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22/08/28(日)00:10:05 実験を... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1661613005875.jpg 22/08/28(日)00:10:05 No.965493410

実験をしていて最も頭を悩ませるのは、思い通りの結果が出なかったときではない。 わからない時だ。結果が導き出された理由も、次に何をすればよいのかも。 不案内な分野であればあるほど、それは余計に顕著になる。であれば、私が今目の前の状況に対応する術を持たないのは、おそらく必然なのだろう。 感情というものは、依然としてその正体が掴めない。だからこそ、何故彼が今機嫌を損ねているのか、どうしても理解できないのだ。

1 22/08/28(日)00:10:23 No.965493526

方法に些かの手違いはあったが、今までにない糸口を掴むことはできた。代償として数日ほど飲まず食わずで全力疾走する羽目にはなったが、その程度は大した問題ではない。 時間を取られた分、帰って実験の続きを早速始めなくては。そう思っていたのに。 「だめ。今日はもう実験は禁止」 迎えに来た彼にそう話すと、彼は取り付く島もなくそう言った。 「何を言ってるんだい、ここからが…」 「いい加減にして。 もうだめ。絶対に」 今まで、そんな声音の彼を見たことがなかった。けれど、類似した状況は過去にもあった気がする。そのときもどうしてそんなことを言っているのか、私には理解できなかったけれど。

2 22/08/28(日)00:10:44 No.965493666

いつもなら私に優しく語りかける彼は、今や口も利こうとしない。 私の実験に誰よりも協力的だったのはきみのはずだろう。そのきみが、どうして私の実験を止めようとするんだい。 無理矢理抜け出そうにも、今の身体ではどうにもならない。彼にこうして抱きかかえてもらわなくては、寮に帰れないのだから。 いつもならば彼にあれこれと雑用を命じる食卓は、今日に限って静かだった。私も彼も疲労が極度に達していたのもあるが、彼が何も言わないせいで、私も何かを言う気になれない。 このような状況を、人は「気まずい」と言うのだろうか。眠気に半分占拠された頭でそんなことを思いながら、新しい疑問が頭をよぎる。 どうして私は、そんなことを気にしているんだろう。目の前の相手を怒らせてしまったかもしれないなんて、今まで気にしたことなんてなかったのに。

3 22/08/28(日)00:11:41 No.965494103

「あっ」 食事を終えてとうとう限界に達した眠気と、数日間休みなく酷使され続けてきた脚が、自分の体重を支えきれなくなるのはおそらく時間の問題だったろう。腕で頭を庇う余裕も、今の自分にはない。 重力に従って、床に激突するはずの身体は── 「──!」 もう一回り大きな彼の身体に支えられて、その運動を止めた。 一時は危なかったが、もう問題はない。そのはずなのに、彼は抱き留めた腕を離してくれない。 「…怒っているんじゃなかったのかい」 さっきまでお互いに口も利かなかったはずなのに、彼の腕の中にいると安心するのは何故だろう。 「…怒ってるに決まってるよ。 心配したんだよ?あんなに無茶な走り方して、何日もずっと休みもしないで。 自分で止まれないのに、何かあったらどうするのさ。もし車とかにぶつかって、大怪我したらどうしようって、ずっと心配してたんだよ? あんなことになるなら、何回でも実験台にされたほうがまだよかった。なのに、君はまだ実験するだなんて言うから…!」

4 22/08/28(日)00:12:12 No.965494336

わからない。 危険な実験だったことはわかっている。方法について改善すべき点ももちろんあるだろう。なのに── 「わからないよ。 きみに試したわけじゃないのに、何故きみがそれほど感情を顕にするのかが」 どうしてきみは、そんなに真剣になれるんだい。 「…そんなの決まってる。 タキオンが、誰よりも大事だからだよ」

5 22/08/28(日)00:12:26 No.965494443

「…そうか。 やはりわからないものだね、感情というものは」 ああ、思い出した。 前にもこんなことがあった。まだ子供だった頃に実験に失敗して、酸を腕に被ってしまったことがあったっけ。 服が焼けただけで大事には至らなかったその事件よりも、温厚な母が珍しく私を厳しく叱ったことのほうが、私には印象に残った。 「…実験をやめるつもりはない。 ただ…方法についてはもう少し検討しよう。私も、もうあんな目に遭うのは御免だ」 きみにとって私は、それほど大きな存在だったのか。もう一度、実験を組み直さなくてはいけないかもしれない。知らない感情が、自分の中に満ちているから。 ファンたちの声援とも、どこか違う気がする。 きみに想われていると知ると、こんなにも温かいもので満たされるのは、何故だろう。

6 22/08/28(日)00:12:46 No.965494583

何もない草原を一心不乱に駆け抜ける。 どれだけ走っても疲れることはなく、どれだけ進んでも終わることはない。 あのときと同じ、満たされるけれど単調で退屈な夢。 ──けれど。 「タキオン」 きみの声が聞こえる。歩調が早くなっていく。 空も、雲も、光の尾を引いて、目の前に眩い虹が架かる。光の速さに迫る者にしか見ることのできない、この世ならざる絶景。 この先に進めたなら、一体何が見えるのだろう。光をも超えた先には、どんな世界が待っているのだろう。 夢ならば、もう少しだけ醒めないでいてほしい。 きみを目指して走れば、その扉が見えてくる気がするから──

7 22/08/28(日)00:12:58 No.965494678

「私を起こしたのはきみか」 「うん。ごめんね?このままでもいいけど、そろそろ夜ごはん作ろうと思ったから」 目線を下にやると、お互いの腕の中にお互いの身体がある。つまり私達は、抱き合って眠っていたらしい。 食事が作るために床を離れようと思ったが、私が彼を離さなかったから、やむを得ずに私を起こしたということか。 「えっ?」 「駄目だよ。誰が行っていいと言ったんだい? 私の眠りと思考を妨げた償いをするまで、きみにはここにいてもらうからな」 離れようとしていた彼の身体を、もう一度抱き留める。 何もかもきみのせいなんだから。あんな夢を見たのも、そこから勝手に現実に引き戻されたのも。 その埋め合わせをしてくれるまで、離してなんかやらない。

8 22/08/28(日)00:13:12 No.965494774

「前に夢の話をしただろう?」 「うん」 人が心の奥に秘めた望み。私の中にも眠っているそれを呼び覚まそうとして、私が見たものはただの代わり映えしない景色を延々と走り続ける退屈な映像だった。 その結果を信じられずに、何かミスをしたと思っていたけれど。 「もう一度、その夢を見た。延々と走り続けるだけの夢を。 けれど途中から、景色が変わったんだ。もっと鮮明で、現実離れした── 心躍る光景だった」 夢だというのに、目に焼き付いて離れない。私の脳が記憶の断片を縒り合わせて作った幻想のはずなのに、現実のどんな風景よりも鮮烈に、私の好奇心を捉えて離さない。 「あれが、私の望みなのか」

9 22/08/28(日)00:13:25 No.965494880

真剣に考える私をよそに、モルモットくんはくすくすと笑っている。 「失敬だな、事は深刻だぞ。 あんな単純なことが私の望みとは考えられないと思っていたが、もしそうだとしたらどのようにアプローチすべきかを考えねば──」 「あは、ごめんごめん。 でも、それは間違いなくきみの望みだと思うよ」 そう語る彼の瞳に迷いはない。何故かはわからないが、物事に確信を得ている者の目だった。 「何故、そう言い切れるんだい」 「君が走る夢、だったんでしょう? 誰かが走る姿でもなく、ただ何もせずにその景色だけを見ているだけでもなく、君自身の脚で。 だったら、それはタキオンの夢だよ。自分の脚で、そこに辿り着きたいっていう、他でもない君の夢だ」

10 22/08/28(日)00:13:40 No.965494986

何て呆気ない。あっさりと腑に落ちてしまった。 あんな光景を見たのは、あの景色にあれほど心躍らせたのは、あれが私の望むものだったからなのか。 「…気に入らないね。きみにわかることが、どうして今まで私にはわからなかったんだい」 「タキオンより大人、だから?」 気に入らない。脳の性能を考えれば、私のほうが常に思考において先んじていて然るべきなのに、私が本当に知りたいことに限って、きみがあっさりと解いてしまうことも。 その結果がいつも、私にとって大きな意味があることも。 「他人と能力を競う趣味はないが、思考の領域で敗北を喫することがこれほど屈辱だとは思わなかったよ」 「でも、嬉しいよ。 タキオンは走りもすごくて、頭も良くて、僕ができることなんて何があるのかなって、たまに思ったりするからさ。 こういうことを教えてあげられるなら、タキオンより早く大人になれてよかったって思うよ」

11 22/08/28(日)00:13:51 No.965495078

ああ、本当に気に入らない。 「きみほど忠実なモルモットは他にいないよ。 安心したまえ。たとえ嫌だと言ってもきみを手放すつもりはないからね」 「大丈夫だよ。絶対、タキオンと離れたいなんて言わないから」 きみが私の知らない想いを、私の中に目覚めさせることが、こんなにも心地いいことも。

12 22/08/28(日)00:14:02 No.965495166

家事をしようとするきみを引き留めて、もう一度眠りに落ちる。 あの輝かしい景色を、もう一度見ることを願いながら。 だから── もう一度、名前を呼んで。 きみの声を、聞いていたいから。

13 22/08/28(日)00:15:45 No.965495883

おわり 私は今朝タキモルに関するとりとめのない妄想を垂れ流していた者ですが今度はタキオンと夢に関する妄想が浮かんできたので成文化して放流しました

14 22/08/28(日)00:17:52 No.965496938

数日飲まず食わずでぶっ続けで全力疾走するっていうしれっとヤバいことをしでかしてるタキオン

15 22/08/28(日)00:20:07 No.965497940

自分では願いや夢なんて持ち合わせてないって言ってるけど自分が野望だと思ってるものが純粋な夢であることにゆっくりと気づいていってほしい

16 22/08/28(日)00:22:22 No.965498927

本人のシナリオでもカフェシナリオでも自分の願いに気づくのは他の誰かがいたからなんだよね 生活だけじゃなく精神的にも気づかせてくれる誰かを必要としてる気がする

17 22/08/28(日)00:24:29 No.965499890

自分も含めて全てが研究対象か実験材料っていう認識の子がいつかあたりまえの感情に目覚めてあたりまえに特別な誰かを愛する姿からしか摂取できない栄養素がある

18 22/08/28(日)00:26:40 No.965500860

異常まみれの中に普通があるのがタキオン 普通の中に異常が見え隠れするのがモルモットくん 最高の相性なのでは

19 22/08/28(日)00:28:24 No.965501678

遠回りの道をものすごい速さで全力疾走してるコンビって前に聞いて腑に落ちたんだよね 泥臭い当たり前のことをすごい規模でやってるからどこかおかしく見えるだけっていう

20 22/08/28(日)00:28:32 No.965501734

モルモットくんの夢と狂気を託せるのはタキオンの脚だけだしタキオンが何よりも望むことを知ってるのはモルモットくんなんだよね

21 22/08/28(日)00:31:36 No.965503064

>遠回りの道をものすごい速さで全力疾走してるコンビって前に聞いて腑に落ちたんだよね >泥臭い当たり前のことをすごい規模でやってるからどこかおかしく見えるだけっていう 良きにせよ悪しきにせよ普通じゃない特別なことができるけど望むことに挑む姿勢は誰よりも愚直だからね

22 22/08/28(日)00:36:57 No.965505509

タキオンみたいな子が自分の想いに気づいていって誰もが当たり前に抱く「好き」っていう感情を不器用でもいいから伝えようとする姿が見たい

23 22/08/28(日)00:37:59 No.965505953

濁流のように眩い発光を垂れ流すあのモルモットか… 1本の話にすると凄い読みやすいな

24 22/08/28(日)00:43:36 No.965508390

モルモットくんと一緒に過ごす時間に意識してないけど幸せを感じてて起きたらモルモットくんがいないときに何かが足りない感覚を覚えててほしい

25 22/08/28(日)00:47:06 No.965509804

モルモットくんの袖つまんだり二人のときに膝の上に乗ったり言葉にはしないけど無意識の仕草に出ちゃってるタキオン

26 22/08/28(日)00:50:26 No.965511094

一緒に寝ると自然と抱きしめあっちゃう二人…

27 22/08/28(日)00:53:48 No.965512378

>おわり >私は今朝タキモルに関するとりとめのない妄想を垂れ流していた者ですが今度はタキオンと夢に関する妄想が浮かんできたので成文化して放流しました ドレスに関しての事か?アレも良かったぞ

28 22/08/28(日)00:54:13 No.965512562

お互いに愛し合う感情と方法を知ったら大変なことになりそう

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