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22/11/16(水)00:44:36 泥乳 のスレッド詳細

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22/11/16(水)00:44:36 No.993869647

泥乳

1 22/11/16(水)01:23:44 No.993880388

「───はぁ!?」 夜中だというのにテアは素っ頓狂な声を上げた。携帯電話から師の声が響く。 決壊寸前のダムが必死で漏れそうになる水を堪えているような、小さな怒鳴り声だった。 「ちょ…だって、『典位』を貰えるだけって話だったじゃないでスか!?それがなんで!?」 珍しく焦った調子のテアの返事に電話の先の師が答え、二言、三言。それで通話が切れた。 まずテアがしたことは下着姿でいたところに外出用の服を纏っていくところからだった。 「え、えーとまず荷造りして…!そうだ!短縮、短縮…ハロー、リアでスか!?至急わたしの工房まで来てくだサい!」 今も懇意にしている級友に回線を繋ぎながら、大きなトランクをずるずると引きずってきた。 「そうでスこんな時間だからなんでス!お願いしまス!」 トランクを開けると詰め込められそうなものを詰め、入り切らないのを確認して渋々外に出す。 マイペースなテアだが、さすがに今回ばかりは冷や汗をかいていた。持っていくものを選定しながら呟く。 「さすがに橋の底に送られるのは勘弁でスよ…!」 何事かしら!?とこんな夜中に騎士装束の淑女が訪れたのが午前1時。テア、20代の頃の話だった。

2 22/11/16(水)01:30:12 No.993881685

テアえもんは賢者タイプかい

3 22/11/16(水)01:30:52 No.993881805

さすがに封印指定はテアもビビるのか

4 22/11/16(水)01:40:14 No.993883436

>「え、えーとまず荷造りして…!そうだ!短縮、短縮…ハロー、リアでスか!?至急わたしの工房まで来てくだサい!」 執行者が来るかも知れんから壁を呼んだな...

5 <a href="mailto:1/3">22/11/16(水)02:10:41</a> [1/3] No.993887931

「師匠大変!テアが封印指定されちゃった!」 その日、友人のテアが封印指定された。 逸花はいても立ってもいられず自身の師匠にしてかつては封印指定を受けた身である残響時間の家へと飛び込むように駆け込んだ。 「ああ、貴女の友達の礼装使い?…………あははははは!マジウケる!」 その師匠、残響時間はその話を聞くと笑いながらワインを開け、グラスに注ぎ口を付けると大爆笑。人の心がねぇのかこの師匠、と喉まで出かかった言葉を逸花はなんとか抑える。 「まぁ、そりゃそうでしょうね。 私からすれば遅かった位よ、秘儀裁示局…天文台カリオンも例の事件の後とは言え随分ヘタれたものね」 残響時間はフフン、と上機嫌に鼻を鳴らし逸花へとワイングラスを差し出す。 逸花は取り敢えず飲んだ、残響時間のワインは安くても大抵50年越えているので貴重で美味しいからこれはもう仕方ない。実際100年物近かった店で飲んだら数万は飛ぶ。

6 <a href="mailto:2/3">22/11/16(水)02:11:27</a> [2/3] No.993888035

「ワイン飲んでる場合じゃなかった!」 「飲み干してから言う?で、貴女は何をしにここへ来たの」 「そうだ!師匠、経験者とした私がテアにしてあげられることはないかな!」 「何かねぇ……」 真っ直ぐな逸花の目を一瞥して、残響時間は再びグラスにワインを注ぐ。分かっている、逸花は友人を助けたい。だが、時計塔を敵に回すかも知れないことに躊躇し、後押しして貰いたいのだ。 「このバカ弟子」 残響時間はワインを逸花顔へと掛ける。 「なにするのさ、師匠!」 「仮にも己の魔導を確立した一人の魔術師が、己の運命を揺るがす判断を他人に委ねるな」 逸花の抗議に残響時間は冷たい視線を向ける。その言葉は先程とは違い、感情の乗らないただ無機質で怪物じみた声だった。

7 <a href="mailto:3/3">22/11/16(水)02:12:25</a> [3/3] No.993888168

逸花は反論も言い訳もしなかった。ただ真っ直ぐに残響時間を見返した。 「じゃあ、テアの手助けに行ってくる!」 固い決意を胸に秘め、ワインに濡れたまま逸花は出口へと駆け出した。 「逸花!」 珍しい残響時間の叫びに逸花は思わず振り向く、とそこへ投げられる杖。残響時間の礼装である懐中時計だった。 「選別よ、持っていくと良いわ。魔術師であれば柵になど縛らず己の思うがままに生きなさい。そうすれば最悪でも後悔はしないわ」 逸花を見る残響時間の視線、声には暖かさが情があった。 「ありがとう、師匠!」 「ええ・・・・・、・・弟子」 残響時間が何か言っているが、今度は振り向かなかった。きっとこれが師から聞く最後の言葉になるとしても。 何故か師匠とはもう二度と会うことはないだろうという確信があった。 「……随分甘くなったのは、私もね」 最後のワインをグラスに注ぎ飲み干すと同時に、残響時間はまるで最初からいなかったかのように姿を消した。

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