ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/11/28(月)20:32:12 No.998357635
予感めいたものはあったのだ。トレセン学園に転入したときも、もしかしたら会えるのではないかという予感が。そして大抵、私の予感は当たる。今回もそうだったのだ。 「あのー………すいません、カレンチャン…で合ってるよね?」 「はーい!今日もカワイイカレンチャン………で……」 顔を見て、すぐに分かった。あの日、遊園地で。まだまだ子供で、友人からも笑われていた私の夢を、カワイイカレンチャンでいることを笑わないで認めてくれた運命の人。名前も知らなかったけど、やっぱりここにいたんだ。やっぱり、私の選択は間違っていなかったんだと、確信する。 「あなたはカレンの運命の人です!なので私のトレーナーに……」 「えっ……あー、ごめん、実は俺、アドマイヤベガの担当でさ……君が同室だっていうから、彼女について聞こうと思ったんだけど」 もしこれがレースであったなら、私は取り返しがつかない出遅れをしたことになるのだ。その日は、無愛想だけど優しい私の同居人について、一応は話せていたと思う。私の心はというと、全くそこにはなかったけれど。 寮の布団で考える。彼は私の運命の人だ。
1 22/11/28(月)20:32:39 No.998357863
実際に会って話をして、その思いは確信へと変わっていた。間違いない、私は彼と契約を結ぶべきなのだ。宇宙一カワイくあるためにも。話を聞くに、彼がアヤベさんと契約したのはほんの数日前。きっと今なら、事情を話せば、アヤベさんは何も気に留めることなく彼を譲ってくれるはずだ。ただ…… 「そんなの、カワイくない……」 話からして、彼は自分の意志でアヤベさんを担当したいと思い、ぶっきらぼうな彼女に根気よくアタックして契約にまで至ったのだ。それを無下にはしたくない。本当は、二人まとめて担当してほしいが新人の彼にそれを求めるのは酷な話だろう。 区切りをつけよう、と思った。再会できただけでも奇跡なのだ。あと一度だけ、本音で話して、それでおしまい。アヤベさんのトレーナーと、彼女の同室のウマ娘。それだけの関係になるのだ。 むしろ喜ぶべきじゃないか。彼であったら、誤解されがちなアヤベさんともうまくやっていけるに違いない。アヤベさんにとっても、彼にとっても、これがいい。そう何度も自分に言い聞かせた。
2 22/11/28(月)20:33:01 No.998358029
「失礼しまーす」 「あ、カレンチャン………さんか。昨日はアヤベのこと教えてくれてありがとう」 「カレン、でいいですよ。呼び方。私は………お兄ちゃんって呼びますね」 「えっ!?どうして急に…」 「えへへ……冗談です。でも、前に一度だけ、トレーナーさんのこと、そうやって呼んだことあるんですよ?」 もう一度だけ。これで、さよならするんだ。思い出の話をして、カレンにとってあなたが、どんなに大切かを説明して。それで、アヤベさんも同じくらい大切にしてほしいと伝えて。それからは、二人を応援しよう。きっとそれが、正しい道だ。 「あぁ………あの遊園地の迷子の子。君だったのか……」 「そうなんです!あなたのお陰で、私、宇宙一カワイイカレンチャンになろうと思えたんです!だから……」 同じように、アヤベさんにも。そう言えば終わりだった。だけど、やっぱり未練があって、少しだけ言い淀んでしまった。それが、だめだった。 「確かに………カワイイね、あの頃よりも、さらに」
3 22/11/28(月)20:33:30 No.998358244
結局、その先は言えなかった。彼のその一言が、終わりの始まりだった。体中の血液が私を茹でるように熱くなった。私を構成する細胞すべてが歓喜にうち震えていた。分かっていたことじゃないか。彼のくれる"カワイイ"を上回るものなどこの宇宙に存在しないのだ。 欲しい、欲しいな。彼も、彼がくれるカワイイも、全部全部カレンのものにしたい。そしてそれは、私がカワイくあるためにも必要なのだ。 そうだ、別に担当でなくてもいいじゃないか。そもそも、アヤベさんは誰かを信頼こそすれど、恋をするタイプではない。私と彼のことも、きっと応援してくれるはずだ。うん、そうしよう。仕事とプライベートは別だ。なら、私は彼のプライベートにアプローチすればなんの問題もない。カワイくない言い訳を、カワイイカレンチャンであるために重ねていく。 「……ごめんなさい、やっぱりお兄ちゃんって呼んでもいいですか?私にとって、すっごく大事な思い出で………ここで会えたのも、なにかの運命だと思いますし!」 「うん、全然構わないよ。しかし、すごい偶然だよね」
4 22/11/28(月)20:33:55 No.998358394
「それでそれで、アヤベさんのこと、もっと知りたいですよね?今度の休日にでも、カフェとかでお話したいなって……」 なんだかアヤベさんをダシにしてるみたいで、カワイくないな。でも、これはきっかけなだけ。ここから、少しずつ彼のことを知って、カレンのことを知ってもらって。もっと"カワイイ"って言ってもらって。それでいいのだ。 ~~~ 「これ、彼がくれたのよ。いいって何度も言ったのだけれど、本当に変な人……」 寮でアヤベさんの話を聞く度に、少しずつ焦りが募っていた。彼女の表情が、言葉が、少しずつ柔らかくなっていた。今夜に至っては、聞いてもいないのに話しだした。愛おしそうにタオルを撫でる彼女を見て、カワイくない感情が渦巻いていく。 惚気ですか、それは。そりゃ、たくさんの気持ちをお兄ちゃんから受け取ってますもんね。カレンとお兄ちゃんの思い出話を聞かせても、ただ「そう」と返事をするだけで。もう少し気を遣ってくれてもいいんじゃないですか?もっとはっきり言わないと駄目ですか?お兄ちゃんはカレンの運命の人だって。
5 22/11/28(月)20:34:24 No.998358626
ダメダメ、こんなのカワイくない。実際、アヤベさんに悪気なんて一つもないのは分かっていた。だからこそ、もどかしい。胸を掻きむしりたい気分。やっぱり、カワイくない。 「アヤベさん、お兄ちゃんのこと好きだったりするんじゃないですか?」 「そんなこと………いや、分からないわ」 あーあ、否定しないんだ。もう、自覚してないだけで確定じゃん。それにその顔、やっぱりそうだ。でも、相手がお兄ちゃんだからしょうがないか。好きになっちゃうよね。 こうなったのは、カレンのせい。もっと早くお兄ちゃんと出会っていれば、どこかで言い出せていれば変わった話。だけど、時間は戻せない。 ~~~ クリスマスイブ、街中のカップルがライトアップに照らされる日。私はというと、お兄ちゃんのお家でケーキを食べながら雑談中。本当は高級レストランが良かったけれど、これはこれでたまらなく幸せ。というか、お兄ちゃん、ガードが緩すぎて心配だな。すぐにウマ娘を家に上げちゃうし、今も無防備だし。
6 22/11/28(月)20:34:50 No.998358811
私がお兄ちゃんを眺めて堪能していると、インターホンが鳴る。来訪者はもちろん、アヤベさん。あーあ、来ちゃったか。まぁ、来るようにアドバイスしたのは私だけど。 お兄ちゃんと一緒に玄関まで歩いていき、扉を開けてアヤベさんを招き入れようとした瞬間、少しだけカワイくないウマ娘の力を使ってお兄ちゃんの顔をカレンに向ける。 うん、もう覚悟はオッケー。本当はお兄ちゃんから、と思ってたけど。もう後手に回るのは嫌だから。困惑して力の抜けた彼の顔を、カレンにそっと近づけて、口づけした。 やっちゃった、口と口で。クリスマスイブに相応しいキスだ。 横目でアヤベさんを見る。信じられないようなものを見たような、裏切られたような顔。あれ、お兄ちゃんが好きかどうか分からないんじゃなかったでしたっけ?カレンよりもたくさんお兄ちゃんと一緒にいて、いくらでもチャンスはありましたよね? それでもやっぱり、罪悪感は消せなくて。でも、すべてを終わりにしてしまいたくて。驚くお兄ちゃんに心のなかで謝りながら、もっと深く、絡み合うようなキスをした。
7 22/11/28(月)20:35:07 No.998358951
どれくらい経ったろうか。アヤベさんの絞り出すような呼びかけで、ようやく私はお兄ちゃんを離した。お兄ちゃんと私の口にはカワイイ透明な橋、アヤベさんが居なかったら我慢できなかったかも。でも、今日はこれで十分すぎるくらい。 「カレンさん、トレーナーさんとはどういう……?」 「うーん………お兄ちゃんと会ったときも言ったんですけど、カレンの運命の人?みたいな感じですね!」 あーあ、言っちゃった。これで引き下がってくれるかな。 「それで、今のは?明らかに彼の同意を得ていなかったようだけど」 私を責めるような声色。やっぱりダメか。でも、喜ばしいことでもありますよね。アヤベさんがそんなにわがままになるなんて。 「ごめんなさい、カレン、我慢できなくなっちゃって。お兄ちゃん、嫌だったよね?」 カワイくない。そう言って嫌だと言える人じゃないって分かっているのに。
8 22/11/28(月)20:35:32 No.998359120
「えっと、嫌じゃないんだけど、その……」 「同意を得ていないなら、暴力と変わらないわ」 「まぁまぁ、そこまで言わなくても……」 「甘やかしすぎよ!あなたもあなただわ」 うーん……ちょっと悪い雰囲気?まぁ、作戦通りかな。 「というわけで、カレン、用事があるので先に学園に戻りまーす!」 「ちょっと、待ちなさいよ!カレンさん、話はまだ……」 聞き終えぬうちに、上着を羽織ってマンションを飛び出す。あーあ、大変だろうな、このあと。だけど、満足だ。お兄ちゃんは絶対に譲れない。 もっとカワイイカレンであるために。世界で一番カワイイ存在であるために。 今日のところは、メリークリスマス、お兄ちゃんとアヤベさん。
9 22/11/28(月)20:36:20 No.998359441
クリスマスが近くなってきたので幻惑のかく乱カレンチャンを書きました。 しかしアヤベさんは追込バ!
10 22/11/28(月)20:37:36 No.998360002
怖~…
11 22/11/28(月)20:38:35 No.998360416
アヤベさんが学園に戻ったとき地獄では??
12 22/11/28(月)20:38:37 No.998360442
嫉妬してるカレンチャンもカワイイ! いやでもちょっとコワイ…
13 22/11/28(月)20:39:27 No.998360829
グググ・・・凄い力だ!
14 22/11/28(月)20:45:25 No.998363360
嫌って言えない優しいお兄ちゃんいいよね
15 22/11/28(月)20:48:58 No.998364923
ねえスリーゴッデスのマッチングは失敗しないんじゃなかったの?
16 22/11/28(月)20:54:37 No.998367347
恐ろしいっスね…
17 22/11/28(月)21:14:36 No.998375963
でもアヤベさんの末脚から逃げ切れる?
18 22/11/28(月)21:16:29 No.998376707
なんで恐ろしい話を読んでいるのに笑顔が出てきてしまうんだろう
19 22/11/28(月)21:23:43 No.998379865
こうなったら3ぴょいルートにするしか……