虹裏img歴史資料館

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23/03/06(月)01:42:07 カーデ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1678034527849.png 23/03/06(月)01:42:07 No.1033350950

カーディガンのポケットを意味もなくまさぐり、落ち着けない気持ちをなんとか落ち着かせる。必要事項をもう一度確認しよう、合鍵はちゃんとキーケースに入っている、朝も早い時間だから誰かに見られることもない、LANEの通知が突然鳴り響くことだってない。条件はだいたい全部問題ないはずなのに、心臓はばくばくと叫び続けていて、治まるところを知ってくれない。  私たちはもう、今からそっちに行くわなんていちいち言うような関係じゃない。けれど決して『そういう』関係でもない。どっちつかず、付かず離れず、でも多分離れるときは光よりも速い。そんな間柄をずうっと続けている。  私が今いるのはあの人の、私を支え続けているトレーナーの住む寮の、自室の前。私……そう、キングヘイローが此処にいる理由は非常にシンプル。もう一歩だけ、ほんの一歩先に進むため。そのためだけに他ならない。  なんでまた今日に狙いを定めてしまったかって、そんなのは解法の分かっている数式に手を出すより簡単なことだ。私たちが歩む道のりにおける進展の遅さを友人に相談したら、 『えっ……私よりも奥手だなんてさあ……キングの矜持が泣いちゃうんじゃない?』

1 23/03/06(月)01:42:46 No.1033351057

 憐れみ混じりな感じでその後も煽られまくり、いてもたってもいられなくなり、最終的にカッとなって。 「そこまで言うなら良いわスカイさん、あなたに私たちを祝福する権利を……翌日か……その翌日あたりにはあげるわ!」  なんて、大見得を切ってしまったのが主な理由だ。ああもう私のおバカ、何やってるのよと思っても後の祭り。ここで日和れば一生この思い出話が私に付いて回るだろう、不名誉な形で。  まあ、その。  本当は、ね。  あのひとの口から最初の契りを貰いたかったけれど、フィクションにあるようなつやつやした夢を叶えて欲しかった気持ちはあるけれど。こうなったらもう割り切って、呼吸をしっかり整えて次のステップへ行くしかない。誰かが歩めば誰かも歩む。私はもう止まれないのだから、歩み切るより他にないのだ。 「よしっ!」  顔を挟み込むようにして両頬を手のひらで軽くうち、デニムパンツのポケットよりキーケースを取り出す。数本の鍵束から彼の部屋の合鍵を手にとって、気合を込めて鍵穴にそれを挿し込む。

2 23/03/06(月)01:43:20 No.1033351177

 かちり、こん。錠の外れる音はいつだって重たくはない。私にとってはひどく開け慣れた音が未だしじまの中にある朝に響く。深呼吸を数度繰り返してからドアの取っ手を掴み、彼のもとへ通じる道を開いていく。普段通りの気軽さで入ればいいのに、なんでこんなに音を立てるのを怖がっているんだろう。杞憂になればいいことを敢えて憂慮するなんて、余裕のある人間だけに許された行為なはず。気高き一流のウマ娘であるはずの私に、余所事を考える必要なんて有りはしない……はず! 「……失礼します」  と、意気込んでは見たものの、存外身体は正直だった。別に言う必要のない断り文句を入れて、彼の住む居心地の良い狭さの部屋へと、そろり一歩忍び二歩。抜き足差し足しながら、遠慮がちに玄関へ踏み入った。靴を脱いで隅に並べて、雑に脱がれた彼の靴をそっと並べて、カーテンによってもたらされた薄闇が支配する廊下の奥を進んでいく。  朝のこぼれるリビングに満ちるのはいつかに彼に見繕った、い草の香りがする芳香剤の匂い。その中で、きっと私たちにしか、いいや私にしか嗅ぎ分けられないだろう彼の匂いが、ふわりと香る。

3 23/03/06(月)01:43:57 No.1033351301

匂いは肉体の好不調を示す重要なバロメータで、今日もその香りは普段通り。少し不健康そうな、優しい気性を模ったような香り。それが強まる方へ、見知っている室内を歩いて、すぐに彼の寝室へと辿り着いた。 「相変わらず、殺風景ね」  寝室を彩るものはごく少ない。タンス、クローゼットに本棚がいくつか。あとは作業用の机の上に多年草の観葉植物が飾られているぐらい。だからいつも私は、彼の部屋の空隙を満たすために、形になるものを残していく。  デザインの勉強を兼ねて作った、モッコウバラを模したコサージュを、卓上に置かれたピンボードにそっと留める。ああ、でも。今日はこれだけで終わるつもりはない。すやすや眠る彼の顔にも、何か特別なものを施してあげたい。空いたベッドのスペースに腰を掛け、新陳代謝が齎したのだろう、かすかにべたつく前髪を指で梳く。光源の薄いこの部屋の中で、きっとこの学園の中で私にしか知り得ない場所、暗がりにあってもわずかに見える肌色の額に目を凝らす。

4 23/03/06(月)01:44:20 No.1033351384

「可愛い」  どうして、このひとを好きになってしまったんだろう。これまでずっと好きで居続けられたんだろう。私たちを別つものなんてそれこそ当たり前のように、現実のそこかしこに存在しているのに。どうして、ここまで来れたのかしら。心の中で呟きながら、閉じ切られた彼の瞳の下、隈の色が残るそこに触れて。違和感から身をよじり、不満げにうめくその姿に。どうしてか、これまでずっと一流を目指してきて良かったなんて感情が結びつく。 「そうね」  具体性の無い感情の結びつきは多分、私が思うこの繋がりの本質なんでしょうね。あなたに告白しようって直前に気づかされるなんて。ホント、おバカが抜けないわ。時計ももうすぐ六時、そろそろアクションを起こしてやらないと。 「ほら、朝よ。起きなさい、トレーナー」 「……ん、あ……朝、あ……?」 「おはよう、遅い起床なんじゃないかしら?」 「は……まあ今日は休みで……おわっ?! なんでこんな朝早く……!?」 「あははっ、驚き過ぎよ、おバカ」 「いや、びっくりもするよ! 起きて突然キングが居たら……」

5 <a href="mailto:おわり">23/03/06(月)01:44:48</a> [おわり] No.1033351468

 ねえ、聞くわよトレーナー。  私は、あなたにとってふさわしい人で在れているかしら? 「ところで。朝一番だけど、聞いてくれる?」  もう一つ、トレーナー。  私は、あなたにとっての超一流で在れているかしら?  あはは、ごめんなさい。  聞いたところであなたはきっと、当たり前だろとしか返してくれないわよね。 「あ、ああ。なんだい、キング?」  そっけない素の表情がその証拠だもの。疑っていない、信じてくれている、キングヘイローという存在を心の底から。なら、ここから言葉にするのは、私の意志。一流という称号を今日も更新する為の、それだけの意志。 「私ね……」  あなたのことが、好き。  世界中の、何よりも。

6 <a href="mailto:s">23/03/06(月)01:45:54</a> [s] No.1033351691

自分から好きって言いにいくキングが見たかったので… 二番煎じ感強いけどお許しを…

7 23/03/06(月)01:48:33 No.1033352167

これは良いものだ…

8 23/03/06(月)02:01:08 No.1033354514

いいね…

9 23/03/06(月)02:01:20 No.1033354555

いい…

10 23/03/06(月)02:02:17 No.1033354758

い…

11 23/03/06(月)02:03:52 No.1033355019

12 23/03/06(月)02:08:31 No.1033355783

ヒョエエ…

13 23/03/06(月)02:15:11 No.1033356746

し、しんでる…

14 23/03/06(月)02:44:04 No.1033359930

朝一番に目が覚めたらキングがいてさらに告白されるとか都合のいい夢と勘違いしてもおかしくねぇな…

15 23/03/06(月)05:32:21 No.1033371366

ところでセイちゃんほんと? ほんとに行くところまで行けた?

16 23/03/06(月)06:39:33 No.1033374171

>ところでセイちゃんほんと? >ほんとに行くところまで行けた? .......

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