虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    17/07/07(金)00:32:38 No.438088225

    SS まほチョビが仲良くお喋りしているだけの話を書きました。よろしくお願いします。

    1 17/07/07(金)00:32:57 No.438088298

    閃光。 安斎千代美の目に火花が散る。白く瞬く光、遅れて鈍痛。 もちろん、こんな展開を予想していなかったわけじゃない。ただ──強いて言うなら、思ったよりも痛かったか。 西住まほにぶん殴られた安斎はしかしそれでも目をそらすことなく、両の足で立ち西住をきっと鋭い目で見据えた。 「……何故だ、安斎」 未だ昂りの収まりきらない西住は拳を固めたまま、肉食獣そのもののような目で安斎を睨みつける。 「何故、道を退く!」 「落ち着け、西住」 「これが落ち着いていられるかッ!」 感情に任せた大振りの一撃を安斎は手のひらで受ける。ぱしん、と乾いた音が鳴った。 つとめて冷静な目で西住を見つめゆっくりと口にするが、彼女の中の獣は未だ収まりを見せることはない。

    2 17/07/07(金)00:33:15 No.438088348

    中学三年の春、彼女たちの中学戦車道はこの日の試合を持って幕を閉じた。 名古屋パンツァーズ 対 西住流中学部。 彼女らの三年間を砲撃と進軍によって幾度となく彩ってきた因縁の一戦である。 西住流の体現とも言うべき突破戦術であらゆる敵を殲滅する天才・西住まほ、 そんな彼女を軽・中戦車中心の編成で幾度となく破り続けてきた鬼才・安斎千代美。 中学戦車道とは到底言い難い技術と練度で、中学戦車道だからこそ許されたあらゆる作戦を実行し、またそれを打ち破り、 三年間燃えに燃え続けた彼女たちの因縁は、この日西住まほの勝利をもって一応の決着をつけた。 試合後にもう一戦やりたいと駄々をこねる西住をどうにか引き剥がし、観客(ほとんど身内だ)もぽつぽつと消え始めたころ。 不意に二人きりになった、選手控室での事である。 そこで放たれた安斎の言葉に西住は思わず拳を振り上げ、そして──。

    3 17/07/07(金)00:33:36 No.438088411

    「私はッ、来年もお前と戦い続けられると思って今までやってきたんだ!  それが何故、なんでなんだよッ!! なんで……」 双眸から涙が溢れ、灰色に鈍く光るリノリウムの床を濡らす。 安斎はその涙の滴るのをただ見つめ大きく息を吐きそして吸うと、やがてゆっくりと言葉を吐いた。 「向こうから、スカウトが来たんだよ」 しかし、安斎のその言葉に西住は絶望的な表情を浮かべ茫然と安斎を見返した。 魂を抜かれたような顔になりながら、彼女は再び目を伏せると掠れるような声で言葉を紡ぐ。 「……あの高校は……もう、戦車道が実質消滅してるんだぞ……!  予算も尽きて、手持ちの戦車を次々に売りに出していると聞くし……  全国大会に至っては、去年から人数不足でエントリーを止めたんだッ!  なんで、お前ほどのやつが、そんな……ッ!」

    4 17/07/07(金)00:33:59 No.438088493

    「はは、詳しいな」 「当然だッ!」 安斎の挟んだ口にさえも、西住は噛みつくように吼える。 慟哭は未だ止まらない。 西住まほはそもそも人の悪い所をあげつらうような性格ではなかった。 しかし、安斎千代美という終生のライバルを失おうとしつつあるという事実が西住のタガを一度に外した。 そうなれば、溢れてくるのは堪え続けてきた感情の奔流のみである。 「……私は、進学するのがずっと楽しみだったんだ……中学とは違う、高校の舞台でお前と戦い合うのが……  全国の舞台で、お前と戦うのを……私がどれだけ、待ったと……ッ!!」 安斎は西住の叫びを何も言わず、ただ黙って見つめていた。 しんと静まりかえった更衣室に、西住の涙の音だけが響く。 やがて思いつめたように顔を上げると、感情の全てをごたまぜにしたような悲愴な声で西住は叫んだ。

    5 17/07/07(金)00:34:16 No.438088536

    「お前がいなくなったら、私は一体誰と戦えばいいんだッ! 安斎ッ!!」 ぴん、と張りつめた糸を弾くような音がする。きっとそれは安斎から出ていた。 西住の涙で潤んだ視界が捉えたのは、高く平手を上げる安斎の姿。 悲しみも、怒りも、全てが疑問に変わった刹那。 ぱしん、という乾いた音が再び更衣室に響いた。 熱い感触が西住の頬を伝う。熱はやがて痛みとなって波及し、勢いよくスナップの利いた平手打ちは西住の瞳から涙を吹き飛ばす。 安斎はこれまで試合前に幾度となく見せてきた殺気を匂い立つほどに放ち、しかし口調は静かに、明朗に語る。 「中学でテッペン取ったくらいで最強気取りか、西住。  ふざけるなよ。お前がやってきたものは、お前が積み上げてきたものは、そんなつまらないものだったのか?」

    6 17/07/07(金)00:34:34 No.438088598

    静かに、しかし感情を押し殺したような声に西住の肝がぞくりと冷える。 安斎は数多の感情を湛えた目で西住を射抜くように睨み、そして静かに続けた。 「高校戦車道は広いぞ。私以上の能力を持つ奴なんて、ごまんといる。  私がいないならもう敵はいないだなんて、そんな調子に乗ったことは言わせないぞ。なあ、西住?」 西住は安斎の言葉を受け返答に詰まったが、やがて幾度となく口の中で呟くように言葉を繰り返し、 ようやく消化し切れたのか、やがてゆっくりと小さくうなずいた。 しかし納得しきれないものはあったようで、それからたっぷりと時間をかけ、ひとつひとつ、言葉を選ぶように吐き出す。 「……だが、お前がいない。なあ、お前がいないんだ。私にとってそれは、すごく嫌なことなんだ。安斎、分かるだろう……」 子供が愚図るように言う西住の姿に、安斎はやれやれと困ったように、しかし少し嬉しそうに息をつく。 それからくるりと背を向け、西日の差し込む更衣室の窓の前に立った。オリーブ色の大きなおさげがふわりと揺れる。

    7 17/07/07(金)00:34:52 No.438088657

    「夢が、出来たんだ」 何気なく口にする子供のような一言に、西住はぽかんとして顔を上げる。 安斎はいつもの人懐っこい、人を安心させる笑みを浮かべて続けた。 「お前との三年間、常に私の戦車道は勝つか、負けるかしかなかった。  いや、もちろん楽しかったさ。常に慢心せず持てる全てをもって殲滅してくるお前とやり合うのは、そりゃ、本当に楽しかった。  ……だがな西住、私は思うんだ。  勝利だけが、戦車道の大切じゃないんじゃないか……ってな」 西住には、安斎の言う事が分からない。 勝利するためのあらゆる方法を叩きこまれて育ってきた西住には、何も。 ……表情からそれを読み取ったのか、安斎はふっと窓から離れ、手を後ろで組み西住へ優しく笑いかけた。 心を蕩かすような、暖かな陽だまりの笑みだった。

    8 17/07/07(金)00:35:09 No.438088714

    「戦車道は、広い。きっと私たちのまだ見たことないような道が、まだまだある。  私はそれを見てみたい。そして──勝ち負けだけで終わらない、新しい強者の世界を作りたいのさ」 吹き込んだ風を背に受け、おさげを揺らしながら安斎は言う。 その堂々たる在り方は、あまりに眩しすぎて。 まほは少し目を細めながら、やがて長く、長く溜息をひとつついた。 「……退くのでは、ないのだな」 長く間を置き、確かめるように、あるいは懇願するように西住は言う。 その言葉は安斎の深い頷きを持って返される。西住はひどく安心したふうに息を吐くと、涙をぬぐって安斎とやっと正面から対峙した。 「お前は、別の道を行くのか。私とは違う道を……」 「ああ。私はあの高校で、それを探したい。  だから、だからさ。ごめん西住、お前とは、一緒に歩けない」

    9 17/07/07(金)00:35:27 No.438088782

    安斎の瞳をじっと見つめる。 その確固たる決意を持つ瞳に、西住はやがて根負けしたようにふいと天井を仰ぎ見た。 「……なあ安斎。  もしお前の選んだ道と、私の進んでいく道が、この先もう一度交わることがあったなら……」 安斎には、この後の西住の言葉が手に取るように分かった。 ニヤリと笑い、先んじて口を開く。 「ああ。その時は徹底的に潰し合おう」 西住も、安斎の言葉につられるようににやりと笑う。結局のところ、安斎もまた修羅である。 自分の獣性を隠し切れず、思わず互いに見合わせてその甘美なる未来予想図に微笑まずにはおられなかった。

    10 17/07/07(金)00:35:42 No.438088825

    かくして、二人の中学戦車道はここで本当の幕引きを迎える。 これから先、安斎千代美がアンツィオ高校にて如何にして「新しい強者の世界」を獲得するに至ったか…… それはまた、別の話。

    11 17/07/07(金)00:36:07 No.438088913

    テキスト! こんな感情豊かなお姉ちゃんがいてもいいよね! su1927943.txt

    12 17/07/07(金)00:38:57 No.438089430

    ダークサイドじゃない…だと?

    13 17/07/07(金)00:40:42 No.438089746

    いいね…青春してるよお姉ちゃん

    14 17/07/07(金)00:41:38 No.438089930

    正統派なまほチョビだ!

    15 17/07/07(金)00:44:24 No.438090436

    いい...

    16 17/07/07(金)00:44:25 No.438090438

    まだ戦車とは何かすら知らない者を誘い導き道を伝える それもまた戦車道

    17 17/07/07(金)00:44:28 No.438090450

    お姉ちゃんの膂力で殴られたらワンちゃん奥歯吹っ飛ばない?大丈夫?

    18 17/07/07(金)00:45:47 No.438090676

    この拳も この涙も 戦車道だ!

    19 17/07/07(金)00:48:10 No.438091089

    >この拳も >この涙も >戦車道だ! パンターを素手で大破させるゴリラお姉ちゃん来たな…

    20 17/07/07(金)00:49:10 No.438091260

    多分主要高校生キャラの中でノンナさんとお姉ちゃんのどっちが一番ゴリラかってくらいのゴリラだよね 多分きっとそう信じてる

    21 17/07/07(金)00:50:43 No.438091535

    戦車道INFINITI…

    22 17/07/07(金)00:53:12 No.438091971

    戦車は戦車でなければ壊せないのが一般的だが 別に西住流なら素手で壊せる

    23 17/07/07(金)00:53:54 No.438092081

    後丸太とか落石とかも割と効く

    24 17/07/07(金)00:54:55 No.438092248

    落とし穴も有効だ

    25 17/07/07(金)00:56:14 No.438092456

    よく言われるけど 三年一人 二年二人 一年40人くらいってめっちゃドラマあるよね絶対…

    26 17/07/07(金)00:58:29 No.438092875

    少なくともドゥーチェアンチョビ体制でのアンツィオ最後の1年は間違いなく奇跡の産物だろう

    27 17/07/07(金)01:00:27 No.438093202

    まほは受け継ぐ重さを背負ってるけど準備は全部整った環境での隊長で アンチョビの方は何もかも全部自分で作ってきたものを背負ってる重さだからねあの全国大会

    28 17/07/07(金)01:03:26 No.438093703

    怪我したらどうする!の所の狼狽えまくってる砲塔の動きいいよね…

    29 17/07/07(金)01:04:22 No.438093862

    というかあの大会で生徒戦車含めて部下を一番愛してるの間違いなくドゥーチェだと思うよ 他の隊長と登ってきた道が違う

    30 17/07/07(金)01:09:48 No.438094775

    大会の結果は二回戦敗退だけどいい物ができつつあるよね その道が大きく広がって続くといい

    31 17/07/07(金)01:20:24 No.438096417

    チョビは隊長のタイプとしておケイさんと似通った物があると思うけどあっちは大人数すぎて隊員全員把握とかは無理だろうな…