虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    22/09/01(木)21:11:27 No.967201123

    目が痛くなるほど輝くネオンと電球の光。この街に住む人々は星空も見ずにこの鈍い光を放つ景色で満足しているのだろうか。走ることができなくなった私には新しい居場所が必要だとは思うけれど、それがこことは思えない。結局、私は星空の元に戻るのだろうか。けれどもそこにしがみついていては、いつまでも大人になれないような気がする。 「でもここからでは、あなたは見えない」 夜を紛らわす都会の光は、本来私達を照らしてくれる星を消してしまう。暗い夜を許さないこの場所が、どうしても好きになれそうにない。人の波に流されて溺れてしまう前に、さっさと学園に戻ろう。そうは思うけれど、どこかそんな苦しみを求めている自分もいる。別にあの子への償いというわけではない。むしろあの子を言い訳にして世界から目を背けていたことの報いであると感じる。今まで見ようともしなかったものを見たい。そう考えているのは確かだし、その過程で苦しむのは当然であるとも思う。その先に、自分の知らない安らぎが眠っているのなら。

    1 22/09/01(木)21:11:55 No.967201393

    「この場所に、そんなものあるのかしら」 きっと、街を歩く人々にはあるのだろう。私が星空の下で安らぎを感じるように、この街のどこかで心を休めていたり、美しさを感じたり………そしてそれは、普通のことなのだろう。カレンさんが持っていた雑誌にも都会ばかりが載っていた。新しいものと人が溢れる場所。そこが多くの人の居場所なのだ。 「あー!いたいた。アヤベさん、そろそろ帰らないと門限に間に合いませんよ!」 「スペシャルウィークさん、ついてきてたの?」 「だってアヤベさん、すごく悲しそうな顔をしてたじゃないですか。私、心配で……」 「学年も違うのに、そこまでしなくてもいいじゃない……」 「えへへ………でも安心しました!気分転換にキレイな景色を観に来てただけだったんですね!」 「綺麗………?あなたはそう思うのかしら」 「はい!私が住んでいたところは夜は真っ暗で、こんなにキラキラ光る街は新鮮で………とってもキレイじゃないですか?」

    2 22/09/01(木)21:12:35 No.967201748

    そう、あなたもそう思うのね。いつも顔を輝かせて自らの出身地のことを語る彼女に、どこか私と同じ感想を抱いてくれるのではないかと勝手な期待をしていた浅はかな自分に嫌気が差す。この街が好きになれないのは私が他人と溶け込むことができないことの証明でもあるに違いがないのだ。 「私は………好きになれそうにない。この景色も、この街も」 「えぇー!?どうしてですか?こんなに賑やかで楽しそうなのに決めつけちゃうなんてもったいないですよ」 「私には似合わないわ。こんなに明るくて煩い場所は」 「そんなことないと思いますよ。アヤベさん、いつもお友達と賑やかに過ごしてるじゃないですか?」 「それは………あの子達が騒がしいだけで、私は……」 「でも、嫌じゃないんですよね?」 「嫌………ではないけれど。でもそれとこれとは話が別よ」

    3 22/09/01(木)21:13:07 No.967202013

    「そうですか?私、前から思ってたんですよ。アヤベさんって時々自分が人と関わるのが苦手、みたいなことを言いますけど、本当は全然そんなことないし。今、私とお話してくれてるのもそうだし、色んな人の相談に乗ったりとかもして。むしろ私のほうが羨ましいなって思ったりもするんです。私、アヤベさんと違って友達とすれ違っちゃったりすることもあるので……だから、別にアヤベさんは人が苦手とか、賑やかなのが苦手とかそういう感じじゃないと思うんですよ。静かなのが好きだとは思うんですけど」 「急にそんなことを言われても………なんて言えばいいか分からないわ」 「えーっと………私もうまく言えないんですけど、アヤベさん、きっと色々と迷ってたんですよね。レースが出来なくなった自分はどうすればいいのかとか。それで、普段は来ないような街を見てみたりしてたんだと思うんですけど」 どうしてみんな、いつも私の心を正確に読み取れてしまうのだろう。トップロードさんも、トレーナーさんも、他のみんなだってそうだ。私は感情を表にするようなタイプではないと思っているのだが、そんなにわかりやすいのだろうか。

    4 22/09/01(木)21:13:38 No.967202262

    「私も初めて都会に来たとき、色々悩んだからちょっと分かるんです。人はいっぱいいるけど、みんなスマホとか看板とかばっかり見てて、私はチラッと田舎者だなって目で見られて、それがなんだか怖いって思っちゃって。だけど、気づいたんです。都会って本当に色んなものがあって、全部を好きになれなくてもいいんだって。……私が好きなのはほとんどごはん屋さんなんですけどね………」 「私にも好きになれる場所があると言いたいのかしら?」 「うーん………というよりは、あんまり意識しなくてもいいんじゃないかなって思うんですよ。好きにならなきゃって思う必要はないというか。でも、嫌いだって決めつけちゃうのももったいないと思うんです。だから、例えば時間を変えて朝に来てみるとか、他の人と回ってみるとか。色んな景色があるのが、都会の良いところだと思うので!」 「好きに、なれるかしら」 「もしなれなくても、それはそれでいいんですよ。さっきも言いましたけど、アヤベさんはアヤベさんのままで素敵ですから。無理しなくても大丈夫ですよ!」

    5 22/09/01(木)21:14:10 No.967202544

    私の周りには不思議な人ばかりだ。私はみんなを突き放してばかりなのに、恨むどころか更に私に寄り添おうとしてくれる。どうして私が、とは思うけれど自分を大切に思ってくれる人々のことをもっと考えてもいいのかもしれない。 「あぁー!もうすぐ門限ですよ!アヤベさん、走って駅までいかないと!」 「悪いわね。あなたを巻き込んでしまって」 「私が勝手についてきただけですから。えへへ、そういう所がアヤベさんらしいというか。素敵なところだと思いますよ」 「もう………あなたもすぐそういうことを」 電車は案の定、人でいっぱいだった。誰もが、自分の家に帰るために乗っているのだろう。疲労困憊で眠っている人、じっとスマホを見つめる人、押し潰されないように必死に手すりに捕まっている人。電車がトレセン学園に近づくにつれ、人の波は少しずつ電車から吐き出されていく。空いた席に遠慮するスペシャルウィークさんを座らせると、疲れていたのかすぐに眠ってしまった。そこはオペラオーと同じで年相応というか、やはり中等部の子なんだな、と思えて微笑ましい。人が減っていくにつれ、窓の外の景色が見えてくる。

    6 22/09/01(木)21:14:53 No.967202865

    電車に乗っている人たちは見向きもしないけれど、私はその景色に不思議と心惹かれた。段々と減っていく人口の灯りと明瞭になっていく星空。完全に都会というわけでも、しかしいつも眺める満天の星空でもない混ざりあった絵の具のようにはっきりしない空間。どちらが好きとか、どういう自分でありたいとか、そういうものを決めずに中途半端でもいい、そう言ってくれているようで落ち着く景色だった。今度は、トレーナーさんを連れて街に行ってみよう。お昼でも、朝でも、また夜でもいいかもしれない。トップロードさんたちも誘ったら、来てくれるかな。スペシャルウィークさんが言っていたように、また違う景色が見れるかもしれない。この電車からの風景のように、新しいことを知れるかもしれない。 「うーん………ふわぁ…………ってうわぁ!?どどど、どうしよう………寝ちゃってた………」 「落ち着きなさい、次の駅で降りるから」 「アヤベさぁん…………よかったぁ………」 駅からの帰り道、スペシャルウィークさんと二人で星空を見上げながら歩く。

    7 22/09/01(木)21:15:25 No.967203110

    「わぁ………こんなにキレイだったんですね」 「そうね。街と比べたら明かりの少ないこの辺りは綺麗に見えると思う」 「私、この景色も好きです!昔を思い出すっていうか……」 「この星空も季節によってまた変わるのよ。あなたにも、いろんな景色を知ってほしい」 「おぉー!アヤベさん、私に何かお願いしてくれるのって初めてじゃないですか?」 「………そう……かもしれないわね」 「嬉しいです。アヤベさんに信用してもらえた感じがして!」 「そんなこと………いえ、今日はありがとう。おかげで私も、色んな事を知りたいと思えたわ」 「いえいえ、私は勝手についていっただけですから」 「勝手についてくる…………ふふっ。どうして私の周りには、そんなよくわからない人が集まるのかしら」 「えぇー!?私ってそんなに変ですか?」

    8 22/09/01(木)21:15:41 No.967203234

    スペシャルウィークさんと笑い合いながら、少しだけ門限を過ぎて寮に帰る。急いで就寝の準備を済ませてベッドに潜り、今夜の出来事を振り返ると、不思議とあれだけ不快に感じていた都会の景色も、なんだか宝の眠る大海原に思えて。スマホを立ち上げスペシャルウィークさんに一言、今日はありがとう、トレーナーには明日一緒に街に行きたい、とだけ告げる。以前はこんな事務的なメッセージ、送らないほうがマシではないかと思うこともあった。だけど、今のままの私も受け入れてくれる人達がいるから。まだ大人になりきれない私にも向き合ってくれるから。だからこそ、私も踏み出していきたい、そう思えるようになったから。 この日、私は少しだけ大人に近づいたと思う。

    9 22/09/01(木)21:16:37 No.967203724

    アヤベさんは都会が苦手そうだと思ったので書きました。

    10 22/09/01(木)21:19:35 No.967205163

    スペちゃんは独特の世界観を持ってるというか自分の意見をちゃんと言える子でそこが書かれてるのがいい…って思った

    11 22/09/01(木)21:22:56 No.967206915

    星空が好きだと都会の明かりは眩しすぎるのかもね

    12 22/09/01(木)21:39:30 No.967214744

    私には都会の光は強すぎるわ…

    13 22/09/01(木)21:40:57 No.967215439

    スペは綺麗なお姉さんについ構ってしまいたくなる性質がある

    14 22/09/01(木)21:47:40 No.967218553

    アヤスペの供給ひさしぶりでありがたい…

    15 22/09/01(木)21:57:16 No.967223075

    読ませて頂かねば…

    16 22/09/01(木)22:00:18 No.967224471

    走れなくなったってところが不穏なんですけお…

    17 22/09/01(木)22:11:52 No.967229416

    間に合った! 読めてよかった!