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    22/10/30(日)00:56:41 No.987701293

    クラシックレースが終わると、気温も徐々に下がり、一年の終わりが近づいてきたことを実感させられる。 この時期になると、トレセン中が少し緊張したような雰囲気に包まれる。 私と同時期にデビューした子たちも、この一年の戦績に従い、各々の道に向かって歩み出す。 年内のレースで実績を作ろうとする者、すでに来年のレースに向けて調整し始めた者、トレセンを去る決意をした者……そして、シニアの先輩たちに交じってG1に挑戦する者。 本来であれば、私も菊花賞が終わって間もなくの、秋の天皇賞に出走する予定であった。 だが、直前になってシニア級の一人のウマ娘が出走を表明。それによって出走枠が埋まり、私は走ることなく秋の盾の栄冠を逃した。

    1 22/10/30(日)00:57:30 No.987701563

    ――――――――――――――――――――― 芝とダート、両方のレースで結果を出そうとしているウマ娘がいる。 以前同期のウマ娘からそのような話を聞いたことを、私は、テレビに映った出走表を見て思い出した。 アメリカから日本へ留学し、デビューを果たしたばかりだった私は、この国のレースのことを知るため、なるべく多くのレースを観戦するようにしていた。 その一環で、G1レースだからと観に行ったマイルチャンピオンシップ。その中で、いわゆる二刀流の彼女の前評判は、そこまでよくはなかった。 当時彼女はすでにダートの重賞で勝利を収めていたが、芝のレースにおいては好走はあったものの、勝ち星は挙げられていなかった。

    2 22/10/30(日)00:58:00 No.987701750

    しかし、彼女はそのような前評判を一蹴するかのように、レースレコードを叩き出して快勝。芝のレース初勝利をG1の大舞台で果たした。 私は、その劇的な勝利に感激しつつも、同期の子が彼女を特殊なように表現したことはいまいち理解できなかった。 芝とダート、両方の重賞で勝ち星を挙げたこと自体は確かに珍しい。だが、ダートから芝へ、芝からダートへ路線変更すること自体は別段変わったことではなかった。 今までダートで結果を出していたウマ娘が、芝のレースへ路線変更しただけではないのか。それでG1に勝てるのはすごいことだが、あまり騒ぎ立てることでもないだろう。 だが、彼女、アグネスデジタルはそのような常識で収まるウマ娘ではなかった。

    3 22/10/30(日)00:58:41 No.987701968

    翌年、毎日杯で重賞初勝利、そしてNHKマイルカップでG1初勝利を挙げるも、大目的だったダービーで敗北した私は、秋の目標を天皇賞に定めた。 ステップレースとして神戸新聞杯に出走するために調整を進めていたころ、私は、アグネスデジタルが再びダートレースに出走することを知った。 彼女は、確かにマイルCS以降は勝ちから遠ざかっていたようだ。だが、まだ以前の勝利から一年も経っていない。軌道修正には早すぎないだろうか? 不思議に思いながらもトレーニングを重ね、神戸新聞杯に出走した私はあえなく敗北。 それに対しアグネスデジタルは、ダート復帰戦であるさざんかテレビ杯、さらにその後G1レースであるマイルチャンピオンシップ南部杯でも勝利を収めた。

    4 22/10/30(日)00:59:04 No.987702085

    このままダート路線に返り咲くつもりなのだろうか?そう思いながらも天皇賞に向けて調整していたある日、トレーニングコースに向かうと、トレーナーさんとたづなさん何やら深刻な様子で話し合っていた。 そして、私はトレーナーさんから、アグネスデジタルが天皇賞に出走すること、同時に私が出走できなくなったことを知らされた。 私は、その時初めて彼女のことが分かったような気がした。

    5 22/10/30(日)00:59:34 No.987702233

    ―――――――――――――――――――― 「やあ、トレーニングは順調かい?」 ダートコースで走っていると、以前私にアグネスデジタルのことを教えた、同期のウマ娘が話しかけてきた。 「タキオン……なにかご用デスか?」 「別に用というほどのことでもないが……少し気になってね。君は、デジタル君が天皇賞に出走することについて、どう思ってるんだい?」 「デジタル先輩……デスか」 少し考えた後、私は、彼女がどういうウマ娘なのか、自分が出した答えを話すことにした。 「初めてタキオンに先輩のことを教えてもらって、ダートと芝、両方のレースを出ていることって、そんなに変わってることだと思わなかったんデス。路線変更なんかそんなに珍しいことでもないんじゃないかっテ。……でも、それは間違いデシタ」 そう、彼女は路線変更など一度もしていないのだ。

    6 22/10/30(日)01:00:11 No.987702427

    「デジタル先輩にとって、芝もダートも関係ないのデス。彼女が走りたい、走れると思ったレースがたまたま芝にもダートにもあッタ。彼女は、本当の意味でのオールラウンダーだったのデス」 「つまり君は、デジタル君が天皇賞に出走することも、世間が言う無謀な挑戦でも何でもない。そう思っているのかい?」 「デジタル先輩は、オペラオーさんやドトウさんと走ってみたかったんだと思いマス。芝コースの2000mでならお二人と渡り合える、だから今回はチャンスだッテ。あの人は、誰よりもウマ娘を愛していマス。決して、レースや他のウマ娘をないがしろにしたりするようなことはしまセン」 「なるほど。まあ、君がデジタル君のことを不満に思っていないならそれは何よりだと思うよ」 そう言った後、タキオンは思い出したように口を開いた。 「ところで……君は次に武蔵野ステークス、つまりダートのレースに出走するつもりのようだね。これはデジタル君とはなにか関係あるのかい?」

    7 22/10/30(日)01:00:56 No.987702646

    「……私の名前は、日本に国を開くように交渉しに来た、船の呼び名からとったものらしいデス。新しい可能性を示す子になれるようにッテ。日本に興味を持った私は、この国で走ることを決めマシタ。初めてダービーに勝った、外国のウマ娘になれば、可能性を示せるんじゃないかッテ。……でも、結局日本生まれのあの子に負けてしまいマシタ」 己の力量か、日本のレースのレベルの高さ故か。負けた理由はともかく、その時私は一度、走る理由を失ってしまった。 「それで天皇賞に出走しようとしましたが、デジタル先輩で出走枠が埋まっちゃッテ。……でも、おかげで私は、もう一度走る理由を思い出せたんデス」 様々なコースを、数多くのレースを走る彼女の姿を思い出しながら、私は自分の進む道を描き始めた。 「デジタル先輩がこれまで走ってきた道は、ウマ娘に秘められた才能や可能性が、一筋でないことを表していると思ったんデス。彼女は芝もダートも走り、どちらも諦めなイ。彼女こそ、私が求めてきた『可能性を示すウマ娘』の姿に見えたんデス!」

    8 22/10/30(日)01:01:41 No.987702937

    「そうか。だけど、それはあくまで彼女がたまたまそのような才能があっただけなんじゃないのかい?他にそのようなウマ娘がいなければ、ただデジタル君が変わり者だった、というだけの評価になってしまうよ」 「……そうかもしれまセン。だから、私はダートレースに挑戦することにしたんデス。芝とダート、異なる道を同時に進めることを示せば、私の後にも挑戦するウマ娘が出てくるかもしれナイ。その時、私たちは初めて、新しい時代のウマ娘、クロフネになれるのデス」 しばらくの沈黙ののち、タキオンは突然高笑いし始めた。 「いいねえ!実に素晴らしい!ウマ娘の新しい可能性、それこそまさに私の見たかったものだよ!……そこまで言うのなら、レースで見せてもらおう。君とデジタル君が示す可能性とやらを!」 あっけにとられる私を置いて、そのままタキオンは去って行った。

    9 22/10/30(日)01:02:06 No.987703071

    「レースで、か。それもそうだね。負けたら何にもならないし」 私は、決意を新たに、一刻も早く脚を砂地に慣らすべく再び走り込みを始めた。 かつて停滞していたこの国が、限界を迎える直前、海の向こうからやってきた異物。黒船がきたことで時代が変わったのではない。時代が変わりつつあるときに現れたのが黒船だ。 私一人で変えられることはなくても、可能性を求めれば切り開ける道があることを示そう。その時私は、初めてこの名前にふさわしい存在になれるのだ。 私の名前はクロフネ。新しい時代の訪れを告げるウマ娘。

    10 22/10/30(日)01:04:08 [s] No.987703767

    別衣装デジたん引いたからデジたん熱沸いてきたからお話書こうとしました だいぶ時間かかった上にデジたんの話じゃなくなってました