ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/10/22(土)23:04:39 No.985095394
ヴェルサイユリゾートファーム。レースから一線を退いた、個性豊かなウマ娘たちの働き所の一つ。普段は賑やかながらのどかな牧場だが、この日は少々様子が違っていた。 『薔薇の一族、ここにあり! 今年のトリプルティアラ、最後の一冠を掴んだのは! 薔薇の末裔、スタニングローズ!!』 まず、牧場の真ん中に巨大なモニターが鎮座し、先日行われたトリプルティアラ最後の一冠・秋華賞の映像が大音量で延々と流され続けている。 建物や柵には所狭しと薔薇の飾りがつけられ、『スタニングローズ様 秋華賞制覇おめでとうございます ~薔薇一族 ローズキングダム~』という横断幕まで垂れ下がっている。 「ふっふっふっ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ!」 芝居掛かった様子で両手を挙げて叫んでいるのは、通称『薔薇一族』と呼ばれるウマ娘の名門の一員、自称『薔薇王国の王子』ローズキングダム。
1 22/10/22(土)23:04:53 No.985095497
「この光景こそ、名実ともに僕に相応しい薔薇の王国!」 牧場を薔薇まみれに魔改造したのは彼女の仕業。無限にループしている秋華賞の映像、勝ったウマ娘はこの薔薇一族出身である。 これが一族初の三冠・ティアラレースの制覇となり、その結果を受けたローズキングダムは喜びのあまり牧場全体を飾り付け始めてしまったのだ。 「さあ祝うんだ! 崇めるんだ! 一族の偉業を! そしてこの僕の偉大なる記録を……」 なおも大仰に語り続けるローズキングダムの言葉に被さるように、隣からバッキイイッ!と音が鳴り響く。 「ひいっ! なんですか! ギムさん! 今日はそんな脅しには屈しませんよ僕は! ……え? 煩わしい旅人が訪れたが? 俺はスフィンクスではないから脚で返事をくれてやった……? だからアブが鬱陶しいからって柵を蹴らないでくださいよ何度目ですか!」 一転して先程までの尊大な振る舞いはどこへやら、慌てだすローズキングダム。 彼女は本質的に虚勢張りなのだ。 と、そこに後ろから声がかかる。
2 22/10/22(土)23:05:10 No.985095651
「……相っ変わらずの様子ね。 あんたのそのヘタレの癖に王様気取りたがる癖はいつになったら治るのかしら、ダム?」 「ん? なんだい! 今日という日の主賓たる僕に対してぶしつけなことを言うの……は……うげっ! バドさん!! どどどうしてここに!?」 振り向いた矢先に飛び上がる、忙しいローズキングダム。 視線の先には黒髪の小柄なウマ娘が、腰に手を当てて突っ立っていた。 「アンタが勝手なことをするからでしょうが! 『薔薇一族』初の偉業をファームでも祝いたいからと領収書を送りつけてきて、一体どんなバカをするつもりなのかと見に来てあげたら随分とまぁゴキゲンな光景にして!」 彼女の名前はローズバド。 かつてティアラ路線で活躍したウマ娘であり、ローズキングダムの面倒を子供の頃から見ており、ローズキングダムにとって頭が上がらない大先輩。
3 22/10/22(土)23:05:22 No.985095740
「大っ体、何よその横断幕! 無駄に高解像で引き伸ばされたアンタのアホヅラ写真に、『薔薇一族代表ローズキングダム』ぅ? お祖母様たちを差し置いてよくもまあいけしゃあしゃあと……」 「そ、それはいいじゃないですか! 一族初のG1制覇を成し遂げたのはこの僕! そして彼女のG1制覇も僕以来の偉業! 先達として僕の名を出す意義はあると思いますが!」 「……本当なら、クラシック初制覇の栄誉もあんたが為す筈だったというのにねぇ、ダム」 「うぐっ……」 特大のため息が返ってきた。 恨みがましげな目線を向けてくる先輩に、墓穴を掘ったという顔をするローズキングダム。 『薔薇一族』には代々あまりありがたくない風評があった。 それはG1の舞台で「実力は見せるも、勝ち切れない」というもの。
4 22/10/22(土)23:05:37 No.985095869
そのジンクスの象徴とでもいうべき存在がこのローズバド。 優れたレース運びと強烈な末脚を持ち、世代のティアラ路線では間違いなくトップクラスの実力を持った彼女だったが、オークス・秋華賞・エリザベス女王杯でどれも惜敗の2着という記録を達成してしまっている。 そしてG1未勝利の呪縛をジュニア期に華々しく破ったローズキングダムも、クラシックでは歯車が上手く噛み合わず4着・2着・2着と似たような成績を残してしまい、その血統を証明してしまったのだ。 ローズキングダムのジュニア期の勝利に誰よりも喜び、祝ってくれたのがローズバドだったので、調子乗りのローズキングダムでもクラシックの結果は負い目となって残っている。 ……のだが、普段暗黙の了解で触らないようにしている話題ほど、一旦触れてしまうと止まらなくなるものである。
5 22/10/22(土)23:05:47 No.985095962
「お陰様で、どう考えてもあんたが獲る流れだった最後の一冠を落とした時の気持ちが蘇ってきたわ……! 今回あの子が悲願を果たしてくれたから良かったものを……!」 「お、お言葉ですが! そこまで遡るのなら、あの時バドさんが秋華賞で盛大に出遅れてなければこの日をここまで待たずに済んだ話なのではないかと!」 「あぁ!?」 柵から身を乗り出して噛みつかんという勢いのローズバドに、自称王子が2バ身ほど後ろにすっ飛ぶ。 ヒートアップしていく最中、バッキイイッ!と再び破壊音が響き渡る。 「ひっ! すいませんギムさん! ほらあまりにうるさくするから怒られたじゃないですか先輩!」 「な、何よあなた。騒いだのは悪かったけど、横から口を挟むんだったらやめてくれるかしら!」 「えっ? 何? 理由などそこに必要ない、ただワタシの疼く情動に従っただけだ……? 勘弁してくださいよそれでついでに怒られるのは僕じゃないですか!」
6 22/10/22(土)23:06:16 No.985096216
「……いい勝負だったわね、秋華賞」 ローズバドが、バカでかい音量で同じレース映像を流し続けるバカでかいモニターを見上げて呟く。 「そうでしょうそうでしょう! やはり僕がこれほどまでにプッシュする価値はあるということ!」 「だからアンタが調子に乗るなっての。牧場に迷惑だから全部撤収させとくわよ」 何だかんだで、隣のウマ娘に水ならぬ柵を差されたことで、二人共落ち着きを取り戻していた。 「それにしても、オークス上位のウマ娘が、そのまま秋華賞でも上位に来るパターンか……。懐かしいこと」 「あっ、それそれ、バドさんのクラシックの時も同じ流れでしたよね? やはりシンパシーを感じて?」 「へぇ、流石に覚えているのね。……思い出すわね、あの時ゴール前で競り合った、憎らしくも誇らしい、あいつらの顔が」 「ふふん、僕がバドさんのレースを忘れるはずがないでしょう。孝行者と褒めてくれてもいいんですよ?」 胸を張るローズキングダムに、本当にこの子は、と苦笑するローズバド。
7 22/10/22(土)23:06:28 No.985096319
「……いいものよね、ライバルって。悔しい思い出でもあるけど、あれだけの相手に戦えたというのは幸運だったとも思うわ」 「おっと、ライバルというのなら僕の世代も、黄金世代と言うべきメンバーに恵まれていたことも忘れないでくださいよ。あっ、うち一人は今ここにいますけれど」 ローズキングダムが促す先、先程までの騒ぎやモニターの音に全く我関せずな様子で、カフェテリアで読書中のウマ娘がいた。 しばらくすると目線が上がりこちらの様子に気づいたようで、軽く会釈をしてきた。 「あら、ちゃんと大人しい子もいるのねこの牧場。アンタとそっちの破壊神と違って」 「失礼な! 普段の僕は品行方正で通っているというのに! そうですよねギムさん!」 パッカーン! 「柵で返事しないでくださいよギムさん! せめてイエスかノーかで答えて!!」 あんたら二人まとめて広報に使われて、お騒がせコンビ的に外で消費されてるわよ、と内心思うローズバドだったが、これ以上騒がしくしたくないので思うだけに留めておいた
8 22/10/22(土)23:07:40 No.985096939
「でも、僕の中でライバルと言えばやはり……メイクデビューから闘い続けた彼女一択ですね。僕にとって一番のライバルは彼女だし、向こうにとってもそうだろうと信じてます。デビューの時から因縁のある相手と、あれほどのレベルで競い合い続けられたことは他に得られない経験だと思いますし、今思い返して……も……」 思いを馳せたようなローズキングダムの目がみるみるうちにどんよりとしたものとなり、爪を噛みだす。 「いややっぱり思い返すとあんまり納得してない気持ちが湧いてきましたよ。確かにあいつはグランプリも海外でも勝っているけど、直接対決の成績は僕の4勝2敗! 勝ち越しているんですよ! だのにあっちは英雄で僕は善戦ガール扱いする奴まで出てくる始末! 不公平ですよ不公平!」 「……やめなさいよ。やめなさいよ対戦成績持ち出すと私も物申したくなる気持ちが蘇るから。こちとらダブルティアラ様相手にきっちり勝ち越しているのよ! ティアラ一つくらいよこせって感じになるわ!」
9 22/10/22(土)23:07:56 No.985097083
拳に力が入ってしまう二人。 十二分に上澄みの実績を残したウマ娘でも、いや残したからこそ全てを良い思い出として箱に収められないこともあるのだろう。 しかしそれも長くは引きずらず、しばらくして顔を見合わすと、ぷっ、と吹き出す。 「……あの子には、私たちみたいに悔いを残さないように走り切って欲しいものね」 「ええ。……それに、今回が薔薇の一族の物語のゴールではありませんからね。むしろ新たな時代の始まりくらいのつもりでいませんとね」 「わかってるじゃない、ダム。……そう、長く待たせたけれど、ここからよ、ここから。あの子だけじゃない、ジンクスを打ち破った我ら薔薇一族は、更に飛躍していくのよ!」
10 22/10/22(土)23:08:15 No.985097261
ウマ娘にとって、クラシックの栄誉は一生に一度。 だからこそ、その一瞬の栄誉を得るために全てを燃やそうとする者は後を絶たない。 しかしイカロスの如く燃え尽きた後に、再び蘇ることもある。 その原動力の一つは、共に走る好敵手の存在。 必ず倒すという情熱の炎が脚を蘇らせる。それは、アポロンとディオニュソスの様に。 友として高め合うためにお互いが強くなる。それはまた、様々な酒を混ぜることでより深みが増すカクテルの様に──。 そう思うタニノギムレットであった。 「なんでギムさんが総括してるんですかっ!!」 (終)
11 22/10/22(土)23:09:16 No.985097825
>「なんでギムさんが総括してるんですかっ!!」 まで読んだ
12 22/10/22(土)23:10:17 No.985098336
薔薇一族の三冠レース初制覇記念SSでした 秋華賞の上位三頭には今後もライバルとして実力を発揮していってほしいですね fu1569712.jpg これはバドさんの幻覚イメージです
13 22/10/22(土)23:12:58 No.985099687
薔薇一族最近急に来ててうれしい
14 22/10/22(土)23:13:35 No.985100023
イケメントレーナーにエスコートされるのいいよね…