22/09/05(月)00:18:55 「あは... のスレッド詳細
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22/09/05(月)00:18:55 No.968369925
「あはは~……すみません、毎度毎度……」 夜の帳も落ち切った深い夏の片隅に、遠慮がちな女性の声が響く。 「本当ですよ、俺より歳上だってのに」 それを全く労わらず、ひたすらに諫め続けるのは俺の声に間違いない。 「うっ……心が痛いですね……」 「ではいい加減反省して、お酒の飲み方を覚えて下さい」 「でもでも、三年前より強くなったと思いません?」 「それ妄言ってやつです、ハローさん。顔真っ赤ですよ、本当の意味で」 二軒目の居酒屋をゆるりとした歩みで抜け出して流れ着いた、人気のない道路の街灯直下。酔い覚ましのミネラルウォーターで喉を潤しつつ、うすぼんやりした深夜のベンチに二人腰掛けながら。俺はすぐそばで潰れかけているにへら顔のライトハローさんを滔々と叱っていた。 「うぅ~……で、でもぉ……ですねぇ……!」 「これ以上言い訳重ねようとしたら、水だけおいてほっぽって帰りますから。顧みて下さい」 「あ、あぅ~……しゅみません……なんだか今日は厳しいなあ……」 「いやいや厳しくないですよ、これでも優しくしてるんですから」
1 22/09/05(月)00:19:25 No.968370104
呆れまじりに肩をすくめると、彼女は照れ臭そうにしゅんとする。そんなやり取りは俺たちにとって珍しくもなんともない。今日に始まった話じゃないんだ、切迫感のないこの光景は。 「嘘だあ、嘘ですよぉ、鬼みたいです、だってこんなに私を責めてくるのに~!」 わちゃわちゃと手を振り地団駄まで踏みながら、彼女は自分の正当性を主張してくる。しかし、だ。これまでの結果がある以上、鬼面よろしくってほどではないにせよ、真顔にはならざるを得ないのが実情だ。片手間感をアピールするために首の後ろを揉みながら、駄々っ子のように振る舞う彼女へ、これまで幾度となく伝えてきた本心を今回もまた口にした。 「責めるもなにも。弱いんですとか可愛い子振ってるくせして。毎度毎度俺の静止を振り切ってバカみたいに飲んでるのはそっちじゃないですか」 「あっ、トレーナーさんばかって! 今ばかっていいましたよね! 断固こーぎします、ほらっ早く訂正してください!」 「はあ……」 これみよがしに溜め息を吐くと、彼女は頬を膨らませながら、ぽかぽかぽか。俺の右肩や腕を叩いてくる。 「いたたたた、勘弁してくださいよ」
2 22/09/05(月)00:19:46 No.968370240
「目上の人に対する態度がなってません、謝るまでこうしてあげますから!」 痛いと口にはしたものの、実際はさして痛くない。手加減の極まったじゃれ合い程度の殴打じゃあ人は痛みを感じない。ただし、どこかで止めてやらないと最悪の場合、小一時間近くこのままの状態で拘束されてしまうことだろう。しかしまあ、この状況を黙って受け入れるのも進歩のない話だ。知恵に知識と知性を一人で備えりゃ、三人いなくとも文殊パワー。何より、未知に対応するのは難しくとも、既知の対処は割と簡単。それが世の常、なので―― 「まあバカは言い過ぎたにせよ……加減は覚えてください」 「加減、かげんって……え~と、なんですか?」 「二度と御免ですからね、盛大に吐いたあなたをいつかみたいに介抱するの」 「むぇっ、ちょっ! そんな昔のこともう忘れて下さいよ、なんで覚えてるんですか?!」 断続的な嫌がらせを止めるためにそう言うと、彼女は一瞬だけピタリと動きを止め、それから烈火のごとく怒りだした。 まあ、こいつも見慣れたものだが。 「昔って程でもないような」 「昔は昔ですもん、三年。経ったんですよ、もう」
3 22/09/05(月)00:21:00 No.968370682
彼女は俺の膝に手を付き身を乗り出して、真ん中の生えたピースを俺の目の前に突き出す。 「ほら、さーん。指、見てください?」 どことなく嬉し気な甘言に乗って、見てしまって思わず、別の物に吸い込まれそうになった。自然と視線が、薄い赤が透ける瞳に。 「あれっ……? どこ、見てるんですか?」 「ど、どこも見てやしませんよ!」 「じゃあ、指も見てくれては無いんですか……?」 「いや指は見ましたけど……!」 「指は、指は……ふ~ん、えっち。私以外のひと、みーんな見損なっちゃいますよ~?」 両腕を組むようにして胸を隠し彼女はおどける。何を言っても負けるムードになってしまうと年下の俺には抵抗する術がない。付け入るスキを与えてしまった俺が全面的に悪いから、あとに出来るのは弁解のみだ。まあ酔っ払いに何を言っても無駄な話だ。が、そこは俺も酔っ払いだから、思考より先に口が回ってしまうんだ。 「もう勘弁してくださいって、そこは見てませんから……!」 「そこはって言うことは……う~ん、気になっちゃうなあ~?」 「からかうのはそれぐらいにして下さいよ、流石に意地が悪いですって……!」
4 22/09/05(月)00:21:44 No.968370956
互いが互い良き友人として接し合い、気の置けない関係になってからもう随分と経つからか、近頃の彼女のスキンシップはやけに距離が近いように思う。 「からかってないって言ったら……どうします?」 「……だから、バカ言わないで下さいって!」 咳払いひとつで湿り掛けた空気を吹き飛ばして、俺は彼女から目を逸らす。 「うふふ、ごめんなさい。いじめすぎちゃいました。それじゃあそろそろ……」 「はあ、無駄に疲れましたよ……てか、じゃあも何もないですからね、ハローさん」 「えへ……そうですね。では単刀直入に……いつものように、あなたに。少しだけ頼っても良い……ですか?」 「……まあ、ええ。どうせそう来ると思ってましたし、構いませんよ」 やった、小声で喜ぶ彼女を後目に、俺は努めて静かに深呼吸をした。自分にとっての彼女の姿とは、信頼のおける友人であり共闘者だ。あちらもそれを分かっているはず、なのだが。その共闘者はいま、人目も気にせず思いっきり寄りかかることで、実質的にその身の全てを俺に任せていた。 「俺だって男なんですから、ほどほどにしてくださいよ。こういうの、良くないです」
5 22/09/05(月)00:22:23 No.968371184
「ふむふむ……でも、どのあたりが良くないんですか?」 「大体全部です。誠実さに欠けるんですよ、色々。分かります?」 生々しい男女としての質感を、よそよそしい口調でもって袖にする。頼り甲斐及び男らしさが無い俺とはいえ、異性であることに変わりはない。故に意識すべきなのか無視すべきなのか。二択を考えあぐねる上に意識しないといのは困難を極める。なんだかんだ、俺もまだ若くて老成などしていないから、本当に難しいのだ。 「うーん……私にはちょっと、分からないかも?」 「分かってるでしょ、その言い草は……」 寄りかかる肩をぐっと押して除けて、俺はベンチからすっくと立ちあがった。彼女はと言えば、どことなく名残惜しそうに指先同士を遊ばせているばかりだ。 「ほら、頼るんでしょう? さあ、手を、行きますよ!」 「今日は~……えへへ、どこへ連れてってくれるんですか?」 「酔い覚ましになりそうなところ、ですかね!」 俺は彼女の肩を支えながら、ひたすらにまっすぐ歩みを進める。なるべく他のことは考えないようにしながら、もっと爽やかな夜の風に当たれる場所へと歩いていく。 「あの、ハローさん」
6 22/09/05(月)00:23:15 No.968371491
「はあい、なんですか?」 「俺とばっか遊んでくれてますけども、本当に出会いとかないんですか?」 何気なく言った一言に、彼女は妙にむっとした口調で返した。 「出会いなんてありませんもん、仕事は仕事、プライベートはプライベート。何事も分けるべきですから。いいひと、だなんて。そんなにはいませんから。いないからこそ、いいひと……なんですからあ」 「いい人ぐらいあなたならすぐ見つかりますよ」 「だったらあ~……あなたが、なってくれてもいいんですよ?」 「からかわないで下さい、本当に」 身体を支えて歩くなかで、ささやくようなトーンでもって。唇のはためきか何かが聞こえたような気がして、何を訴えたのか掴めずに問いかける。 「ええと、何か言いました?」 「いーえ、なにも」 右目の端で捉えたのは、彼女が目を伏せて静かに微笑む姿。冷静さを失うという体験はそうそう経験できるものじゃない。緩みかけた頬を意識の綱を引き締めることで元々の真一文字に戻してやる。 「もう少し歩きゃ着きますから。だからもう少し、しゃんと」 「うふふふ……はぁ~い。もうすこし、頼りますね?」
7 22/09/05(月)00:23:59 No.968371756
夏の盛りは過ぎた夜とはいえ、ヒトより幾分か熱い彼女らを支えると、腕に汗をかいてしまう。ポロシャツで覆えていない生肌に、彼女の細くて熱い指が添う。触れられている場所に気が行きそうになるのを必死にこらえ、この状況をさも愚痴っぽく呟くことで取り繕いながら、ほとんど抱きかかえるような状態で目的地を目指す。 雑談を交わしながら進んでいくにつれて、無機質に澱んだコンクリートの臭いから、新鮮な青の匂いへと周囲の空気感が変化し始める。五分としないうちに言葉数が急激に減った、傍らの彼女へと視線を移す。見て、何故か頬がゆるむ。彼女はひどく幸せそうに目をとろんとさせて、どうやらほんのりと夢を見ているらしい。支えているとはいえ歩きながら寝られるなんて、不器用なのに器用なひとだ、本当に。 「ほら、起きて」 目的地に到着しても、軽く声を掛けても彼女は目覚めない。であれば、より直接的なアクションに出るべきだろう。強すぎない力加減で肩口を揺すり、夢見心地から現実のもとへと戻してやる。酒の抜けかけたタイミングで強く揺さぶるのはご法度だ。それにうたた寝ならこれぐらいが丁度いいだろう。
8 22/09/05(月)00:24:33 No.968371964
「ん、んぅ……あ、ご、ごめんなさい、寝ちゃってました……?」 「ええ、ですがまあ。着きましたよ」 「わあ~……こんなところに」 感嘆の声を上げる彼女を見て、不思議な心地になった。連れてきてよかった、そう思うこと自体は特段おかしなことではないだろう。感情として善意が先に立つのであれば、心に抱いた気持ちを勘案する必要はなかった。なのに、俺は。おべっかとは思えない彼女の瞳の煌めきに。ああ、喜んでもらえてよかったと、心の隅でそう思ってしまっていた。 「俺の体験談でアレですが、水辺に立つと酔い覚めるんですよ。だからハローさんも前後不覚にならずに済むんじゃないかと」 辿り着く場所、帰路途中に設定された目的地。それは街はずれにぽつねんと存在する、猫の額程度の大きさしかない公園だった。都内にある公園はすべからく小さい。二十三区外とはいえここもその例には漏れないのだが。珍しいことにここには、それなり豊かな水を湛える小さな池があった。 「前後不覚って! 私をなんだと思ってるんですかトレーナーさん!」 「ただの酔っ払いですかねえ」 「あなただって飲んでるくせにぃ!」
9 22/09/05(月)00:25:08 No.968372189
「あなただって飲んでるくせにぃ!」 「一緒にしないで下さい。俺はそれなりに弁えてますから。そんな強くないですしね」 「もう、嫌味な感じで言うの止めて下さいよぉもう!」 あははと笑い合ったら、横隔膜が疲れる前に息を吐く。軽口を叩いたあとに訪れるのは言葉の介在しない自然だけのさざめきだ。そして、それを裂くのはひとの声に違いない。 「トレーナーさん」 「はい、なんですか?」 「連れてきてくれて。ありがとうございます」 ぺこりと頭を下げられ俺は面食らった。まさか感謝が返ってくるとは露ほどにも思っておらず、故に返すべきものが、ひどくたどたどしく曖昧になってしまった。 「や、その……こちらこそ」 「ちょっと、トレーナーさん変に照れないで下さいよ、私まで照れちゃいますから」 「あー、うん、そうですね、そう、俺の善意ですから、感謝してください!」 「あはは、それもなんだか変な感じですね。でも……嬉しいのはほんと、ですよ。なんて言うのかな……昔を……思い出すんです、なんでか。水辺って、不思議と。あーあ、楽しかったなあ……」
10 22/09/05(月)00:26:18 No.968372604
ちらり見ていた横顔の、愁い気な瞳の輝きと。過去を懐かしむその一言がスイッチになって、近いようで遠い記憶が揺りかごの中に放り込まれる。陰に溶けたまぼろしがゆれて、ゆれて起きるように寝静まって、はにかむようなあの頃が脳裏のどこかに炸裂する。香る草木と生した苔と澱む群青の傍らで、ほのかな体温の違いを至近も至近の隣に感じながら、詰まりかけた息を鼻からなるたけ繊細なように思われるよう、気を使って吐き出した。 「あれ、どうかしましたか?」 「いや……俺もなんだか懐かしいなって。思ったんです」 彼女から受け取った懐かしさを反芻して、俺の思いが揺れ動く。放たれた矢の如く過ぎ去った過去を思い出しながら、明後日の夜空を見つめた。 「三年……か……」 「まだスタート地点ですよ、夢に向かうまで」 「それも……そうですね。まだ、始まったばかりだ……お互い、頑張らないと、ですね」 「……ふふ、そうですね。それも含めて……懐かしいです」 「それも含めて、ってのは?」 「怒らないでくださいね?」 「意味もなく怒ったりはしませんよ」
11 22/09/05(月)00:27:07 No.968372917
「うふふ……ありがとうございます。あのね、やっぱりトレーナーさんは、あの頃からずっと。かわいい子、だなあって。そう思ったんです」 さっきよりも深めに自分の指を絡め合いながら、彼女は俺への皮肉を口にする。 「ええと……かわいい、ですか?」 「だって……」 「だって、なんで――」 言い切る前にあっさりと突かれた、不意を。二十と数センチの距離感は角砂糖でも割るみたいにたやすく破壊された。伝わる、声と思いが否応なしに。当たり前だろう、誰よりも近い距離に運ばれてしまったのだから。理解できないことなんてない、少なくとも俺たちのことに関しては。 「ずっと、好きですから。かわいいですよ、トレーナーさん」 不意打ちだ、キスは。予測のつかないエリアから入り込み、触れたものを驚くほどに変貌させる。触れて、離れるまで。ほんの数秒だった。その数秒が概念として刷り込まれるまで時間はさほど掛からなかった。 「でもダメですよ、こんなかんたんにとられちゃ。女の子はオオカミだって、いつでもどこでも言うじゃないですか?」
12 22/09/05(月)00:27:50 No.968373174
艶めいた口調で、人差し指を頬に当てながら彼女は俺を諭す。気付かれない程度に丸め込んだ上唇を、舌先でもって軽く舐める。すると不意の正体が少しだけ掴めた。彼女の唇からはマリブ特有の甘い香りと、寂しい海の匂いがした。変化を期待するような、そんな香りと味だった。 「ハローさ……」 「ねえ」 「……はい」 「忘れてもいいですよ、いまの」 「……そうは、いかないでしょう」 「いいんですよ、忘れちゃいましょうよ、ぜんぶ」 「それじゃあ、最低な男じゃないですか、俺」 「最低でもいいですよ、私はそれでも好きなんです。というか、私の気持ちに。ずーっと。気付かないふりをずーっとしてて。今更なんですよ、もう言い逃れなんてできっこありませんから」 「……俺は……このままで、このままの関係で、いたいんです……」 「なら、私は。それでも別にいいんです。あなたが友達から踏み出せないのなら。変わりたくないんなら。私だけが変わったふうにして。襲われたんですって切り替えて。忘れちゃえばいいんですよ。あなたはずるいひとだから。それぐらいかんたん、でしょう?」
13 22/09/05(月)00:28:27 No.968373393
「じゃあ、じゃあ……! その気にして、良いんですか。良いって言うんですか、友達じゃなくなって、あなたのことを一人の女性として見て良いんですか、今までをすべて投げ捨てて、良いんですか、満足なんですか、中途半端な俺の想いをあなたにぶつけて、ハローさんはそれで――!」 「いいよ。いくじなし」 いつでも勝てる彼女が、まさに俺を試すかのように挑発した言葉に反射して、俺の身体は理性の外側で動いた。壊れ物を抱くようにして包み込んだ身体は、思いのほか華奢で温かく、どうするべきなのか始末に困る。愚痴らせてほしい、このひともこのひとなんだ。あれだけ俺を煽っておきながら、いざ抱き締めてみれば借りてきた猫のようになってしまうのだから。とはいえ、現実の俺も彼女とまったく同じところで停滞しているのだし、そいつを文句にして責められる訳もなかった。猫と猫で仲良く組み合ってフリーズ、なんて。傍から見ればホントバカみたいな光景だったろう。 短かったんだろう、実際は。それでも、体感時間ではさ。永遠のように思えたんだ、静寂のなかで聞く鼓動たちのオーケストラが。
14 22/09/05(月)00:29:04 No.968373603
ハローさんから漏れる喘鳴、喉奥からせり上がる俺の高揚。世界は変わる、あっという間に変えられていく。この夜まで変わらないと信じていたものが、あのひとから受けたワンブロックのアプローチだけで恐ろしいまでに様変わりした。溶けて消えゆくケーキ上の砂糖菓子は、遅すぎる進展を示す暗喩なんだろう。そう思うのはあまりに女々しすぎるだろうか、否さ誰も笑わないだろう。だって、ここには。事実として俺たちしかいないんだ。 都合のいい言い訳と自己解釈を脳内で繰り返しても俺は。愛している、とは。口が裂けても言えなかった。受けて動いたこの状況でしれっと愛を囁くだなんて、形だけに拘る詐欺師だって試みやしない。だから努めてゆるく、決してきつくならないように、だけど逃げられないように抱き締めて、ただそれだけを続けて、大人にあるまじき曖昧な時間を二人だけで過ごして、それでも。結局すべきことはてんで分からず、もう一歩を踏み出せずにまごついていれば、業を煮やしたかのようにこつん、可愛らしい仕草のげんこつで胸板を叩かれた。 「強く、ぎゅっ……って……して、ください」
15 22/09/05(月)00:29:22 No.968373723
そのあと、それからのことで、かろうじて覚えているのは。そうささめくように唆されたことと、流れるように食んだ甘すぎるぐらいの柔らかな味と、何もかもを見透かしたように潤んだ瞳と、抱き締めてからも感じ続けた真夏の熱気ぐらいなもので、俺は。過ぎゆく時に刻むピリオド、翌朝からの人生の変転を、心静かに待ちわびるより他になかった。 暑い、熱くて仕方なくて喉が渇く。離れれば済むって分かっているのに、矛盾に満ちた束縛が俺と俺たちを離してくれなくて、いつまでも身体を寄せ合ったまま動けなかった。動けないあいだも感情の歯車は回り続けて、嬉しいって気持ちが心の深奥からこめかみ付近へと昇り詰めていき、俺の気持ちをもっと前後不覚にさせていく。どうしようもなく喉が渇いた。水の持ち合わせはもうない。だめだ、喉が渇いた、なら。抱き締めた相手のわずかな潤いを。 「貰っても、いいですか」 いいよ。距離を縮めた彼女の瞳がそう呼応していた。 だから言葉はもう、ひとつとして要らなかった。
16 22/09/05(月)00:29:53 No.968373892
ハロー、グッバイ、グッドナイト、スリーピング。俺のこれまではおやすみと一言告げ眠りに就く。やがておはようと共に光が走れば、俺の意思はある程度透き通り世間一般に開放された場所へとまた舞い戻る。 とにかくさ、眠ろう。このやりとりを寿ぎにして。しち面倒臭い大人である俺たちはもう、そんな始まり方でしか世界を刷新できそうにないんだ。俺が思い描く愛の形とか、あのひとが理想にしていた恋のすべてとか。考えるだけまどろっこしいものすべてをいまはひたすらに眠らせて。この夜の静寂に、この池のほとりで、二人だけで立つ一メートル四方の、この狭い舞台の上に射し込んだ穏やかなムーンライトが、夜に湿ったシルエットを優しく明るく照らすまで。眠るんだ、夜の力に全てを任せて。すぐに来るだろう明日の引力に魅かれるまで、ひたすらに今日を享受しよう。この責任の所在はきっと、明後日の話になるだろうから。
17 <a href="mailto:おわり">22/09/05(月)00:30:22</a> [おわり] No.968374069
ほの明るい夜の下で俺たちは、俺たち以外には決して届かない星を掴むように。ふたつの唇をもう一度だけ、重ねた。熟れた果実のように甘く、生クリームのように柔らかい感触に。華やかで鮮やかな未来と世界の広がりを感じるほかで。俺だけの目覚めは星の海の彼方にある気もした。 明日はやはりまだ、いささかに遠い、みたいらしい。
18 22/09/05(月)00:31:13 No.968374387
何よ...ロマンティックじゃない...
19 <a href="mailto:s">22/09/05(月)00:32:10</a> [s] No.968374747
大人の恋愛も子供の恋愛も知らないけどハローさんが蠱惑的過ぎるのとこういうの好きなんで書きました 興が乗り過ぎてクソ長くなって申し訳…
20 22/09/05(月)00:35:49 No.968376100
許すよ…
21 22/09/05(月)00:36:08 No.968376212
いいんだぜ…!
22 22/09/05(月)00:42:59 No.968378659
いいね…
23 22/09/05(月)00:45:28 No.968379483
甘い…いいよ…
24 22/09/05(月)00:45:33 No.968379510
ロマンチックなのよね…
25 22/09/05(月)00:47:47 No.968380272
定食が美味しいのよね…!
26 22/09/05(月)00:48:27 No.968380477
寝る前に大ボリュームの定食なのよね…
27 22/09/05(月)00:49:55 No.968380979
凄くいいよね…
28 22/09/05(月)00:51:20 No.968381441
言葉使いがすごく綺麗で好き…
29 22/09/05(月)00:52:10 No.968381731
大人みたいに着飾っただけで青春やってるのよね…
30 22/09/05(月)00:56:50 No.968383225
この時間はおつまみ単品ならともかく定食は無理なのよね…
31 22/09/05(月)01:05:04 No.968385677
ダスカの脳が破壊され尽くしてるのよね…
32 22/09/05(月)01:08:08 No.968386534
>この時間はおつまみ単品ならともかく定食は無理なのよね… コンビニのイートインでご機嫌な定食にビールだ
33 <a href="mailto:s">22/09/05(月)01:10:08</a> [s] No.968387043
好きなもの詰め込んだだけだから許して…許して…でもトレーナーさんも悪いとは思うので…許してね…
34 22/09/05(月)01:10:34 No.968387161
年上ハローさんいいね…
35 22/09/05(月)01:13:50 No.968388068
くっ気軽に開いたらなんて量だチクショウ…
36 22/09/05(月)01:15:46 No.968388544
序盤が卑しいのよね……!
37 22/09/05(月)01:16:41 No.968388773
ブラックコーヒーを…… いやウドの煮汁とニガウリジュースを!
38 22/09/05(月)01:24:51 No.968390841
ウワーッ!ウワーッ!ウワーッ!
39 22/09/05(月)01:25:06 No.968390907
チョベリグよ!
40 22/09/05(月)01:26:21 No.968391203
ハローさんのCV植田佳奈が聞き慣れ親しみすぎて、フルボイス再生されるのよね...
41 22/09/05(月)01:27:45 No.968391541
頼りになるけどお酒に弱い同僚と、年上の女性を反復横跳びするのはレギュレーション違反なのよね...
42 22/09/05(月)01:30:09 No.968392125
大人の恋は良い…
43 22/09/05(月)01:31:18 No.968392409
>「いいよ。いくじなし」 即死で10割持ってくのよね...
44 22/09/05(月)02:01:46 No.968398187
誠実なトレーナー可愛いのよね…