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23/06/04(日)21:28:45 No.1064166953
「………こりゃあ、参ったッスねぇ」 時は4月下旬。桜はもうとっくに散って葉桜となったころ 自分は我らが根城たるプレハブ小屋、その軒先を眺めながら頭を抱えていた 「こりゃ、もう手が出せないねぇ。残念だけど工事は少し先になるかな」 その横で同じように軒先を眺め、ため息をつくウマ娘 鉢巻き姿がよく似合う、『家をタテヤマ』もといファストタテヤマ先輩 「大体一カ月くらいでしたっけ?」 「そうだったはずだよ。まぁ、梅雨入りくらいには解決するんじゃないかなぁ」
1 23/06/04(日)21:28:56 No.1064167044
6月かぁ……と、首をひねる 「すぐ気づけばよかったんスけど、ここ最近草刈りとかもサボり気味でしたから………」 「まぁ、こればっかりは仕方ないさね。にしても………」 その軒先に、ちょこんと存在する灰色のそれが今回のお悩みのタネだった ぴいぴい、ぴいぴいと。可愛らしい声をあげて鎮座する鳥 俗にいう………ツバメが、そこに巣を作っていた 「かわいいな」 「かわいいッスね」
2 23/06/04(日)21:29:13 No.1064167166
● 「卵まで産まれちゃってたら、もう手出しはできないッスからねぇ」 後日。練習の休憩中 プレハブ小屋の軒先を見上げる、自分とプイ先輩、エールちゃんとソングラインちゃん、それにハギノモーリスちゃん そこにはしっかり完成してしまったツバメの巣に、卵と親鳥の姿があった 「ぷきゃー、可愛いプイ」 「親鳥もちょっと警戒してますね………」 「いつのまにできたんでしょうか!!!!!!!!!!!!」 「わぁ……い、いつ孵化するんでしょうか………」
3 23/06/04(日)21:29:24 No.1064167264
みんな並んで、軒先の巣を見上げる 本当はあんまり大人数でこうやって集まるのはよくないんだろうけど、ついつい気になって見てしまう 産卵してからあまり日が経ってはいないと思うが………ちょっと携帯で検索してみる 「大体孵化するまで2週間ほどらしいッス。その後飛び立つまでは………まぁ、見守るしかねーッスね」 まさか巣ごとこっそり別の場所に移すわけにもいかないし。かといって破壊するのはもってのほかだ 「つーわけで、プレハブの増築工事については少なくともこの子たちが巣立ちして、巣が空になったらってことでタテヤマ先輩とは話してるッス」 「仕方ないですね、こればっかりは」 「写真撮るくらいなら平気ですかね!!!!!!!!!!!!」 「あんまり近づきすぎなければオッケーッスよ」
4 23/06/04(日)21:29:36 No.1064167364
もうみんなすっかり夢中だ。まぁカワイイしね しかしそうなってくると別の問題がいくつも出てくるわけで。そっちを考えねばならない 「まず下に段ボール置いておかないといけねーッスね」 「ぷきゅ?なんでプイ?」 「フンとかが下に落ちるんで、不衛生ッスからね。あとヘビ避けも撒いておかないと」 「ヘビ!!!!!!!!!!!???????」 エールちゃんとプイ先輩が高速でバックしてしまう。ああ、もう。あの一件、トラウマ根深く残し過ぎだっての 「卵とかヒナを狙ってくるといけないんで、改めて防除を強化しておくッスよ」 「是非普段からお願いするプイ」 プイ先輩からの圧が強い。そこまでか
5 23/06/04(日)21:29:49 No.1064167441
「あとはカラスとかの他の鳥ッスけど………これは防ぎようがないんで、来ないことを願うしかないッスね」 あまり人の手を入れてもいけないだろうけど、せっかくなんだし無事に巣立ってほしいし悩ましいところだ とりあえず段ボール設置とヘビの忌避剤。これだけはやっておかないと それと、あまりこの下で騒ぐのは良くないだろうから気を付けねば。幸い普段からあまりここで何かすることは無いのでその点は大丈夫だけど 「ヘビは嫌プイヘビは嫌プイヘビは嫌プイヘビは嫌プイヘビは嫌プイヘビは嫌プイ………」 「ふえええぇぇぇ………」 「あ、あの………先輩方、大丈夫でしょうか………」 「ああ、大丈夫ッスよ。ちょっと前にトラウマ抱えてるだけなんで」 そういえばハギノモーリスちゃんは例の一件知らなかったか。まぁ知らなくてもいいだろう
6 23/06/04(日)21:30:01 No.1064167537
「ハギノモーリスちゃん、とりあえず段ボール持ってきてもらっていいッスか?ウチはこの二人なんとか現実に引き戻しておきますんで」 「は、はい。わかりました」 「落ち着けメイケイエール。な?ヘビいない、いないから」 半泣きになってるエールちゃんはソングラインちゃんに任せて、携帯電話のバイブレーションみたいに震えてるプイ先輩の頭を撫でてなんとか宥め始める にしても、まさかこのタイミングでこんなことになるとは。面倒ではないが、少し計画が狂ってしまった タテヤマ先輩はいいとして、あと姐御と聖剣先輩、トレーナーにも話を通さねばならないだろう 震えるプイ先輩を撫でながら、巣の方に視線をやって (妙な同居人ができちまったッスねぇ) そんな事を考えて、ふぅと息をついた
7 23/06/04(日)21:30:17 No.1064167633
● 「ひい、ふう、みい、よ………4羽ッスか」 あれから二週間ちょっとが過ぎた頃、練習の休憩時間 プレハブの軒先で、自分とプイ先輩、それと姉貴の三人並んで。その巣の育ち具合を確かめていた 「それって多いのか?」 「多くは無いッスけど、少なくも無い……はずッス」 「わぁ、並んで鳴いてるプイ。かわいいプイ」 そこには、無事に生まれた4羽の雛鳥の姿があった あれから毎日練習前に確認していたが、初めて声が聞こえた時は若干嬉しくなった辺りもう情が移ってきてるかもしれない 雛鳥たちは元気に鳴いて、親鳥の帰りを待ち続けていた
8 23/06/04(日)21:30:32 No.1064167745
「おい愚妹、これ巣立ちするのにどのくらいかかるんだ?」 「軽くネットで調べた範囲だと、三週間から四週間くらいみたいッスね。やっぱ6月頭くらいになるんじゃないッスか?」 「ふーん。まぁ邪魔にはなってねーしいいんだけどよ」 そんな事言いながらも、姉貴もちょくちょく様子を見ているのは知っている なんでも様子を見に行っているお年寄り宅にも巣を作っている個体がいて、お年寄りたちはそれを毎年の楽しみだと語っているとのことだ 確かに風物詩ではあるし、長いこと同じ場所に住んでいる方々からするとまた見方も変わってくるのかもしれない 「ここからなら写真撮ってもいいプイ?」 「まぁこんくらいなら大丈夫ッスよ。真下近くで騒いだり変に手を伸ばしたりしなければ」
9 23/06/04(日)21:30:49 No.1064167894
そう言うと、プイ先輩は嬉しそうに写真を撮り始める すると、そんな自分たちを尻目に飛来する何か。それは、迷うことなく巣に降り立って 「おっと、親鳥帰ってきたッスね」 「ご飯あげてるプイ」 丁度帰ってきた親鳥が、雛達にご飯をあげ始めた そろそろこっちの休憩も終わるし、そっとしておくとしよう。あまりストレス与えてもいけないし 「そんじゃそろそろ練習に戻るッスよ」 「ぷきゃー。帰りにまた見に来るプイ」 「ちょっと待て、爺ちゃんたちに見せる写真だけ撮っておくから」 そんなこんなで、雛鳥は無事に生まれることができた。あとはここから無事に育つかどうかだ。それは自分達にはどうにもできないし、頑張ってもらうしかない 願わくば健やかに育つよう願いつつ、自分たちはその場を後にした
10 23/06/04(日)21:31:04 No.1064168009
● 「………どうしようか」 「参った、ッスねぇ」 あれから一週間が過ぎた頃。自分たちは困惑していた その場には、自分とプイ先輩。それに姐御と魔女っ娘。四人並んで見つめるのはツバメの巣………ではなく その下に置かれた、段ボールの方だった 「見たところ、怪我とかはしてないみたいッスけど」 「早めに発見できてよかったね。野良ネコとかに見つかる前でよかった」 姐御の言う通りだ そこには、何かの拍子で落ちてしまったのだろう雛鳥が1羽、ぴいぴいと鳴いていた
11 23/06/04(日)21:31:19 No.1064168126
「ど、どうすればいいプイ?」 「戻すしかないよね。ハシゴどこにあったっけ」 「アタシがやるわ。一応軍手して、と」 他の雛を驚かせないようにそっと、ハシゴを壁にかけて 軍手をした魔女っ娘がそっと雛を掬い上げて、器用に、かつ慎重にハシゴを上っていく 「だ、大丈夫プイ?落ちないプイ?」 「大丈夫ッスよ。ああ見えて器用ッスから」 「親鳥もいないし、今の内だからね」 そう。親鳥が戻ってきてるタイミングだと、こっちが素を襲っていると勘違いされかねない 最悪の場合、それで育児放棄して巣を捨てられたりしたら元も子もない事だ。親鳥のいない間にそっと、かつ素早くやらねば そうして見守っていると、魔女っ娘は見事に一番上まで登り………
12 23/06/04(日)21:31:38 No.1064168265
「ほら、もう落ちるんじゃないわよ」 そう言って笑って、雛鳥を巣に戻した 「おつかれッス」 「降りる時も気を付けてねー!!」 「はいはい。あ、その前に」 そう言って、器用にもハシゴの上でポケットを漁った魔女っ娘は自分の携帯を取り出して 「一枚くらい、近くで撮らせなさいよね」
13 23/06/04(日)21:31:51 No.1064168374
パシャリ、と。シャッターを切った 「あ、ズルーい!!」 「その写真あとで欲しいプイー」 「グループメッセで送ってくださいッス」 こうして我らがチーム&1名は、雛鳥の救出を見事終えて 報酬に、何とも愛らしい写真を一枚手に入れることになったのだった
14 23/06/04(日)21:32:05 No.1064168466
● それから一週間後のこと プイ先輩と聖剣先輩と並んで、巣を見上げる。そこには、だんだんと様子の変わってきた4羽の雛がしっかりと鎮座していた 「おしくらまんじゅうみたいプイ。可愛いプーイ」 「上手い事育ってきてくれてるッスね。巣立ちももう少しって感じッスかね」 「このまま全羽巣立ってくれるといいんだが」 聖剣先輩の言う通り、まだ油断はできない ヘビや鳥、野良ネコなど、幼い雛の天敵は数多い。今まで順調に育っていても、何が起きるかはわからないのだ だが、雨風もあった中で逞しく育ってきてくれてるのは嬉しいことだ。あと一週間かそこらで巣立ちするはず。それまで頑張ってほしい
15 23/06/04(日)21:32:16 No.1064168555
「そういえば、今までプレハブにツバメが巣を作ったことってなかったプイ?」 「ウチの知ってる限りではないッスね」 「私も知らないな。恐らく今回が初めてだろう」 聖剣先輩がそう言うならそうなのだろう ツバメに限ったことではないが、野生動物は巣作りする場所はシビアに選定する。ヘタな場所に作ってしまえば最悪もろとも全滅になりかねないのだから当然だけど そう言う意味では、我らが根城たるプレハブの事は気に入ってくれたということだろうか。結構騒がしい場所だった気がするんだけど、いいのかそれで 「すっかりプレハブのアイドルになっちゃってるプイ」 「そりゃまぁ、気になるのはみんな一緒ッスからねぇ」 「あのジャーニーですら定期的に写真を撮っているんだからな」
16 23/06/04(日)21:32:35 No.1064168704
マジか。姉貴そんなことやってたのか なんだかんだ言いつつ興味津々じゃないかと。噛みつかれるので言わないけどさ 「これから梅雨の時期になると天候が荒れやすくなる。台風の懸念もあるし、出来るだけ早く巣立ちしてほしいものだが………」 「そっか、あんまり長引くと条件厳しくなるッスね」 「でも名残惜しいプイ。ずっと見てたからもう愛着マックスプイ」 気持ちはわからんでもないが、相手は野生動物だ 犬猫のように飼育できるわけでもないし、こっちの都合に合わせられるわけでもない。向こうにとって最良のタイミングで旅立ってくれることを願うことしかできない ぴいぴい、ぴいぴいと鳴く雛を見上げて願うのは一つ。どうかご無事に、ということだけだ 「さ、練習に戻ろう。我々も我々の為すべきことを為さねばな」 「ウーッス。んじゃ、いくッスよプイ先輩」 「一緒に走るプーイ」
17 23/06/04(日)21:32:53 No.1064168832
巣立ちまであともう少し その時を待ちわびながら、時は流れていく
18 23/06/04(日)21:33:05 No.1064168919
● 「いやはや。よかったのかなんなのか」 そして、一週間。その時は訪れ………ていた 「無事に巣立ったっぽいのはいいッスけど、若干寂しいッスね」 「随分気の早い子達だったプイ」 巣の中には、雛が2羽。そう、2羽だけがぴいぴいと鳴いていた どうやら、残りの2羽は自分たちの見ていない中で巣立ちを迎えたらしい。嬉しいやら、寂しいやらだ せっかくだし見届けたかった気持ちもあるが、それは流石に贅沢というものか。向こうの都合が第一だし 「で、でも、大丈夫なんでしょうか。本当は、何かに襲われてたり………」
19 23/06/04(日)21:33:17 No.1064169011
そう不安げに呟くのは、ハギノモーリスちゃん その考えもわからんでもない。正直自分も最初は疑った 「一応確認したッスけど、周りに争った痕跡……散らばった羽とか血の跡とか、そういうのは一切ないんで。大丈夫だと思うッスよ」 「よ、よかったです。無事に、巣立てたんですね」 グループメッセージでそのことを報告しつつ、写真を撮る なんだかんだ、最後の最後まで気にしてしまうのはもう仕方ないだろう。これだけ長い間見てきたのだから、愛着も沸くというものだ メッセージ欄には、安心したという言葉や巣立ちを見れなかったことが残念と言った文面が書き込まれて みんな気持ちは一緒か、と。ひとまずあとは、残った子達のことだ
20 23/06/04(日)21:33:29 No.1064169094
「の、残りの子達も………元気に旅立つと、いいですね………」 「そうッスねぇ。ま、気長に見守りましょ」 「せめて1羽だけでも巣立ち見たいプイー」 言いながらパシャパシャ携帯のカメラのシャッターを切るプイ先輩は、やはり名残惜しそうだ 「ま、そっとしておくッスよ。ハギノモーリスちゃん、筋トレ付き合ってもらっていいッスか?」 「あ、はい。わかりました」 「あ、ズルいプーイ。交代でやるプーイ」 「子供ッスかあんた」 そうして、普段通りの時間が流れつつも 刻一刻と近づく別れの日を、誰もが感じていた
21 23/06/04(日)21:33:46 No.1064169212
● 「………そろそろいきそうッスね」 朝練のためにやってきたプレハブで、それは訪れた 朝日差し込む中で、プイ先輩と二人。肩を並べて、その巣を見る そこには、残された1羽だけ。たった1羽だけの雛鳥、いや………立派なツバメが、巣の淵に立っていた 「だ、大丈夫プイ?落ちちゃわないプイ?」 「頑張れって祈るしかできんッスよ。こればっかりはどうにもならんッス」 ヘタに手を出せば、その貴重なタイミングそのものを壊してしまいかねない 成り行きに任せるしかない。とは言いつつも、自分も目が離せなかった 朝早くのこの時間に、その1羽は勇敢に羽ばたこうとしている。正直、その瞬間に立ち会えるとは思ってなかったが……… 幸運なことだ。しっかり、この目で見届けようじゃないか
22 23/06/04(日)21:33:59 No.1064169293
「………頑張れ」 プイ先輩の、小さな声での応援。それが届いたのかどうかは、わからない ただ、間違いないのはその瞬間……… 「………あっ!!!」 その1羽のツバメは、立派に………本当に立派に、空へと飛び立ったということだ 「………正直、他の子達よりかなり遅れてたから心配してたッスけど」 いらん心配だったか、と息をついて。プイ先輩の方を見る どこか名残惜し気に、それでも嬉しそうに。その顔は笑っていた
23 23/06/04(日)21:34:11 No.1064169392
「また来年も、ここに巣を作りに来てくれるといいプイね」 「そうッスねぇ。ま、そのためにもきっちり綺麗に増築工事終わらせましょ」 さて、そうしたら今度はタテヤマ先輩や生徒会その他との話し合いだ。増築工事の日取り、詳しく詰めねば グループメッセージで無事全羽巣立ったことを報告して、上を見上げる その巣にはもう何もいない。あるのはただ空の灰色の巣だけ 今頃みんなどこを飛んでいるのやら。無事にエサを取れてるだろうか、梅雨入りで雨は大丈夫だろうか、不安はたくさんあるけど 「ウチらもツバメに負けてられねーッスよ。やること山積みなんスから」 「ぷっきゅん。まずは今日のトレーニングプイ」 「そうそう。さ、他のメンツ来たら早速準備運動してランニングッスよ」
24 23/06/04(日)21:34:23 No.1064169486
あれだけ頑張ったあの子達に負けないように、こっちもやることやっていきますか、と 靴先で地を叩いて、地面の感覚を確かめる 「………?」 ふっ、と 空を、何かが横切ったような気がした 「………頑張れ」 こっちも、頑張るからと
25 23/06/04(日)21:34:35 No.1064169583
「ぷきゅん?どうしたプイ?」 「なんでもねーッスよ」 校庭の方から手を振ってやってくるチームメイトたちを出迎えて、今日一日が始まる その始まりは、どこか切なく、どこか温かく、どこか嬉しくて 「は、しゅーごーぅ。準備運動からいくッスよー」 どこか勇気をもらったような。そんな気分だった
26 23/06/04(日)21:35:15 No.1064169894
以上。お題貰ったので酒飲んで舎弟した 連覇本当におめでとうソングラインちゃん
27 23/06/04(日)21:37:45 No.1064171002
ソングちゃんめでたいね本当に…