22/12/30(金)01:53:50 じゅう... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1672332830430.png 22/12/30(金)01:53:50 No.1009581470
じゅうにがつ、にじゅうはちにち。天気は晴れ、時刻は十六時と三十分を過ぎたくらい。夜色の緞帳が近づいて来てるのを見て、思う。一年って本当にあっという間だなあってことを。恋人たちにとって忘れたくても忘れられないイベントもとうに終わって、今年を数えるのもあと三回で済むところまできた、来てしまった。名残惜しいとかは特にないけれど、どうにも早すぎる気がして不思議な心地でいっぱいだ。 ここに至るまで、色々なんて二文字じゃ収め切れないくらいにたくさんのことがあった。様々な思い出と記憶の束を引き連れながら、あのひとのレンズに収めてきたわたしの姿は、誰が見たってきっと忘れられない、まぶしい輝きを放っているだろう……って、自信は持って、胸を張って言い切ることが出来る。けれど、まだちょっと。今年分のアルバムにはちょっとだけ。撮影してきたピクチャーの枚数が足りていない。フィルムの容量は十分に残っている、だから追加でぱしゃりが必要なのだ。そんなわけで、どどん。今、わたしがいるのは調布駅の片隅。空がちゃんと見えるところで、心なしかそわそわしながらわたしは待ち人が来るのをどきどきじいっと待っている。
1 22/12/30(金)01:54:19 No.1009581584
自分のことぐらいある程度分析できているつもりだ。マーちゃんはとってもずるいやつだってことぐらい、とうの昔に分かっている。色々並べ立てたけど、単にクリスマスイブとクリスマスの二日間だけじゃ、わたしが由としている記憶と記録が満足できなかったってだけなんだから。 なのでまあ、今日の目的はいわゆるところのデート、のつもりなのだけど。正直なはなし、あのひとがそう思っているかは分からない。なにせ女の子の機微にはすごく鈍感なひとだし、わたしの誘い方も良くなかった気もするから。 クリスマスが終わったからこそ、クリスマスっぽいことをしたい、いいえするべきなんです。クリスマスと年末のあいだっていう、記憶に残りづらい場所だからこそ。 ですからね、トレーナーさん。クリスマスも楽しみですけど、本題はそのあとなのです。お掃除とかに追われがちなこのタイミングにあえて、二十四と二十五の時間を追体験して楽しむのって。忘れられない記録にするには、大変おあつらえ向きじゃあないですか?
2 22/12/30(金)01:55:02 No.1009581725
これがわたしの、照れを隠したうえで伝えられる、真面目な誘い文句の限界地点だったのだけど。うむむ、困りました。あのひと、マーちゃんの大事なトレーナーさんでは、分かってくれない気がとってもしています。だって、あのひとったら。ああ、分かった。忘れられない思い出を、その日もたくさん作りに行こうか、としか言ってくれなかったのだから。ほんとう、ぼくねんじん、とうへんぼく、かいしょうは……あるとは思うけれど。まあともかく、ともかくとして。待ち始めて十分とちょっと。腕にした時計を確認、約束した待ち時間まであと一時間に少し。当然だけど、あのひとが着く兆しはまだ見えない。なので、せっかくだし。おめかしした自分の服装なんかを事細かく分析しちゃおう。 今日のコーデは大人しめなナチュラルガーリー。それに冬と言う概念をプラスしてあげる。あのひとはやわらかいものがとっても好きだから、今日は全身をもこもこにしてみた。お出かけ使いしているモカブラウン基調のファーコートに、軽いアクセントを付加したいからしゅっとした感じのワイドパンツを合わせたら、過ぎてしまったクリスマスをきちんとストールに残してあげて。
3 22/12/30(金)01:55:45 No.1009581874
出発前に姿見で確認したときは、ぽかぽかに着飾ったふくよかな羊さんに思えたけれど、冬の夜にはこれが案外ちょうどよくて。忙しなく身体を擦らなくても十分な温もりは確保できていた。 にしても、わたしから待つって久し振りだ。どこかに出掛けようって待ち合わせをすると、あのひとはいつもわたしより先に着いている。 待ちましたか、と問いかければ形式ばった口振りで、今来たところだよ、としか返してくれない。どうしてそんなに早く待ってるんですか。そう聞いてみたら、分かりやすいガイドポストが立ってたら君が迷うことなんてないだろう、ってはてな顔で返される。そんなことばっかりだ。 ほうっ、と。なんでか不満な溜め息を、透明なだれかに向けて飛ばす。溜め息はその温度差によって白く染まり、空に舞ってやがて霧となり晴れて散る。わたし、アストンマーチャンのトレーナーさんは、とってもいいひとなのだけど結構……ううん、ひじょうにおかたいひとなのだ。わたしの口をたびたび尖らせてしまうくらいに。
4 22/12/30(金)01:56:34 No.1009582041
なのでたまには。あのひとの画角では映せないところから、忘れられない一枚の記憶をプレゼントしてあげたいんです、マーちゃんは。いいおんな、ですので。ふふん。まあ、至極単純なお話で、驚かせてあげたいってだけが原動力ではあるけれども。 また、空を見上げてみる。待っているあいだ、スマホは弄らない。あのひとを待つこの時間は、別に全然退屈じゃないから。のんびりと眺めるんだ、時間の過ぎ行くさまを、流れゆく雲の動きから。ただ、分と秒を持て余して、空を見上げることを繰り返していると。あと十数分後には何度見上げたか分かんなくなってしまいそうだけど。まあ、今はまだ流石に手の指があれば数えきれる量だから、黒ともつかない濃い色の、奥の奥に見つけたいものを探すため、わたしは空をぐうっと覗き込む。
5 22/12/30(金)01:57:27 No.1009582287
お祭りの縁日で歩いているカップルより進みの遅い、遠くの雲にフォーカスが合う。天から降る柔いあかりは、地上から数えてちょっとの強いライトに消されている。時の流れがゆっくりしているように感じる。ほんのりざわざわしているのは都会だけにある喧騒。爽やかに吹き渡る風たちが、森の小梢を揺らした音じゃ決してない。普遍的で、通俗的で、特別な名前をあげられないくらいありふれている。けど、それがとてもいい。 薄ピンク色したミトンで作る、ごてごてした指フレームで。上手に風景を切り取ったら、ぱしゃり。うん、今日もいい写真が撮れました、なんて風に思いながら。心のポラロイドカメラから産まれた写真を、自分だけにしか見えないし開けない、アストンマーチャン謹製のアルバムへと仕舞い込む。 「うん……」 空の遠く、はるかはるかとおくから、ぽこんぽこん。ウッドブロックを叩いたみたいな、耳心地のいい音が聞こえているような気がする。口元がちょっぴり冷えてきたから、ふわふわミトンに包まれた両手で口元を覆う。
6 22/12/30(金)02:02:48 No.1009583449
そしてそのままゆっくり息を吐く。赤ちゃんのお風呂ぐらいの体温が生んだ、ほんのりと温かいわたしの風が、とってもじみ~な感覚で唇とかをつんつんしていた冷たい棘を外していく。 終わりの始まり染みたイベントも終わって、遂に年末の最後へと向かう街の雑踏は、もう随分とささやかなものになっている。そりゃあここは東京のひとかどだから、ひとは沢山いるけれど。これだけみんなが家にこもれば、待っている誰かを見つけるのなんて難しくもないはずだ。何より、わたしは多分目立つ。だって目立てるように自分を仕立て上げてきたんだから。 「まだかなあ、トレーナーさん」 ぽつり、そうつぶやいた瞬間。 「呼んだかい、マーチャン?」 「ひゃっ……?!」 驚かせるために待っていたはずのわたしが。鳩さんが豆鉄砲を食らったみたいに、とっても盛大に驚いた。 「そんなに驚く……?」 「驚きますよ、だってマーちゃん物凄い早く来たんですよ、一時間も前に来るだなんて思いもしてませんでしたから」 「まあそれもそうか。でもまあ俺も別にいつもこんな早く来てるわけじゃないぞ?」
7 22/12/30(金)02:03:58 No.1009583692
「……むっ、それは嘘です。だっていつもわたしより随分早く来て……」 「いや、違うんだよ。単になんとなく。いつも思うだけなんだ」 「いつも、ですか?」 「そう、いつも。なんとなく、この時間には着いてそうだなって。なんとなく、さ」 ああ、本当に心臓に悪いひとだ。わたしの悪だくみを予見していただなんて。だって言うのに、どうしてこんなに嬉しさが込み上げてくるんだろう。いや、今更知らない子ぶったって意味なんてない。わたしは、このひとに。自分の予想を上回られるのが嬉しくて楽しくてたまらないんだ。 覚えられていたいからって。もう随分と思い出を撮ってきたと思っていたけれど。多分、いいや絶対。まだまだぜんぜん写真は足りていないのだ。忘れるとか覚えているとか、そういう問題はもはや些末事で、ただ単純にもっとあなたの写真が欲しい。シャッターチャンスなんて要らない、だってもうあなたと居る全部の風景がわたしにとっての『覚えていたい光景』に違いないから。
8 22/12/30(金)02:04:37 No.1009583841
一が始まって、ようやく終わって。二を踏み越して、その次に。わたしがしたいことはきっとこの、二の次を築くこと。それがきっと、アストンマーチャンを形作るための大事なポイントになるはずだから……ううん、そうなるから。手袋をのかたっぽをポケットにしまって、剥き身になった左手をあなたに、わたしのトレーナーさんに差し向ける。 「今日も、あなたの瞳に。わたしを刻んでくれますか?」 言葉は特に返ってこない。その代わりに、もう見慣れてしまった不器用な微笑みが、あのひとから漏れ出して。そのあとで、優しく。骨ばっていて頑丈なあのひとの手が、わたしの手を包み込むようにやさしく取って。 「ああ。行こうか」 そう事もなげに言い放って、わたしの歩調に合わせるように立ち止まる。あなたのレンズがわたしを捉える。顔は、もう隠せない。照れちゃってるのもばればれだろうから、だったらもう正面切って、ちゃんと被写体になってあげなくちゃダメだろう。
9 <a href="mailto:おわり">22/12/30(金)02:04:49</a> [おわり] No.1009583878
「えへ……はい、行きましょう」 ぱしゃり。ああ、きっと。今聞こえたこの音は、あのひとがシャッターを切った音。そこがキーになって今日もまた。絶対に忘れられない思い出が、沢山増えていくんだなって。わたしは笑ってしまったのだ、本当、とってもマッチポンプな話だけれども。
10 <a href="mailto:s">22/12/30(金)02:07:15</a> [s] No.1009584421
投げたい日に間に合いませんでしたがもこもこした感じの冬の装いをするマーちゃんが見たくなったので書きました 書き納めできて満足…
11 22/12/30(金)02:08:55 No.1009584839
いいねぇ...
12 22/12/30(金)02:12:29 No.1009585655
かわいい…
13 22/12/30(金)02:12:36 No.1009585678
マーチャンすき
14 22/12/30(金)02:19:03 ID:U7T.QNMQ U7T.QNMQ No.1009586953
スレッドを立てた人によって削除されました ウマゲェジスレ。
15 22/12/30(金)02:20:06 No.1009587164
いい相思相愛だ
16 22/12/30(金)02:20:13 No.1009587188
あったかくていいね…
17 22/12/30(金)02:27:27 No.1009588746
美しいものを見ました ありがとう…
18 22/12/30(金)03:18:23 No.1009596677
かわいい話だ
19 22/12/30(金)04:50:07 No.1009604482
flare
20 <a href="mailto:console.log(document)">22/12/30(金)06:24:11</a> [console.log(document)] No.1009609282
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