23/03/06(月)00:01:04 旅立ち... のスレッド詳細
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23/03/06(月)00:01:04 No.1033322730
旅立ち。 いつも住んでいたところを離れ、別の場所に。 新しい場所に行ける高揚感と、未知の場所への不安と恐怖。 それはみんなが味わうものだろう。 彼女も、そうなのか。 その時、自分はどうするべきか。
1 23/03/06(月)00:01:46 No.1033322947
ホウエンから帰って。 レッドは自宅のソファに腰を下ろした。 「あー、久しぶりの我が家だ」 石化から蘇って。 悪者を退けて、図鑑所有者同士で戦って。 たった数日だが、ホウエンでの日々の疲れが帰宅してからドッと出た。 肩に重荷がのしかかるような負担。 もはや指一本動かすことすら億劫になる。 瞼すらも重く感じてきてしまう。 「いや、せめてベッドで寝ないと…」 口ではそう言っても、身体は動かない。 そのままレッドは睡魔に勝てず、眠りに落ちてしまった。
2 23/03/06(月)00:02:52 No.1033323299
音がする。 何かの音。 機械の出す電子音。 それがレッドの耳に入ってくる。 その五月蝿さに、次第に眠気が晴れていく。 瞼を開けると、テーブルの上に置いていたポケギアが目に入る。 音はそこから出ているようだ。 重い腕を無理矢理動かして、それを手に取る。 カバーを開くと、そこに表示されていた名前を確認する。 ブルーだ。
3 23/03/06(月)00:03:06 No.1033323383
つい先日どころか、マサラにたどり着くまでは他のみんなと一緒に行動していた。 彼女と両親の再会を見届けてから解散して、帰宅したのだ。 その彼女が自分に何の用なのか。 寝起きの頭では判断がつかず、やむを得ずそのまま通話を開始した。 「もしもし?」 「レッド、こんな時間にごめんね。寝てた?」 「あ、うん。家に着いた途端に寝ちゃってさ」 「アタシもよ。 パパとママと再会できたら気が抜けちゃって」 無理もないだろう。 紆余曲折はあったが念願の両親との再会だ。 長年の夢が叶うとなると、その安堵感や達成感は想像もつかないほどになろうとも思う。
4 23/03/06(月)00:03:42 No.1033323576
「改めておめでとう。 両親と再会できて」 「ありがとう。 レッドや、みんなのおかげよ」 礼を言われると恥ずかしい。 見返りを求めてのことではなかったが、こうして感謝されると嬉しさでむず痒くなる。 「あれ?今何時だっけ?」 「夜の8時よ。 アタシもついさっき起きたんだけどね」 窓の外を見てみると、すでに明るさは失われている。 そういえば腹も減ったような気もする。
5 23/03/06(月)00:04:30 No.1033323802
「結構寝てたな…。 家に着いたのは昼だったはずなのに」 「色々あったもの、仕方ないわ。 それより、レッドにお願いがあるんだけど」 「オレに?」 自分にお願いとは。 過去のことを思い出す。 いいように利用されたトラウマを。 「レッドしか頼めないの。ダメ…?」 「う…」 涙目になったかのような口調でこちらに語りかけてくる。 それもまた出会った頃の彼女に騙された件を連想される。 でもあれからブルーも改心した。 あの時のようなことはもうしないだろう。
6 23/03/06(月)00:05:43 No.1033324173
「オレでよかったら、力を貸すよ」 「ほんと!?ありがと!」 スピーカーから彼女の嬉しそうな声が聞こえる。 それで喜ぶのなら、よかったのだろうとは思う。 「それで、いつになるんだ?」 「今日は遅いし、明日でいいわ。 今日は疲れをとるためにしっかり寝ましょう」 「ああ、それでいいよ」 この後すぐになると正直辛かった。 だからその提案はありがたい。 「じゃあ、おやすみレッド」 「ああ、おやすみブルー」
7 23/03/06(月)00:05:57 No.1033324236
通話を切って、ポケギアを閉じる。 「ふぅ…」 再び、ソファに身を沈める。 何の用だったのか。 自分にしか頼めないこととは。 まだ頭の回転は正常に戻った気はしない。 こんな状態の頭脳では思いつかなかった。 「いや、わからないことは考えても仕方ないか」 気分を切り替えて、ソファから立ち上がる。 まずは腹ごしらえだ。 それを終えたら風呂に入って早く寝よう。 今日の休息と、明日への備えのために。
8 23/03/06(月)00:10:54 No.1033325719
翌朝。 レッドはブルーに連れられてある場所にいた。 「ここは?」 「アタシの隠れ家よ。 留守中に誰にもバレてなくてよかったわ」 彼女の案内で隠し通路を進む。 そのままモニターの設置された部屋にたどり着く。 「それでね、レッドにお願いしたいことなんだけど」 ブルーに手を握られる。 彼女の小さく、細い両手で自分の手が覆われる。 どきり、と自分の心臓が跳ね上がる。
9 23/03/06(月)00:20:39 No.1033328736
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10 23/03/06(月)00:21:22 No.1033328968
「な、なんだ?」 「こんなこと頼むのも悪いんだけど…」 潤んだ目で見つめられる。 いけない。 このままでは彼女に誘導される。 自分はブルーに弱い。 出会った頃から、彼女にペースを握られると巻き返すことができない。 彼女の美貌か。話の運び方か。 どちらにせよ、面倒なお願いになりそうだ。 だが断れない。 あの目を見てしまうと。
11 23/03/06(月)00:21:46 No.1033329115
さすがに話を聞く価値もないようなことならば断れるだろう。 だが、彼女とて自分がそういう反応をすることくらいは想定しているだろう。 その上でこうしてきている。 つまり、自分が聞いてしまいそうな範囲のお願いになる。 そうなると、自分では拒絶しきれない。 彼女のお願いを聞いてしまう。 「あのね、それは…」 「それは…?」 聞き返してしまう。 それが、彼女の話から逃げることを自分から放棄してしまうということなのに。
12 23/03/06(月)00:28:12 No.1033331237
「引越しを、手伝ってほしいの」 「…へ?」 拍子抜けした。 どんな無茶なお願いになるかと思ったが。 いつのまにか緊張で固まっていた肩の筋肉から力が抜ける。 そんなレッドの様子を見て、ブルーが笑う。 「変なお願いされるって思ってた?」 「う、うん。 頼み方が大袈裟だから、何かあるんじゃないかって」 「レッドならそういう反応するって思ってたから。 わざと紛らわしい言い方にしてたのよ」 「わざとか…」 脱力してため息をつく。 怒る気にはなれなかった。 それ以上に、安堵の方が強い。
13 23/03/06(月)00:35:58 No.1033333799
「でもそれって、オレにしかできないことなのか?」 「グリーンはジムの仕事溜まってるだろうし。 年下のみんなを呼んで引越し手伝わせるのもかわいそうだしね」 「なんだか消去方みたいだな…。 まあそうなると確かにオレくらいしか手伝えないだろうけど」 辺りを見回す。 綺麗に整頓はされているようで目立ったゴミや汚れもなく、清潔に見える部屋。 「ここでブルーは生活していたのか」 「まだまだ部屋はあるけどね。 さすがに全部パパとママのいる家に持ち込むだけのスペースはないから服とかの一部くらいで他はここに置いておくわ」
14 23/03/06(月)00:38:15 No.1033334571
「ここはまだ使うのか?」 「ええ。こんな大きなモニター置いておける場所もそんなにないだろうしね。 新しく探すくらいなら使い続ける方がいいわ」 そうかも、とレッドも納得する。 「それじゃ、初めましょう。 ダンボールはそっちにあるから使って」 「ああ、わかった」 彼女に従って、ダンボールを手にした。
15 23/03/06(月)00:43:28 No.1033336389
「レッドはそっちのタンスお願い」 「ここか?」 彼女の指し示したタンスに近づき、引き出しを引く。 その中には、彼女の衣類があった。 シャツやスカート。 下着までそこに収められていた。 慌てて目を背ける。 「ちょっ、ブルー!?」 「レッドが触ってもいいわ。 あなたに触られたくないのはもうあらかじめ片付けてるし」 「これも片付けておいておいてくれよ!」 「だって面白そうじゃない? 女の子の服や下着見つけたレッドがどう反応するか」
16 23/03/06(月)00:50:31 No.1033338605
楽しそうにブルーが笑う。 「女の子として、男に服とか見たり触られたりするのに抵抗くらいもってくれよ…」 「別に抵抗くらいあるわ。 単にレッドならいいかなって思うだけで」 「抵抗あるって言えるのかなそれって…」 と、そこで気になった。 「…あれ?ブルー、オレにならってどういう…」 「さぁ?どういうことかしらねー」 まだ、彼女は笑う。 こちらを見ている彼女。 その内に、どんな感情を秘めているのか。
17 23/03/06(月)00:56:20 No.1033340298
わからない。 少なくとも、何かあれば助けてくれる程度には好意的には見られている。 それくらいはわかる。 だけど、その感情はなんなのか。 自分に対して、何を思っているのか。 レッドはうまく言葉にする術を持たなかった。 「さ、遊ぶのはこのくらいして。 作業の続きしましょう」 手を打って、ブルーが話を切り替える。
18 23/03/06(月)00:57:39 No.1033340630
これでこの話は終わり。 彼女がそう意思表示している。 ならばこれ以上は話は進まないだろう。 彼女が望んでないのだから。 そう判断してレッドは目の前のタンスに視線を戻して、 「いややっぱりここはブルーがしてくれよ!」 「もー、しょうがないわねー」 結局触る度胸もなく、彼女に交代した。
19 23/03/06(月)01:04:19 No.1033342443
「ふー、疲れた」 作業を終えて、一息つく。 持っていくダンボールの数はそこまで多くはなかった。 だが、思ってたよりダンボールの一つ一つに梱包するという作業が辛かった。 基本的に自分のことは自分で解決するブルーといえども、他人の手を借りたいと思うのも理解できた。 と、目の前にペットボトルが差し出される。 「手伝ってくれてありがとう。 これお礼ね」 「ありがたく受け取っておくよ」 彼女からペットボトルを受け取って、飲む。 スポーツドリンクの栄養素が身体に染み渡る。
20 23/03/06(月)01:09:01 No.1033343677
ブルーが隣に腰掛ける。 2人でペットボトルの中身を空にして、ゴミ袋に入れる。 「ねぇ、レッド」 「ん?どうした?」 ブルーの顔を見る。 そこから、憂いを感じる。 疲労からではない。 なにか、悩みを抱えているような顔。 そんな様にレッドには思えた。 「アタシ、マサラの生活に馴染めるかな?」 口を開くと、そんな発言。 内心の不安。 それを吐露していた。
21 23/03/06(月)01:12:02 No.1033344431
「アタシ、生きるためにいろんなことして。 悪いこともいっぱいして。 そんなアタシが、まっさらなあの町に。 あそこにいて大丈夫なのかな」 彼女が自分の手を見る。 かつてはそこに白い手袋をつけていた。 でも今はない。 素手のまま、何にも覆われていない手がそこにあった。 彼女は何を思うのか。 その手が汚れている。 そんな風に思っているのかもしれない。
22 23/03/06(月)01:16:07 No.1033345423
そっと、彼女の手を取る。 素手と素手。 手の肌同士が触れ合い、柔らかい感触に驚く。 でもそれを押さえて、彼女に語りかける。 「大丈夫だよ。 マサラはブルーを拒絶しないし、ブルーだってあそこに住んでも馴染めるよ。 無理でも、オレが助けるから」 「…ほんと?」 弱々しい声、目。 いつもの力強いそれからは想像できないくらい、儚い。 それに庇護の気持ちが出てくる。
23 23/03/06(月)01:20:24 No.1033346416
「これまでブルーは頑張ってきたんだし。 悪いことしていても、それ以上に苦しんだんだ。 だから、もう充分だ。 幸せになっていいんだよ」 手を握り返される。 弱い力。 こちらに縋り付くような、幼児のような力。 「…うん」 彼女の額が、手に当たる。 何か冷たい感触がした。 それは涙なのか。 確かめる気にはならなかった。 しばらく、そうしてあげたい。 ただそれだけを考えていた。
24 23/03/06(月)01:23:36 No.1033347205
その後。 隠れ家を後にして。 「ありがとう、レッド。 本当に」 「あ、うん。それはいいんだけど」 ゴン達に荷物を持たせての帰路。 レッドはブルーにしがみつかれていた。 彼女の柔らかな肢体。 それがレッドに押し付けられる。 普段は意識しないようにしてはいるが、彼女は異性だ。 起伏に富んだ身体の感触から否応にも意識せざるを得ない。
25 23/03/06(月)01:27:58 No.1033348135
「アタシ、ほしかったものがみんな手に入った。 その後どうしようって思ってた。 でも、次にほしいものはすぐに見つかったわ」 「そ、それって?」 尋ねてみると、彼女は少し考えてたから満面の笑みを浮かべた。 「まだレッドには教えなーい♡」 「な、何だよそれ…」 何を彼女が欲しているのか。 こうして彼女が上機嫌でひっついていることに関係があるのか。 レッドには理解できず、ただ彼女のペースに流されていた。
26 23/03/06(月)01:28:13 No.1033348201
以上です 閲覧ありがとうございました
27 23/03/06(月)01:38:44 No.1033350251
久しぶりの6章終了直後くらいのレブルです 最近エンジンかかって筆が進むまでが遅くてすみません