虹裏のログを数日分だけ閲覧できるサイト

「微糖」の文字が書かれたペットボトル。コップへと注いだ黒茶色の中身を、義務的に口へと流し込む。
「ンーン…」
アスパルテームの甘味が舌一面に張り付く。ただの泥水だ。いかにも貧乏人のための紛い物だ。こんな紛い物が流行るほどに、コーヒー農園の子供たちが苦役から解放される。だからアタシは身を切って、この泥水を飲むことにしてる。あと11リットルもだ。体脂肪も11%は増えるだろうな。
首をコキコキ鳴らし、モニターに向き直る。自己紹介がまだだったな。アタシは唐流斗（からるど）。ある一点を除けば、ごく平凡な女流イラストレーターだ。
「カラルド。これ買って」
後ろのコタツから、その"ある一点"の声がした。
「ダメ」
「…まだ見てない」
「もう買わないから」
振り返ったアタシの視線の先には、コタツに潜り込んだ女の子がいる。アタシのお古のパーカーを着て、下半身はレギンス一枚。
「ハンディ消火斧だよ。すごく安いよ。トイレに閉じ込められた時に使えるよ」
そして、頭には鹿めいた二本のツノ。ツノは通販サイトをホロ投影している。

この女の子は普通じゃない。異世界から家出してきたドラゴン、半神、怪物…その類いだ。食事はコンセントから引いた電気。
名前は…本名を聞いたらひどい目眩と頭痛がしたので、マギーと呼ぶことにした。飼い主の特権だね。
「自動で中身を混ぜるマグカップ。卓上USB扇風機。ステンレス製アイスキューブ。ノブに引っ掛けて引っ張って、背筋を鍛えるゴム棒。で、次は斧も買えって？いらないよ」
斧以外は全部部屋にある。正確には、全部ひとまとめにして段ボール箱に入れてある。だからクレジットカードの明細がマジでヤバい。再々々来月までの身の振り方を考えるハメになってる。
「本当に、斧いらないんだね。トイレに閉じ込められても知らないからね」
「いいよ。これからはドア開けてやってやる」

アタシの返事に、マギーは膨れっつらでまた検索を始めた。目まぐるしく変わるホロ投影が、あるページで止まった。
「…カラルド。これ買って。すぐ終わっちゃうよ」
いつもの平坦なトーン。けれど、アタシにはちょっぴり慌ててるのが分かる。
「ンー？」
マギーが投影したウェブサイトを見た。一つは、『角川コミックス・エース レジェンド作品一気読みフェア』と書いてある。よくある告知だ。残る幾つかのページは…
kindle。
『https://www.amazon.co.jp/dp/B074C4G2XT』
BOOK☆WALKER。
『https://bookwalker.jp/series/24805/list/』
DMMブックス。
『https://book.dmm.com/product/618995/volumes/』
楽天ブックス。
『https://books.rakuten.co.jp/rk/23fadc87d8b338979867142be96294fa/』
本来は一冊638円のところ、33円？こりゃ安い。

「電子書籍だよ。場所取らないし、安いよ」
アタシは漫画は紙派だ。買った紙の漫画は積み上げて開いたこともない。古本屋への気遣いの賜物だね。
「タブレットもセールしてるよ。配信だって見れるよ」
「動画なんてパソコンで見れるし」
マギーが立ち上がり、アタシの膝の上に乗ってきた。いつものジトっとした目つきで、アタシの顔を見つめてくる。
「…お願い。やっと見つけた、本当のお得なの。百年に一度のお願い」
「四回目は四百歳になってからって約束した」
「じゃあ、一生のお願い。買って。これは逃せない」
「脱皮して生まれ変わった気分になったからって、こないだ一生のお願いした」
「買って…お願い…」
マギーの目が潤み出し、たちまち涙が溜まり、ついに溢れ出した。
「わあん！」
「泣くほどかよ！」
慌ててティッシュに手を伸ばし、涙を拭ってやる。拭っても拭っても、ぐしゃぐしゃの顔したマギーはべそのかき通し。拭ったティッシュはヌルヌルで、あたしの指まで糸を引いてる。凄い量の鼻水だ。

「分かった、買ってやるから泣くなって」
「…ほんと？誓う？」
「ほんと。誓うよ。だからもう、泣くな」
マギーのヌメヌメした顔を拭いながら、アタシは優しく言ってやった。この子がこんなに泣いてる顔なんて見たのは、あの日、雨の日の駅前で出会って以来だ。

…だから、ヌメヌメがあんまり多すぎるのも、不自然なほどに部屋が静かなのも、気がつく余裕がなかったんだな。
「あれ？」
ヌメヌメを拭ったティッシュを見た。肌色のペラペラしたものがついている。
…つまり、剥がれ落ちたマギーの顔面が。
「カラルド！お前ハ！誓ッタナ！」
マギーが部屋を揺るがす低い声で絶叫した！いやマギーじゃない！アタシのパーカーと化けの皮を破り捨て現れたものは、全身からヌメヌメと粘液を垂れ流し、ヤツメウナギめいた八対の目を側面に備え、七つに分かれた口の触手をビルビルと震わせる醜い大長虫だ！
「え、あ、ギャーッ！」

逃げる間もなく大長虫が巻き付く！
「誓ったなカラルド。ただちに一斉購入を完了するのだ。我は体感的数千年を待っていたのだ！ビルビルーッ！」
「いやっ、ヤア、ヤアーアアアー！」
パニックを起こすアタシに焦れたか、大長虫が触手の一本を口に捩じ込んでくる。触手が鼻の奥で蠢くのを感じる！アタシの脳を探している！
「ヤア、オゴゴーッ！オゴゴーッ！」
「拒否するならば脳へ直結支配し買わせるまでなのだーっ！ビルビルーッ！ビルビルーッ！」
アタシは悔いた。くだらないセールに踊らされた挙句、不要なものを買わされ、脳を操作され、無意味に死ぬ。資本主義のファッキン・カリカチュア。こんな死に方はしたくない！
「二言はないな」
声の主を問いただす間もなく、KRASH！怪物の側頭部に何かが衝突した！
「グワーッ！？」
身悶えし触手を引き抜く大長虫！そのそばに落ちたのは…モデムだ。

KBAM！そのモデムが爆発した！不自然なほどに立ち込める硫黄の白い煙の中から、混沌のマントを纏い、秩序が如き山高帽を被った存在が姿を現した！
彼はダイヤモンドの義眼を眩く光らせ、見栄を切る！

「電子書籍割引キャンペーン締め切り探偵ザザ、参上！」

「モ、モデムが！？モデムなんで！？」
ザザがアタシを見据えて言った。
「インターネットが繋がっている先に関する真実は、お前が正気を保てる部類の事柄ではない」
「アッハイ」
闖入者の圧倒的な力を見てとり、長虫怪物はアタシを解放して戦闘的にトグロを巻き、触手の先端をドリル状に尖らせる！
「ビルビルビルビル！きさまも電子書籍セールの割引パワーが目当てだな！」
「ブラックフライデーにつけこみ人間を苦しめた怪物…許さぬぞ！」
ザザも怯まず、決断的に戦闘ポーズを取る！

なんてこった。アタシは夢を見ているのか？電子書籍割引キャンペーン締め切り探偵ザザはダイヤモンドの両目義眼を光らせた。恐ろしい！
「ビルビルーッ！」
怪物が襲いかかる！
SMASH！「ギャーッ！」
カウンターパンチで怪物は吹き飛んだ。
「トドメだ！義眼光線！」
ダイヤモンドの目から光線が放たれる！
「アアアアアー！」
怪物は一瞬で蒸発して死んだ。なんてこった！
「この世には自然科学では解明できない謎が沢山ある」
ザザは言った。
「それらに対抗できる力を持つのが私、両目義眼のザザなのだ。だがこの真実にお前は耐えられまい！忘れるがよい」
「アッハイ」
「お前が知るべきは、ニンジャスレイヤーの第一部のコミカライズ全14巻が割引で33円ということだ。来年の1月8日まで、kindle、BOOK☆WALKER、DMM、楽天books…その他数え切れぬ電子書籍サービスで一律の33円がなされる」

「いやでも…電子書籍とかやる気ないし…そもそも今月ヤバくて」
ザザのダイヤモンド義眼がギラリと光った。アタシは黙った。恐ろしい！
「33円セールは貨幣経済次元における惑星グランドクロス的奇跡と心得よ。締切は動かぬ！購入資金は借金ではなく倹約で捻出するのだ」
ザザの義眼が輝きを強める！
「アアアーッ！眩しい！」
「分かっているのか！来年1月の8日までだ！」
「アアアアアアア！」
「そもそも混ぜるマグカップとか不要なものばかり買うからこんな年の瀬に大変な！」
「アアアアアアアアーッ！」
「怪物にみすみす貴様は！分かっているのか！」
「アアアアアア！アアアアアアアーッ！」
「分かっているのか！」
「アアアアアアアアーッ！アアアアアアアアアアーッ！」

（FIN）

でもねimgアックスも良いものなんですよ…

どうしてザザの二次創作を？

山

なんでこんなザザエミュ上手いやつがimgにいるんだよ…

忍殺エミュ上手いやつが2年間スレ立て続けてたのがここだからな⋯

腐れ縁の同居人は最初から悪い怪物だったのか？

翻訳チームがブラックフライデーなんて知らんニンジャに浮気しててザザ欠乏症で死にそうなので書きました

そういや最近ザザ見ないな
この間はマスラダがわからせてたし

どっちかって言うとザザの方が優先度低くて当然なような⋯

>腐れ縁の同居人は最初から悪い怪物だったのか？
第44わのキングダムボーイの裏返しなのでそうです

異
常
ザ
ザ
愛
者
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