虹裏img歴史資料館

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22/10/16(日)14:47:40 前提 fu... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1665899260849.png 22/10/16(日)14:47:40 No.982796109

前提 fu1545805.txt fu1545806.txt fu1545807.txt

1 22/10/16(日)14:47:52 No.982796162

ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園。 その大広場、三女神の鎮座する噴水に、一人の老婆がふらふらとやってくる。 胸元に輝くバッジは、紛れもなくそこに所属するトレーナーのものである。 しかし彼女はまともに働ける年齢とは思えないほど、深い皴を顔に刻んでいた。 「……三女神様、これが、私の限界です」 しわがれた声は、いるかも分からぬ存在に向けられる。 満身創痍といった面持ちで、ようやく噴水のふちにたどり着いた彼女は、ポケットから小さな袋を取り出した。 赤と白を基調にした、手作りの香り袋。 中身が入ってるようには見えないそれを、大切そうに女神像に差し出す。

2 22/10/16(日)14:48:05 No.982796218

彼女は、元は新人トレーナーに過ぎなかった。 しかし消えてしまった担当の×××××××××を救うため、何度も何度も心象世界をループしている。 それは、彼女をより深く、心の傷として刻むため。 消しても消えることの無いように、決して忘れることの無いように。 しかしそれは彼女の心を削ることと同義である。 何度も訪れる別れの苦しみ、嘆き、無力感。 それを何度も何度も追体験するように、人間の心は出来ていない。 3年間を幾度も繰り返す状況においては言うまでも無いだろう。想定された許容量を優に超えている。 刻まれ、削れ、すり減った心は、彼女の体をも蝕む。 繰り返すたびに白髪が増え、皴が深くなり、腰が曲がっていく。 それでも彼女は3年間を×××××××××と走り続けた。

3 22/10/16(日)14:48:22 No.982796310

ウマソウルは、こことは異なる世界に由来を持つと言われている。 ならばウマ娘の祖である三女神にも異世界を繋ぐ術があるのではないか。 例えば、まだ彼女が消える前の世界だとか。 「どうか……届けて、下さい……」 徐々に声は低くなり、噴水のヘりに掴まることすらままならない。 それでも手のひらに乗せた香り袋だけは、しっかりと掲げ捧げる。 差し出したそれに、彼女は自分の思い出を、心の傷を込めた。 幾億年も繰り返して、全人類に刻んでも尚余るほどの傷を。 根拠の無い賭け。あの子に願われた命を投げ捨てるような愚行。 それでも、彼女は、どうしても、諦めきれなかった。

4 22/10/16(日)14:48:32 No.982796347

「おねが、い、しま……す……」 老婆は力尽き、その場で動かなくなった。

5 22/10/16(日)14:48:52 No.982796424

───紙袋を下げた少女が、廊下を歩いていく。 ゆく先々では患者達に挨拶を返し、やがて一つの病室の前に立ち止まった。 「こんこんこん。おばあちゃん、入りますよ」 口と手のノックに、か細い返事が返ってくることを確認して扉を開いた。 個室にあるリクライニングベッドでは、一人の老婆が桜を眺めていた。 やがてゆっくりと振り向くと、部屋に入った少女に挨拶をする。 「こんにちは、マーちゃん。お見舞いありがとうねえ」 「いいんですよ。窓、開けちゃって、寒くないですか?」 「平気だよ。今日は暖かいからね」

6 22/10/16(日)14:49:08 No.982796515

彼女は身元不明の老人であった。 通りがかった少女が、砂浜に打ち上げられていることに気が付き、その実家の病院で救助されたという経緯がある。 意識が戻ってから身元を尋ねても答えられず、現在は院長の厚意でここの世話になっていた。 「これ、マーちゃん人形特大サイズです。アメリカで人気なんですよ」 「まあまあまあ……部屋に置ききれないねえ」 アストンマーチャンは、その老婆のことを知らない。 トレーナーと共に迎えた2回目の春。呼ばれるまま海へ向かった彼女と、それに追いついたトレーナーが見つけたのだ びしょぬれで、錆びたバッジらしきものをつけていた彼女に、その時はがむしゃらに救命措置をした。 以来、彼女は春の不調に頭を悩ませることは無い。 自分が消えかけた現象も無かったかのように、今ここに在り続けている。 「桜、綺麗ですね」 「ええ、本当に。……ああ、そうだ」

7 22/10/16(日)14:49:23 No.982796583

老婆は、少女にゆっくりと振り向く。 「春とは、仲良くなれたかい?」 「……はい、とっても仲良しになりました」 「そうかい、それは、それは……」

8 22/10/16(日)14:49:33 No.982796629

よかった─── 急に、病室に強い風が吹いた。 花弁と共に舞い込んだ、春一番に少女の目は眩んでしまう。 「うぅ……おばあちゃん、大丈夫で───」 ようやく風が止み、腕の防御を解いたとき、ベッドの上には一つの香り袋と花びらばかりが残っていた。 「……おばあちゃん」 残された袋、自分の持っているものとよく似たそれをそっと手に取り、抱きしめる。 そんな時、廊下からぱたぱたと似つかわしくない足音が響いた。

9 22/10/16(日)14:49:48 No.982796710

「マーちゃんマーちゃん!もうそろそろ撮影の時間だよ!」 「おや、もうそんな時間でしたか。うっかりうっかり」 「誰もいないけど、ここは誰の……それに、その香り袋……」 「撮影、間に合いそうですか?」 「そうだった早く車乗って!」 急いで病室から出ていくトレーナーの後を追う。 が、ドアをくぐるかくぐらないかの所で一度立ち止まり、誰もいない病室を振り返った。 「ありがとうございました。誰も知らないおばあちゃん」 だけどマーちゃんは、ずっと覚えていますから、ね。

10 22/10/16(日)14:50:10 No.982796806

スレッドを立てた人によって削除されました del

11 <a href="mailto:おしまい">22/10/16(日)14:50:24</a> [おしまい] No.982796878

温泉引いた勢いで書きました 古傷はまだ痛みます

12 22/10/16(日)14:56:04 No.982798527

スレッドを立てた人によって削除されました del

13 22/10/16(日)14:58:11 No.982799126

消えた…

14 22/10/16(日)15:20:30 No.982806228

ちょっとだけ書き忘れてたので fu1545928.txt

15 22/10/16(日)15:24:52 No.982807640

マーチャンシナリオでも病院が忘れるし忘れられる場所として使ってたからこその〆でよかったよ…

16 <a href="mailto:s">22/10/16(日)15:51:01</a> [s] No.982816923

キャラストと温泉でめっちゃ要素増えたから初回育成から見切り発車で書いたのちょっと後悔してる

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