ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/09/17(土)17:35:50 No.972637397
それは、いきなりの申し出だった。今日のトレーニングが終わって、今後のことを話し合っていた時のこと。 「一緒に?」 「ええ、一緒に。…これ、あなたにも見てほしいから」 そう言ってアヤベが差し出したスマホの画面を覗き込む。そこには以前2人で行ったプラネタリウムのホームページが表示されており、『南天の星空』という見たことのないプログラムが書かれていた。 南天、とはどういうことだろう。以前彼女から聞いたような気もするが…。あいにくとすぐに思い出すことは出来なかった。 「新しいプログラム、なんですって」 「へえ…いいよ、いつ行こうか」 スケジュールを確認する。と、ちょうど週末の土曜がフリーになっている。合宿でハードめなトレーニングをこなしてきたばかりだし、いい息抜きにもなるだろう。 しかし、アヤベからどこかへ誘われるのはかなり久しぶり…というか、あの時の温泉以来じゃないだろうか。彼女からこういう提案が出てくるのはやはり嬉しい。 「今週末?…さすがにいきなりな気もするけれど…」 「じゃあ別の日にする?」 「…いいわ。その日で」
1 22/09/17(土)17:36:22 No.972637581
決まりだ。アヤベがスマホをしまうのを見届けてから、改めて今後の予定を話し合い、次に出るレースの予定やそれに向けたトレーニングの大まかな方針を決め、その日は解散となった。 「…覚悟を、決めないとね…」 去り際にアヤベが何か呟いた気がしたが、布団乾燥機の音にかき消され、聞き取ることは出来なかった。 ~~~~~⏰~~~~~ 数日後、約束の土曜日。 プログラムの開始は午後からだったので、各々で昼食をとってからプラネタリウム前で合流、という手筈だったのだが。 「…おはよう、ございます」 「…おはよう、アヤベ」 折角なので、午前中に終わらせられる仕事は終わらせておこうと学園に立ち寄ったところ、こうして自主トレ終わりのアヤベと鉢合わせたというわけである。 2人の間に沈黙が流れる。割と予想外な出来事だったため、何を言おうか出てこない。先に動いたのはアヤベだった。 「この後のこと、だけれど──」 「あれ!アヤベさんにトレーナーさんじゃないですか!おはようございま~す♪」
2 22/09/17(土)17:37:16 No.972637868
アヤベが何か言おうと口を開いた瞬間、横からジャージ姿のカレンチャンがやってきた。こちらも先ほどまでトレーニングしていたのか、やや頬が上気している。 「ああ、おはよう。そっちも自主トレ?」 「はい♪聞きましたよ~?お2人は今日デートなんですよね?いいなあ~☆」 「だから、別にそういうのじゃないって言ったでしょ…」 どうやら、今日のことは筒抜けのようだ。ややテンションの高いカレンチャンに呆れたように──あるいは、諦めたように──アヤベが反論する。 というかデート。そうか、傍から見ればこれからやることはデートと言えなくもない…のだろうか。 「ええ~?カレン的にはカンペキにデートですよ~?…そうだ!折角ですしお昼も一緒に食べたらどうですか?オススメのお店は~こことか…ここもいいかな~♪」 「…私、着替えてくるから」 言い残して、そそくさとこの場を去っていくアヤベ。結局この後の予定はそのままでいいのだろうか。彼女は恐らくそれを話そうとしていたと思うのだが…。 「ん~、お邪魔でしたかね?」 「いや、そんなことはないと思うけど…」
3 22/09/17(土)17:37:44 No.972638026
「こういうのはアヤベさんがどう思うかですよう。…今日はアヤベさんのこと、よろしくお願いしますね?」 じっとこちらを見つめてくるカレンチャン。言われなくても元からそのつもりだったが、改めて周りから言われると妙な緊張が身体にはしる。 だが自分はアヤベのトレーナー、彼女のことはなんでも受け入れるつもりだ。そんな意思を込めて頷くと、カレンチャンは満足そうに笑顔を見せた。カワイイ。 「それじゃあカレンも寮に戻りま~す☆…あ、さっきのオススメのお店、後で送っておきますね~♪」 手を振って寮の方へ走っていくカレンチャンを、こちらも手を振って見送りながら、結局今日するのはデートなのか?という疑問が頭の片隅に残っていた。 ~~~~~⏰~~~~~ 「カレンさんにはちゃんと言っておいたから。これはデートとか、そういうのじゃないからって」 「う、うん…」 あの後、アヤベからLANEが飛んできた。曰く、『カレンさんがうるさいから、お昼は一緒にしましょう』と。
4 22/09/17(土)17:38:01 No.972638121
一方、カレンチャンからは『さっき言ってたやつで~す☆カレン的には3つ目がイチオシですよ♪』と、いくつかのURLが。その中に『デートにオススメ!』などの文言があったのは見なかったことにする。 「それで、どこで食べるか決めたの?」 「えっと…こことかどうかな、って」 そんなカレンチャンオススメの店の中から、アヤベの好きそうなものをピックアップして見せる。なんでもこの店は自家製のふわふわパンと、それを使ったランチがおいしいのだとか。 ふわふわにはめっぽう弱いアヤベのことだ、きっと気にいるに違いない、そう思って選んだのだが。 「ふわふわ……いいわね、ここにしましょう」 どうやら目論見は当たったようで、ふわふわのおかげか少し声色が上機嫌だ。上手くいったと内心でほくそ笑む。 「…?どうしたの?…早く行かないと、プログラムに間に合わなくなると思うのだけど」 「あ、ああ。それもそうか…それじゃあえっと…こっちだな」 ~~~~~⏰~~~~~ 「ありがとうございましたー!」 「いや、美味しかったな…」
5 22/09/17(土)17:38:23 No.972638248
「ええ、それにパンが凄くふわふわで…」 昼食を食べ終え、2人で店を後にする。さすがにカレンチャンがオススメしてきただけあって、店内はいい雰囲気で料理も美味だった。自家製パンのふわふわ具合は、アヤベからしても合格だったらしい。 しかし、それ以上に驚いたことが一つ。 「まさかアイネスフウジンがここでもバイトしてるとは…」 「彼女、一体いくつ掛け持ちしてるのかしら…」 まさかの遭遇となったダービーウマ娘を思い出す。多くのアルバイトを掛け持ちしていることは知っていたが、ここで鉢合わせるとは思っていなかった。 「…変な誤解をしてないといいけど…」 そうアヤベが呟く。だが、店内でこちらを見つけた時のアイネスフウジンの表情を思い出すと、おそらく彼女はアヤベの言う「変な誤解」をしているだろう。まあその辺りは後日、本人たちで解決してもらうとして。 「はは…で、どうしようか。ゆっくり歩けば、ちょうどいい時間に着くと思うけど」 「それでいいわ。食後だもの、適度な運動は必要よ
6 22/09/17(土)17:38:42 No.972638333
分かった。と返し、街中を2人並んで歩く。土曜日、つまり多くの人にとっては休日だけあって、人通りもやや多い。万が一にでもアヤベとはぐれたりしないようにしなくては、と思い彼女の方に手を伸ばす。 「…なに?」 「あ、いや、人も多いしはぐれないようにって」 「そういうこと…」 差し出した自分の手を見て、逡巡するように視線を巡らせるアヤベ。しまった、いきなり手を繋ごうというのは無神経だっただろうか。他にも手段はあったんじゃないか。などと考えていると、彼女がおずおずと手を重ねてきた。 「迷子になられても困る、から。わざわざ余計な心配したくない、もの…」 「こっちこそ、ごめん。考えなしにこんな…」 「別に、いい。…あと、いつまでも立ち止まってると周りの迷惑になるから、早く行きましょう」 「あ」 言われてみればそうである。ここは天下の往来、自分たち以外にも多くの人が行き交っているのだ。やや肩身の狭い思いをしながら、アヤベと手を繋いでプラネタリウムの方へと歩を進めることにした。
7 22/09/17(土)17:38:57 No.972638409
「はい、ありがとうございます。それでは、ごゆっくりお楽しみください」 受付のお姉さんに会釈をして、指定されたスクリーンへ向かう。ちなみに、繋いでいた手は、プラネタリウムが見えてきた辺りで「もういいでしょう」と言われたので離している。 ところで、今回はアヤベから一緒に来たいと言われ来た訳なのだが、チケットの予約などは彼女が自分でするから、と言って聞かなかったので任せてしまっている。勿論、自分の分のチケット代ぐらいは自分で出してはいるが。 「…………違うの」 そういうわけで、アヤベに先導され予約した席まで来たわけ、なのだが。 目の前にあるのは大きな…それこそ、2人揃って寝転がっても余裕そうな丸いシート。その上には、アヤベの好みそうなふわふわしたクッションがいくつか。これは所謂──。 「……最初は、普通のシートを予約しようと思ったの。でもなぜか、隣同士の席が空いてなくて…だから、仕方なく…」 なるほど。アヤベがそう言うならそうなのだろう。そういう事情があったのならしょうがない…のか? 「…いいから、座りましょう。立ったままプログラムを見るわけにもいかないし…」 「うん…」
8 22/09/17(土)17:39:14 No.972638495
並んでシートに腰かける。さらにアヤベはクッションの1つを抱えて寝そべり、「ふわふわね…」とご満悦だ。案外そっちが目当てだったのかもしれない。 アヤベに倣って自分も寝そべりながら、プログラムの開始を待つ。 周囲の客──特に、自分たちと同じ種類のシートを使っている男女一組の客──は色々と話しこんでいるが、アヤベがそういう騒がしさを好まないことは知っているので、静かにしておく。 暫くすると、開演のブザーが鳴り、アナウンスと共に場内が暗くなっていく。周りの話し声も減っていき、静けさが空間を包んだ。瞬間、さあっとスクリーンに美しい星空が投影される。 『これは皆さんが普段目にしている夜空です。…が、この星空は北半球でのみ見られるものであり、南半球ではまた別の星空が広がっていることをご存じでしょうか』 投影された星空が切り替わる。素人目にも、それが先ほどとは全くの別物であることはすぐに分かった。 『北半球で見られる北天に対して、こちらは南天、と呼ばれています。もっとも大きな違いは、中心で輝く星…北極星のような星がないことです』
9 22/09/17(土)17:39:26 No.972638562
そう言われてみると、確かに。北極星は古来より方角を知るために使われてきた。であれば、それがない南の空ではどうしていたのか…と考えたところで、思い出した。 『そこで昔から旅や航海の導として使われていたのが、南天で最も有名な、そして全天で最も小さな星座である、こちら』 スクリーンが5つの星を強調する。そうだ、アヤベに教えてもらったじゃないか。彼女の好きな星座、いつか見に行きたいと言っていたあの──。 「あ…」 『みなみじゅうじ座、です。南十字星、あるいはサザンクロスとも呼ばれるこの星座が、南半球における道しるべでした』 隣で、アヤベがその星座に向かって手を伸ばすのが分かった。彼女が自分と一緒にこのプログラムを見たがったのは、これがあるからか。 「…ねえ、トレーナー。」 不意に、話しかけられる。周囲に配慮して小さな、しかしちゃんと聞こえる声量で。 「いつか、私が本物を見に行くことが出来たとして。その時は──」
10 22/09/17(土)17:39:40 No.972638631
「あなたと、一緒がいい」
11 22/09/17(土)17:39:51 No.972638692
思わず振り向く。と、こちらを見つめるアヤベと視線が交錯する。 こちらの返答を待っているのか、アヤベは何も言わない。だが、自分の答えは決まっていた。多分、出会った時からずっと。 「分かった。その時が来るまで、君と一緒にいるよ。約束する」 「────ええ。楽しみに、してるわ」 その時、彼女が見せた笑顔は、きっと全天のどの一等星よりも眩く輝いていた。
12 22/09/17(土)17:40:17 [s] No.972638813
おわり デートではないです
13 22/09/17(土)17:45:08 No.972640349
なるほど いくら払えば続きを書いてくれるんだ?
14 22/09/17(土)17:51:30 [s] No.972642356
>いくら払えば続きを書いてくれるんだ? 虹結晶10個でいいですよ
15 22/09/17(土)17:57:53 No.972644385
わりとがっつり要求してくるな…
16 22/09/17(土)18:00:15 [s] No.972645114
最初はメジロシティオチにしようと思ってましたが…やめました
17 22/09/17(土)18:00:34 No.972645226
なんとなくデートは誘うより誘われたいタイプのロマンチストだと思うアヤベさんは
18 22/09/17(土)18:03:34 No.972646248
アヤベさんいいよね…
19 22/09/17(土)18:03:43 No.972646304
>「あなたと、一緒がいい」 このたった一行の破壊力よ
20 22/09/17(土)18:05:00 No.972646725
>なんとなくデートは誘うより誘われたいタイプのロマンチストだと思うアヤベさんは デートじゃないから
21 22/09/17(土)18:07:53 [s] No.972647760
>>「あなたと、一緒がいい」 >このたった一行の破壊力よ アヤベさんにこれを言ってほしくて書いたところがあります 想定としては温泉と育成グッドエンドを経て最低1年は経ってる感じです
22 22/09/17(土)18:11:54 No.972649197
こいつら始めようか天体観測するんだ!
23 22/09/17(土)18:17:59 No.972651183
>デートではないです そうなのかな…そうなのかも…
24 22/09/17(土)18:18:50 No.972651453
妹ちゃんはどう思う?
25 22/09/17(土)18:33:24 No.972656483
早く抱けよ
26 22/09/17(土)18:34:58 No.972657013
>去り際にアヤベが何か呟いた気がしたが、布団乾燥機の音にかき消され、聞き取ることは出来なかった。 しれっと笑わせにくるんじゃねえ!
27 22/09/17(土)18:38:19 No.972658089
ゴォ~ ゴォ~