No.846514264 21/09/15(水)23:57:39
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昼食を終え、眠気に身を任せて一人トレーナー室のソファーで横になっていた時。
「トレーナーくーん。おじゃましま~す…あら?おねむ?」
「一応起きてる…なんか眠くてさ…」
「あららお疲れ?あ、起きなくていいわよ。そのままどーぞ」
そう言ってソファーの近くにパイプ椅子をセットして腰掛けてくる。
薄目をふわりと横切ったスカートに微かに覚醒を促され、目だけはちゃんと開けるようにした。
…覗こうとしたわけじゃない。見る時はちゃんとそういう場で見てるし。
「ちょっと面白いお話仕入れてきたから聞かせちゃおっかなーって思って来ちゃったの」
「というと…?」
「最近みんなの間である噂話というか都市伝説?みたいなものが流行ってるらしくって」
「…なんでそういう流行りには律儀に乗れるんだろうな君は」
「え?お姉さんはいつだってトレンドに敏感なイケイケ女でしょ?」
「……続けて」
「なーんか引っかかっちゃうわねー…まあいいけど」
我が愛バ曰く。
互いに深く深く心を通わせ合ったトレーナーとウマ娘とが転倒・転落したりした拍子に
頭部を強かにぶつけ合うと精神が入れ替わるという現象が起こっている…らしい。
多くは偶然再度頭部をぶつけ合っただの一晩寝たら翌朝勝手に戻っていただので日常への帰還を果たす。
しかしごく一部のペアは戻ること叶わず…
あるいは愛する人と踏み出した甘美な深みに呑まれて帰る道を自ら失い
いつしか帰ろうという意思を共に手離してその運命を共にする…
誰が名付けたか『川渡り』と呼ばれる状態になるケースもあるとか。
「そんな噂が流行るって七不思議で盛り上がる小学生かここの生徒」
「形が変わっても添い遂げるなんてロマンチックなところがあるからじゃないかしら?」
「そういうものなのか…でも戻れないというのは流石に怖いな。…うん?」
そんなことになったらそれまでの生活とか家族とか仕事とかどうなってしまうんだ…
と想像力を働かせているとマルゼンスキーが席を立ってこちらに寄ってきていた。
すると片足は床に付けたまま俺の体とソファーの背もたれの間にもう片足の膝を入れ
俺の股座に腰を下ろしてウマ乗りに近い体勢を取ってくる。
スカートを履いた女の子が大人の男にトレセン内でそんなとこにそんなことするものじゃない。
家ではするが。いやそうじゃなくて。
「っとと…どうしたの?」
「動かないで」
マルゼンスキーは俺の戸惑いの声も聞かずに背を丸め始める。
体と体の距離は縮まっていき、互いの吐息の音まで聞こえてきて、
見慣れた美しい顔がどんどん近づいていって。
コツン。
「おうっ」
コツンコツン。
「ちょ、ちょっとマルゼンスキー?」
「ふーむ…この位置でもっとこう、ゴッツンコ!って行けばいいのかしら?1,2の…」
「こらこらこら!」
急にキスをしたくなったのか?二人きりだからいいか、と思っていたら
コツコツとこちらの額に自身の額をぶつけ始め、さらには大きく頭を振りかぶり思わず声を上げる。
何を企んでくれてるのか。
「ありえないけど本当に起きたらシャレにならないからダメ」
「はーい」
「トレーナー君はあたしと入れ替わってみたいとか思ったりしないの?」
「そんなには。あー、絶対に戻れると確定してて、かつ1日程度で自動で戻るんなら」
「バリバリ限定してきたわね」
「異性の体、ウマ娘の体を体験すること自体には変な意味でなく興味あるよ。
新しい視点を得てトレーニングに活かせるかもしれないし」
「まじめー」
「ウマ娘を鍛えて、その娘が目指す走りをできるよう支えるのが俺の目指した道だからね」
「そうよね。私だってタッちゃんに乗れば速く走れるけど
生身でその楽しさを味わえるからウマ娘に生まれてよかったって思ってるんだもん。
…君になるのは面白そうだけど、戻れないと後輩ちゃん達に憧れの姿を見せることもできなくなっちゃうか」
「走るのが楽しくて大好き。そんな君をずっと支えたい。ずっと逆になってしまったらお互いにちょっと、ね」
「それに」
「あっ」
ウマ乗りのままでいたマルゼンスキーの背に両手を回して強く抱き寄せる。
その力に抵抗なく引っ張られた彼女は膝を伸ばし、俺の体を敷布団にするように体全体で重なった。
「すぅー…ふぅー…すぅー…」
「ちょ、ちょっとトレーナー君?やだぁ」
よく手入れされた鮮やかな鹿毛に鼻を当てて深く呼吸する。
上下する胸と両腕に挟まれた彼女は恥ずかしそうに体を揺すって抗議してくるが、止めない。
「はぁー…いい匂い。体も柔らかくて、温かくて…最高に気持ちいい。
…もし戻れなかったらこの感覚がもう味わえなくなる。代わりに得られるものがあっても、それはなぁ」
「んもう。かっこよくお互いの夢のこと話した口ですぐこんなことしてお姉さん困らせちゃって」
「…やっぱりあたしも、これができなくなるならやめとこうかな」
むーっと尖らせていた口も体での抵抗もやめ、俺の髪や首に鼻を寄せて嗅ぎ始める。
「んっ…ちょっと汗っぽいのと、シャツの洗剤っぽいのと…あとはなんて表現したらいいのかな。
うーん…君の匂い、でいいか。あたしが好きな匂い」
(今汗臭いのか俺…)
「体も硬くて大きくて…今だってやろうと思えば簡単に抜け出せるくらいあたしより力が弱いはずなのに。
…なんでかな。こんなに頼もしくって安心できちゃうの」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「どういたしまして」
「…でも君がそんなに喜んでくれるような感覚なら俺もちょっと気になるな。君の体を通して感じる俺」
「あたしもトレーナー君の体でその『最高に気持いい』っていうあたしを感じるのはまだ興味あるけど…
トレーナー君に抱きしめてもらうこの気持ち、何年味わったとしても手放したくないと思うのよね」
「んー…あ。それと何年も一緒にいたらもっと繰り返し感じたくなること増えるだろうなぁ」
「そうよねー」
「…じゃあ俺と入れ替わるとしたら、この一生が済んでからでいいかな?なんて」
「そうしましょっか。…ふぁぁ…安心しすぎて眠くなってきちゃったかも」
「良かったらそのままどうぞ。トレーニングも今日は無しにしてるし、寝顔見物させてもらうよ」
「ん…」
微睡みと与太話から始まり、いつまでも続けたい温かな日常を再認識した昼下がりの一幕。
マルゼンスキーとの間に、かけがえのない絆を感じたひとときだった……。
その頃、部屋の外。
「あわわわ…マルゼンさんとトレーナーさん、あんななまらすごい仲だったなんて…!」
「以前からそんな気配はありましたがまさかここまで…」
「え?グラスちゃん前から気づいてたの!?」
「ええ。あのスマホの壁紙の時にもしや、ぐらいには」
「はあ~…グラスちゃんじゃなくて今度は私がスカートほつれさせちゃったから
ソーイングセット貸してもらえないかと寄ろうとしたら…すごい時に来ちゃった」
「トレーナーと生徒が学内で不健全な…!でもこれを誰かに報告するというのも…」
「え~!邪魔しちゃダメだよグラスちゃん!あんな幸せそうに…あっ!?今トレーナーさんおでこにき、キ…!」
「ええ!?」
穏やかな睦み合いの中にいる2人は気づいていなかった。
マルゼンスキーが施錠どころかきっちり閉めることさえ忘れていたドアの隙間から覗き込み、
やいのやいのと小声で騒ぐ2人の後輩がいることに。
終わりです
便乗しようとしたはずだけど大半便乗しませんでした
No.846515530 21/09/16(木)00:01:22
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>スカートを履いた女の子が大人の男にトレセン内でそんなとこにそんなことするものじゃない。
>家ではするが。いやそうじゃなくて。
こいつらいつもしてるんだ!
No.846515567 21/09/16(木)00:01:28
12
こういうのでいいんだよこういうので
No.846515916 21/09/16(木)00:02:33
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この二人はこれでいいんですとおもいました
まる
No.846516007 21/09/16(木)00:02:47
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イチャつき具合がめっちゃ好み…
No.846516316 21/09/16(木)00:03:43
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壁紙設定の時に疑惑持たれたくらいだったのが一気に完全に露見しちゃった!
学園内で何をしてるんですか貴方達は…
No.846517453 21/09/16(木)00:06:56
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ここの二人は大人のイチャつきかたって風情があるな…
No.846517579 21/09/16(木)00:07:15
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マブ純愛の収まるところに収まってる感じ凄くいい
No.846518142 21/09/16(木)00:08:43
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>学園内で何をしてるんですか貴方達は…
ぴょいしなければトレーナー室でもセーフぐらいの甘い認識はしてるかもしれない
No.846518447 21/09/16(木)00:09:31
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不健全さよりもですよね~感が強いペア
No.846519116 21/09/16(木)00:11:13
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うまぴょいせずただ純粋に相手を想って抱きしめる…よし!後輩達に見せても恥ずかしくない大人だな!
No.846521110 21/09/16(木)00:16:36
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>「…じゃあ俺と入れ替わるとしたら、この一生が済んでからでいいかな?なんて」
既に来世まで見据えて…
No.846523632 21/09/16(木)00:23:32
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そもそも誰だそんなオカルトな噂話広めてるの
No.846523835 21/09/16(木)00:24:04
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「」だよ
ご感想ありがとうございます
>マブ純愛の収まるところに収まってる感じ凄くいい
マルゼンさんの話をするスレで時々言われるとこ見るけど急接近して意識するようになるイベとか
そういうとこカットしてくっつき終えてるみたいな感じしてるのがすごく好きでそういうレスに内心すごくそうだねしてます
No.846524215 21/09/16(木)00:25:07
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>誰が名付けたか『川渡り』と呼ばれる状態になるケースもあるとか。
もしかして本当に入れ替わってしまってるペアがいるのでは…?
No.846525218 21/09/16(木)00:28:06
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節度ある模範的な距離感ですね
No.846525382 21/09/16(木)00:28:43
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>…なんでかな。こんなに頼もしくって安心できちゃうの」
No.846525488 21/09/16(木)00:29:07
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自宅でやることやりまくってるから校内ではこの程度で満足なんだろうな
No.846525692 21/09/16(木)00:29:45
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>「すぅー…ふぅー…すぅー…」
寝たかと思った…
No.846526138 21/09/16(木)00:31:14
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マルゼンさんはこういうのが似合いすぎる
No.846526331 21/09/16(木)00:31:48
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手書き見てこんな清い気持ちで「むっ!」ってなるとは思わなかった
No.846526420 21/09/16(木)00:32:06
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どこからともなくムーディな音楽が流れてきてそう
No.846526464 21/09/16(木)00:32:13
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>自宅でやることやりまくってるから校内ではこの程度で満足なんだろうな
やはり自宅持ちは強い…
No.846526644 21/09/16(木)00:32:47
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もう夫婦だよこれ
長年連れ添った奴だよ
>No.846525382
自分が書いたもので絵描いてもらうなんてマジに初めての経験で泣きそうです
本当にありがとうございます…
No.846527009 21/09/16(木)00:33:49
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模範的な距離感を持つウマ娘は短距離に多いと聞きますよ
No.846527019 21/09/16(木)00:33:50
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入れ替わりの対する注文多いと読んでても思ったがたしかに興味があるとしても取り返しがつかない状態になるかもって条件じゃ普通望まんわな…
No.846528453 21/09/16(木)00:38:04
39
この二人になら三女神も入れ替わりゴッツンコなんてさせないで気を利かせてくれることだろう…
No.846530778 21/09/16(木)00:45:21
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>あっ!?今トレーナーさんおでこにき、キ…!
No.846531439 21/09/16(木)00:47:24
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ウワーッ!?気付いてますよね!!
No.846531681 21/09/16(木)00:48:11
42
連れ添うに相応しいイケてる男とマブい女め…
No.846532975 21/09/16(木)00:52:31
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まだ眠ってなかったの!?ってわーきゃーしてキスのお返ししてくれるやつですねこれは
>No.846530778
どうやってこの感謝の意を表現すればいいか私には分かりません…
No.846533441 21/09/16(木)00:54:08
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>>No.846530778
>どうやってこの感謝の意を表現すればいいか私には分かりません…
もっと書いて
No.846533526 21/09/16(木)00:54:25
46
後輩ちゃん達に見せつけてる場合じゃない気もするぞ激マブ!
たづなさんに通報されちまう!
No.846533677 21/09/16(木)00:54:54
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>どうやってこの感謝の意を表現すればいいか私には分かりません…
もっと書いてやくめ