、逸見さん?」 鋭い目でじっとこちらを見つめるエリカに、思わず言葉を止める小梅。 しばらくの間、エリカは小梅を見つめ、そして、   「……あの子は、いつもそうなのよ」

13 17/07/15(土)00:14:48 [sage] No.439688128

唐突に、ぽつりとそう呟いた。 え、と小梅は首をかしげる。 構わずエリカは続ける。   「あの子は、こっちのことなんて考えずに、自分の考えで勝手な事して、それでどんな思いするかなんて気にもしないで……」 エリカは拳を強く握り、絞り出す様に言う。 「あの時の、模擬戦の時から、ずっと」   あの時の、模擬戦。 その言葉で、小梅はエリカの言う『あの子』が誰かを理解する。 それは、かつての副隊長。 それは、かつて小梅を救い、黒森峰を去った、彼女だ。 そして、模擬戦とは、  「模擬戦って……中等部の時のですか?」

14 17/07/15(土)00:15:21 [sage] No.439688261

忘れもしない、小梅と、エリカと、そして彼女が黒森峰女学院中等部へと入学した直後だ。 副隊長の座を掛けたエリカと彼女の対決、そして彼女の部下として小梅も参加した試合。 小梅にとっては、今なお続くエリカへの苦手意識の原因でもあるその試合だが、   「あの模擬戦が……何か?」 一体何がと問う小梅に、エリカはしばし逡巡した様子を見せ、やがて決意したように口を開いた。   「……あの子は、あの模擬戦でわざと負けたのよ」   「え!?」

15 17/07/15(土)00:16:03 [sage] No.439688445

あの試合の結果を、小梅が忘れるはずもない。 模擬戦に勝ったのは、エリカだった。 小梅にとっても悔しい結果であり、試合後に彼女と顔を合わせて思わず泣き出してしまったことまで覚えている。 結局、試合後にエリカ自らが副隊長は彼女の方がふさわしいと進言し収まったのだが、その試合で彼女は自ら負けたのだとエリカは言うのだ。   「試合の後に言われたわ……私が負けた方が全部丸く収まるから、その方がいいと思ったって」 握りしめた拳が、その時の感情を再現するようにプルプルと震える。   「……ふざけるなって思ったわよ。  私は本気のあの子と戦いたかった、本気であの子に勝ちたかった……でも、あの子はそうは思っていなかったんだから」

16 17/07/15(土)00:16:42 [sage] No.439688609

小梅も、エリカほどではないが戦車道で勝つことへの情熱は持ち合わせている。力を競いたい、その上で勝ちたいと思っていた相手からそう認識されてないというのは、確かに屈辱でしかない。 それに、とエリカは続ける。   「それに、赤星さん……あなた達だって本気であの子のために戦っていた。  それなのに、その思いを無視するようなことを言ったから、私は」   そこで、エリカは言葉を飲み込み、それ以上は何も言わなかった。 エリカから聞かされた数年越しの真相に小梅も衝撃を受けたが、どこか腑に落ちる点がある。 あの模擬戦の時も、彼女は勝ちに拘っている用ではなかった。負けた時も、こちらを気遣うばかりで自分が負けたことに対しては何かを感じているようでも無かった。 それから、彼女と過ごした時を振り返っても、   「あの人は、勝つことを考えて戦車に乗っていなかったんですね……」

17 17/07/15(土)00:17:27 [sage] No.439688801

無言でエリカは頷く。 だからか、と小梅は思う。 だからあの人は、フラッグ車を放棄してまで私たちを助けに来たのか、と。 「あの人にとっては、それが勝つよりも大事なことだったんだ……」   あの人が私たちを助けた理由が、やっとわかった。 そんな気がして、小梅は少し笑う。 一方で、エリカは険しい表情を強くして、   「それでも、やっぱりあの子は分かってないのよ。  助けられた側がどう思うのかってことも」 そして、 「その上勝手にいなくなって、残された側がどう思うのかってことを、全然考えてない。  全く、いい迷惑だわ!」

18 17/07/15(土)00:18:45 [sage] No.439689105

吐き捨てるようにいうエリカだが、小梅は段々とエリカの真意を理解していく。 態々小梅を迎えに来た理由、そして今こんなことを話している理由、それは、   「……ひょっとして逸見さん、『気にするな』って慰めてくれてます?」 「は、はぁ!!  そんなわけないじゃないこのどんくさ!!」 かつての模擬戦の時に言われた単語、それが照れ隠しだと分かるから、小梅は笑う。 散々詰られて、それからも色々きつく言われたりしたけど、本当はこの人はとても優しいんだ。 私は逸見さんのことも、あの人のこともちゃんと分かってなかったんだ。 そんなことに今さら気づいて、でも気づけて良かったと思って、小梅は笑う。   「なに笑ってんのよ!!  ほら、早く練習行くわよもう!!」   顔を赤くして促すエリカに、小梅は笑いながらはいと応え、二人並んで歩き出す。

19 17/07/15(土)00:20:13 [sage] No.439689437

「……ねえ、逸見さん。  あ、その前にお願いなんですけど」 歩きながら、小梅はエリカに笑顔を向けて、 「何よ」 「エリカさんって呼んでいいですか?  私のことは小梅って呼んでください」   「……はぁ!?」   唐突な発言にエリカは再び顔を赤くし、何かもごもごと口を動かした後、   「……あなたが呼ぶ分には好きにしなさい、赤星さん」

20 17/07/15(土)00:21:38 [sage] No.439689780

「はい、エリカさん。  でも、小梅と呼んでくださいね」 「……あなた、意外と図太いわよね。  で、何よ」 最初に言おうとしたことについて聞かれ、小梅は答える。 「……私が、戦車道を辞めなかったのは、そんな大した理由があったわけじゃないんです」 単に戦車が好きで、戦車道が好きで、そして罪悪感から。 「でも、今、やっと理由が出来ました」 そっと胸の前で手を組み、小梅は告げる。   「いつか、私が戦車道を続けていて、もしもあの人がもう一度戦車道を始めていたのなら。  その時、あの人に言いたいんです。  あの時助けに来てくれて、ありがとうございますって」

21 17/07/15(土)00:22:16 [sage] No.439689920

そして、  「みほさんが、戦車道を辞めないでいてくれて、よかった」 そう言いたいんです、と小梅は決意する。   「だから、それまでは、絶対に戦車道を辞めません」 強く、堅い決意の言葉。 エリカはその言葉に特に表情を動かすことなく、そうと呟き、   「…………叶うといいわね、赤星さん」   「小梅と呼んでください、エリカさん」

22 17/07/15(土)00:22:46 [sage] No.439690050

第63回戦車道全国高校大会の決勝の地。 決戦に臨む両校が試合前に顔を合わせた高い丘から、赤星小梅はゆっくりと自陣営へと歩いている ゆっくりと小梅が歩いてくるのを逸見エリカはじっと見つめている。 顔を俯かせ、ゆっくり、ゆっくりと小梅が歩いてくる。 その足が、エリカの前で止まる。 俯いたその表情は見えない。 ただ、ヒクヒクと肩が震えているのははっきりとわかって。 エリカは、その肩に手を置いて、言った。   「夢、叶ったわね……小梅」 逸見エリカが決勝戦直前に、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったパンツァージャケットを交換したのは、言うまでもない。

23 17/07/15(土)00:24:45 [sage] No.439690486

以上です ダークサイドじゃないねこれすいませんと謝っておきます 他の方々の作品は素敵なダークサイドなので是非そちらもお読みください おまけで今まで書いたガルパンSS su1937462.txt su1937463.txt su1937464.txt

24 17/07/15(土)00:25:25 No.439690680

ハッピーエンドだこれ

25 17/07/15(土)00:35:36 No.439692871

ダークサイド全部読んだけどこの爽やかな話をラストのあの話の手前に持ってきた主催は控えめに言って邪悪

26 17/07/15(土)00:36:34 No.439693086

ラストの話もある意味救われてはいるんよね

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