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22/10/17(月)04:33:19 春は別... のスレッド詳細

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22/10/17(月)04:33:19 No.983097192

春は別れと出会いが待っている。別れが先、出会いが後。 いつの春も、別れが先、出会いが後。花は散って、種が落ちる。雪は融けて、芽が出る。卒業式があって、入学式がある。 いつの時代も。 どこかムズムズと、鼻の奥がくすぐられる感覚を、一つ鼻をつまんで誤魔化してから、アストンマーチャンは学園内のベンチに腰掛けながらスマートフォンの画面を指でスライドした。 春の陽気は、誰にでも平等に暖めて、厳しい寒さを忘れさせるに十分だった。しかしマーチャンの顔は何処か春の日差しを楽しむような、顔つきではなかった。 「閲覧数、9000台……むむむ、流石に作画が変わると5桁は難しいですね」 「いや、四コマブログで毎回4桁も十分すげーっって……」 眉を寄せながら、画面を見つめるマーチャンに、隣にいたウオッカが手で軽く学友の方にツッコミを入れる。 「そうよ、新聞の四コマじゃなくて、わざわざ見に来てくれている人がこんなにいるってこと自体凄いことなんだから」

1 22/10/17(月)04:33:44 No.983097215

マーチャンを挟んでウオッカとは反対側にいたダイワスカーレットがそれに続いた。三人は友人であり、そして三年間お互い火花を散らし世間をにぎわせ、そしてこれからも競い合うライバルだった。 そんな三人の視線の先にある、スマートフォンには四コマ漫画が写っている。アストンマーチャンを主役とした、彼女の日々を四コマに乗せて送る三年以上も続いている人気ブログだった。 「しかし、人気お茶の間国民アニメも、四コマから始まったと聞きます。ハイパー・ミラクル・ラブリーなマーちゃん四コマもまた、国民アニメとなるためにもっと頑張らなくてはいけません」 「あ、アニメ……」 その目標の高さに、スカーレットは口を開け閉めしなければならなかった。しかし、彼女の人気っぷり、主に海外進出さえも果たしているマスコット系列のことを考えると、決して不可能の領域にあるとは言えないのが、恐ろしい所だ。現時点ですでに単行本化は果たしているのだから。 「やっぱり、三年以上も欠かさず、ずーっと書いてくれたトレーナーさんと比べると、まだまだ経験値が足りないのです。もっと精進です」

2 22/10/17(月)04:34:12 No.983097241

その言葉に、マーチャンの友人二人は口をつぐんだ。友人の言うトレーナーとは、今のチームのトレーナーではなく、専属だった元トレーナーのことだと分かっているだからだ。 だから、なんと返せばいいか分からない。一方的に真実を無視して、過去の事実だけを責めるのならば、突然彼女の元から消えたトレーナーのことに、自分達が果たしてどこまで踏み込んでいいのか、一年が経った今でも、二人は分からないでいる。 「さてさて、マーちゃんは今日のネタ探しにいきます。その後はグッズの打ち合わせと、練習もありますし、どんどんキュートさも磨かなくてはいけません。大忙しです」 そんな友人二人に向かって微笑み、軽々とベンチから腰を上げたマーチャンは、風に舞う花びらのような軽やかさでステップを踏みながら、学校の奥へと消えていった。いつもと変わらない、いつものマーチャン。それがスカーレットとウオッカには心に痛みを走らせる。 「なぁ、スカーレット……マーチャン、悲しくないのかな」 後姿が消えた学友のほのかな残り香を感じながら、ウオッカがポツリと呟いた。

3 22/10/17(月)04:34:34 No.983097265

「悲しくないわけないでしょ、ずっと一緒だった人がいないんだから」 「でも俺……俺よく分かんねぇんだよ。一緒だったらフツーはもっとこう……怒ったりとかさ……」 「マーチャンだって、伝えられた日の取り乱しようったら……晩になっても帰ってこないから、みんなで探したぐらいじゃないの」 「海、行ってたっけ。でもよ、見つかって帰ってきた時はもういつものマーチャンで……なぁスカーレット」 「アタシだって分っかんないわよ。でも、マーチャンはずっと一人でやっていけるし、やってこれていた。なんて、他人の言いぐさに頷けるほど、理解できてないわけでもないわ」 スカートをパンパンと手で払いながら、スカーレットがベンチから立ち上がると、ウオッカもそれに続いた。 「見守るしかないでしょ、今のところは。そんで首を突っ込む時が来たら」 「来たら?」 ウオッカの返答に、スカーレットは呆れたようにライバルの顔を見て、ため息をぶつけた。 「迷惑なんて後回しで突っ込むのよ。そういう猪っぽいの、アンタの方が得意でしょ」 「誰が猪だ! 俺だってそうしようと思ってたっつーの!」 「ハイハイ」

4 22/10/17(月)04:35:29 No.983097312

やがていつも通りの口喧嘩に発展しながら、二人は歩いていく。彼女達は友人のためなら、どんな損な役割も引き受けるつもりだった。 ◎ 本当にいい友達を持てた。とアストンマーチャンは歩きながら思う。でも、そこまで心配しなくて大丈夫ですよ。とも。 「周りからみたら、マーちゃんは冷たいウマ娘に思われてるのでしょうか?」 誰もいない、花畑に通じる道を歩きながらマーチャンは一人声に出す。 「そうかもしれませんね。でも、トレーナーさんを心配してないっていうわけじゃないのです」 そう、心配はしている。一日だって忘れたことはない。どこで何をしているのか、思わない時はない。だが、一つ分かっていることもアストンマーチャンにはあった。 「それでも、マーちゃんを見てくれているのですよね?」 トレーナーがアストンマーチャンというウマ娘を覚えて、その大きなレンズで映し出さずとも、見てくれているということだ。 「マーちゃんが此処にいて、みんなからも覚えて貰っている。それはトレーナーさんも忘れていないから、貴方が望んでくれているから」

5 22/10/17(月)04:36:13 No.983097343

嫌だ、と言ってくれたから。足りない、と言ってくれたから。今自分がここにいるからあの人がいる。だから怖くない、船はまだ流れてしまっていない。 だから、アストンマーチャンは頑張るのだ。いつか、どこかにいるトレーナーにも輝きが届くように、傍にいなくても、マーちゃんと貴方は一緒ですよ。と知らせるために。 「でも、ホントのことをマーちゃん言いますと」 開花の季節をむかえ、広く一面に彩を放つ花々が目に入る。美しい、美しく儚い命たち。 「マーちゃんは寂しいのです。隣で、この花畑を一緒にキレイだと言ってほしい、笑ってほしいのです。船は別だって、分かってたはずなのに、トレーナーさん……」 迎えるように、風に揺れた花たちに両手を広げて答えながら、アストンマーチャンは呟いた。

6 22/10/17(月)04:36:43 No.983097363

◎ 「マーチャン……」 という呟きが、病室から聞こえて、白衣を着たナースは、ぱたぱたと小走りでその男へのベッドへと近づいた。男はベッドに寝たまま、寝言のようにまた「マーチャン」「アストンマーチャン」と繰り返している。 床には、人気爆発中のアストンマーチャン人形が落ちていて、ナースはそれを拾い上げると、そっと男の胸へと置いて、手を誘導してあげた。 「また、落としてしまったのね。はい。アストンマーチャン好きだものねぇ」 その言葉に男は答えず、マーチャン人形を掴むとそれきり、虚空を見上げるばかりであった。それにナースは微笑み、また部屋から出ていく。 「もう、かなり危ないですね」 その様子を見ていた後輩のナースが、部屋から出てきた先輩らしきナースへと声をかけた。 「数か月前はまだ意思疎通もできたのだけど、もう家族の顔も認識できなくなってる……まだあんなに若いのに……」 「でも、時々アストンマーチャンって言いますよね。それは覚えてるってわけですよね。どうして……」

7 22/10/17(月)04:37:20 No.983097399

「さぁ、どうしてか、マーチャンの人形を放そうとしないの、テレビだってね、マーチャンが出てくると反応するのよ……よほど心に残っているのか……でも、悪化する前はアストンマーチャンのこと一回も話したことなんてなかったのよ」 「家族にファンだって知られるのが恥ずかしかったんでしょうか? 別に可笑しいことじゃないと思うんですけど」 考えるように人差し指を頬に当てる後輩に先輩ナースは此処だけの話と先に付け加えて、話を続けた。 「アストンマーチャンって、よく病院の子供やファンに向けてイベントしてるじゃない? さっきの人形とか配ったりね、だからウチにもお願いしようと思ってるの。そしたらあのファンの人も本物見れるかもしれないでしょ?」 「それいいですね! 私も本物のアストンマーチャン見てみたいです!」 「こら、アンタのためじゃないわよ。もう長くないし、最後ぐらいはね……」 そういってナースたちは廊下を歩いていく。やがてその案は院長の快諾によって、トレセン学園へと依頼が送られることになり、アストンマーチャンも二つ返事でそれを受ける。 それがどんなことを引き起こすに至ったかは、誰も知る由はない。

8 <a href="mailto:s">22/10/17(月)04:38:40</a> [s] No.983097459

マーチャン曇らせたので切腹します介錯は無用

9 22/10/17(月)04:41:04 No.983097587

続きを納めるまでそのポンポン仕舞っては如何か

10 22/10/17(月)04:43:44 No.983097723

ちゃんとマーチャンとそのトレーナーを幸せにする話も書いたら許すよ...

11 22/10/17(月)06:39:45 No.983102844

もう汽水域の俺初めて見た

12 22/10/17(月)07:10:30 No.983105141

待ていま腹を切らせるわけにはいかん

13 22/10/17(月)08:30:23 No.983115562

安っぽい泣きゲーのシナリオやってんのがマーチャンのお話ならここからなんやかんやあって奇跡的に回復してめでたしなかだし涙と精液飛び交う大団円になるんだおれはくわしいんだ

14 22/10/17(月)09:09:12 No.983122091

次はトゥルーエンドだな

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